シロウの油断が過ぎるとの指摘が多々ありましたが、それに対する返答です。
前回不意をつかれたと書きましたが、それがメインではありません。
ハーマイオニーが先に石化し、咄嗟に赤原礼装を身に付けたは良いですが、バジリスクの魔眼によって石化はせずとも動きが鈍る。
加えてすぐ近くに石化したハーマイオニーが転がっていたため、彼女に被害が及ばないように立ち回った結果、重傷負ったとしております。
さて更新です。
それではごゆるりと
Side マリー
全てが灰色に見えた。
ハーマイオニーが石化し、シロウが行方不明になった日、私はいつの間にかベッドに寝ていた。周りには心配そうに私を見つめる同級生がいた。
ハネジローも私の側から離れなくなった。食べ物の味も感じられない。無気力に過ごす毎日。フレッドとジョージの馬鹿げた悪戯にも笑えない。ただただ秘密の部屋について、時間があれば食事をとることなく調べていた。そんな私に、同級生や教師陣は休むように言った。
「マリー、1度休んだ方が良いよ。もう朝と昼を抜かしてるだろ?」
「いい。大丈夫」
「ミス・ポッター、今日は休みたまえ。そのような状態で我輩の授業を受けさせるわけにはいかん」
「大丈夫ですから」
そんな状態が二月続いた。
バレンタインデーにロックハートが何やらまた騒動を起こしていたけど、どうでも良かった。
その日に変な小さい小人が付きまとってきたので、少し廊下の向こうまで蹴り飛ばし、最大出力のオリジナルスペルをぶち当てただけで、そいつは大人しくなった。だから私の被害は殆ど無かった。
因みに言うと、ロックハートはそのあとすぐに全ての小人を回収し、被害者全員に謝罪していた。自業自得だ、かける情けはない。
ハーマイオニーが襲われて以来、石化事件が起きないある日の午後、ロンと肩に乗るハネジローと一緒に、大広間へと向かっていた。
最近行方不明だったシロウから手紙がきて、ちゃんと生きていることが確認できた。ただ、何処にいるかは依然判明せず、手紙を持ってきたシロウの使い魔も、その場で砕けてしまった。
シロウとのラインも、受け取り拒否をしているのか、辿ることはできない。でも今は生きていることを知れただけで十分だった。
それ以来、食事と休養は十分にとってる。今も昼食を食べに行くところだ。
歩いている間、私は無言で考え事をしていた。行方不明のシロウについてわかるのは、世界を移動したのではないということ。何故なら、世界を移動するときに感じられる、ゼルレッチさんの独特の力の流れを感じなかったからだ。だからシロウは、確実にこの世界にいる。
「パム、マリー」
「ん? どうしたの?」
「かーべ、クモ」
「クモ? ……あ」
ハネジローに話しかけられ、壁をみた。ここ最近見ていなかった蜘蛛の行列だった。久しく見る光景だ。
「……ロン?」
「……うぇ~……」
「ごめん、でも今は我慢してもらえる?」
「……うん」
何でまた。今回は今までのように、変な声は聞こえてこない。にも関わらず蜘蛛たちは、我先にと行列をなし、外に向かって逃げ出していた。
「……ロン」
「なに?」
「今晩ハグリッドの所にいこう」
「いいけど、どうやって抜け出すのさ?」
「……お父さんの透明マントを使いましょう」
その夜、二人でマントに入り、できるだけ静かにハグリッドの小屋へと向かった。因みに髪はこの一年で長くなり、背中までかかるようになって少し邪魔なので、今は三つ編みにして先をリボンで結んでる。
小屋の前まで誰にも会わず、無事に扉までたどり着いた。ノックすると、中から弩を構えたハグリッドが出てきた。
「そこにいるのは誰だ。言っとくがこちらには武器があるぞ」
ハグリッドは警戒したまま声を発する。あ、マントを脱ぐのを忘れてた。矢を放たれたくなかったので、私達は急いでマントの中から出てきた。途端ハグリッドはホッとした顔を浮かべた。
「何だお前さんたちか。入れ、丁度茶を入れたとこだ」
ハグリッドに促され、私達は小屋に入った。因みにハネジローは私のベッドで寝ている。今回は連れてこなかった。
ハグリッドはカップにお茶を注いでいたけど、その手は震えていた。
「ハグリッド、ハーマイオニーとシロウのこと……」
「ああ、聞いた。なんてことだ……」
ハグリッドはぼやきつつ、お茶を私達に差し出した。私とロン、ハグリッドは、暫く黙ってお茶を飲んだ。そしてカップの中のお茶を飲み干したあと、早速本題に入ることにした。
「ねぇハグリッド、聞きたいことが……「こんばんは、ハグリッド」ッ!?」
こ、この声はダンブルドア先生!? こんなときに!?
