錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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あらら。
まさかの連騰でした。自分でも驚いています。

それではみなさんごゆるりと。





1. マージの大失敗

 くだんの週末がやってきた。今は叔父さんがマージ叔母さんを迎えに行っている。外の天気は私の心情を表すかのような土砂降り。

 私マリーはペチュニア叔母さんと夕食の下拵えをしていた。ダドリーは新しく庭に作った超小型ジムで自主トレをして、あ、帰ってきた。

 

 

「ダドリー、叔母さんが来る前にお風呂に入ってきたら?」

 

「そうするよ。夕ご飯は?」

 

「今夜ははダドちゃんの好きなラムチョップよ。だから早くいってらっしゃい」

 

 

 叔母さんに促され、ダドリーは着替えを持って風呂場に向い、私は夕食の準備を再開した。

 

 一時間ほど経過した後、外で車が停車する音がした。ああ、来てしまったか。ついでに犬の吠える声も聞こえる。私は無意識にペチュニア叔母さんの袖をつまんだ。叔母さんは一つ私の肩に手を置くと、私を伴って玄関まで出迎えに行った。そして玄関にたどり着くか否かというとき、扉が勢いよく開かれた。開かれてしまった。

 

 

「ダドリーはどこかぇ?」

 

 

 マージ叔母さんが吠える。

 

 

「私の可愛い甥っ子ちゃんはどこだい!?」

 

 

 マージ叔母さんはスーツケースを放り投げながら、私はそのスーツケースに吹っ飛ばされ、リビングのダドリーの元へと突進していった。ダドリーにたどり着いた叔母さんはその頬にキスをし、

 

 

「ペチュニア!!」

 

 

 今度は叔母さんに突進し、その骨ばった頬にまた深々とキスした。あ、ダドリーの右手に10ポンド札が二枚握られてる(投稿時、1ポンド=161,7円)。マージ叔母さんの後から犬を連れたバーノン叔父さんが入ってきた。

 

 

「マージ、ブランデーはどうかね? 犬の食べ物はどうするかね?」

 

「この子は私と同じものを食べるさ。好きだからねぇ」

 

 

 マージ叔母さんはクスクスと笑いながら叔父さんに振り返り、そしてそこで初めて私を見た。

 

 

「おんや?」

 

 

 叔母さんは先ほどとは打って変わった、不快さを露わにした声を上げた。

 

 

「お前まだここにいたのかい!!」

 

「…はい、お世話になっております」

 

「何だいその答えは!! あたしだったらこんな礼儀知らず、すぐにでも孤児院送りだね」

 

 

 あなたに言われたくないわ。一から礼儀作法を学んだほうがいいわよ?

 そう思った私は間違ってないはず。

 

 

 

 

 

 それからの数日は酷かった。

 バーノン叔父さんとペチュニア叔母さん、ダドリーは私をマージ叔母さんから遠ざけようとしてくれたけど、マージ叔母さんは私を側に置きたがった。そして何かといちゃもんを付け、私の怒りを煽った。でも私はそれには乗らない。乗ったら最後、叔母さんの思う壺だ。

 だから私は必死に耐えた。

 ペチュニア叔母さんの見ていないところで、何度も犬を嗾けられ、靴下やストッキングの下には包帯を巻いている。化膿しないように消毒液を染み込ませ、包帯も定期的に交換し、ついに最後の四日目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はペチュニア叔母さんに頼まれ、玄関外の花の手入れをしていた。叔母さんはガーデニングを趣味にしていて、多種多様の花を育てている。何故か中には薬草の類も混じっているけど。でも前々からこれをやっていたためか、ホグワーツの薬草学でも特に苦労したことはなかった。慣れって大事だよね。

 でも平和な時間は長く続かなかった。荒い鼻息と低いうなり声が背後から聞こえた。恐る恐る振り返ると、そこには大きなブルドッグが佇んでいた。まさかと思って家の窓を見ると、それはそれは嫌な笑みを浮かべたマージ叔母さんが見えた。

 突然右足脹脛(ふくらはぎ)に痛みが走った。低く唸ったブルドッグは鋭い犬歯を突き立て、力強く私に噛みついていた。ここで大きく声を上げていれば、楽にことは済むだろう。だがそれはマージ叔母さんに好都合になってしまう。それは私の望むところではない。だから私はこの犬が離すまで我慢することを選んだ。

 

 

「まったく、この犬の飼い主はどんな神経をしているのかしら? 」

 

 

 でもその時は予想以上に早くきた。聞き覚えのある、気品のある声が前方から響いた。閉じていた眼を開けると、そこには一年ぶりに会うシロウの奥さん、イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンが立っていた。

 

 

「え? あ、あの…イリヤ…さん?」

 

「久しぶりね、マリー。迎えに来たわよ」

 

 

 迎えに来た? 彼女はそう言ったのか?

