錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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今回はエミヤの記憶編です。
たいへん申し訳ありませんが、結構読みづらいかもです。
段落間に入れている『---』は、場面移り変わりの目印です。



それではごゆるりと






幕間. 追憶 そして……

目の前に広がるのは炎の海。地獄とはこういうものだと言われているような光景が広がる。数多の苦しみの声が響き渡る中を、一人の少年が歩いている。耳を塞ぎ、悔しそうな顔をしながら少年は歩く。雨が降り、炎は消えた。少年も倒れ、天に片腕を力なく伸ばす。そしてその手が落ちるところに、一人の男がその手を握りしめた。男は涙を流していた。まるで救われたのは少年ではなく、自分であるかのような顔をして。

 

 

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少年は荒野に立っていた。回りには草木は生えておらず、唯一あるのは無限につき立つ剣だった。そして少年の見つめる先には、一人の青年がいた。体に何本もの剣を刺して、ただ前を見据えていた。そのとき少年の頭に、自分のであって自分のでない記憶が流れ込んできた。そして少年は目の前にいる青年が、可能性未来の自分であると悟った。少年はそこで意識を閉ざした。

 

 

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病院の一室に少年はいた。回りにも、炙り出された生き残りがいた。そこに一人の男がやって来た。男は自分と施設のどちらを選ぶか少年に聞いた。少年は男についていくことにした。男はそれを承諾し、受け付けに向かう前に一言言った。

 

『僕は衛宮切嗣って言うんだ。僕はね、魔法使いなんだよ』

 

この日から、少年は「衛宮士郎」となった。

 

 

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少し大きく成長した少年、衛宮士郎とその養父である衛宮切嗣は、ある一室にいた。そこには美しくもおどろおどろしいステンドグラスがはめられている部屋だった。その中心にユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンはいた。そこでは時間がいくら経過したかわからないほど、長い間口論していた。

 

『あんたらが《天の杯》を求める理由はなんだ』

『知れたこと。《天の杯》成就は、我らアインツベルンの使命』

『そのためにあんたらは、無関係の人が巻き込まれることを容認するのか』

『アインツベルンの崇高な使命の前に、有象無象などどうでもよい』

『おまえらがそうすることを冬の聖女(ユスティーツァ)は本当に望んでいるのか』

『黙れ! 貴様らのような裏切り者が、我らアインツベルンの使命に口を出すのか!』

『黙るのはあんただ、ユーブスタクハイト! おまえらは天の杯を手に入れて何をなすつもりだ!』

『なに?』

『さっきから聞いていれば使命だのなんだの。使命云々の前にその天の杯が必要な理由があるはずだろう! それがなんだと聞いてるんだ!』

『それは!! ………………それは……』

『今すぐに返答できなかったのが答えだ! あんたらは天の杯を求めるあまり、求めた本当の理由を見失ってるんだよ!』

『…………黙れ……』

『あんたらのその行いが、冬の聖女(ユスティーツァ)の想いを汚してるとわからないのか!』

『黙れ!』

 

 

 

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『我らは……天の杯を…………』

『お前たち、アインツベルンが天の杯を求めていることまでは否定しない。それを使命とすることもね。確かアインツベルンの用意する聖杯にはユスティーツァの記憶も刻まれているのだろう? 娘のイリヤにあっても不思議ではない。正直相当不本意だが、イリヤに刻まれているユスティーツァの記憶を確認しよう』

『…………わかった』

 

 

 

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『…………衛宮切嗣、衛宮士郎よ』

『『なんだ(なに)?』』

『…………すまなかった。そして感謝する。我々に、もう一度思い出させてくれたことを』

『そうか、それでどうするんだ』

『聖杯は解体、浄化する。遠坂、マキリにも協力を仰ぐ。だが、第四次聖杯戦争は中途半端に終結したため、魔力が安定してない。そう遠くない時期に五回目が始まる。そのときにことを成そう』

『わかった。イリヤは』

『あの子のことは気にせんでよい。戦争が終われば体が動かなくなってしまう。が、今人形師にコンタクトを取り、肉体を用意してもらってる。あれを使えば、人並みの命を得て、人と同じように成長できるようになる』

