それではごゆるりと。
Side マリー
お昼からは飛行訓練の授業が外であるみたい。またスリザリンとの合同授業らしい。どうせならとみんなで向かうことになったけど。
先程からハーマイオニーがシロウに突っかかってる。何でもシロウの変身術の結果と先生の対応が納得いかないらしい。シロウはどう対処すればいいか考えてるみたい。
「理解した。つまり君はオレの扱いがおかしいと、そういうのだな?」
「ええ、そうよ! 普通先生の言う通りにできなかったら減点ないし注意されるはずでしょう? 最初から何も変わらないのならともかく、先生が言ったことと違うことやったのならなおさら!」
今の言い方はない。自分ができたのはいいけど、だからといってできなかった人を糾弾するのは間違いだ。
「……はぁ」
「なに?」
「いや、何もそこまで完璧に拘らなくてもよかろう。オレたちはまだ魔法に関わって間もない。いかに優秀な教師から教えを受けようと、それを即座に理解実践できる人間はそう多くないのだ」
「ッ!! なにを……」
「まだ齢11なんだぞ、オレたちは。四半世紀も生きていない若造だ。不完全であること、行動に矛盾が生じるのは致し方のないこと。聡明な君ならわかるだろう」
「それは……」
優しく諭すように言葉を繋げる。
「不完全で何がいけないのだ。矛盾だらけで何がいけないのだ。その数だけ夢が、可能性が存在する。今から肩肘を張っても疲れるだけ。いずれ潰れてしまうぞ?」
「……ッ!! あなたに私の何がわかるというの!?」
ハーマイオニーは反論しようとしてたけど、結局何も言わずに足早に外に向かって行った。シロウはその後ろ姿を悲しそうに見つめてる。でも、
「大丈夫だよ。たぶんハーマイオニーも頭ではわかってる。昔何があったか知らないけど」
そう、私はそう思う。するとシロウは自嘲するような笑みを浮かべて、
「……ままならんものだな」
と呟いた。悲しい。シロウにそんな悲しい顔を浮かべてほしくない。そう思った時には自然と口が動いていた。
「一人で何でもかんでも背負い込む必要はないんだよ、シロウ。シロウも言ってたでしょう? 他人を頼ることは悪いことではないって。頼り過ぎるのはダメなんだって。ここにはロンも、先生たちも、私もいる。シロウは一人じゃないんだから」
シロウは目を見開いていたけど、次の瞬間には優しい目をして私の頭に手を乗っけた。
「全く、自分が言ったことを忘れるとはな。ありがとう、マリー」
そう言って今度は私の頭を撫で始めた。少しでもシロウの気持ちが軽くなったのなら嬉しいな。
あっシロウの撫で撫で、結構気持ちいい。
Side シロウ
全く、どうしてオレの回りにはこのような強い女性が多いのだろうな。一度アーチャーと話し合いしたいものだ。
まぁいい。取り敢えず今は授業に向かうか。
元の世界ではとある宝具を使わねば空を飛べなかった。しかもそれらは剣の類いではなかったから魔力消費が激しく、あまり多用できなかった。だから今回の飛行訓練はなかなかに興味引かれる。
指定された場所に行くと、鷹のような目をした教師、マダム・フーチが箒を並べて待っていた。先生は我々に箒の横に立ち、上がれと念じるよう指示した。ふむ、やってみよう。
……………………あれ? うんともすんとも言わない。
ちょっと待ておかしい。
同じ一年のなかではあまりできない方と言われている、オレは単純に度胸がつけば大丈夫と思うが、ネビルでさえ箒は反応をしている。だがオレのはまるで屍のように反応がない。少し調べてみるか。
そう思い、箒に触れようとしたら、火花を散らして拒絶された。箒に火花を散らして拒絶された。大事なことだから二度言った。
……なんでさ。いやいやおかしいだろう。もう一度触れようとしたら、火花を散らして拒絶された。そして気付けば作業が終わってないのはオレだけだった。仕方がないか。
「ミスター・エミヤ。何をしているのですか?」
「いや、どうやら箒に拒絶されているみたいで」
「箒が拒絶? まさか」
そう言ってフーチ先生の前で実際に見せ、他の箒に取り替えたが案の定同じことが起こった。なんでさ。
「仕方がありません。ミスター・エミヤは見学という形でよろしいですね?」
「ええ、わかりました」
少々、いやかなり残念だ。
やはり箒で空を飛ぶということには少なからず憧れがあった。誰も子供の頃には夢見るものだろう?少なくとも盾やサンダルに比べたら確実に。
さて、マダム・フーチの笛の合図で地を蹴るよう指示されたが、置いていかれたくなかっのだろう。ネビルが焦ってフライングしてしまった。
そのまま空高くへ……ってまずい!!