 

 

「でもちょっと待ってね。この犬の飼い主をとっちめないと」

 

 

 イリヤさんはいつの間にか私から離されていたブルドッグを抱え、これまた私の気づかぬうちに私の足を治療し、まっすぐ玄関へと向かった。私を伴ったイリヤさんは躊躇することなく玄関の扉を開けた。戸の音を聞いたペチュニア叔母さんがこちらにくる。

 

 

「マリー? 花壇の作業……は…」

 

「初めまして」

 

「へ? ど、どちらさまでしょうか?」

 

「イリヤスフィール・フォン・E(エミヤ)・アインツベルンですわ。シロウの姉です」

 

「え、あ。ど、どうも」

 

 

 いつの間に叔母さんの後ろにいた叔父さんやダドリーも、イリヤさんの高貴さに気圧されていた。でも事前にシロウからいろいろ聞いていたのだろう。すぐにイリヤさん持ち前の人当たりの良さで打ち解けた。ちゃっかり犬の飼い主まで聞いて。

 

 

「何だい、なんの騒ぎだい」

 

 

 あとからのそのそとこちらへ来るマージ叔母さん。イリヤさんにまったく気づいていない。あ、イリヤさんのこめかみに青筋が出た。正直怖い。

 

 

「あら、ごきげんよう。どなたかしら?」

 

「あん? 誰だいあんた。そんな常識の欠片もない格好して、親の顔が見てみたいよ」

 

 

いや、薄桃の膝丈スカートに白のブーツ、黒のレギンスにヴァイオレットの服を着ているイリヤさん。メチャクチャ綺麗で私も一瞬見とれたのに。

常識の欠片もないのはマージ叔母さんの方だよ。

 

 

「ペチュニアさん、彼女は?」

 

「バーノンの妹のマージです」

 

「あらそう。兄とは違って礼儀がなってないわね」

 

 

 あちゃー早速毒を吐きました。ついでにマージさんを無視する形で。

 

 

「ちょっと誰だいあんた!! 礼儀がなってないんじゃないかい!?」

 

「ペチュニアさん、今日はマリーを迎えに来ました。突然の訪問ですけど大丈夫でしょうか?」

 

「え、ええ大丈夫です。マリー、準備してらっしゃい。ダドリーは手伝ってあげて」

 

 

 叔母さんに言われ、私とダドリーは荷物の用意をしにいった。叔父さんは物置にしまっていた道具を出しに行った。

 数分後にはすべての準備が整い、玄関に向かうと異様な光景が広がっていた。

 

 イリヤさんの銀に輝く長い髪が、シュルルルという効果音が合うほど奇妙な動きをしている。真っ赤な双眼が見つめる先には顔を真っ青にさせ、壁に背を付けて床にへたり込み、ガタガタ震えているマージ叔母さん。犬もそのすぐ側でへたり込んでいる。

 

 

「あら? 準備は終わった?」

 

「はい…あの~、何をしてるんですか?」

 

「え? ただのお話しだけど?」

 

 

 嘘だっ!! ただのお話ならこうはならない!!

 絶対にO☆HA☆NA☆SHI☆彡 のほうに決まってる。アクマ(シロウ談)が降臨したに決まってる!!

 

 

「じゃあ行きましょうか? 忘れ物はない?」

 

「あ、はい。じゃあまた一年後に」

 

「いってら~」

 

 

 唯一ダドリーの返事だけを聞き、私はイリヤさんとプリベット通りの家を後にした。そのとき微かに後ろから、ペチュニア叔母さんとバーノン叔父さんが、マージ叔母さんに呼び掛けているのが聞こえた。

 

 

 




はい、ここまでです。
まさか連投できるとは自分でも思っていませんでした。
次回はどっちを更新するかわかりませんが、早めに更新しますね。

イリヤの服装・外見に関しましては、Zeroのアイリをイメージしていただければ大丈夫です。

それではまた次回。




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