更新です。
それではごゆるりと。
Side マリー
大広間は、スネイプ先生の荒い息遣いだけが響き、あとは風が入り込む音しかしなかった。
「スネイプ先生。大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。それにしても流石だな、エミヤ。防ぐことに手一杯だった」
「今回は魔力を込めましたので。ですが、流石に私もこうなるとは」
スネイプ先生とシロウが会話をしている。その声で、一人、また一人と現実に戻ってきた。と、大広間の外から、マグゴナガル先生が駆け込んできた。
「今のはいったいなんですか!? まるで地震のような……セブルス、何をしてるのですか?」
「少々力を使いすぎまして」
マグゴナガル先生はスネイプ先生の言葉に、まずシロウに目を向け、次にスネイプ先生、最後に広間を見渡し、再びスネイプ先生に視線を戻した。
「……まさか?」
「ええ。そのまさか、です」
「……わかりました。ミスター・エミヤ?」
「はい、何でしょう?」
「余りやり過ぎないよう、お願いしますね?」
「……すみませんでした」
「よろしい、さて」
マグゴナガル先生はシロウに注意をしたあと、大広間に杖を向け、ヒビの入った壁に天井、割れた窓を綺麗に修復し、大広間を後にした。あらら。シロウの規格外さって、先生方には知られてるんだね。まぁ去年のトロールのこともあるから、仕方がないと言えば、仕方がない。
「では今度は生徒同士でやってみようか。ああ、ポッターにウィーズリー。どうだね?」
ステージの上から二人が降りたあと、ロックハート先生によって生徒同士でやることになった。で、私とロンが指名されたけど、ロンの杖はさっきの余波で折れた。今は芯に使われてるユニコーンの毛で、辛うじて繋がっている状態。流石に使うのは不味いだろう。
「……ロン。すまない」
「あ、いやいいよ。これもお下がりだし」
「……新しい杖の代金は、オレに払わせてくれ」
「……お願いします」
漫才のようなやり取りが、隣で行われている間に、私の相手はマルフォイに決まった。私とマルフォイはステージの中央に立ち、互いに杖を構えた。因みにハーマイオニーは、スリザリンのミリセントって女の子とペアを組み直した。
「怖いか、ポッター?」
「いいえ? 結構ワクワクしてるわ。怖いのはあなたじゃないの?」
「まさか?」
「あら、残念ね」
互いに挑発し、それからそれぞれステージの端に立つ。私の頭の中には攻撃用、ただし全て武装解除以下の攻撃力しかない呪文を、思い浮かべる。
そういえばシロウにも言ってないけど、威力は大したことないけど『
因みに今回もロックハートのジャッジで決闘を始める。
「杖を構えて!! ……一……二 「『
マルフォイがフライングで私に呪いを飛ばした。マトモに食らった私は宙を舞い、後方へと吹っ飛ばされた。スリザリン生たちは、皆一様にニヤニヤとした嫌な笑いを浮かべていた。呆れた、卑怯な手ばかり使って、貴族が聞いてあきれる。
私は立ち上がりマルフォイに杖を向けた。彼は驚いた顔をしてる。ただ吹っ飛ばしただけで、勝った気になってるの?
「『
「二人とも武装解除だけです!!」
ロックハートの制止を聞かず、私はオリジナル・スペルを発動させる。杖先から卓球球程の大きさの光球が、マルフォイ目掛けて連続掃射される。
元々フリペンド自体は大した魔法ではない。何の呪力もない光球を撃ちだし、対象に当てる、本当にボールを当てるだけのような魔法である。が、飛ぶスピードはかなり速いため、威力などが最大になれば、陶器製の壺を壊すのは勿論、金属甲冑をバラバラに吹き飛ばすのはわけない。
今、私が出しているのは、飛行スピードは卓球マシンほどであり、連射スピードはマシンガン、球の大きさと固さはスーパーボールほどである。それが連続掃射されたらどうなるか。
「アバババババババババババババッ!!」
「マリー、落ち着いて!! 武器を奪うだけdアバババババババババババババッ!!」
と、こうなる。
十秒ほどで連射は終わった。なんか途中で誰か巻き込んだ気がしないでもないけど、無視することにした。
周りの皆は、目を見開いている。スネイプ先生は感心するような顔をしている。シロウも驚いているみたい。やったね!!
マルフォイは暫く床に座り込み、ゼェゼェ言っていた。けど、再度立ち上がり、私に杖を向けた。
「『
マルフォイの杖の先から、全長70cm程のコブラが出てきた。ステージに出された蛇は、そのまま動き出す。確かコブラは、強力な毒を持っていたはず。誰かに噛みついたら大事だ。
「二人とも動くな、我輩が追い払おう」
「いや、私にお任せあれ」
スネイプ先生が歩き出すけど、ロックハートがそれを制止し、蛇に杖を向けた。
「『
ロックハートの杖先から閃光が飛び、蛇に直撃した。パァンッ!! というゴムの弾ける音と共に、蛇は宙に打ち上げられ、そのまま落下した。また失敗してる。蛇は怒ったようで、近くの生徒に、ターゲットをとった。いけないっ!!
