錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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二巻本編最終回、更新です。

それではごゆるりと





18. エピローグ

 

 

Side シロウ

 

 

医務室に着くと、まずはベッドで寝付いているウィーズリー兄妹が目に入った。ジニーの枕元には、アーサーさんとモリーさんが腰掛けている。

石化した生徒が寝かされていたベッドは、全て空になり、綺麗に畳まれていた。ということは、マンドレイクの薬が完成し、生徒が元に戻ったのだろう。

 

オレはウィーズリー夫妻に軽く会釈をし、一番奥にあるベッドへと向かった。そのベッドはカーテンで仕切られ、外から見えないようになっている。

誰も医務室に来る気配がなかったので、オレはそのカーテンを開いた。そこに寝ていたのは、右手足を失ったロックハートだった。目は覚めているらしく、開いていた。

 

 

「……どうやら、目が覚めたみたいだな」

 

「……ミスター・エミヤ?」

 

「ああそうだ。自分の状況がわかるか?」

 

「……右手足がなくなってるね。あのときの落盤か。……生きていたのか」

 

「死にたかったのか?」

 

「……いや、生きているだけでいい。それだけでも有難い」

 

 

……本当に変わったものだ。一年前からみれば劇的ビフォーアフターだな。

 

 

「……それで? これからどうするつもりだ? 悪いが、お前がこの先魔法使いとして復帰できるかはわからんぞ?」

 

「そうだねえ……しばらく世界を見て回ろうか? 魔法はそのあとでも良いさ。もしくは、今度は他人の手柄じゃなくて子供用の絵本を書いたりね」

 

「……そうか」

 

「ああ。詐欺師のギルデロイ・ロックハートは、秘密の部屋で死んだ。今ここにいるのは、ただのギルデロイ・ロックハートさ。ただの一人の男だよ」

 

 

……ふむ。

こいつの顔に憂いはない。ということは、今の言葉はこいつの本心だろう。この学校(ホグワーツ)での一年は、こいつを良い方向に変えたみたいだな。

オレは投影で義足を作った。といっても、ちゃんとした物を装着するまでの、一時しのぎにすぎないが。

 

 

「餞別だ。出来れば一月以内にちゃんとしたものに付け替えろよ」

 

「悪いね、ありがとう」

 

 

奴の礼には応じず、オレはそのままカーテンを閉めた。奴がこれからどうするかは奴次第、これからじっくりと見極めるとしよう。

さて、急いで大広間に行くか、朝食には間に合うだろ……

 

 

「ミスター・エミヤ? どこに行くのですか?」

 

「え? あ……」

 

 

な、何故だ!?

オレに覚られず、近づいてきたというのか!?

マダム・ポンフリーはアサシンか!?

関係ないが、前から思っていたのだが、マダム・ポンフリーはセラにそっくりだ。

 

 

「不死鳥の涙で傷や毒が癒えても、体力まで回復するわけではないのですよ? それに、そんな火傷を負った両腕でどこに行くのですか?」

 

「い、いやこれはだな?」

 

「問答無用です!!」

 

 

オレはそのまま医務室に連れ戻された。いつの間に起きていた双子のウィーズリーは、オレに向かって合掌していた。

というか見ていたのなら助けてくれ!!

いやだ?

 

なんでさ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

本当に色々有りすぎて、朝御飯を食べに行く体力もなかった。何か食べるにしても、先に睡眠をとらないと行動できない。私は真っ直ぐグリフィンドール寮へと向かった。

寝室に着くと、私のベッドの上にはパジャマが畳んでおいてあったので、直ぐにそれに着替えた。ハネジローは私を待っていてくれてたようで、ベッドの上に腰かけて私を見ていた。

 

 

「ただいま、ハネジロー」

 

「パーム、オカエリ」

 

「うん。ごめんけど、早速寝ていい? 流石に疲れちゃった」

 

 

私がそう言うと、ハネジローはパタパタとベッドから離れた。そして私が布団を被ると、隣に入ってきた。この子も私達が心配だったのだろう。安心したのか、私の隣ですぐに眠りに落ちた。

私も眠気が襲ってきたので、抵抗せずに身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風がふく。

 

命の息吹が感じられない、真っ赤な荒野。

 

