ふぅ、間に合いました。
いやはや、7月になる前に更新できてよかったです。どうも月一の更新となると何年かかっても終わりそうにないですね。これはちょっと長期休みの間に本腰入れて更新しようかと考えております。
では皆さま、どうぞごゆるりと。
助けられるものなら、苦しむ人々すべてを助けることはできないかと。
――少年が斬り伏せようとしていたものは、自分自身。
信じていくもののために剣を振るった。
――戦いは終わり、引き返す道などもはや存在しない。
――ただ、答えは得た
――後悔はある。やり直しなど何度望んだかわからない。
この結末を未来永劫、エミヤは呪い続けるだろう。
だが、それでも俺は間違えてなどいなかった
ほう、と息を吐く。最後にそう締めくくられたページを捲ると、英語で何やら詩が二つ書かれていた。両方とも文法は滅茶苦茶、それ以外にも文法は合っていても意味が通らない文だ。でも不思議とそれぞれの死の意味が心に、魂に流れ込んできた。
意味を理解して初めて見えてくるものがある。それぞれの詩は、シロウと英霊エミヤが歩んだ道のり。二人の途方のない戦いの歴史と願い、そして果てに得た答えの証。これ程の過酷で救いのない道を歩んだからこそ、悟ったこと、諦められないものがあるのだろう。
「I AM THE BONE OF MY SWORD」
「体は剣でできている」
シロウを表現するために、これほどしっくりくる言葉はないだろう。納得すると同時に哀しさが心を満たす。本人は気にしないというだろうが、人のために戦い続けた果てが、シロウもエミヤも、人による拒絶だった。エミヤは死後も永遠に報われることはなく、シロウも家族はいるけど、実質この世界では孤独の身。本人の気づかないところで、やはりどこか小さくとも傷を生んでいるのか漏れない。
自分がその傷をいやせるとは思っていない、そんな傲慢なことは考えていない。寧ろ私の守護や援助など、彼らには色々と迷惑をかけている。
手元の本に視線を戻す。深紅の革表紙には、いくつかの水滴跡が見て取れた。そこで私はようやく、自分が涙していることに気付いた。これが悲しみからくるものなのかはわからない。それでも私は流れる涙を止めなかった。ハンカチで本の涙をふき取り、そっと机の上に置く。
この本は何れ世界を動かす切っ掛けになるかもしれない。そう感じた私は、本を丁寧に綺麗な白布で包み、トランクの中に入れた。
◆
クリスマス休暇もあと一週間になったある日、私たちはホグワーツに戻った。アーサーさんは無事に退院し、私たちと一緒にクリスマスと新年を過ごした。因みに今年の彼へのプレゼントは、電池で動く簡単なロボットだ。カタツムリの形をしており、線に沿ってまるで生きているかのように動くもの。それを見たときのアーサーさんは、まるで子供に戻ったかのようにはしゃいでいた。
学校に戻った私は、次の日から新学期初日までスネイプ先生の指導の下に、「閉心術」の修行に昼夜明け暮れた。シロウの下で今まで心を閉ざす練習を少しだけしていたけど、やはりスネイプ先生にとっては紙一枚の妨害もないかのように、何度も心をこじ開けられた。
「心を閉ざすことは簡単ではない。だが我輩程度の侵入を防げなければ、闇の帝王に対抗することなど夢のまた夢」
肩で息をつき、椅子に座り込む私に対し、先生は厳しい言葉を投げかける。それに対し、私は何も言葉を発せない。修業は既に三日目に突入し、未だ私は先生の侵入を防ぐことができなかった。一応今では侵入された後に跳ね飛ばすことは確率でできるようになったけど、侵入前に弾くことは出来なかった。
「……少し休んでもいいですか?」
「……そうしたいのは山々だが、一刻を争う。水一杯飲んだら再開だ」
