錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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更新です。


それではごゆるりと






14. 秘密の部屋

 

 

Side マリー

 

 

ロックハートの事務所に着いた。少し扉に耳を近づけて中の音を聞いたけど、何も聞こえない。まさか逃げた?

そう思った私とロンは、問答無用で扉を開けた。

ロックハートは中にいた、しかし椅子に座り込んで頭を抱えている。私達が来たことにも気がついていない。

 

 

「……ロックハート先生」

 

「ッ!? 誰だ!? ……ああ、ポッターにウィーズリーか」

 

「……先生、何をしてるんですか?」

 

 

部屋は散らかってる。開いたトランクが床に投げたされており、中にものを出し入れした形跡がある。今も中のものを全部出したのか、床の上にぶちまけられていた。

 

 

「……先生、これは?」

 

「……」

 

 

ロンの質問に無言を貫くロックハート。

 

 

「……まさか逃げようとしているのですか?」

 

「……」

 

「防衛術の先生が逃げ出すんですか? こんな非常事態に? 僕の妹はどうなるんですか!?」

 

「……」

 

「答えろよ!?」

 

 

ロンが怒号をあげる。しかしロックハートは無言のまま、顔を俯かせていた。

 

 

「……ロックハート先生、正直に答えてください」

 

「……なんだね?」

 

「あなたの著書、全て他人の手柄ですね?」

 

「……そうだ」

 

「授業でいやに詳しい『忘却術』の解説をなさったのは、あなたがそれを極めたから、それ以外何もできなかったから。他人の手柄を本人から聞き出し、その後忘却術をかけ、最後はさも自分の手柄であるかのように、世に公表した。そうですね?」

 

「……そうだ」

 

「では何で、今ここで私達に忘却術をかけて逃げる、何てことをしないんですか?」

 

「……」

 

「話したくないなら、話さなくても良いです。でも私達についてきてもらいます」

 

 

私の言葉に、ロックハートは力無く顔を上げた。ノロノロと立ち上がった彼は、私たちの前に立った。

 

 

「私が何の役に立つと? 部屋の在処も知らない、忘却術しか能のない私が?」

 

「部屋に関しては、私達が手掛かりを掴んでいます。それに、大人の付き添いがいた方がいいでしょう?」

 

 

私の言葉に、ロックハートは渋々納得し、ロンに杖を預けた。そして私達はマートルのいるトイレに向かった。ハネジローは、今回ばかりは寮に待機させた。

トイレに着くと、案の定マートルはおり、すすり泣きをしていた。でも私達に気かつくと、漂い近づいてきた。

 

 

「またあなたたち? 今度はなに?」

 

「少し話をしたくて。失礼かもしれないけど、あなたが死んだときのことを教えてくれる?」

 

 

私がそう言うと、マートルは途端に嬉しそうな顔をした。ゴースト特有の銀色の体は、若干色がついた。

 

 

「ぉおおおう、あなたがそれを聞いてくるなんてね!! あれほど恐ろしいことはなかったわ!! 丁度五十年前よ、ここで死んだの」

 

「五十年前?」

 

「ええそう!! あの当時も今のような事件があったわ。私はその日、同級生からメガネのことで苛められて、ここの個室で泣いていたの。そしたら声が聞こえてきた。外国語みたいだったわ。嫌なのがそれが()の声だったってこと。だから私は扉を開けてこう言ったの、『出ていけ!!』って。そして……死んだの」

 

「死んだ? どうやって?」

 

「知らないわ。覚えているのはそこの蛇口の辺りに、大きな黄色い目が二つあったことだけ。それに睨み付けられて!金縛りにあったと思ったらフワッて浮いて……幽霊になった」

 

 

マートルはそう言うと、再び啜り泣きながら漂い始めた。

間違いない、マートルは秘密の部屋の事件で、唯一亡くなった女生徒だ。そして彼女の死に方、バジリスクに一睨みされたのだろう。

マートルが目を見たという手洗い台まで近づいた。一見普通の手洗い台と変わらない。試しに蛇口を捻るけど、水は出てこなかった。

 

 

「その蛇口、ずっと壊れっぱなしよ」

 

 

マートルは先程までの啜り泣きはどこに行ったのか、機嫌良くそう言った。

蛇口の横には、本当に小さくではあるが、蛇の彫刻が彫ってあった。間違いない。ここが秘密の部屋の入り口だ。

 

 

「何か蛇語で言ってみたら?」

 

「蛇語って……開けって?」

 

