錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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大変お待たせしました。いやはや、五月獣に間に合ってよかったです。
今回は原作を知っている人ならわかる、あのキャラクターが帰ってきますね。

それではみなさま、ごゆるりと。




11. 聖マンゴ魔法疾患傷害病院

 

 

 

 

 明くる日、私たちはシロウとモリーさんについていって魔法使いの病院に赴いた。名前は「聖マンゴ魔法疾患傷害病院」というらしく、本当に呪いや魔法毒薬、その他ありとあらゆる魔法疾患を治療するための大病院みたいだ。

 

 

「本当に、いろんな症状の人がいるね」

 

「ジロジロ見るのはいけないとわかってはいるけど」

 

「……気持ちはわかるが早くいくぞ。彼の病室はもう少し先だ」

 

 

 シロウの言葉で私たちは視線を目に戻し、目的の病室へと向かった。アーサーさんの病室は比較的受付ロビーから近いところにあり、そのあたりの病室には比較的症状の軽い患者たちが集められて入院していた。

 アーサーさんの病室に入ると、顔に少々傷を残し、肌が見える場所には包帯をのぞかせながら、ベッドに座っているアーサーさんがいた。どうやら見た目に比べて元気そうであり、少しだけ安心した。

 

 

「あなた、調子はどう?」

 

「ああ、順調さ!! これも経緯がどうであれ、マリーが早く知らせてくれたのと、シロウが解毒薬を提供してくれたおかげさ」

 

「先生はなんて言ってた?」

 

「検査として明日まで入院、明後日の朝には退院できるみたいだ」

 

 

 それを聞いて安心した。それに、アーサーさんの言葉を聞く限り、私の意識が蛇の中にいたことも知っているらしい。恐らくシロウかモリーさんから聞いたのだろう。

 と、ふとアーサーさんに視線を移すと、私は手招きされていた。それに従ってベッド側に行くと、アーサーさんは口を開いた。

 

 

「君の話は聞いているよ。でもその顔を見る限り、状況の重大さは理解しているようだね」

 

「ええ、今回のことであの人がこの力を利用するでしょう」

 

「そうだね。だからこそ心得ていてほしい、仮令焦るようなものを見たとしても、一度冷静になって考えることを」

 

「はい、必ず」

 

 

 私たちの会話を聞いていたみんなは、特に兄妹たちは驚いた顔をしていた。でもすぐに納得のいく反応を示した。それはそうだろう。学生で実力も未熟な私でさえ気付くものなのだ。年を経て少し柔軟な思考ができなかったとしても、あの人には相応の知識と技量がある。気づかないほうがおかしい。

 その後、今後の私たちの予定などを話し合った後、私たちは病室を後にした。退室するころには、みんなの顔も幾分か色がよくなっていた。私自身も、経緯はアレだったけど、少しだけ気持ちが楽になった。

 出口に向かってボーっと歩いていると、突如私の右で扉が開いた。まぁ他の患者だろうと気にせずにいると、何やら聞き覚えのある声が私たちの耳に入ってきた。

 

 

「じゃあ今度は二か月後にくればいいかな?」

 

「はい、ですがその義肢も消耗品です。雑に扱えばそれだけ交換や整備が必要なのですよ?」

 

「分かってますよ。さて、私はまた出かけますかね。新しい原稿はもう出しているし、また世界中を見て回ろうかな」

 

「その行動が義肢の消耗を早めるんですよ、ロックハートさん!!」

 

 

 え? ロックハートさん? 