草木の代わりに、地面に突き立つ無限の剣群。

 

分厚い雲に覆われた、黄昏の空。

 

その空に浮かぶ、大小様々な歯車。

 

嗚呼、私はまたここにいるのか。

 

私は、何度も見てきた悲しい世界を、改めて見回した。でも今回は今までと少し違った。

まず、喧しいまでの剣戟が聞こえた。そしてその方向に顔を向けると三人の人がおり、そのうち二人は、互いにぶつかり合っていた。

 

対峙しているのは赤銅色の髪の少年と、白髪の青年。二人とも何処かで見たような白黒の双剣を構え、互いに激しく論争し、剣を叩きつけていた。

私は二人の側により、青いドレスの上に甲冑を纏った女性の隣に立った。闘う二人の男は、二人とも知っている誰かの面影があった。

二人はとても近い者、下手すれば同一人物と言えると感じた。互いが互いを一番理解しているからこそ、互いが互いの存在を認められない、故に意地と意地がぶつかり合っている、そう漠然と感じた。

 

 

「そうだ、誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた!!」

 

 

青年が吠え、少年に猛攻を仕掛ける。少年は防ぐことしかできない。

 

 

「故に、自身からこぼれ落ちたものなど何一つ無い!! これを偽善と言わず、何と言う!?」

 

 

男は断罪する。少年を、他でもない自分自身も。

 

 

「この身は誰かのためにならなければならないという、強迫観念に突き動かせられてきた!! そして傲慢にも走り続けた!!」

 

 

ふと、隣に立つ女性に顔を向けた。

女性の目は前髪に隠れて見えなかった。でも、その口元は半開きになりつつも歪んでいた。まるで、青年の断罪が、女性自身も裁いているかのように。

 

 

「それが苦痛だと思う事も、破綻していると気付く間もなく、ただ走り続けた!」

 

 

青年の剣は少年の剣を弾き飛ばし、そして少年の腹に突き刺した。

 

 

「「シロウ!?」」

 

 

思わず声をあげてしまった。甲冑の女性も叫んだ。そして声に出して気がついた。いや、気づかなかったふりをやめさせられた。

赤銅色の髪の少年は、本当の意味での若い頃のシロウ。そして白髪の青年は、シロウが至る可能性のある、未来のシロウ。そう考えると、嵌まらなかったパズルのピースが、自然と組合わさった。

 

 

「そんな偽善では誰も救えない。否、もとより、何を救うのかも定まらない。見ろ!! その結果がこれだ!! 初めから救う術を知らず、救うものを持たず、醜悪な正義の体現者が……貴様の成れの果てと知れ!!」

 

 

大人のシロウは、子供のシロウを切り飛ばした。咄嗟に駆け寄って触れたけど、私の手はシロウをすり抜けた。私は今いる場所が、シロウの記憶の中であることを忘れていた。それほどに目の前に倒れるシロウを、何とかして助けたかった。

 

 

「その理想は間違っている!! 誰もが幸福である世界など、空想のお伽噺だ!! そんな願いしか抱けぬと言うのなら、抱いたまま溺死しろ!!」

 

 

大人のシロウはそう叫ぶ。

私は聞こえていないとわかっていても、反論しようとした。でもできなかった。

大人のシロウの顔は、酷く歪んでいた。

憎しみ、怒り、怨みが詰まった表情、でもその目は、哀しみ、絶望、後悔、孤独といったものを孕んでいた。

大人のシロウが何を見てきたかわからない。でも彼は、生きている間、もしかしたら死んだ後も嫌なもの、私が想像できないものを嫌と感じられなくなるほど見せつけられた。故に自分を殺したくなるほど憎んだ。

 

 

「……ざけんな」

 

「なんだと?」

 

「え? ……シロウ?」

 

 

すぐ近くから声が聞こえた。

そちらに顔を向けると、異常としか言えない回復力で、傷がどんどん塞がるシロウがいた。

 

 

「俺の願いが、俺の想いが、間違っているだと? 救うものを、守るべきものを持たないだと!? ふざけるな!! それはお前だけだ!!」

 

「なに!?」

 

