最近急に冷えましたね。風邪をひかないようにしないと。
では更新です。
それではごゆるりと。
Side シロウ
ロンとロックハートはマリーの元に向かわせている。一応ロックハートに、簡易的な遮断結界を張るアイテムを渡しているから、瓦礫等の心配は要らないだろう。
今、オレの目の前には、一人の半透明な青年がいる。背丈はオレと変わらないか、いや、オレが12歳にしては高すぎるだけか(現在165cm)。
成る程、話は聞こえていたが、こいつが……
「トム・リドル。過去のヴォルデモートか」
「そう。そしてこの人が」
「スリザリンの継承者。まぁ大層な肩書きだな。……ふっ」
「ッ!? 何が可笑しい!!」
「いや失礼。先程の口上と君の見てくれを比べるとね。いやはや、名前負けしているとは、まさにこういうことか。クククッ……それに随分と生にしがみつくと思ってな。いや、それはオレと変わらないか?」
「貴様……先程から言わせておけば!! 何者だ!!」
ふむ、オレが何者か、か。そうだなぁ、ここは剣吾の口上を真似してみるとしよう。
「通りすがりの魔術師兼魔法使い見習いだ、覚えなくていい。それと、だ。お前は邪魔だ!!」
バジリスクが姿を現したので、全身を強化して鎌首をもたげた蛇の頭を、ボレーキックの要領で蹴り飛ばした。
轟音をたてながら、蛇は壁に激突した。が、まだ意識はあるらしい。それに蹴った感触、あれは以前より少しばかり硬くなっているな。
「成る程。脱皮をして成長することによる治癒の促進、加えて体の強度も増したか。だが、潰れた左目は治せなかったようだな」
「ッ!! そうか……貴様がバジリスクの目を潰したか。だが無駄だ!! まだ右目がある!!」
「いや、今しがた潰されたぞ?」
「なにっ!?」
バジリスクは吹っ飛んだ先でのたうち回っていた。オレが以前潰し損ねた右目は、不死鳥によって潰されていた。
「クソッ、あの鳥め!! 『鳥と小僧に構うな!! 小娘共を殺せ!! 匂いで嗅ぎ出すんだ!!』」
「何を命じたかは知らんが蛇よ、お前の相手はオレだ。お前たち、伏せろ!!」
「「うん(わかった)!!」」
オレの指示でマリー達は伏せたことにより、蛇の尾は彼女らの上を通過した。オレは再び奴を蹴り飛ばし、今度は両の手に持った剣で切りつけた。
が、折れたのはオレの二本の剣だった。
「ッ!! 予想より硬い」
「クハハッ!! バカめ、バジリスクは二ヶ月前より更に強力になっている!! その強さと硬さは二倍以上さ!!」
リドルの声に答えるように、バジリスクは突進してきた。前よりも素早い。オレは横に回避したが、奴もすぐに方向転換してこちらに向かってきた。
「……巨体のわりによく動く。--
今度は弓を投影し、矢の速射を行った。が、こちらも一、二本浅く刺さっただけで、あとは全て弾かれた。宝具を使えばすぐに終わるが、ここの岩盤が崩れ落ちる可能性がある。
「シロウ!! これを!!」
マリーが叫び、ロンが何か銀に輝くものを投げてきた。それは柄に大きなルビーの嵌まった、銀の片手直剣だった。オレはそれを受け取り、反射的に解析を行った。
--解析開始
--憑依経験、共感終了。
--基本骨子、解明。
--構成材質、解明。
--全工程完了。
……成る程。
ゴブリン製の金属、そして切った対象の力を吸い、更に強力になるのか。だか神秘性が低いな、概念武装といったところか。だが、だ。これは上手く使えば、中々に強力な武器になる。
「ク、クククッ」
「小僧、何が可笑しい?」
突然笑いだしたオレに、リドルと蛇は首を傾げる。マリー達も不思議そうな顔をしている。不死鳥は、オレの傍らで依然滞空している。
「いやなに、この剣は素晴らしい一品だと思ってな。さてトム・リドルよ、一つだけ忠告だ」
「なんだ?」
「慢心が過ぎれば、必ず手痛いしっぺ返しを貰うぞ? 何せ彼の人類で初めて、世界を統べた英雄王ギルガメッシュでさえ、そうだったのだからな!!」
オレはリドルにそう言い放ち、剣を自らの肩に刺した。
Side マリー
「シロウ!? なにし……!!」
突然シロウは自分に剣を刺した。自殺するつもりなの!?
