錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

というわけで新年一発目、本編です。
番外編のお正月ネタは、今回は無しにしました。


それではごゆるりと







3. 父 vs 子

 

 

明くる朝、いつも通り早くに目が覚めた。シルフィはオレの上に覆い被さるようにして、熟睡している。パーシーは普段の几帳面さから想像できないほど、寝相が悪いらしい。布団を蹴飛ばしている。シルフィは蕩けそうな顔をして、口をだらしなく緩ませている。

むぅ、シルフィを見ていると罪悪感が湧いてくるな。それほどにまで、寂しい思いをさせていたのか。こちらにいる間は存分に甘えさせてやるか。

そう思いつつトレーニングウェアに着替え、シルフィを寝たまま抱き抱えて階下に向かった。イリヤとモリーさんは既に起床していたようで、オレはシルフィを二人に預けて外へ出た。庭でストレッチをしていると、同じく着替えた剣吾も来た。

お互い無言で日課をこなしていると、続々と皆も起きたようで、着替えて此方を見物していた。シルフィも起きたようで、今はマリーの膝の上に座り、此方を見ている。

 

 

「……毎度毎度思うのだが、見ていて楽しいか?」

 

「う~ん、わかんないな。正直昔から見ていたから私の習慣なのかもね」

 

「そうか」

 

「……シロウが前言っていた鍛練内容。あれ本当だったんだな」

 

「剣吾までやってるし」

 

「それに二人とも喋る余裕もある」

 

 

見物人に声をかけつつ、オレと剣吾は互いの日課を終わらせた。少し汗をかいたか。朝食の前に水で流すかな。剣吾もそうとう汗をかいているみたいだし。

 

 

「二人とも終わった?」

 

「終わりました」

 

「ええ、私も」

 

「そう、なら着替えて手伝って?」

 

「「了解(した)」」

 

 

モリーさんとイリヤに言われ、オレ達は急いで服を着替えた。やはり人数が人数なので、外に机を出して食べるようだ。朝食のメニューはイリヤが中心に作ったらしく、和風なものになっている。む、オレがいない間にまた腕を上げたか。いずれ追い越されるのでは?

そういえばこの世界では、マリー以外に和風料理を食べさせたことはなかったな。果たして口に合うだろうか?

 

 

「!! 美味しいわ、イリヤ!! これはどうやって作ったの?」

 

「ああ、これはこの食材をこうしてね? 因みにこれはどう作ったの?」

 

「ああ、これはね……」

 

 

母親達は料理談義に入ったか。他の皆も気に入ってくれたようだ。ジニーも隣に座る剣吾が気にならない程に夢中になっている。って。

 

 

「ほらシルフィ、口の周りについてるぞ? こっち向いて」

 

「うむぅ? んん、これでだいじょうぶ?」

 

「ああ、キレイになった」

 

「あい!! おくちキレイ!!」

 

「……シロウがお父さんやってる」

 

「でも学年は僕らより下なんだよ? フレッド、ジョージ?」

 

「「不思議だぜ」」

 

 

聞こえてるぞ、ウィーズリー四兄弟。不思議とは失礼な。しかしシルフィも、多少口のまわりは汚すが、あとは大丈夫そうだな。イリヤ達の教育が良いお陰だろう。……剣吾よ。そういう同情する目でこちらを見るな。良いのだ、凛のうっかりには慣れているから。

 

 

「そういえば剣吾君?」

 

「何ですか、マリーさん」

 

「剣吾君とシロウってどっちが強いの?」

 

「あ、僕も気になってた」

 

「僕もだな」

 

「「俺も」」

 

 

マリーの質問に、ウィーズリー四兄弟が食いついた。モリーさんとイリヤの母親陣はこちらをほうっているが、アーサーさんとジニーも興味津々な目でこちらを見ている。

 

 

「さぁ、わからないです。父さんじゃない」

 

「昔は兎も角、今は体格が余り変わらないからな。試さねばわからんだろう」

 

「じゃあメシのあとに本気で試合したら?」

 

