錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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存外筆がのったので更新します

それではごゆるりと





16. 仕掛けられた罠 【前編】

 

Side マリー

 

 

真夜中。

女子部屋の私とハーマイオニー以外は寝静まった頃に、私達は談話室に降りた。ロンは既にそこにおり、シロウは気配を既に消してこの部屋にいるらしい。全員が揃ったため、私達は寮の出口に静かに向かった。が、

 

 

「また抜け出すつもり?」

 

 

突然ソファの影から声が響いた。私達は身構え、声の主がソファから立ち上がるのを見た。その人物は…………ネビルだった。

 

 

「ネビル? 君だったのか」

 

「もうこれ以上寮の点数を下げさせる訳にはいかないよ。それに今度見つかれば、最悪退学になっちゃう」

 

 

ネビルの声は震えている。でも真っ直ぐこちらを見つめていた。

 

 

「ネビル。僕らはどうしても行かなきゃならないんだ」

 

「だとしても見つかれば終わりじゃないか。僕は君たちに退学になってほしくない。だから……僕は君たちを止める」

 

「ネビル!!」

 

 

ロンは我慢の限界が近づいてきたのか、耳が赤くなってきた。ネビルの気持ちは嬉しい。でも石が奪われるのと私達の退学を天秤にかけるなら、石の方が重要だ。だからネビルには悪いけど、私達も引くことはできない。

 

 

「ネビル。本当にごめんなさい」

 

 

ハーマイオニーがポケットから杖を取りだし、ネビルに向けて呪文を放った。正確には放とうとした。けどその前に、シロウがどこからともなくネビルの前に躍り出て、その目を真っ直ぐ見つめて一言、

 

 

somno(眠れ)

 

 

と呟いた。

途端ネビルは力が抜けたようにぐったりと床に倒れ込みそうになり、シロウに支えられてソファに寝かされた。そしてどこからともなく毛布を取りだし、ネビルに掛けた。その時間、僅か5秒だった。

 

 

「ねぇシロウ。あなたいったい何をしたの?」

 

「眠るように暗示を掛けた。心配ない。朝には目が覚める」

 

 

たぶん、初試合の日のクィレル先生かスネイプ先生のやっていたことと同じようなことをしたんだろう。とにもかくにも、これで寮から出れるようになったからハーマイオニーに杖を戻してもらい、シロウを除いた三人でマントを被って移動した。幸い誰ともすれ違うことはなく、進入禁止の例の部屋に辿り着いた。

扉を開けると、やはりフラッフィーがいた。眠っている状態で。

 

 

「やっぱりだ」

 

 

ロンが言う。

 

 

「スネイプかクィレル先生がもう既に石に向かってるんだ。ほら」

 

 

ロンの指差した先には、勝手に音楽を奏でているハープがあった。ハープが動いている間はフラッフィーが起きることはないので、急いで床の扉を開く。中は暗く、先が見えなかった。…………あれ? 何だか妙に静かな気が……

 

私達は顔を上げると、目の前にはこちらを無言で見つめる6つの目があった。ハープは止まっている。フラッフィーが目を覚ましてこちらを見ていた。

でもおかしい。確かにフラッフィーは顔をこちらに向けている。けど正確には私だけを見ていた。そして顔を三つの頭全てから舐められた。辛うじて後方に見える尻尾は…………パタパタ振っていた。

 

…………え? なにこの状況?

私今度は三頭犬に懐かれちゃった? そう言えば前回この子を見たときも吠えられてはいなかった。……え? 本当に何なのこの状況?

 

 

「今のうちに降りた方が良さそうね」

 

「そうだね」

 

「ならオレが先にいこう」

 

 

そう言ってシロウ、ハーマイオニー、ロン、私の順番で下に降りた。そのとき、フラッフィーは捨てられそうな子犬のような目をしていた。…………私そんなに気に入られちゃったんだね…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

穴に落ちた先は、何かの植物の上だった。ロンは安心したような声をあげたが、オレは嫌な予感が脳裏を掠めた。すると突然、蔓が足に巻き付いた。中々に強い力だ。

 

 

「何だよこれ!?」

 

 

ロンが叫ぶ。オレの予想が正しければ、この類いの植物は強い光を当てるか、動かないかのどちらかが有効だったはず。一番確実なのは燃やすことだが、生憎オレは爆発させることしかできない。宝具や黒鍵を使えば手はあるが、今使うと他の三人を巻き込んでしまう。

 

 

「皆動かないで! これは『悪魔の罠』よ! 動けば余計に締め上げられるわ! 動かなければ解放してくれるわよ!」

 

 

ハーマイオニーが叫ぶ。オレとマリーはハーマイオニーの忠告通りにじっとしていると、蔓の下の固い床に落とされた。ハーマイオニーもすぐあとに落ちてきた。だがロンは完全にパニックに陥り、オレ達の名前を呼びながらジタバタしている。そして余計に強く蔓が体に巻き付いていく。このままだと本当に絞め殺されかねん。

 

 

「ハーマイオニー。こいつに光や爆発、炎の類いは効くか?」

 

「ええ効く。でも薪が無いわ!?」

 

「ならば……」

 

 

オレは黒鍵を投影し、植物に投擲した。できるだけロンから離れた場所に突き刺す。黒鍵に刻まれているのは『火葬式典』。そこから炎が上がり、蔓を燃やす。耐えかねた植物はロンを床に落とし、燃えた箇所を自分で切り離して動かなくなった。