「うん、そ「その必要はない」……え?」

 

「「……はい?」」

 

「どうやら、一足先にお前たちがいたか」

 

 

……うそ……なんで……

 

 

「シロウ!? なんで君がここに!?」

 

「み、みみ、み、ミスター・エミヤ!?」

 

「毒も抜かし、傷も癒し、鈍った勘を取り戻していたからな。あと少しモノを作ってた」

 

 

……遅い、遅いよ……

秘密の部屋のことが一瞬頭から吹き飛んだけど、すぐに頭は冷えた。今はジニーを優先しないといけない。私は最低限伝えることを伝えるため、無言でシロウに近づいた。

 

 

「む? ッ!? ま、マリー? どうした?」

 

「……シロウ」

 

「は、はい!!」

 

「……あとでO☆HA☆NA☆SHIだからね。逃げないでよ?」

 

「わ、わかった」

 

 

これでよし。さてと。

 

 

「で、蛇語を使わなくていいって?」

 

「ああ、それはだな。こうする」

 

 

シロウは手洗い台にいき、手を当てた。そして少し腰を落とすと、一瞬だけ力んだ。

パァンッ、という軽い音と共に、手洗い台は綺麗に崩れ、大きなトンネルが姿を現した。形状からして、下まで滑り降りるらしい。それにしてもシロウ、修理はどうするの?

 

 

「……こんなものか。修理はことが終わればオレがする。ロックハート」

 

「な、なにか?」

 

「お前はオレと共に、下見役として降下する。わかったな?」

 

「……わかった」

 

 

まず二人が降り、大丈夫なら私達が降りるということになった。シロウとの念話も復活してるから、連絡手段は心配ない。

暫くすると、シロウから念話が入った。どうやら降りても大丈夫らしい。私とロンはトンネルに入り、滑り台のように降下した。

 

ベトベトするパイプを一分ほど滑ったあと、私達は広い空間に投げ出された。そうとう長く滑った。たぶんここは学校の何キロもしたに存在するのだろう。成人男性が立ち上がってもお釣が来るほどの、人工と自然が合わさった洞窟に私達はいた。

先に降りていたシロウとロックハートは既に立ち上がり、余分なベトベトを落としている。私とロンもベトベトを落とした。

 

 

「……みんなにはこれを渡しておこう」

 

 

シロウはそう言い、ロンとロックハートにはブローチを、私にはバレッタを渡してきた。ブローチは西洋両手剣の形、バレッタは七枚の花弁のついた花の形をしている。

 

 

「これを着けていれば、最悪目を見ても石化に止まる。ロンとマリーは、元々の護符との相乗効果で、動きが鈍る程度に止まるだろう。まぁ、目を見ないのが一番だが」

 

 

シロウはそう言い、先に進んだ。続いて私、ロン、最後尾にロックハートが後を追った。

暫くすると、より広い空間に出た。そしてどこかに亀裂があるのか、月明かりが差し込んでいる。そうかもう夜なのか。

 

ん? 床に転がってるの、あれはなんだろう?

 

 

「……三人とも、そこにいろ」

 

 

シロウは指示を出すと、床に転がる物体に近づいた。私は今たっている場所からその物体を見た。

……緑色に輝いている。そして長い、15メートルは軽くあるだろう。そして特徴的な形状、鏃のようなの先端。それは巨大な蛇の脱け殻だった。

 

 

「……新しいな。ここ最近脱いだ皮だろう」

 

「そこまでわかるものなのかい?」

 

「確定付ける要素はいくつかあるが、一番わかりやすいのは、ここの傷口だな。奴が脱いだときに裂けたものではない。オレが切りつけたものだ」

 

「そ、そうなの……」

 

 

まあ脱け殻立ったのは良かった。生きていたらどうしようかと思ったよ。私達四人はそのまま先を急いだ。ロックハートは若干腰を引いていたけど。

そのまま進むと行き止まりとなり、目の前の壁には丸い人工物が嵌められていた。表面には数匹の蛇の彫刻が、円と壁を繋ぐように張り付いている。まるで鍵だ。

 

 

「流石にここは蛇語を使うよ? 岩盤が崩れたらヤバイし」

 

「そうだな。頼んだぞ、マリー」

 

 

私は前に立ち、彫刻を見つめた。

 

 

━━ 開け

 

 

自然と蛇語が出た。すると全ての蛇は頭をすぼめ、円形の装飾は扉のように開いた。先が繋がっている。

私達は扉をくぐり抜け、その先にあった梯子を降りた。そして目の前の光景に唖然とした。

 

