明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
というわけで新年一発目、本編です。
番外編のお正月ネタは、今回は無しにしました。
それではごゆるりと
明くる朝、いつも通り早くに目が覚めた。シルフィはオレの上に覆い被さるようにして、熟睡している。パーシーは普段の几帳面さから想像できないほど、寝相が悪いらしい。布団を蹴飛ばしている。シルフィは蕩けそうな顔をして、口をだらしなく緩ませている。
むぅ、シルフィを見ていると罪悪感が湧いてくるな。それほどにまで、寂しい思いをさせていたのか。こちらにいる間は存分に甘えさせてやるか。
そう思いつつトレーニングウェアに着替え、シルフィを寝たまま抱き抱えて階下に向かった。イリヤとモリーさんは既に起床していたようで、オレはシルフィを二人に預けて外へ出た。庭でストレッチをしていると、同じく着替えた剣吾も来た。
お互い無言で日課をこなしていると、続々と皆も起きたようで、着替えて此方を見物していた。シルフィも起きたようで、今はマリーの膝の上に座り、此方を見ている。
「……毎度毎度思うのだが、見ていて楽しいか?」
「う~ん、わかんないな。正直昔から見ていたから私の習慣なのかもね」
「そうか」
「……シロウが前言っていた鍛練内容。あれ本当だったんだな」
「剣吾までやってるし」
「それに二人とも喋る余裕もある」
見物人に声をかけつつ、オレと剣吾は互いの日課を終わらせた。少し汗をかいたか。朝食の前に水で流すかな。剣吾もそうとう汗をかいているみたいだし。
「二人とも終わった?」
「終わりました」
「ええ、私も」
「そう、なら着替えて手伝って?」
「「了解(した)」」
モリーさんとイリヤに言われ、オレ達は急いで服を着替えた。やはり人数が人数なので、外に机を出して食べるようだ。朝食のメニューはイリヤが中心に作ったらしく、和風なものになっている。む、オレがいない間にまた腕を上げたか。いずれ追い越されるのでは?
そういえばこの世界では、マリー以外に和風料理を食べさせたことはなかったな。果たして口に合うだろうか?
「!! 美味しいわ、イリヤ!! これはどうやって作ったの?」
「ああ、これはこの食材をこうしてね? 因みにこれはどう作ったの?」
「ああ、これはね……」
母親達は料理談義に入ったか。他の皆も気に入ってくれたようだ。ジニーも隣に座る剣吾が気にならない程に夢中になっている。って。
「ほらシルフィ、口の周りについてるぞ? こっち向いて」
「うむぅ? んん、これでだいじょうぶ?」
「ああ、キレイになった」
「あい!! おくちキレイ!!」
「……シロウがお父さんやってる」
「でも学年は僕らより下なんだよ? フレッド、ジョージ?」
「「不思議だぜ」」
聞こえてるぞ、ウィーズリー四兄弟。不思議とは失礼な。しかしシルフィも、多少口のまわりは汚すが、あとは大丈夫そうだな。イリヤ達の教育が良いお陰だろう。……剣吾よ。そういう同情する目でこちらを見るな。良いのだ、凛のうっかりには慣れているから。
「そういえば剣吾君?」
「何ですか、マリーさん」
「剣吾君とシロウってどっちが強いの?」
「あ、僕も気になってた」
「僕もだな」
「「俺も」」
マリーの質問に、ウィーズリー四兄弟が食いついた。モリーさんとイリヤの母親陣はこちらをほうっているが、アーサーさんとジニーも興味津々な目でこちらを見ている。
「さぁ、わからないです。父さんじゃない」
「昔は兎も角、今は体格が余り変わらないからな。試さねばわからんだろう」
「じゃあメシのあとに本気で試合したら?」
ジョージの一言で場が盛り上がる。が、
「「いや、それはやめた方がいい」」
オレと剣吾の一言で、皆が疑問の目を向けた。マリーは何かを察したようだ。
「どうしてだ?」
「ちょっと色々とありまして」
「オレ達が本気でぶつかり合ったら」
「「ここらが更地になるぞ(なりますよ)?」」
「「「「……は?」」」」
そうなのだ。いつもは万華鏡が結界を張ってくれるから良いのだが、結界がないと確実に更地を量産する。オレ達が本気でぶつかる、ということはそれを意味するのだ。そこで暫く頭を捻っていた剣吾が、何かをひらめいた顔をした。
「そうだ父さん、固有k……「「駄目だ(よ)」」……え?」
「あれは矢鱈に見せるものじゃないわ。こちらでも禁呪に入るものよ」
「それにお前はまだ若い。失敗したときのことを思うと、まださせられん」
「父さんまで……」
オレとイリヤの言葉に、剣吾は暫く渋っていたが、やがて理解はしたようだ。自分は17歳のときに使っただろうって? あれ以来魔術が完成するまで使用禁止だった。って、オレは誰に説明してるんだ?