「ああ、そうだ!! たしかに俺は『正義の味方』に憧れた!! 切嗣の憧れた正義の味方にな!! だがな、俺は俺の意思で正義の味方になると願った!! 十年前のあの地獄の日、非力な自分のかわりに、あの地獄をどうにかしてほしいと。そして生き延びた暁には、今度は自分自身の手で人々を救うと!!」

 

「その考えがそもそもの間違いだ!! お前はあの男の余りにも幸せそうな顔を見て、自分もそうなりたいと願っただけ!!」

 

「違う!!」

 

 

再び剣戟が走る。言葉を、互いの心をぶつけ合う。

先程までとは違い、今度はシロウが優勢だった。シロウもだけど、大人のシロウも次々に傷を負っていく。お互いが防御を二の次にし、その心を叩きつけていた。

ついには彼らは二人とも、死に体になっていた。

 

 

「……なぁアーチャー。お前は今まで何人救ってきた」

 

「何を今更、数えきれないほどに決まっているだろう」

 

「じゃあ、お前は救ってきた人々に目を向けたか?」

 

「……何を」

 

 

シロウの質問に、大人のシロウ、アーチャーは答えを窮した。

ああ、そうか。

アーチャーは命を救うことだけを見ていた。だから助けた人の心までは救えず、逆に助けられなかった人々だけを見てしまった。

故に歪んでしまったのだ。

 

 

「その人たちにお前は目を向けたか? お前が殺したものにしか目を向けてなかっんたんじゃないか?」

 

「…………まれ」

 

「たとえ殺していく人々の中に自分の大切な存在がいても構わず切り捨てた。違うか?」

 

「……黙れ」

 

「なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった!!」

 

「黙れ!!」

 

「俺は切り捨てない、無くさない!! 俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりはしない!! たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても!! 俺達が抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから!!」

 

「ッ!! そこまでだ、消えろォ!!」

 

 

そうしてシロウの剣は、アーチャーの腹を貫いた。

剣が刺さる前、アーチャーはシロウに止めをさそうと、白の剣を振り上げた。でも結局降り下ろされなかった。それどころか、アーチャーの顔は穏やかなものになっていた。まるで憑き物が落ちたかのように。

 

 

 

 

 

そこで急に目の前の光景は変わった。

今度は私は、また剣が突き立つ世界にいた。

でも今までとは決定的に違うものがあった。

 

草も生えない大地には、見渡す限りの草原が広がっていた。大小様々な歯車は、錆びて地面に転がり、それにはとても小さな花々が咲いていた。そして空は青く、雲ひとつない快晴だった。柔らかな風は、頬を優しく撫でた。

 

そしていつもの場所に、大人のシロウが立っていた。

その髪は重力に逆らわず、オールバックではなくなっていた。何よりも、その顔は満たされたような、穏やかな表情を浮かべていた。

 

そうか。

未来のシロウは、どれ程の時間がかかったかわからないけど、ちゃんと救われたのか。

私はそれがわかって、非常に安心した。何故か知らないが、涙が流れ落ちた。

 

ふと目の前のシロウは、私に顔を向けた。

その顔は最初は驚きが浮かび、でもすぐに柔らかな微笑みを浮かべた。

その笑みを見た瞬間、夢の中なのに強い眠気に襲われた。でも嫌な眠気ではなく、むしろ心地よいものだった。

私はそのまま眠気に従い、意識を手放した。

 

ブラックアウトするとき、低く優しい声が聞こえた気がしたが、何を言っていたかまではわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

結局あのあとポンフリーに捕まり、両腕は包帯でグルグル巻きにされた。『使用禁止』と丁寧に注意書までして。

絶対にそうだ。ポンフリーは絶対に平行世界のセラだ。俺の勘が告げているし、彼女のオレへの態度と瓜二つだ。

 

どうしてオレの周りには、こうも強い女性が多いのだろうか?