(早く、マントに入れ!!)
(うん、ロン!!)
私達は小声で話し、自分達のカップを持って、急いでマントに入った。入ると同時に、ハグリッドの小屋にダンブルドア先生と、見たことのない、小柄で小太り気味なおじさんが入ってきた。
このおじさんを見て、私は漠然と感じた。
この人、そうとう高い地位におり、尚且つ権力を御しきれずに逆に踊らされている。要するに権力というものの味をしめている。この人、自分にとって都合の悪いことから目を背け、現実を直視しないタイプだ。
「ハグリッド、状況が良くない」
おじさんが喋り出す。
(パパのボスだ)
(え? なに?)
(コーネリウス・ファッジ、魔法省魔法大臣。イギリス魔法界のトップだ)
ロンがギリギリ聞き取れる程の声でおじさんの説明をする。その間にも彼らの話は進む。
「状況は五十年前と同じだ」
「まさか、また俺を疑ってんのか!!」
「現に被害者が出ておるんだ。これは暫定的な処置なんだ、わかってくれ」
「また俺をアズカバンに連行するのか!! また何もしてねえのにあんな思いをさせられるのか!!」
「ハグリッド、落ち着きなさい。わしは君を信じとる」
「だがダンブルドア……」
激昂するハグリッドをダンブルドア先生が宥める。対する大臣は、ハグリッドが前科者として今回も関わっていると決めつけているようだ。
と、再び扉が開かれた。入ってきたのはマルフォイの父親、ルシウスさんだった。
「こんばんは、皆さんお揃いで」
「ルシウス、何しにきた?」
「教育委員会を代表しましてね。これを……」
そう言ってルシウスさんは、巻き紙を一つ取り出し、ダンブルドア先生に差し出した。
「バカな!? こんなときにか!?」
「委員会全員の署名があります」
「……成る程のう」
どうやら重大なことらしい。ハグリッドと大臣の驚きようが普通じゃない。
「正気か!? いまダンブルドア先生が出てっちまったら、ホグワーツのマグル生まれ全員が被害にあうぞ!? また死者がでてもいいのか!?」
「よいよい。ハグリッド、良いのじゃ。委員会がそう言うなら、わしはそれを受諾しよう。じゃが一つだけ、覚えておくが良い。ホグワーツでは助けを求めた者にのみ、それが与えられる」
ダンブルドア先生はほんの一瞬だけこちらに視線を向け、出口に向かった。
……絶対気づいている。目が笑ってたもん。
「もし本当のことを知りたければ、蜘蛛の後を追いかけりゃええ。そうすりゃちゃんとわかる。俺が言いたいのはそれだけだ」
ハグリッドもそう言い、ダンブルドア先生についていった。
「おっと、俺がいない間ファングに餌をやっといてくれ」
ハグリッドはそうつけ足し、今度こそ小屋から出ていった。他の面子もそれに続き、小屋から出ていった。
マントを被ったまま窓から外を確認し、皆の姿が見えなくなってから、私達はマントを脱いだ。
壁には、また小さな蜘蛛が行列をなしている。
「……ロン」
「わかってるよ、蜘蛛の後を追いかけたいんでしょ?」
「うん」
「嫌だけどついてくよ。なんかマリー一人だと心配だ」
何で蝶々じゃなくて蜘蛛なの?、なんてぼやきつつも、ロンはカンテラに灯をともし、外に出た。何だかんだ言いつつも、こうやって男らしいとこ見せるから、ハーマイオニーは撃ち抜かれたのかな? まぁどうでもいいけど。
小屋から出るといつの間にか来てたのか、ハネジローも待機してた。蜘蛛の行列は、森の中までつづいている。私達は蜘蛛を踏みつけないように気を付けながら、森の中へ入っていった。
どれ程歩いただろうか? 少なくとも30分は歩いている。
普通の街中なら30分は大したことないが、森の中での30分は最悪命取りになる。帰るときどうしよう? 非常に心配だけど、それでも私達は先を進んだ。
暫く進むと、開けた場所に出た。その向こうには大きな穴がある。蜘蛛たちはその中に入っていっている。
(アラゴグ……アラゴグ……)
何となく蜘蛛達がそう言ってるのがわかった。ということは、あの穴の中にアラゴグがいるのだろうか?