『それを聞いて安心した。彼女を日本に連れて帰っても?』

『構わない。好きにせよ』

『わかった』

『またね、ユーブスタクハイトさん』

『アハト翁で構わない』

『わかった、アハト翁』

 

 

 

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真夏の夜。満月輝く空のした、冬木のとある日本家屋の縁側に、衛宮士郎と衛宮切嗣、そして彼らの元に戻った長女、イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンは腰かけていた。衛宮切嗣はもう長くない。

彼は自分は子供の頃、正義の味方になりたかったと二人に話す。やめた理由を士郎とイリヤは聞いた。正義の味方はエゴイストだと。自分が味方したものしか助けることができないと。そして、自分自身と自分の大切な存在を守ることができる人が他人を救ったとき、初めて正義の味方になるのだと。士郎はしばらく考え込み、言った。

 

『そうか、それならしょうがないな。うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。切嗣のいう正義の味方に』

『士郎、それは……』

『大丈夫、わかってるから。それが茨の道で、報われないかもしれないって。だって俺、自分の未来の一つをもう見たから』

『『士郎(シロウ)……』』

 

養父と義姉が悲しそうな顔をする。この二人は士郎の記憶を見て、その果ての一つを知っていた。

 

『……なら私は士郎が一人にならないようにずっといる。』

『イリヤ……?』

『だってキリツグはずっと一人だったからなれなかったんでしょう? なら私は士郎と死ぬまで一緒にいる。一人で無理なことも、二人なら大丈夫!』

『イリヤ姉、それは』

『じゃあ士郎が見た通りの人生にならないって言える?』

『…………できない』

『そうでしょう? だから任せて、キリツグ。私達二人でキリツグの夢を叶えてあげるから!』

 

そこで衛宮切嗣は心底穏やかな顔をした。

 

『……そうか、わかった。…………ああ、本当に……』

 

 

━━ 安心した……

 

衛宮切嗣はそう呟き、その目を閉じた。

 

『……キリツグ? どうしたの? 寝ちゃったの?』

 

イリヤが呼びかけるが、その目を開けない。衛宮切嗣は、静かにその命の火を消した。

 

『……バカよ、キリツグは。本当に大馬鹿。まだ話したいこと、聞きたいこと、士郎と三人でやりたいこと沢山あるのに………キリツグの…………お父様の馬鹿……』

 

イリヤは父の遺体にすがり付き、嗚咽をもらす。衛宮士郎の顔には、一筋の涙が静かに流れていた。

 

 

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数年が経過し、士郎が高校二年となった冬の日の夜。第四次聖杯戦争から十年を迎えたその年、遂に第五次聖杯戦争が始まった。士郎は甲冑の少女、セイバーのサーヴァントを伴っていた。士郎は初め、セイバーを召喚したときに、聖杯の真実を伝えた。養父が聖杯を破壊した理由をしり、セイバーはやるせない顔になっていた。今回の目的を伝えて協力を仰ぐと、しばらく考慮したのち、これを承諾した。

そして今、目の前には無数の蟲がいた。聖杯の解体、浄化に反対したマキリが独断で動き、遠坂からの養女であり、後輩である間桐桜を聖杯の贄として邪杯にしようとしていた。これには遠坂も黙ってはおらず、現当主で同級生の遠坂凛がどこかで見た白髪肌黒の青年、アーチャーを伴い、士郎とイリヤに協力を申し込んできた。

無論士郎たちはこれを承諾し、蟲とその手を本体である間桐蔵硯の始末を運営である言峰綺礼に仰いだ。言峰綺礼は利害の一致を理由に士郎らと共に間桐を襲撃し、間桐桜の救出と間桐蔵硯の消滅を達成した。この事からマスターが桜だったこともあり、ライダーのサーヴァントが味方に加わった。

 

 

安心したのもつかの間、突如アーチャーが凛との契約を破棄した。全ては衛宮士郎を抹殺するため。アーチャーの正体は、やはり平行世界にて抑止の守護者となった衛宮士郎本人だった。アーチャーは他ならぬ自らの手で衛宮士郎を殺し、守護者の座から自分を消そうとしていた。