 

ジョージの一言で場が盛り上がる。が、

 

 

「「いや、それはやめた方がいい」」

 

 

オレと剣吾の一言で、皆が疑問の目を向けた。マリーは何かを察したようだ。

 

 

「どうしてだ?」

 

「ちょっと色々とありまして」

 

「オレ達が本気でぶつかり合ったら」

 

「「ここらが更地になるぞ(なりますよ)?」」

 

「「「「……は?」」」」

 

 

そうなのだ。いつもは万華鏡が結界を張ってくれるから良いのだが、結界がないと確実に更地を量産する。オレ達が本気でぶつかる、ということはそれを意味するのだ。そこで暫く頭を捻っていた剣吾が、何かをひらめいた顔をした。

 

 

「そうだ父さん、固有k……「「駄目だ(よ)」」……え?」

 

「あれは矢鱈に見せるものじゃないわ。こちらでも禁呪に入るものよ」

 

「それにお前はまだ若い。失敗したときのことを思うと、まださせられん」

 

「父さんまで……」

 

 

オレとイリヤの言葉に、剣吾は暫く渋っていたが、やがて理解はしたようだ。自分は17歳のときに使っただろうって? あれ以来魔術が完成するまで使用禁止だった。って、オレは誰に説明してるんだ?

 

 

「だが純粋な体術ならば大丈夫だろう。アーサーさん、少し広い場所はありますか?」

 

「向こうの方が大丈夫だよ。私も気になってたものでね。是非とも見せてくれ」

 

「というわけだ、食べ終わったら用意しておけよ? オレは先に行ってる」

 

「……ハァ。男の子って本当に……」

 

 

イリヤは呆れた表情を浮かべつつ、食べ終えた人の皿をモリーさんと片付けて、小さな麻袋を片手に下げて着いてきた。オレは着替えて、剣吾が来る前に木製の槍を一本、二振りの木剣を投影しておいた。剣吾も着替えてくると、オレから槍を受け取り、少し離れて構えた。

 

 

「ジョージ、剣吾が勝つ方に夕食一品」

 

「じゃあ俺はシロウに一品な」

 

 

双子は賭けをしているようだ。正直やめてほしいが、金が絡んでないだけマシか。剣吾は槍先を下に向け、オレは両腕をだらんと下げるようにして剣を構える。

 

 

「……なんだろうね、パーシー、ロン。この変な圧迫感は」

 

「僕はわかんないよ、マリー」

 

「僕もだ。父さん達は?」

 

「……あなたたちはまだ経験したことがないと思うから、わからないのも当然よね」

 

「……一流の戦士が相対するとき、互いに打ち負かすという気合いのようなものが、私達第三者には圧力として感じるんだ」

 

「それは魔法使いの決闘でも同じよ?」

 

「でもそれでもこれ程迄に荒々しいものでもない。これ程のレベルは、ダンブルドアクラスの熟練者同士の決闘じゃないと……彼らは一体……」

 

 

ウィーズリー一家の会話も次第に聞こえなくなり、オレは目の前の剣吾はのみが目に入る。剣吾も同じようで、オレから一切目を離さない。イリヤも、認識阻害の結界を張り終えたらしく、こちらに戻ってきた。

 

 

「準備はいいわね? それじゃあこれから三分、始め!!」

 

 

イリヤの掛け声と共に、オレは前へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

まずはシロウが動いた。

突然消えたと思ったら、剣吾君と真正面からぶつかってた。

剣吾君、今の反応できたの?

それからシロウは一度後ろへと飛ぶと、回り込むようにして猛スピードで剣吾君に近づいた。

そこからは何をしているか、わからなかった。木がぶつかり合う音が右に左にと移っていき、どこにいて、何をしているかわからない。膝の上のシィちゃんには見えてるのか気になり、顔を覗き込むと、更に驚愕した。

シィちゃんはいつもの愛らしい笑顔を引っ込めて、真剣な表情で目を動かしている。

まさか、シィちゃんには見えているの? それとも見えてないのは私だけ?