蛇を象った彫刻が左右にずらりと並び、まるで謁見の間に続くよう。そして奥には大広間ほどの空間が形成され、正面には巨大な老人の顔が彫り出されていた。そして顔の前に寝そべる、一人の影。

 

 

「「ジニー!!」」

 

私とロンは、走り出した。と、突然岩盤が崩れ落ち、私と他の人たちが切り離された。何で落ちてきたはわからない。

 

 

「ロン、シロウ!! 大丈夫!?」

 

「ゴホッゴホッ!! だ、大丈夫だ!!」

 

「こちらは気にするな「アイタッ」お前は邪魔だロックハート、下がってろ。マリー」

 

「なに?」

 

「この岩塊をどけるのは、流石にオレでも時間がかかる。その間に、出来るだけジニーと共に脇に退いとくんだ」

 

「うん、わかった」

 

 

私はシロウに言われ、ジニーの元に急いだ。

 

ジニーは日記を抱えていた。顔は青白く、体は少しだけ冷たい。でも息はある。良かった、間に合った。

と、ジニーのネックレスが少し強めの光を放った。まさか、日記が干渉しているの?

 

 

「彼女は目を覚まさないよ」

 

「ッ!? ……トム・リドル」

 

「初めまして、マリナ・ポッター。会えて嬉しいよ。君と話したいから邪魔者と切り離させてもらった」

 

 

私の目の前には、五十年前と変わらぬ姿のトム・リドルがいる。そのリドルによって、私は一人にさせられたらしい。でもおかしいな、五十年前に学生だったのなら、今は老体の筈。

……成る程、あの日記か。ということは今回の黒幕は

 

 

「あなたが今回の騒動の根元ですね」

 

「少し違うかな? バジリスクを『穢れた血』達にけしかけたのは、他でもないジニーだ」

 

「ッ!? ……日記を介して、か」

 

「ほう? 頭は回るようだね。その通りだよ。馬鹿な小娘は日記にのめり込んだ。彼女の馬鹿馬鹿しい話に合わせるのは苦痛だったよ」

 

 

リドルは苛立たしげにそう言うが、それはすぐに治まり、上機嫌な顔をした。

 

 

「だが、小娘が日記を使ってくれるお陰で、僕は徐々に力を付けていった。そして何度も彼女の意識を乗っ取り、秘密の部屋の怪物を解き放った」

 

 

リドルは甲高い声をあげて高笑いした。それは誰かを彷彿させるような、嫌な笑い方だった。

 

 

「だが、理由はわからないが、小娘は何度か途中で僕を追い出した。今も僕は不完全だよ。本当ならほぼ実体化できるはずなのに。それに僕に流れ込むはずの力も、予想より少ない。まるで何かに阻まれているようだ。

まぁそれはさておき、日記を怪しんだ彼女は、日記をトイレに投げ捨てたんだ。だが、そこで君が現れてくれた、他でもない君が!」

 

 

どうやらリドルは、剣吾君のネックレスに阻まれていたことには、まだ気がついていないみたい。そうか。だから壁の文字は、途中で潰されたりしていたんだ。それに彼が黒幕だということは、バジリスクは彼に呼ばれるまでは来ないのだろう。それにしても……

 

 

「なぜ、そこまで私が気になるの?」

 

「そりゃ気になるさ。小娘の話に何度も出てきたからね。闇の帝王と呼ばれし偉大な魔法使い、ヴォルデモート卿の呪いを跳ね返した人間だ。それも赤子のときに。なぜ跳ね返せた? なぜ傷一つで済んだ? 疑問は尽きないよ」

 

「そこまで気にすること? ヴォルデモートはあなたよりあとに出た人間でしょう?」

 

 

私のその返答に、リドルはニヤリと嫌な薄ら笑いを浮かべた。

 

 

「ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだよ」

 

リドルはそう言い、懐から取り出した杖で、空中に文字を書き出した。

 

 

トム・マールヴォロ・リドル(Tom・Marvolo・Riddle)

 

 

文字を書き終えると、今度は杖を一振りし、文字順を並べ替えた。

 

 

私はヴォルデモート卿だ(I am Lord Voldemort)

 

 

……そういうことか。

 

 

「……あなたが、過去のヴォルデモート」

 