「だが純粋な体術ならば大丈夫だろう。アーサーさん、少し広い場所はありますか?」
「向こうの方が大丈夫だよ。私も気になってたものでね。是非とも見せてくれ」
「というわけだ、食べ終わったら用意しておけよ? オレは先に行ってる」
「……ハァ。男の子って本当に……」
イリヤは呆れた表情を浮かべつつ、食べ終えた人の皿をモリーさんと片付けて、小さな麻袋を片手に下げて着いてきた。オレは着替えて、剣吾が来る前に木製の槍を一本、二振りの木剣を投影しておいた。剣吾も着替えてくると、オレから槍を受け取り、少し離れて構えた。
「ジョージ、剣吾が勝つ方に夕食一品」
「じゃあ俺はシロウに一品な」
双子は賭けをしているようだ。正直やめてほしいが、金が絡んでないだけマシか。剣吾は槍先を下に向け、オレは両腕をだらんと下げるようにして剣を構える。
「……なんだろうね、パーシー、ロン。この変な圧迫感は」
「僕はわかんないよ、マリー」
「僕もだ。父さん達は?」
「……あなたたちはまだ経験したことがないと思うから、わからないのも当然よね」
「……一流の戦士が相対するとき、互いに打ち負かすという気合いのようなものが、私達第三者には圧力として感じるんだ」
「それは魔法使いの決闘でも同じよ?」
「でもそれでもこれ程迄に荒々しいものでもない。これ程のレベルは、ダンブルドアクラスの熟練者同士の決闘じゃないと……彼らは一体……」
ウィーズリー一家の会話も次第に聞こえなくなり、オレは目の前の剣吾はのみが目に入る。剣吾も同じようで、オレから一切目を離さない。イリヤも、認識阻害の結界を張り終えたらしく、こちらに戻ってきた。
「準備はいいわね? それじゃあこれから三分、始め!!」
イリヤの掛け声と共に、オレは前へと駆け出した。
Side マリー
まずはシロウが動いた。
突然消えたと思ったら、剣吾君と真正面からぶつかってた。
剣吾君、今の反応できたの?
それからシロウは一度後ろへと飛ぶと、回り込むようにして猛スピードで剣吾君に近づいた。
そこからは何をしているか、わからなかった。木がぶつかり合う音が右に左にと移っていき、どこにいて、何をしているかわからない。膝の上のシィちゃんには見えてるのか気になり、顔を覗き込むと、更に驚愕した。
シィちゃんはいつもの愛らしい笑顔を引っ込めて、真剣な表情で目を動かしている。
まさか、シィちゃんには見えているの? それとも見えてないのは私だけ?
「……フレッド」
「言うな、ジョージ」
「「父さん(パパ)……」」
「安心しろ。私にも見えてない」
「母さんにも見えないわ」
どうやら見えてないのは私だけではないみたいだ。ウィーズリー一家のみんなも見えないらしい。ジニーも何が何だかわからない、という顔をしている。私は気になって、シィちゃんに話しかけた。
「シィちゃん」
「なに? マーちゃん?」
「シィちゃんには見えてるの?」
「うん。にぃにとパパが、木の棒でガツンってやってるの。いまあっちにとんでったのがにぃにだよ? パパがにぃにをえいっ!! って押したの」
どうやらシィちゃんには見えてるようだ。エミヤ家って一体……
Side out
Side back to シロウ
何度か槍と剣が交差し、剣吾は大振りの足払いをかけてきたから、オレはそれを跳んで避けた。そして宙にいる状態で、木剣を剣吾のがら空きな背中に叩き付けた。
だが剣吾もそう甘くはなかったようで、足払いの勢いを利用して槍を背に回し、オレの一撃を防いだ。
オレは剣を交差させて無理矢理押し込み、剣吾はそれを流そうとして後方へと飛んでいった。
体勢を立て直した剣吾は獰猛な笑みを浮かべ、こちらに突進してきた。攻勢は剣吾へと移り、ありとあらゆる箇所に突きを放ってくる。オレは二本の剣を駆使し、突きを受け流していく。
また足払いを出してきたので、切りもみ宙返りをしつつ、オレは剣吾から距離を取る。しかし剣吾はそれを予想していたらしく、オレが地につくと同時に再び猛攻を重ねてくる。
高跳びの要領で空へと上がった剣吾は、空中で切りもみ回転をし、その遠心力で加速した槍をオレに叩き付けてきた。オレはそれを二本の剣を交差させて防ぐ。そして一度はね除け、蹴りを出すが剣吾は槍で防ぎ、再度叩き付けた。
オレはバックステップでその一撃をかわし、次いで出される蹴りをも避ける。すると剣吾はオレから距離を取り、クラウチングスタートの体勢を取った。
あれは……蒼き槍兵のランサーの投擲の体勢。まさか剣吾は槍を投げるのか?
剣吾は先程よりも更に笑みを濃くし、一気にトップスピードで走り出し、そして空へと跳び上がった。
間違いない。あれはランサーの『
オレは剣の柄頭を組合せ、武器の形状を双身剣にした。そしてオレも地上から投擲する体勢に入る。剣吾は体を弓のように反らし、そのバネを利用して槍を投げ出す体勢に入る。オレは右肩に剣を担ぎ、狙いを剣吾の槍に定め、全身を強化する。
「ツェァアアラアアア!!」
「カァァァアアアアア!!」
互いに全力で槍を投擲する。槍は互いにぶつかり、一瞬だけ球状の衝撃波を発生させ、そして二本とも粉々に砕け散った。しかしまだ試合は終わっていない。
オレは強化したまま走り出し、一気に剣吾との距離を詰めた。そして空手の基礎技の1つ、正拳突きを地についたばかりの剣吾の腹へとつき出す。
「そこまで!! 三分経過よ」
イリヤのやめが掛かる。
オレは剣吾の腹に拳が当たる直前で止める。剣吾はオレの最後の突きに反応できなかったようだ。
久しぶりの親子対決は、オレの勝利という形で終わった。
はい、ここまでです。
改めまして、明けましておめでとうございます。
いかがでしたか?
今回は父と息子をぶつけてみました。そしてそれを目で追えるシィちゃん。
マリーさんの疑問も当然かと。
さて、次回からダイアゴン横丁編です。
それでは今回はこの辺で
感想お待ちしております。