あいつ箒を御しきれていない。あのままでは振り落とされかねん。と思った矢先に振り落とされた!仕方がない。
オレは懐に入れていた変身術の失敗であるナイフを握ると、ネビルの服目掛けて投擲した。
ナイフが服のみを貫通し、スピードが落ちたところを魔術で強化した跳躍でネビルのそばまでいき、抱き抱えたのちに地面に着地した。ネビルを確認したが、どうやら気絶してしまったようだ。
「フーチ先生。ネビルを医務室に連れて行きたいのですが」
「私もついていきましょう。皆さんはそのままで。ちょっとでも空を飛んだらホグワーツから出ていってもらいます」
そう言ってオレとともに医務室へ向かった。
ところ変わって医務室
「幸い気絶しているだけで外傷の類いはありません。一体どうやって助かったのですか?」
医務室担当のマダム・ポンフリーが聞いてきたので、魔術のことはぼかしつつ正直に答えた。
いやフーチ先生がそばで睨み付けていたからではないぞ?
事情聴取を受けたのちに大広間へ向かっていると、マリーとマグゴナガル、そして一人の先輩を見つけた。何やら話しているが、マリーの顔が優れない。
「一体何をやっているのですか?」
そう言いつつ近づくと、マリーがすごい速さでオレの後ろに回り込んだ。そして、
「先生たちがさっきから私の体をなめ回すように見てくる。はっきり言って怖い」
と言った。……………………は?
「誤解です、ミスター・エミヤ、ミス・ポッター!私達はただ……」
「君がもしかしたらグリフィンドールのクィディッチチームのとんでもない逸材になるかもしれないと思っただけで決して邪な気は……」
「クィディッチってなんですか?まさか変なグループなんじゃ」
「「違う(違います)!!」」
どうでもいいが、オレを挟んで言い合いしないでくれ。
Side マリー
ネビルの思い出し玉騒動の顛末をロンとシロウに話すと、ロンはとても驚いていた。
何でもクィディッチは魔法界で屈指の人気を誇るスポーツらしい。一年で学校のチームにスカウトされるってのは余程のことらしい。
途中ハーマイオニーが悪いことをして褒美をもらった気でいるのかと説教をしてきたけど、正直よくわからない。
規則ばかり重んじていたらどうしても貫きたいこともできなくなるし、何より息苦しい。
そうこう言い合っているとマルフォイに絡まれた。
「この学校での最後の食事かい、ポッター?」
「……む。違うよマルフォイ。あのあと罰則受けると思ったら違ったし」
「そうだぞマルフォイ。マリーはあのあとグリフィンドールのクィディッチチームにスカウトされたんだぞ。やーい!」
ロンがマルフォイに、私がクィディッチの選手になったと言うと、決闘を申し込まれた。
私は乗り気じゃなかったけど、ロンを放っておいたら暴走しそうだったので着いていくことにした。
時間と場所は真夜中のトロフィールームだけど……たぶんマルフォイは来ないだろうな。まぁ一応行ってみよう。
Side シロウ
時刻は真夜中。案の定ロンとマリー、そしてそれを止めようとしたハーマイオニーが寮を抜け出した。
ある程度予想はできる。奴は来ないだろうな。そういう人間だ。自らの指定した場所に来るだけ、まだ間桐兄のほうがマシだろうな。
…………しかしいやに帰ってくるのが遅い。
あれから一時間は経過したが、全く帰ってくる気配がしない。まさか事故にでもあっ……む? 帰ってきたか。どうやらネビルがいっしょらしい。
ハーマイオニーがマリーたちに付き合っているとこちらの身が持たないといっていたが。身勝手だな。どれ、少し話をするか。
ハーマイオニーに背を向ける形で椅子に座った。
「全くもう! あの人たちは本当に」
「ようやく帰ってきたか。ずいぶんと遅かったな」
「誰!? ってシロウ?あなた何してるの?」
「いや、同輩が夜に部屋を抜け出したのだ。気になってここで待っていたのだよ」
「そう、ならあなたからもあの人たちに言ってくれないかしら? あの人たちのやることなすこと……」
「すまんがそれはできない」
「ッ!! どうして!」