━━ 手を出すな。去りなさい。
私は蛇に向けて声を発した。蛇は動きを止め、私に顔を向けた。
━━ 魔力に還りなさい。ここはあなたのいるべき場所ではない
蛇は渋るように床に頭を落とし、舌をちらつかせる。
━━ 還りなさい!!
今度は強く言った。蛇は諦めたのか、光を放ち、マルフォイの杖の中に吸い込まれていった。
もう大丈夫だ、そう思った私は、襲われそうになったハッフルパフの生徒、ジャスティンに顔を向けた。けど、彼は私を恐れるかのような目で見ていた。
周りを見渡すと、私と余り接点のない人たちは、寮の所属に関係なく、私に同じような目を向けている。私、何かした?
「えっと……皆どうしたの?」
本気でわからなかった私は、皆に問いかけた。でも誰一人答えない。突然私は後ろから引っ張られ、大広間の外へと連れていかれた。引っ張っていたのはロンだった。ハーマイオニーとシロウもいる。私達はそのまま暫く廊下を歩き、とある曲がり角で立ち止まった。
「君『
「私がなんだって?」
「『
ハーマイオニーが説明を入れる。でも今一ピンとこない。
「わかんないよ。仮にそうだとしても、今回が初めてだもん」
「今まで経験ないの?」
「うん」
そう。仮に蛇と話せたとしても、私は今まで蛇とコミュニケーションをとったことない。だから、もし私が蛇語を話したとしたら、今回が初めてだ。
「何で皆あんな顔をしてたの?」
「それは……サラザール・スリザリンが蛇語使いだったからよ」
「ただそれだけ?」
「今、秘密の部屋の騒動が起こってるでしょう? そして狙われてるのは、スリザリンの継承者の敵。ならあなたがそのつもりが無くても、皆あなたがスリザリンの継承者かもって思うわ」
「そうだよ。もしかしたら皆君をスリザリンの曾曾曾曾孫だと思うぜ?」
「そんな!?」
「彼の者は何百年も前の人間だ。確率的には、その血を牽いているということは、あり得なくはないのだよ、マリー」
「パム~……」
シロウは重々しく言葉を紡いだ。
その日から私は、校内の大多数の人たちから、疑いの視線に晒されることになった。普通に廊下を歩いているだけで、皆脇に逸れていく。中には自分は純血だから襲うな、と言ってくる人間もいた。正直ストレスが溜まった。いつも美味しいと感じる食事も、全くの無味に感じられた。
救いがあるととすれば、ウィーズリー一家やシロウ、ハーマイオニーは変わらず私に接しており、グリフィンドールの同級生や、何人かの他寮生も私を疑っていないということだ。
「下~に下に、スリザリンの継承者様のお通りだ~」
「者共、頭が高い!!」
フレッドとジョージがふざけて私の両隣に立ち、ふん反りかえって歩く。そこにパーシーが近づき、二人に注意をする。
「おい、どけよパーシー。マリー様は行かねばならぬ」
「そうだそうだ。牙を生やした手下と、剣の魔王と一緒にお茶をお飲みになるのだ」
「ふざけるな!! だいたい剣の魔王って「呼んだか?」あ、シロウ丁度よかった。二人にお仕置きを……って、なんだその格好は!?」
「「「「ブフゥッ!!」」」」
やって来たシロウを見た瞬間、周りにいた人たちも含めて吹き出した。いつものシロウからは想像できない、非常に奇抜な格好をしていたのだ。
上半身は裸、両腕両足にはゲートルのように黒い布を巻き付け、左右の腰に二本ずつ、背中に二本の合計六本の剣を身に付けている。
下半身は大きな紅い布を巻き付け、靴は履いていない。そして全身には奇妙な模様が描かれており、頭には腰布と同じ色の布を巻き付けている。
そして背中には何故かお地蔵様を背負っていた。ハネジローはシロウの肩に乗っている。
「し、シロウ。その格好はいったい……?」
「オレはシロウではない。剣の魔王だ」
「「ブヒャヒャヒャヒャッ!! m9(^▽^)」」
シロウの発言と出で立ちに、双子はゲラゲラとバカ笑いし、周囲の生徒たちもパーシーを除き、バカ笑いをした。
騒ぎを聞き付けたマグゴナガル先生が来たけど、その厳格そうな顔を歪め、視線を反らしていた。因みに双子は同じような格好をして、先生とパーシーから怒られていた。
こんな感じで、確かに味方もいた。もし彼らがいなかったら、私はどうなっていただろう。想像したくもない。
でも数日後。蛇に襲われそうになったジャスティンが、ゴーストのニコラスさんと共に、石化した状態で見つかり、更に疑心に晒されるはめになった。