「その通り。僕がいつまでも『穢れた血』の父親の名前を使うと思うか? マリー、答えは『否』だ。なぜサラザール・スリザリンの血を引く母の姓でなく、父親の名前を使わねばならない? だから僕は自分で自分に名前をつけた。いずれは誰もが恐れる、世界一の闇の魔法使いの名前を!」

 

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。ダンブルドア先生か他の人たちに言われなかったの?」

 

「いや? 僕は一応優等生だったものでね。誰も言ってこなかったさ。ああ、でもダンブルドアは終始僕を信頼しなかったね。五十年前の事件からは特に」

 

 

成る程、ダンブルドア先生はリドルの本性をわかっていたのか。

 

 

「君をがっかりさせるけど、誰が世界一と思うかは一人一人違う。現に私は、魔法使いの中で世界一は、ダンブルドア先生だと思ってる。

あなたが世界一? 笑わせないで。ならどうしてあなたはホグワーツを乗っ取れなかったの? 世界一ならダンブルドア先生をも下せる筈でしょう?」

 

 

私の言葉に、リドルの顔は醜悪なものに変わった。彼は怒っている。遠くで何かぶつかる音がした。

 

 

「あなたはダンブルドアを恐れている。強力な力を持っても、それは変わらない。今回のことも、あの人は既にお見通しでしょう」

 

「だが奴は僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城から消え去った!!」

 

「ダンブルドアを必要とする人がいる限り、あの人が本当の意味でいなくなることはない!!」

 

 

突如、美しい歌声が聞こえた。発生源に顔を向けると、美しい赤い色をした白鳥程の鳥が、孔雀のような尾羽を(なび)かせながら、私のもとへと舞い降りてきた。そして私の足元に使い古され、摩りきれた帽子を落とし、私の肩に留まった。

 

 

「……この鳥は?」

 

「成る程、ダンブルドアの不死鳥か」

 

「不死鳥……」

 

「そしてそれは、古い『組分け帽子』。クッククッ、クハハ、ハハハハハ!! ダンブルドアが助けに寄越したのはそれだけか!! 唄い鳥に、古帽子じゃないか!!」

 

 

リドルはツボに嵌まったらしく、暫く甲高い笑い声をあげていた。でもなぜか、私はこの帽子が重要なものと感じられた。

一頻り笑って落ち着いたのだろう、リドルは口の端を歪めつつも、笑いをやめた。そして老人の顔に手を翳し、蛇語を発した。

 

 

━━ スリザリンよ、ホグワーツ四強のうちで最強のものよ。我にはなしたまえ。

 

 

リドルがそう言うと、地鳴りが響き、老人の口がゆっくりと開きだした。あの奥に、バジリスクがいるのか。

リドルは口の端を歪めたまま、私に向き直った。私はジニーを抱えている。

 

 

「小娘を連れ出すか。まぁ無駄だろう、もう暫くしたら、僕が再び生を受ける代わりに、彼女は死ぬ」

 

「なんとかするわ。手がない訳じゃない」

 

「ふん、まぁいいさ。それよりマリー、少し揉んでやろう。

サラザール・スリザリンの継承者たるヴォルデモート卿と、不思議な守りで未来の僕を二度もはね退け、ダンブルドアから精一杯の武器をもらったマリー・ポッターとお手合わせ願おうか」

 

 

成る程、リドルは私とバジリスクを戦わせるつもりか。でもそれは叶わない。老人の口は八割がた開いている。

 

 

「あなたには再度悪いけど、バジリスクと戦うのは私じゃないわ。私がすべきことは、ジニーを連れて出来るだけ隅に行く。そして日記を破壊する方法を考えること」

 

「はっ、ここには君以外誰もいないじゃないか!!」

 

「いいえ、いるわ。ダンブルドアは確かに世界一の魔法使い、でも私が戦士として世界一だと思ってる人がここに」

 

「戦士として、だと? ……ッ!? なんだこの地鳴りは!?」

 

「シロウ!! お願い!!」

 

 

 

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 

 

 

私がジニーを抱えて横に飛び、そう叫ぶと同時に、後方にあった崩れた岩盤の山は吹き飛び、真っ赤な人影が飛び出し、私とリドルの間に立った。

彼は私に背を向け、リドルと今完全に開いた口を睨み付ける。不死鳥は私の肩から離れ、彼のそばに滞空した。

 

 

「遅くなった。待たせたな」

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

シロウを出すタイミングまずったかな~。
でもこのまま行きます。


さて、次回はいよいよ戦闘です。


それでは今回はこの辺で




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