 

 

「「「ロックハート先生!?」」」

 

「おや? これはこれは、何と懐かしい面々だ!! みんな元気にしてたかい?」

 

 

 目の前には三年前最後に顔を合わせたときよりも、幾分か憑き物が落ちたロックハート先生がいた。その服装は、まるで右半身を庇うように長いマントを羽織っていた。恐らく先ほどの会話から、その右腕と右足は新たに作った義肢なのだろう。でも彼の顔はそんな憂いを見せないどころか、以前よりも更に爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

「あはは、私はもう先生ではないよ。以前ほど魔法は使えないし、今は古今東西の伝承をまとめ上げているだけさ」

 

「じゃあ以前までの本は?」

 

「あれは出版社に頼んで廃版にしてもらったよ。あの頃に比べて収入は雀の涙だけど、それでも前より楽しいよ」

 

 

 右手足の欠損なんて気にしないとでもいうように、いまの自分の状況を楽しそうに話す。その様子を見る限り、確かに今の生活は充実しているのだろう。そう考えていると、彼は(おもむろ)に一冊の本を取り出した。

 

 

「これは来年出される新書だ。君たちなら興味が惹かれるだろうと思うから、一冊贈呈しよう」

 

 

 その本はまだ暗い紅に染めた革を表紙にしているだけであり、題名も書かれていなかった。いったい何の話が描かれているのだろう? 結構な厚さがある。

 

 

「帰ってから読んでみるといい。そうそう、私の編集した本はマグル世界でも発売されるんだ。是非知り合いにも勧めてくれ」

 

 

 そういったロックハート先生は若干右足を引きずりながら、私たちの前から去っていった。しばらくその方向を見ていたけど、私たちも帰ることにした。

 帰る前にネビルと噂の御婆さまに会ったけど、会話も程々に私たちは帰った。その時知ったけど、ネビルの両親はあの暗黒の時期に、死喰い人によって廃人にされたらしい。治る可能性は低く、そしてそうさせた犯人は今年度初めに脱獄して今も逃亡中らしい。そしてそれほどの事態なのに、かたくなに行動しようとしない魔法省には失望しているとか。ただシロウによると、大臣は動こうとしているけど、その側近が頑固な人たちだらけで思うようにいかないとか。

 

 シリウスさんの家に戻り、私は早速貰った本を手に取った。本当に革張りなだけで、まだ背にも表紙にも題名が書かれていない。妙な本だと思いながらも、まずは表紙をめくった。そして一つの文が目に入った。

 

 

『この本を人の幸せのために戦い抜いたある戦士に捧げる。』

 

 

 人の幸せのため。過去の英雄たちで、人の幸せを願った人はたくさんいるだろう。いったいどの英雄について書いた本なのだろうか。そう考えながら更にページをめくる。すると大きな文字で、今まで読んだ本のように流麗な線ではなく、まるで堅い意志を示すかのような太字のブロック体で題名が表記されていた。

 

 

Fate/Stay night ~Unlimited Blade Works~

『監修:ギルデロイ・ロックハート&ある鍛冶師』

 

 

 ああわかった、何故あの人があんなことを言ったのか。興味が引かれないわけがない。監修の鍛冶師も、十中八九シロウのことだろう。シロウが語ったこれまでの人生、若しくはあの別のシロウの生前と死後を語ったのかもしれない。

 私は高まる鼓動を抑えることをせず、震える手でページを捲った。

 

 

『貴方は信じますか? 一人の男が人知れず平和のために戦っていることを。

 貴方は信じますか? 三人の女が男が傷付くことを涙していることを。

 貴方は信じますか? 一人の男が絶望して自らを消したいほど憎んだことを。

 

 これはそんな人々の話。彼らはその道で何を失い、何を得たのか。』

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。
さて次回はいかがいたしましょうか。あの本の内容を書いていくか、それとも内容を省いて本編を進めていくか。
まぁその判断は次話を書く私にゆだねましょう。
あ、こっちを書いてほしいなどの要望がございましたら、メッセージボックスに送ってください。

さあ梅雨時に差し掛かり、日々の気温も暑くなる時期です。皆さん脱水などには注意してくださいね。ニンニク料理でスタミナをつけることもお勧めです。

それでは皆様ごきげんよう、またいずれかの小説でお会いしましょう。


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