「一緒に抜け出している時点で君も同罪だ。あの二人を悪く言う権利はないとオレは思うぞ」
そう言いつつ、ハーマイオニーに近づく。
「正義感が強いのは構わない。けどそれだと息がつまらんのか?」
「あなたには関係ないわ」
「ああ、関係ないな。だが見ていて心配なのだ」
オレは言葉を続ける。ハーマイオニーは顔を俯かせている。
「少々見ていて危なっかしい。それにお前自身が回りに対して壁を作っているようにも見えなくはない」
「……あなた本当になんなの? そうやっていつも上から物を言って、まるで私達を子供のように。現に私達は子供だけど、あなたも同じ年のはずでしよう? あなた本当に何がしたいの!?」
「…………」
「何も知らないくせに知ったような口をきかないで! 今朝もいったけど、あなたに私の何がわかるというの!」
ハーマイオニーが憤ってオレに言った。そしてその言葉を聞いてようやく気付いた。
オレは相手がどんな思いを持っているかを考えず、他人に自分の思いを押し付けていたのだな。
「…………すまなかった。どうやらオレも周りが見えてなかったらしい。君に不快な思いをさせてしまったようだ。すまない」
「……あなたがそうやって他人と関わろうとするのはなんで? それもこの間魔法薬の授業のときに言った、世界中を回った経験?」
「いや、オレ自身のエゴだ。みんなに笑っていて欲しいというな」
「……そう」
「馬鹿げたものだろう? 自分でも甘いと思ってる。だがずっとそうしてたのでな。おいそれとすぐには変えられんのだ」
「……あなたが何を思って私たちに関わろうとするかは大体わかったわ。だから少しだけ、あなたの言うように周りを見てみる」
「わかった」
そして二人ともそれぞれの寝室に向かう。っとその前にだ。
「すまないハーマイオニー。最後に一ついいだろうか?」
「なに?」
「あの子と、マリーと仲良くしてやってはくれないか? ここに来る前に在籍していた学校では、少し事情があってあまり仲のいい友人がいなかった。あの子も無意識に気の許せる人を求めている」
ハーマイオニーは何も言わない。だが真剣に考えている顔をしていた。そしてしばらくして、
「……ええ、いいわ。私もあの子と仲良くしたいと思っていたし」
と言ってくれた。そして更にこうも言った。
「それはあなたもよ? 今改めてシロウと話していて思ったけど、あなた結構世話好きな人でしょう? 本人が見ていないところで、色々とやるようなタイプの。周りの世話ばかりして自分のことを疎かにしちゃダメよ?」
「…………ククク、そうだな。ああ、肝にめいじよう」
「よろしい! じゃあおやすみなさい。また明日」
「ああ、おやすみ」
全く、ハーマイオニーはどことなく凛や娘の華憐に似ている節があるな。本当に、いい意味で強い女性がオレの周りに多い。願わくば、互いにこのままいい関係でいたいものだ。
さて、マリーの説教は後日にしょう。次はロニー坊やの番だ。たぁっっっっっぷりと説教してくれる!
フフフフフフフハハハハハハハハハハハハハ! (黒笑)
さぁ、ロナルド・ウィーズリーよ! 今回の真夜中寮の抜け出しの元凶よ! 説教を受ける覚悟は十分か! 嘘・即・捻切る、だ!
はい、というわけで飛行訓練と真夜中の決闘編でした。
シロウ視点だったので、細かいシーンが結構省かれています。
正直真夜中の決闘と飛行訓練はあまり面白い印象がなかったんですよね。
ですのでどうやったら皆さんが退屈しないかといろいろ思考しまして、ネタを少々盛り込んだりしました。
ハーマイオニーについてですが、最初のあの突っ張り具合は過去に何かあったからではと思うんですよね。
原作の親は見る限り過度な干渉などはしていないもようですが、おそらく昔のクラスメイトたちが原因でないかと。
あとだいたいの人は察していると思いますが、シロウのヒロインはマリーさんです。ただ、砂糖大量生産機にするつもりはないのでご安心?を。
さてさて次回は遂にハロウィーン編です!
おそらく長くなるので二部編成になると思います。
それではこのへんで