十年前の大火災の跡地に出来た公園で、そこから始まったのは二人の剣製による殺しあい、心と心のぶつかりあいだった。

 

『貴様のような人間が誰かのためになど、思い上がりも甚だしい!』

『なんだと!』

『そうさ! 誰かを助けるということが綺麗だから憧れた! だが自らこぼれ落ちたものなど何一つない! これを偽善と言わずして何と言う! そうだろう、衛宮士郎!』

 

アーチャーは士郎だけでなく、アーチャー自身も断罪するかのように声を荒らげる。

 

『はじめから自分のない者が、世のため人のためなどという理由で走り続けた! それが傲慢ということもわからずに! あの炎の中、衛宮切嗣の顔があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけだ! お前の正義の味方になるという理想は、ただの借り物だ!!』

『違う! 俺は俺の意思で正義の味方になると願った! 十年前のあの地獄の日、自分以外の助けを求める声を俺は、俺達は振り払って歩き続けた!』

 

戦いの舞台はいつの間に、無限の剣が乱立する世界へと移っていた。空には歯車が回り、分厚い雲に覆われた黄昏の荒野。守護者エミヤシロウの心象風景を現実に具現化した世界、固有結界の中で彼らは戦っていた。

 

『今でも覚えている。俺は願った! この地獄をどうにかしてほしいと願った! 自分ではどうにもできないあの状況を打開してほしいと、だが結局救われたのは俺達だけだった。』

『そうだ。だからこそ衛宮切嗣は幸せそうな顔をしていた! まるで救われたのはあの男とでもいうようにな! そしてあの月夜の晩に呪いを残した。』

『呪いじゃない。最初は借り物だ。 だがだからこそそれを貫き通せば本物になるんだ!』

『それは詭弁だ!!』

『詭弁じゃない! アーチャー、お前は今までどれだけ救ってきた?』

『何を今さら。数えきれないほどだ』

『その人たちにお前は目を向けたか? お前が殺したものにしか目を向けてなかっんたんじゃないか?』

『…………まれ』

『たとえ殺した中に自分の大切な存在がいても構わず切り捨てた。違うか?』

『…………黙れ』

『なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった』

『黙れ!!』

『俺は切り捨てない、無くさない!! 俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりはしない! たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても! 俺達が抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから!!』

『ッ!! そこまでだ、消えろォ!!』

 

だがアーチャーの最後の攻撃は当たらず、士郎の剣がアーチャーを貫いた。ここに勝敗は決した。

 

『……俺の勝ちだ、アーチャー』

『……お前の勝ちならばなぜ止めをささない』

『俺はまだやるべきことがある。この聖杯戦争を、止める』

『協力しろというか。一度裏切ったオレに』

『お前がアーチャーだからじゃない。お前がエミヤシロウだからこそだ』

『……成る程な、理解した』

 

そして二人のシロウは聖杯戦争を終わらせるため、再び手を取り合った。

一旦衛宮邸に戻ることになったが、天の杯のための衣を用意するために、イリヤは単独行動をとることになる。その日のうちに郊外のアインツベルンの城から衛宮邸に帰ることは時間的にキツいため、その晩は城に泊まると報告する。

 

しかし翌日、郊外のアインツベルンの城にて現れるはずのなかった影が出現、バーサーカーが汚染される。イリヤからの急報を聞き、駆けつけたシロウ一行は、バーサーカーと遭遇。アーチャーの活躍により、バーサーカーの命のストックを半分まで削り、残りのストックをシロウとセイバーによって終わらせる。そのときに、バーサーカーからイリヤを託される。

 

『衛宮士郎といったか』

『ああ』

『主を頼む。この戦、最後まで共にいることができなかった、私の代わりにも』

『ああ、もちろんだ。俺に、俺達に任せてくれ』

『……感謝する。…………安心した……』

 

偶然にも養父と同じ言葉を遺し、バーサーカーは去った。

 

だがここでイレギュラーの八体目のサーヴァントたる英雄王が顕現し、急襲。マスターであった言峰と共にイリヤを拐い、十年前の地獄を再現しようと企て、大聖杯のある柳洞寺の地下空洞へと向かった。

 