 

 

「ふう、落ち着いたお陰だ」

 

 

ロンがそう言うと、マリーが無表情でロンに近づいた。

…………あ、この雰囲気はヤバイ。オレが凛、イリヤ、桜から説教を受ける前の雰囲気に似ている。オレはハーマイオニーを然り気無く二人から遠ざけた。まだ十一歳の子供には早すぎる。

 

 

「……ねえロン」

 

「なんだいマ……リー?」

 

「ロンが助かったのはハーマイオニーの知識とシロウの機転のおかげだよ?」

 

「うっ」

 

「私達が下に落ちたのを見て心配になってパニックになったのはわかる。でも落ち着いたお陰ってのは違うんじゃないかな?」

 

「…………」

 

「ロンが言うべきことは?」

 

「ハーマイオニー、シロウ。ありがとう」

 

「「どういたしまして(気にするな)」」

 

 

話がつき、オレ達は移動を始める。と、そこに

 

 

「ねぇシロウ」

 

 

マリーが声をかけてきた。ロンは気がついてはいないが、ハーマイオニーもマリーと同じく、何か聞きたそうな顔をしている。まぁ何を聞きたいかわかってはいるが。

 

 

「さっきの燃える剣。あれって何なの?」

 

「すまないが今は話せん。今は胸のうちにとどめておいてくれ」

 

「でも……」

 

「二度は言わない」

 

「……いつか話してくれる?」

 

 

マリーがこちらをじっと見つめる。その目はオレに、今は聞かないけどいつか必ず話してくれと語っていた。……まったく、どうもオレはそう言う目に弱いらしい。精進せねば。

 

 

「然るべきその時に、必ず」

 

 

オレはそう言葉を紡ぎ、二人は承諾した。そして先を行くロンを追った。

突き当たりにはまた扉が一つあった。生き物の気配はない。だがカサカサいう小さな無数の羽音が聞こえる。オレ達は目配せをし、まずオレが中に入った。目の前に広がるのは、羽をつけた様々な種類の鍵。部屋の真ん中にひとりでに静かに浮かぶ一本の箒。部屋の奥にはまた別の扉がある。オレのあとから残りの三人が入り、状況を確認していた。

 

 

「これは…………」

 

「恐らくこの中の一つだけが本物の鍵なのだろう。それを箒に乗って捕まえると」

 

「あら、意外に簡単じゃない。幸いここにはうちの寮のシーカーがいるし」

 

「だね。あとは本物のを見つけるだけだ」

 

「二人とも他人事のように…………あれじゃない? あの片方の羽が折れ曲がったやつ」

 

 

マリーの指差す方向をみると、成る程。確かに一際古びて羽の折れ曲がった鍵がいた。恐らく強引に捕まれたのだろう。さて、

 

 

「マリー、油断はするな。オレの予想が正しければ、君が箒を手に取った瞬間にダミーが君を襲ってくるだろう。ハーマイオニー、ロン。」

 

「「なに(なんだい)?」」

 

「君らは火花でできるだけダミーを打ち落とすんだ。できるか?」

 

「ええ、できるわ」

 

「できるけど、シロウは?」

 

「オレは切り払う。幸いここは天井が程よい高さだし、柱も多い。壁を蹴って移動するには調度いい」

 

「最近シロウのその発言と行動に驚かなくなった自分が怖いよ」

 

「私もよ」

 

 

まぁとにかく、方針は決まった。

マリーは箒へ近寄り、その手に持つ。瞬間、ダミーの鍵が一斉にマリーを襲いにきた。本物は必死に羽ばたいて逃げている。オレ達残りの三人は計画通りに行動を始めた。ロンとハーマイオニーはできるだけマリーに当てないように、火花でダミーを落としていく。オレは壁や柱を蹴って移動し、ダミーや火花の流れ弾を魔力を通したアゾット剣で切り払う。撃ち抜かれ、切り払われた鍵は床に落ちて、為す術なく転がっていた。

ダミーの数が半分程に減ったとき、ついにマリーは本物を捕まえて箒を降りた。急いで開けて鍵を離すと、本物はまた宙を羽ばたきだし、ダミーもこちらを襲わなくなった。

 

 

「これで第二関門突破だね」

 

「恐らく今のは妖精魔法の一つ。となれば、この関門はフィリットウィック教授のだろう」

 

「フラッフィーがハグリッド、『悪魔の罠』が薬草学のスプラウト先生ね」

 

 

そう推測し、オレ達はまた次の部屋へ入った。

そこには二十はある石像が規則正しく並んでいた。石像が立つのは、白と黒のマス模様が書いてある床の上。石像も白と黒の色をしている。もしやこれは……

 

 

「チェスだ」

 

 

ロンが言う。

 

 

「これは魔法使いのチェスだ。それも特大の」

 

 

第三関門。それは部屋一杯に広がる大きな盤で行うチェスゲームだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。

シロウの発言について三人が疑問に思っていない点ですが、三人とも何度かシロウの規格外身体能力にお世話になっているからです。
マリーとロンは言わずもがな、遅刻しそうになったときとか。ハーマイオニーは積雪で魔法でどうにかする前に、とかです。

それから、シロウの暗示。あれはルビを振っていますが、ラテン語です。ドイツ語、イタリア語は余りわからず、比較的英語の次に単語を知っているラテン語を採用しました。


さて、次回は仕掛けられた罠編の続きです。
次は少々オリジナル要素を入れます。


では今回はこのへんで




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