━━ ……誰だ……
しゃがれた、年老いた声が響いた。耳に聞こえたわけではない。念話のように、直接頭の中に話しかけられている感じだ。
━━ ……ハグリッドか?
「いいえ。ハグリッドの友人のマリナ・リリィ・ポッター、そしてロナルド・ウィーズリーです」
声に対し、私はそう応じた。
すると穴の奥から、何かが蠢く音と関節の軋む音、空気が動く音が聞こえた。そして姿を表したのは、軽くワゴン車程の大きさはある、巨大な大蜘蛛だった。その八つの複眼は、白く濁っている。
ロンは私の隣で顔をひきつらせていた。
「……あなたは、もしや目が」
━━ いかにも。この目はもう光をとらえることは出来ぬ。だが音はまだわかる。成る程、先程から話しておるお前が、マリナ・ポッターか。
「はい、初めまして。あなたがアラゴグさんですね? ハグリッドのご友人の」
━━ 然り。ハグリッドはわしが卵の頃から大事に育ててくれた。それだけでなく、わしのために嫁も見繕ってくれた。そのお陰でこうして子にも恵まれている。
アラゴグの言葉に、上から何匹もの大蜘蛛が、糸を引きながら降りてきた。殆どがイングリッシュマスティフに迫る程の大きさだ。即ちそうとうデカイ。
━━ して人の子よ。何故わしらの前に出てきた。
きた。
ここからは慎重に話を進めなければならない。下手をすると、私とロンとハネジローは、この子たちの夜のおやつになりかねない。
「五十年前、ハグリッドが濡れ衣を着せられたことはご存知だと思います」
━━ そうだ。あの小僧のせいでハグリッドは無実の罪に問われた。
「その日から五十年経ったつい先程、再びハグリッドが濡れ衣を着せられようとしています」
━━ なんだと?
「私達はハグリッドの無実を証明すべく、秘密の部屋の情報を集めています。もし差し支えなければ、何でも良いです。情報を教えていただけませんか?」
私は今の状況を、出来るだけ誤解されないよう丁寧にアラゴグさんに説明した。彼は暫く黙っていた。その間にも、彼の子供たちは包囲網を少しずつ、でも確実に縮めてくる。
━━ わしらはその話を決してしない。だが敢えて言うとすれば、そこに潜む怪物はわしらにとって忌むべき存在であることだ。
「忌むべき存在。つまり、天敵ってことですね?」
━━ そうだ。
成る程。だいたい解った。これで怪物の正体に一歩近づいた。
「貴重な情報をありがとうございました。では私達はこれで」
━━ 帰るのか?
「え、ええ。早くハグリッドを連れ戻したいですし」
━━ 先程から疑問に思っていたが、貴様らは本当にハグリッドの友なのか?
「え、ええ」
ま、不味いかも。このままだとおやつタイムルートにまっしぐらだ。
━━ 証明するものは?
周囲の蜘蛛達も、包囲網を縮めてきた。ロンは泣きそうな顔をしている。
私は頭の中に攻撃用の呪文を、いくつか思い浮かべた。そしてポケットに入れてた杖を構える。ロンも、破損箇所をスペロテープで辛うじて繋げている杖を取り出した。
今ここで攻撃すべきか悩んでいると、先程から私の服の中に隠れていたハネジローが飛び出した。
「パムパムー」
━━ む? その声は、ムーキットか?
「パーム、アラゴグ、ひさしぶり」
周りの蜘蛛達は、動きを止めた。というかハネジロー、あなたアラゴグと知り合いだったのね。
「パム、ハネジロー、マリー、ともだち」
━━ お前の友だと?