追いかけた先、大聖杯のもとでは、言峰綺礼と英雄王ギルガメッシュが待ち構えていた。自然とサーヴァントはギルガメッシュへ、マスターたちは言峰と対峙した。エミヤシロウは固有結界を展開し、機動力に長けたライダーがそのなかで天馬を召喚させ、騎士の王たるセイバーがその聖剣を解放して見事英雄王を葬り去った。士郎も桜、凛、イリヤのバックアップのもと、言峰を破る。

 

しかしアンリ・マユの生誕は止められず、再び災厄が振り撒かれようとしていた。ここで士郎が初めて固有結界を展開し、その中でもう一度セイバーの聖剣を使用させ、漏れ出た呪いを一掃した。そしてユーブスタクハイトとイリヤが中心となり、凛の宝石魔術、桜の虚数魔術も応用させ聖杯を完全に浄化、解体した。

 

残ったサーヴァントたちが座に還るなか、アーチャーに何やら異変が生じ、刹那意識を失う。目をさますと、驚いたことに守護者の任から解放されたと知らされた。そしてエミヤを経由して、士郎、凛、桜、イリヤに守護者でなく、正規の英霊となるか世界から聞かれた。士郎はそれを受諾、凛と桜は英霊となっても士郎を支えるために受諾した。イリヤは信仰の不足から三人を守護者にすることを防ぐために、アインツベルン一同で語り部の使命を負うこと宣言し、英霊となることを拒否した。エミヤは結果として守護者から解放されたことを理由に、士郎と完全な和解をした後、他のサーヴァントと共に座に還った

 

こうして第五次をもって聖杯戦争は終結した。

 

 

 

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時は経ち、数えきれないほどの出会いと別れがあった。魔術師の総本山である時計塔、封印指定の人形師、殺人貴と真祖の吸血姫、黒の姫君に万華鏡の魔法使い。そして弱き人々を救うために、世界を渡り歩く先で出会った人々。

 

愛しき人たちもできた。四人の子にも恵まれた。いつしか士郎は世界から「錬鉄の英雄」と呼ばれるようになった。だが時計塔が士郎の魔術隠蔽のいい加減さと士郎の魔術の異端さを指摘し、遂に封印指定となってしまった。やはりというべきか、万華鏡が黙っているはずもなく、士郎は異なる平行世界に送られることとなった。

指定の日、自分の家族だけでなく、近隣の人びと、故郷の人びとも見送りに来ていた。士郎は一番早くに生まれたイリヤとの子、長男の剣吾に妹たちを守るよう言う。凛がいずれ家族全員で遊びに行くと言った。そして桜、イリヤとも口を揃えて言った。

 

これから行く世界でも幸せになれ、と。

 

俺は愛する人たちに見送られ、世界を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ??? 少女のみたもの

 

 

 

夢を見ていました。

 

見渡す限りの炎。地獄の再現のような光景のなかを一人で歩く少年。彼は悔しそうな顔をしていました。助けを求める人に手を伸ばすことができない悔しさが滲み出ていました。

やがて炎は数えきれない命の灯火と共に消えました。少年は倒れ、天に腕をのばしていました。その手を握る一人の男性。ああ、良かった。そういう思いが顔だけでなく、身体中か溢れていました。

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

今の夢はなんだろう。とても恐ろしい、それでいて最後は救われるような夢だった。そう言えば夢のなかの少年、自分のよく知る幼馴染みとよくにていた。まさか、あの炎の中を歩いていた少年は……シロウではないのか。

 

「……ッ!! うぷ……」

 

あの地獄を思い出す。吐き気が込み上げるけど我慢する。嫌な汗が止まらない。もし自分の推測が正しければ、シロウは何者なのだろうか。それを知ったところで私は態度を変えたりはしないけど。

 

知りたい。シロウがあの地獄の先、男性に救われた先で何を思い、何を感じたのか。

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

ちょっと今回はいつもにも増して読み辛かったと思います。

下書きの段階では、これ以上に酷い状況でした。

回想録って戦闘描写や試合描写にも増して苦手なものです。



さて、次回からようやく本編が進行します。
いや、長かった。たいへんお待たせしました。


今後もこの作品をよろしくお願いいたします


ではこのへんで



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