私はシロウな駆け寄ろうとして、でも足を止めた。
何故ならシロウは、依然として不敵な表情と目をしていたからだ。そして何でだかはわからないけど、シロウの持つ剣は、先程よりも更に輝きを増しているようだった。
剣からは不思議な力を感じた。まるでシロウから力を吸いとっているかのよう。
「小僧、何をしている」
「自分に剣を刺しているだけだが? 見ればわかるだろう? 貴様の目は飾り物かね?」
先程からはぐらかすような応答ばかりするシロウ。さっきから思ってたけど、態と挑発してない? あ~あ、バジリスクとリドルが怒った。
暫くすると、シロウは剣を引き抜いた。肩の傷は、みるみるうちに塞がった。
「さて、反撃開始といこうか」
シロウはそう言うと、再び飛び出した。
私とロンは、シロウの人外的な身体能力を見慣れてるけど、確かロックハートは初めて見るんだっけ? 口をアホみたいにポカーンと開けて唖然としてる。
シロウは突進してきたバジリスクを避け、その体を切りつけた。すると今度はバジリスクの体に、長い切り傷が刻まれた。
「馬鹿なッ!? 何なのだその剣は!?」
「お前に教える必要はなかろう?」
シロウはリドルを挑発しつつ、バジリスクに攻撃を重ねる。あれほど硬かったバジリスクの体は傷だらけになり、体のあちらこちらから血が流れている。
ふと私の足元に目を向けると、牙のような物が落ちていた。そういえばさっき、シロウがバジリスクの顔を切りつけたとき、何かがこちらに飛んできてた。もしかしたらこれなのかも。
……ん? これ使えるんじゃない? これならリドルの日記を破壊できるかもしれない。
「そんな……ありえんッ!?」
リドルの悲鳴のような声が聞こえ、私の意識は現実に戻された。彼の睨み付ける先に視線を向けると、流石の私も茫然とした。
視線を向けた先には、剣を振り下ろしきった体勢のシロウと、体の半分まで脳天から切り割られたバジリスクだった。
ドゥッ!! という轟音をたて、バジリスクの亡骸は床に倒れた。
「……バジリスクは倒された。だがもうすぐ僕は復活する!! 更に言えば、バジリスクが倒されれば、僕でさえ制御できない怪物が待っているんだ!!」
「……辞世の句は詠み終えたか?」
「辞世の句だと? 何のことだ?」
「さぁ?」
リドルが皮算用をしている間に、私とロンは示しあわせた。
私は日記をジニーの手から引き抜き、地面に押さえる。ロンは牙を構え、高く振り上げた。
「ッ!? よせ、止めろォ!?」
リドルは気がつき、こちらに走りよってきた。でもロックハートの張った(アイテムはシロウ製)結界に阻まれ、吹っ飛ばされた。
私達はリドルが再び立ち上がる前に、日記に牙を突き立てた。
途端に響き渡る叫び声。まるで血のように日記から溢れる黒のインク。リドルが断末魔の声をあげるなか、ロンは一度牙を引き抜いた。そして再度、今度は更に力を込めて牙を刺した。
リドルは耳をつんざくような声をあげ、最後は爆散して消滅した。同時にジニーも目覚めた。リドルの日記は、中に潜む亡霊ごと破壊された。
「こ……ここは……」
「ジニー!! 良かったぁ……」
ロンは起きたジニーを、力強く抱き締めた。ロックハートもホッとした表情を浮かべている。かくいう私も、安心して腰が抜けそうだった。
しかしジニーは状況を把握したらしく、顔を青ざめさせた。
「あ、ああ……そうだ、私……」
「ジニー、大丈夫だよ。リドルはいなくなった。バジリスクもシロウが倒した、見てごらん!!」
ロンが私の手元と部屋の奥を指し示すけど、ジニーはしゃくり上げて見向きもしなかった。
「わ、私……何てことを……「ジニー」……ヒック、シロウさん?」
バジリスクと自身の血が付着した剣を片手に、シロウは歩み寄ってきた。そして剣は私に渡してきた。
「え? 何で私に?」
「君かロンのどちらかが出したのだろう? なら君らが持っていてくれ。刃には触るなよ。さてジニー」
「ヒック……はい?」
「ここで寝ていては、風邪をひくぞ?」
「……」
「こんな居心地の悪い場所で話し込むことはないだろう。出るぞ」
「……はい」
流石は未来のお義父さん、義娘の扱いをわかってらっしゃる。
シロウに促され、ロンに支えられながら、ジニーは立ち上がり、歩き出した。私達も、その後に続いて出口に向かった。不死鳥は私達の上を、ゆったりと飛んでいる。
ところが数歩も歩かないうちに、地面が激しく揺れ、後方から大きな音がした。視線を向けると、老人の顔に大きな亀裂が入っていた。
そういえばさっきリドルが、バジリスクを倒せば次の化け物が来ると言っていた。それを彼は制御出来ないとも。亀裂の奥で、複数の光る目が見えた。
「……マリー」
「シロウ?」
「急いで出口に向かえ。決して振り返るな」
「まさかシロウ」
「君は囮になるのか?」
「悪いがこの中で、奴の足止めをして生き残る可能性があるのは、オレだけだ」
「ダメだよシロウ!? そしたら今度こそシロウは……」
「そうだよ!! 一旦退いて態勢を立て直して……」
「シロウさん……」
私だけじゃない。ロンもジニーも、ロックハートでさえも、シロウが残ることに反対している。
でもシロウは溜め息を一つつくと正面に向き直り、白と黒の双剣を構えた。本気なのか、先程までおろしていた前髪も、後ろに逆立ってオールバックになっている。
「「シロウ!?」」
「今、こいつを野放しにすれば、死者負傷者は数えきれないほど出る。そうなる前に、叩いておかねばならん」
「でも……」
「いいから走れ!! 話は後だ、今は聞く耳持たん!!」
シロウがそう言うのと同時に、ついに老人の顔は崩れ落ちた。
崩れた瓦礫の向こう、大空洞から姿を現したのは、頭が九つある怪物だった。全身は青緑色の鱗で覆われている。九つの頭は全て等しい大きさで、十八の黄色い眼球は、全てこちらを睨み付けていた。
昔本で読んだことがある。大陸に伝わる神話、ある男が神から受けた試練の一つで退治した怪物。名前は……
「……馬鹿なッ!? 何故、ヒュドラがいるのだ!? あれはテュポーンとエキドナの子供で、大英雄ヘラクレスに退治されたはずだぞ!?」
はい、今回はここまでです。
さぁ炸裂しました、シロウによるアーチャー流挑発術。
見事にリドルは手玉にとられてましたね。
先にヒュドラがいる理由を書いときます。
この作品では、サラザール・スリザリンが生前、バジリスクと共に改造して人工的に造り出したヒュドラを、バジリスクの死亡を条件に目覚めさせるようにしていた、というわけです。
やり過ぎたかな?
さて、次回はオリジナルチャプターです。
それではこの辺で