月日は過ぎてクリスマスを経由し、被害者は更に二人増えた。その内の一人は、パーシーの彼女さんだったらしく、その日からパーシーは沈みこんだままだった。
そこに漸く、ポリジュース薬が完成した。今はまだ冬季休暇中。マルフォイは学校に残っていた。
今回、秘密の部屋について、何かしら知っていると思われるマルフォイから、情報を引き出すために、彼に近しい人たちに変装することになっている。その変装に、ポリジュース薬は絶対に欠かせないアイテムだ。
「結局誰が何を飲むの?」
「私はミリセント・ブルストロード。ローブに彼女の髪が付着していたわ」
「じゃああとはクラッブとゴイルか」
「すまんがオレは実行の日の夜、校長に呼び出されている。三人だけに任せる形になるが」
「じゃあ私がクラッブのを飲むね。ロンはゴイルで」
「わかった」
クラッブとゴイルの髪の毛はまだ採取していなかったので、今夜採ることにした。因みに二人とも学校に残っている。
私達は少し強めの眠り薬で三人を眠らせ、薬の効く一時間のみ、彼らと入れ替わることになった。ただ、そのまま薬を飲ませるわけにはいかないので、私達はマドレーヌにそれを仕込み、待ち伏せした。
大広間の外にマドレーヌを二つおき、魔法で空中浮遊させる。これはクラッブとゴイル用だ。ミリセントはハーマイオニーがどうにかするみたいで、そちらは任せた。
それにしてもシロウ、校長先生の呼び出しってなんだろう?
私が考え事をしていると、大広間から大量のマフィンを抱えたクラッブとゴイルが、実に幸せそうな顔をしながら出てきた。そして宙に浮くマドレーヌを見つけると、何の躊躇もなくそれを手に取り、かぶり付いた。そしてすぐに眠り薬が効き、その場に倒れた。
……うん。この子たち馬鹿なのかなぁ? 普通あんな怪しく浮いてるものに、躊躇なく手を出しはしないけど。
まぁ計画はうまくいったので、私達は髪の毛をそれぞれ一本採取し、三階女子トイレの個室に押し込めた。そしてハーマイオニーからコップに入ったドロリとした薬を受け取り、髪の毛を投入した。
薬は私のは褐色となり、ロンはカーキ色、ハーマイオニーは黄土色になった。
「いい? 効果は一時間だけ、忘れないでね? それじゃあ……」
私達は薬を一気に飲み干した。
……うん、不味い。もう一杯なんて決して言わない。ロンとハーマイオニーはそれぞれ個室に駆け込んだ。
体が内側から焼けるようだ。絶え間なく吐き気が私を襲う。中のものが出そうになったけど、私はそれを堪えた。
暫く気持ち悪いのが続くと、今度は私の表面が泡立ち始めた。泡は決して弾けることなく膨張と収縮を繰り返し、私の体を大きくしていった。そして数秒後、私の外見はクラッブとなった。
試しに声を発すると、声までもクラッブになっていた。
なんか複雑。私女の子なのに。
まぁ取り合えず成功だ。ロンもゴイルの姿になり、個室から出てきた。でもハーマイオニーはトラブルが起こったらしく、結局私とロンの二人だけで動くことになった。
結論から言うと、大した収穫はなかった。
新しくわかったのは、前回部屋が開かれたのは五十年前。そのときマグル出身の女生徒が一名死亡、たったそれだけだ。部屋に潜む怪物については、何一つ判明しなかった。
そしてハーマイオニーだけど、どうやら彼女が使ったのはミリセントの髪の毛じゃなく、猫の毛だったらしい。ハーマイオニーは顔は猫になり、毛がはえ、尻尾まで付いていた。
ポリジュース薬は、動物の毛を使用してはいけない、人間の一部のみである。けどハーマイオニーは猫だった。
そのせいで、一時間経過しても変化は解けることなく、寧ろ毛玉を吐いたりと酷かったので、私達は彼女を医務室に連れていった。マダム・ポンフリーには、魔法の失敗でこうなったと伝えてる。間違いではないし。
結局ポリジュース薬を使った今回の調査は、ほぼ無駄骨となった。
はい、ここまでです。
マルフォイとロックハートの呪文、「宙を踊れ」「蛇よ去れ」は、映画オリジナルの魔法です。
マリーの魔法は、ハリパタのゲームオリジナル魔法、「フリペンド、撃て」を元にした、本作品オリジナルです。
マリーの口調ですが、成長するにつれて、徐々に「~だわ」「~よ」「~かしら」という、一般的に女性口調と呼ばれるものにしていきます。
まだ12歳なので、偶にしか出ませんが。
さて、次回はリドルの日記です。
それでは今回はこの辺で