一度本気でアーチャーと話し合いたいものだ。

 

 

 

まぁそれはさておき。

結局その日の夕食のとき、オレとロンとマリーは、『ホグワーツ特別功労賞』なるものを授与された。正直オレはいらなかったが。

そして学年末テストだが、事件解決が3月だったため、石化した生徒は補習を受け、例年通り実施された。まぁ今年に限っては、判断が甘いとオレはダンブルドアから知らされていたが。

 

月日はあっという間に過ぎ、また一年が経過した。

今日はマグルの世界に帰る日である。

だがオレは、今度の夏休みは忙しくなると感じていた。理由の一つに、昨日凛から連絡があったことが挙げられる。

 

 

「……ああ、こちらは問題ない」

 

『そう。まぁイリヤ達が一度行ったらしいし、あんたについては、あまり心配してなかったわ』

 

「ククッ、そうか」

 

『フフフッ。ところでそっちにいい子はいたの?』

 

「どういう意味で聞いているかは知らんが、今護衛を依頼されている子は、とてもいい子だ」

 

『そう』

 

 

本当にどういう意味で聞いてきているのやら。

っと、そうだ。聞きたいことがあったのだった。

 

 

「少し気になったことだが、そちらでは一年程度しか時間が経過していないのだろう?」

 

『ええそうね。あなたは?』

 

「こちらでは七年過ぎている。どうもズレが生じているようだ」

 

『ああやっぱり。まぁでも、最近は経験も積んでるし、今後はそういう移動におけるズレは少なくなると思うわ。だから心配しなくても大丈夫よ』

 

「そうか」

 

『ええ』

 

 

まぁそれなら安心だな。まだ凛たちが若いのに、オレだけ爺になってしまうのは少々、いやかなり嫌だ。

 

 

『ところで話は変わるけど、今度の夏休み、あなたにとっては今から過ごす夏休みね、にそっちに行くわ』

 

「一人でか?」

 

『いいえ、私と桜、そしてイリヤよ。子供たちは留守番ね』

 

「む。まぁ剣吾も紅葉もいるし、たしか城にセラとリズがいるから子供たちは大丈夫とは思うが。なんでまた? しかもその面子ということは、御三家関係の用事か?」

 

『まぁそうね、でも安心して。今回の訪問の目的は、あなたの護衛を助けるものだから。冬木でなにかが起こったわけじゃないわ』

 

「それを聞いて安心した。いつだ?」

 

『そっちの一週間後ぐらいかしら。二週間ほど滞在する予定よ』

 

「相わかった。待っている」

 

『ええ、それじゃ』

 

 

その言葉を最後に、通信は切れた。オレの護衛に役立つというが、何をするのだろうか? まぁ魔術関連だとは思うがな。

 

汽車の中では、石化していたハーマイオニーにより細やかな説明をしていた。彼女は補習を受けていたので、大して説明する時間が取れなかったのだ。

流石に『射殺す百頭』に関しては黙秘させてもらったがな。

 

汽車は順調にロンドンに到着し、オレたちはキングス・クロス駅に出た。少し懐かしく感じるマグル世界の喧騒に頬が緩む。

迎えにはウィーズリー夫妻とダーズリー一家がいた。今年はフィッグさんは来ていないらしい。

 

 

「叔母さん、叔父さん、ダドリー。ただいま」

 

「おかえりマリー、シロウも」

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま戻りました。ダドリーも、随分と逞しくなったな」

 

「まぁね」

 

 

この一年でダーズリー一家も少し変わったのだろう。バーノンの纏う雰囲気が、ほんの少しだけ柔らかくなっている。まぁ、未だにマリーは好きになれないらしいがな。

 

ウィーズリー一家に挨拶し、オレたちは外へ出た。

空は晴れ、青い空はその限りを知らずに広がっている。だがその遥か向こうに黒い雲が小さく見える。

恐らくそう遠くない未来に、大きな騒動が起こるだろう。

 

だが何が起ころうと、オレは立ち向かう。この身はただの一度の敗走はない。

オレの大切な人々を脅かすのであれば、オレは剣となって迎え撃とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be contine...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ ……見つけた。ついに見つけた!! 今度こそ殺す!! あの二人を裏切り、今ものうのうと生きているあいつを!!

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。
ちょっと中途半端な終わりかただったか。

さて、書き始めて約三ヶ月経過しました。
二巻も終わりましたね。

正直三巻は士郎を絡ませるのが難しいんですよね、真似妖怪とか吸魂鬼とか。
ディメンターなら兎も角、ボガードは他の生徒を巻き込んで、トラウマを植え付けかねませんよ。
それにシロウの守護霊、ディメンターを追い払わずに消し去りそう……

まぁ何とかしますが。


さて、次回は番外編です。


それではこの辺で




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