無論時間を使わせてもらっているため、多少休憩の要望は入れつつも、基本的に先生の方針に従って練習していた。コップ一杯の水を飲んだ後、私は再度椅子の前に立ち、杖を構えた。
「準備は出来たか? ならば行くぞ」
「……はい」
「いざ……『
再び先生の杖が振るわれ、私は体内からまさぐられて開かれる感覚に襲われた。でも今までと違い、記憶などが除かれるような気配はなかった。それどころか、いつか彼と出会ったときのように真っ暗な空間の中にいるようだった。
ふと目の前に巨大すぎる扉が現れた。その扉の前に誰かがいる。扉の隙間から漏れる光の逆光で、その人影の顔などは見えない。その人影が扉に手をかけたとき、私は咄嗟に杖を出し、その人影に向けて振るった。呪文なんて唱えず、ただやみくもに杖を振るうと、杖先から真っ赤な閃光が飛び、人影を闇の彼方へと吹き飛ばした。
「……ッ!? ハァ……ハァ……」
「……ポッター、今何をした?」
私は椅子に座り、先生は机に手をついた状態で問いただしてきた。どうやら先ほどのイメージは開心術らしく、扉を開けたら今まで通り術にはまっていたようだ。そのことを推測含めて先生に言うと、最初は疑わしそうに、最後は興味深そうな目をしてこちらを見つめていた。
「……成程。同じことを次にできると思うか?」
「分かりません。でも先ほどのは事前にある程度予測できたからではないかと。」
「そうかではもう一度いこう」
そう言うと、先生は再び杖を構えた。
結果から言うと同じように防ぐことができた。今度は私が先に扉の前に降り、出てきた人影を撃退する形で術を防いだ。しかし間髪入れずに掛けられた二度目の術には対処できず、先生の侵入を許してしまった。ということは、現時点で不意の精神干渉に関して私は無防備であるということだ。
「……先生」
「なにかね?」
「失礼なことを聞きます。今先生を追い出した時に見えた、あの黒髪の少年は……」
そう、二度目の侵入を追い出す際、妙なものが流れ込んできた。黒髪セミロングの少しやせた少年が、数人の男子グループ、特にのその中の眼鏡をかけた少年に色々いじめと称しても可笑しくないことをされていた。それにしてもその少年、誰かに似ているような。
ふと先生に目を戻すと、表情は変わらずとも、目は少しだけ複雑そうな色を見せていた。その表情が映像の黒髪少年と重なり、眼鏡の少年がとある写真のとある人物に重なった。ああなんだ。
「……そう言うことですか」
「何の話だね?」
「いえ……先生、私に言われても意味はないでしょう。でも一言だけ。父が申し訳ありませんでした」
見覚えのある少年、それは若き日の父の姿だ。それと隣で一緒に笑っていたワイルドな少年、あれはシリウスさんだろう。ということはあの集団の中にルーピンさんとペティグリューがいるのだろう。
そしてそんな過去があるのなら、私が多少なりとも忌避されていたり、シリウスさんと犬猿の仲なのも頷ける。ルーピンさんは同僚として接していたから、大して問題はなかったのだろう。
今日はこれ以上練習を続ける空気にならず、明日まで自分で練習することになった。幸いハーマイオニーがなんでかは知らないけど「開心術」を会得していたため、先生ほどではないが練習することは出来た。それでも私の中には、父の情けない、恥ずかしさで顔を覆いたくなる所業が頭に浮かんでは消えていき、余り集中できなかった。
はい、ここまでです。
前書きにも書きましたが、いやはや間に合ってよかった。本当に時間が取っれないもので、順調に更新できるのは長期休みぐらいかもしれないです。
次回からですが、そろそろ例の展開に持っていこうと思います。其々の賞を二十話前後でまとめているので、クライマックスに入る前のあのいくつかの事件を取り上げないとですね。さてさて、双子の悪戯、どうしましょうか。
それでは皆様、またいずれかの小説でお会いしましょう。