 

 

「……フレッド」

 

「言うな、ジョージ」

 

「「父さん(パパ)……」」

 

「安心しろ。私にも見えてない」

 

「母さんにも見えないわ」

 

 

どうやら見えてないのは私だけではないみたいだ。ウィーズリー一家のみんなも見えないらしい。ジニーも何が何だかわからない、という顔をしている。私は気になって、シィちゃんに話しかけた。

 

 

「シィちゃん」

 

「なに? マーちゃん?」

 

「シィちゃんには見えてるの?」

 

「うん。にぃにとパパが、木の棒でガツンってやってるの。いまあっちにとんでったのがにぃにだよ? パパがにぃにをえいっ!! って押したの」

 

 

どうやらシィちゃんには見えてるようだ。エミヤ家って一体……

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side back to シロウ

 

 

何度か槍と剣が交差し、剣吾は大振りの足払いをかけてきたから、オレはそれを跳んで避けた。そして宙にいる状態で、木剣を剣吾のがら空きな背中に叩き付けた。

だが剣吾もそう甘くはなかったようで、足払いの勢いを利用して槍を背に回し、オレの一撃を防いだ。

オレは剣を交差させて無理矢理押し込み、剣吾はそれを流そうとして後方へと飛んでいった。

 

体勢を立て直した剣吾は獰猛な笑みを浮かべ、こちらに突進してきた。攻勢は剣吾へと移り、ありとあらゆる箇所に突きを放ってくる。オレは二本の剣を駆使し、突きを受け流していく。

また足払いを出してきたので、切りもみ宙返りをしつつ、オレは剣吾から距離を取る。しかし剣吾はそれを予想していたらしく、オレが地につくと同時に再び猛攻を重ねてくる。

 

高跳びの要領で空へと上がった剣吾は、空中で切りもみ回転をし、その遠心力で加速した槍をオレに叩き付けてきた。オレはそれを二本の剣を交差させて防ぐ。そして一度はね除け、蹴りを出すが剣吾は槍で防ぎ、再度叩き付けた。

 

オレはバックステップでその一撃をかわし、次いで出される蹴りをも避ける。すると剣吾はオレから距離を取り、クラウチングスタートの体勢を取った。

 

あれは……蒼き槍兵のランサーの投擲の体勢。まさか剣吾は槍を投げるのか?

 

剣吾は先程よりも更に笑みを濃くし、一気にトップスピードで走り出し、そして空へと跳び上がった。

間違いない。あれはランサーの『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』と同じ動きで出される、渾身の槍の投擲。あいつ、完全にスイッチが入ってる。

 

オレは剣の柄頭を組合せ、武器の形状を双身剣にした。そしてオレも地上から投擲する体勢に入る。剣吾は体を弓のように反らし、そのバネを利用して槍を投げ出す体勢に入る。オレは右肩に剣を担ぎ、狙いを剣吾の槍に定め、全身を強化する。

 

 

「ツェァアアラアアア!!」

 

「カァァァアアアアア!!」

 

 

互いに全力で槍を投擲する。槍は互いにぶつかり、一瞬だけ球状の衝撃波を発生させ、そして二本とも粉々に砕け散った。しかしまだ試合は終わっていない。

オレは強化したまま走り出し、一気に剣吾との距離を詰めた。そして空手の基礎技の1つ、正拳突きを地についたばかりの剣吾の腹へとつき出す。

 

 

「そこまで!! 三分経過よ」

 

 

イリヤのやめが掛かる。

オレは剣吾の腹に拳が当たる直前で止める。剣吾はオレの最後の突きに反応できなかったようだ。

久しぶりの親子対決は、オレの勝利という形で終わった。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

改めまして、明けましておめでとうございます。

いかがでしたか?
今回は父と息子をぶつけてみました。そしてそれを目で追えるシィちゃん。
マリーさんの疑問も当然かと。

さて、次回からダイアゴン横丁編です。


それでは今回はこの辺で

感想お待ちしております。


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