「パーム、マリー、いってる、ホントウのこと」
ハネジローの言葉に、アラゴグさんは黙りこんだ。暫くすると、アラゴグさんは鋏をカチカチ鳴らした。すると私達を囲んでいた蜘蛛達は、再び木の上に登っていった。
ハネジローは私の元に戻ってきた。
「……あの」
━━ 今回はムーキット、ハネジローに免じて見逃す。だが心せよ。次はないぞ、マリナ・ポッターよ。
「……ありがとうございます。ハネジローもありがとう」
「パーム」
━━ 早く行け
アラゴグさんはそう言うと、再び穴の中に戻っていった。もう話すことは無いのだろう。長居するとお夜食コースになるので、私達も退散することにした。
でも帰り道がわからない。とりあえずどの方向から来たかは覚えていたから、その方向に歩き出した。
途中から私達の前を、一匹のレトリバー大の蜘蛛が歩き始めた。歩く途中で止まってこちらを確認したり、歩くペースをこちらに合わせている。恐らく道案内をしてくれているのだろう。私達は黙ってその蜘蛛についていった。
行きの半分ほどの時間で、ハグリッドの小屋に到着した。ロンは非常にホッとした顔をしている。まぁ苦手な蜘蛛がとても大きく、加えてあんなに沢山いたのだから無理もないだろう。
「ありがとう。あなたのお陰で無事に出れたわ」
私がお礼を言うと、道案内してくれた蜘蛛はカチカチと鋏を鳴らした。そしてお腹の先をモゾモゾと後ろ足でいじり始めた。
30秒程すると、蜘蛛はバスケットボール大の糸玉を差し出してきた。私にくれるらしい。
「ありがとう、大事にするね?」
この子なりの友好の証なのだろう。だから私はありがたく受けとることにし、代わりに髪を結んでいたリボンを、この子の足に結びつけた。
蜘蛛は再度鋏を鳴らし、そのまま森の中へと去っていった。
「ねぇ、結局何がわかったの?」
ロンが聞いてくる。今回確信できたのは二つある。
「やっぱりハグリッドは無実だったことと、秘密の部屋の怪物は、蜘蛛の天敵となる存在だということ。たぶん蛇関係のね」
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それから二、三日経過した。
石化の被害者はあれから増えていないけど、シロウは未だ行方知れずだった。でも教師陣にも彼が無事に生きていることは、スネイプ先生とマグゴナガル先生経由で伝わっているらしい。
グリフィンドールの生徒も、マグゴナガル先生経由でそれを知り、一先ず安堵していた。
そんなとき、また寮に生徒が集められた。でも今回は、マグゴナガル先生の顔が綻んでいる。ということは、きっと良いニュースなのだろう。
「皆さんに朗報です」
「犯人が捕まったのですか?」
「クィディッチが再開されるんですね?」
皆口々に質問するけど、マグゴナガル先生は首を横に振った。
「違います。ですが、薬草学のスプラウト先生によると、もう間もなくマンドレイクが成熟するようです。このまま順調にいけば、今週辺りにも、石になった生徒達を蘇生できるでしょう」
マグゴナガル先生がそう言うと、談話室は歓声に包まれた。それはそうだ。事件解決への第一歩が踏み出されたのだ。嬉しくないわけがない。
と、パーシーがマグゴナガル先生に近寄っていった。
「先生、それでシロウに関しては?」
パーシーの質問が聞こえたのか、少し談話室の興奮が抑えられた。パーシーの質問に、マグゴナガル先生は少し残念そうな顔をした。
「残念ながら手掛かりの『て』の字もありません。どこに行ったのやら、生きていると確認できただけでも行幸です」
どうやらシロウはまだ見つからないらしい。フレッドとジョージも、シロウに教えられた使い魔の魔術で独自に調査したらしいけど、足取りは掴めなかったそうだ。
「……通常であれば彼の受けた毒は、対象を5分以内に毒殺し、加えて傷の治癒も阻害します」
マグゴナガル先生の説明に、皆は黙って意識を向けた。
「ですが彼は30分以上は耐えたどころか、普通では考えられない速度で傷口が治癒してました。ですから希望はまだあります」
マグゴナガル先生はそう言うと、寮を後にした。
先生が出ていくと、談話室は先程とは別の空気で支配された。
「シロウって本当に……」
「あいつ人間か?」
「怪物の毒に耐えられる人間って、世界中探してもエミヤぐらいじゃね?」
……みんな後でシロウの折檻をうけるよ? 何だかんだでシロウはそういうのに敏感だし。
事件発生から半年、ようやく希望の光が見え始めた。
はい、今回はここまでです。
マリーが貰った蜘蛛の糸は、後にマリー自身の手によって、シロウとマリーの手袋に生まれ変わりました。
普通の毛糸と同じ保温性に加え、蜘蛛の糸なので滑ることもない素晴らしい手袋です。
これなら冬場の作業も楽チンだね!!
もし間に合えば、バレンタインネタとエイプリルフールネタを、それぞれの日に、fateもこれも投稿します。
次回は二巻クライマックスに差し掛かります。
それではこの辺で