秘密の部屋編、開始です。
それではごゆるりと
0. プロローグ
ある夏の日の夕方。
プリベット通り4番地のダーズリー一家の家は、落ち着きのない空気が場を満たしていた。
でっぷりとした男性、この家族の家主であるバーノンと息子のダドリーはスーツと蝶ネクタイを着用し、バーノンの妻であるペチュニアは、サーモンピンクのドレスを着ていた。
バーノンは上機嫌にダドリーの蝶ネクタイの調整をし、ペチュニアは豪勢なケーキの仕上げをしている。
ところでこの家にはもう一人住人がいる。その人物、マリナ・ポッターはこの家で二番目に小さい部屋で、羊皮紙の上に羽ペンを走らせていた。マリナ、以降はマリーと呼ぶ、はダーズリー一家の親戚であり、魔法使いでもある。
マリーは夏休みにこの家に帰ってきたとき、バーノン・ダーズリーによって、魔法関係の一切を取り上げられてしまった。
物置の中に押し込め、鍵を掛けるまで徹底して、マリーを魔法から遠ざけた。そのせいで、マリーはホグワーツ魔法魔術学校から出された宿題が手付かずとなってしまい、それどころか家の敷地から出ることもできなかった。唯一の救いは念話でのみ、シロウ、シロウ・エミヤと会話できることだった。
しかしここで驚くことが起きた。
なんと同じく夏休みだった従兄のダドリーが、物置を開けて魔法関係の道具を少しずつマリーに返し始めたのだ。
マリーは始め唖然としたが、有り難くそれを感謝し、宿題に手を付けることができるようになった。本に興味を示さないダドリーも、私が使わない教科書を読むなどもしていた。
一度その現場をペチュニア叔母さんに見られてしまった。けど叔母さんはそれを咎めることなく黙認し、果てはバーノン叔父さんに見つからないよう注意するということに。
それはともかくとして、それらの経緯で、マリーはシロウと念話で話ながら、最後の宿題の仕上げをしていた。
「マリナ・ポッター!!」
階下からバーノン叔父さんの呼ぶ声がした。大方このあとの予定確認をするのだろう。これで何度めだろうか。いい加減耳にタコができそうだ。
でもここで無視をすると、何をされるかわかったものでもないため、急いでリビングへと向かった。
部屋に入ると、バーノン叔父さんはダドリーの髪をとかしつけていた。
「来るのが遅い!! ワシが呼んだらすぐに来るんだ!!」
……これでもすぐに来たのですが。
それにこの前、そろそろ呼ばれると思って、叔父さんの元へと行ったら呼んでないと怒られ、それで引き返している途中に呼ばれたから急いで向かうと、今度は遅いと言われたことがある。いったいこの人は何がしたいのかわからない。
「全員集合だ。今から今夜の確認をする。まずはペチュニア?」
「応接間に」
バーノン叔父さんに話を振られた叔母さんが即座に答える。
「メイソン御夫妻を手厚くおもてなししますわ」
「その通りだ。ダドリー?」
「コートをお預かりするんだ」
「正しくその通りだ。それで……?」
ダドリーの確認が終わると、まるでゴミを見るかのような目付きで叔父さんは問いてきた。不愉快な感情が出てくるけど、それを押さえ込んで答える。
「……部屋に籠り、音をたてないで大人しくします」
「全くもってその通りにしろ。これは大事な商談だ。うまくいけば夜中のニュースに間に合うかもしれん」
叔父さんが上機嫌に語っているところに、叔母さんから食卓へと連れていかれた。早めの晩ごはんを私に食べさせるため、既に用意されていた。内容は今夜のご馳走と同じメニューだった。味わいつつも、できるだけ急いで行儀良く口に運んだ。マナーって大切だよね。
そこに玄関のベルが鳴った。もしかしてメイソン御夫妻のご到着?
でも叔父さんは怪訝そうな顔をしていたことから、たぶん違うのだろう。ペチュニア叔母さんが応対し、誰かと一緒に戻ってきた。麻黒い肌、真っ白の髪。鷹のような、それでいて優しさがにじみ出る鋼色の目。この一年でぐっと伸びた身長。ざっと165cm。って、
「久しぶりだな、マリー」
「え? えええ!? 何でシロウが!?」
「な、なんだ?」
「私が呼びました」
「ぺ、ペチュニア?」
「マリーのお目付け役にと。バーノンもその方が安心でしょう?」
「ま、まぁそうだが」
突然のシロウの登場に、ペチュニア叔母さん以外が呆気にとられていた。加えてダドリーは少しだけ顔を青くしていた。シロウはゆっくりとバーノン叔父さんへと近付いた。
「お初にお目にかかります。シロウ・アインツベルン・エミヤと申します」
「う、うむ。日本人か?」
「はい。こんな成りですが、日本人です。外見は世界中をまわっている間にこうなりました。よろしくお願いいたします」
「あ、ああ」
バーノン叔父さんはシロウにたじたじになっていた。どうも今のシロウからは、妙な貫禄が感じられる。気のせいじゃないよね。
それからシロウは、ダドリーに顔を向けた。それによってダドリーは、少しだけ震えていた。シロウはダドリーを暫く見つめると、口許に柔らかな笑みを浮かべた。
「……青い。だがいい青さだ」
「え?」
「ダドリー、君は今スポーツをやっているか?」
「い、いや?」
「そうか、ならボクシングはどうだろうか?」
「えっと、どうして?」
「筋肉のつきかただよ。正しく練習すれば、君は必ず良いボクサーになる」
「そ、そう」
シロウの発言に戸惑いながらも、ダドリーは悪い気はしなかったようだ。その証拠に、手をワキワキとさせている。ダドリーは機嫌が良いとき、どちらかの手をワキワキさせる癖がある。
男性陣が話をしている間に私は晩ごはんを食べ終え、食器を片付けて叔母さんの手伝いをした。何もしないっていうのは嫌だしね。それに叔母さんの手伝いをし続けてかたから、今は簡単なものなら作れるし。
そこにまた玄関のベルが鳴った。今度こそメイソン御夫妻がいらっしゃったらしい。私とシロウは急いで階段をかけあがり、私の部屋へと入った。
しかし、そこには先客がいた。
コウモリのような耳をつけ、テニスボール程大きい目をした茶色い生き物が、私のベッドの上で跳ねていた。
はい、今回はここまでです。
いかがでしたでしょうか? 今下書きは一応ロックハートの初授業までできています。
それから余分を削ぎ落としたりして本書きする予定です。
それでは今回はこの辺で