ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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剣姫の姉と白兎の弟

 ―――白く、とても白い。純粋で透明な色。

 

 男性にしては線が細く、繊細そうなその姿は髪が白いこともあり白兎のようだなと思った。

 

 それが、私―――アイズ・ヴァレンシュタインがベル・クラネルを初めて見たときの印象であった。

 

 本来の私なら他人にそれ以上の興味を抱くはずがなかった。

 理由はただ単に他人に関心がないから…ではなく、今の私には他人を心配する余裕がないからだ。

 

 今の私が為すべきことはただ一つ。

 

 ダンジョンで己を鍛え、

 さらなる高みへと至り、

 悲願を果たす―――。

 

 強くなることにしか考えていない私であるが、なぜだろう…その少年――ベルのことが無性に気になっていた。

 

 初めての挨拶のときに『ベルの姉になる』と言ってしまった私だが、改めてあのときのことを思い出すと顔が赤くなってくる。

 

 ベルに対して積極的に行動したのに明確な理由があった訳ではない…と思う。

 

 ただあの瞳―――どこまでも真っ直ぐで純粋な深紅の瞳を見た瞬間に私は確信したのだ。

 

 この白兎の隣にいれば新たな景色が開かれ、さらなる高みへ辿り着けるはずだと―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~、アイズはまた一人でダンジョンに潜ってたんかい。あれほど無茶はするなと言ったのにな…」

 

「…ごめん、ロキ」

 

「心配かけたと思っているなら、ソロでのダンジョン探索もほどほどにしてな、ホンマに」

 

「…うん、わかってる。ところでロキ、この子は一体…?」

 

「おおそうやった、そうやった!アイズはベルのこと知らなくて当然やな。なんと今日から【ロキ・ファミリア】に入団することになった期待のルーキーや!それではベル、アイズに一言どうぞ~」

 

「え!?えっと…ベル・クラネル、十四歳です。戦いも知らない未熟者なので【ファミリア】の皆さんには迷惑をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします!!」

 

 ベルに挨拶されたため、自分も返さなくてはと思ったアイズであったが、残念なことにアイズのコミュニケーション力は途方もなく低かった。

 

 こういう場面に慣れていないアイズは心の中で慌て、とりあえず名前と年齢だけを言うことにした。

 

「…アイズ・ヴァレンシュタイン、十六歳。よろしくお願いします」

 

「何やそのつまらん挨拶は!二人ともダメダメやないか!いいか、ベルもアイズももう家族なんやで。家族同士でそんな固い挨拶なんて普通しないやろ。もう一度やり直しや」

 

「えっ!?で、でもどんな感じで挨拶すればいいのでしょうか…?」

 

 困り顔のベルとアイズを見て、ロキは真面目に答え―――

 

(いや、ここはベルとアイズの距離感を縮めるためにも軽いジョークでも言っとくか!)

 

 ―――る訳がなかった。

 

 困った程に悪戯好きな神である。

 先程それで罪悪感を抱いたことなどもう記憶にないのだろうか。

 

「う~ん、そうやな…今回だけはうちがお手本を見せるわ。出血大サービスやで、二人とも!」

 

「初めはベルの挨拶からやな」と言って、ベルの声色を真似てロキは叫んだ。

 

「僕の名前はベル・クラネル!今日から貴女の弟になりましたっ!よろしくねっ、アイズお姉ちゃん!」

「―――!?!?」

 

 ベルは顔を盛大にひきつらせ、言葉にならない奇声を上げてしまった。

 

「次はアイズの挨拶やな」と言って、同じようにアイズの声色を真似て叫んだ。

 

「私はアイズ!今日から君のお姉ちゃんとなりましたっ!何か困ったことがあったらいつでもお姉ちゃんに相談してねっ!」

「……………」

 

 ‘シ―――ン’

 

(あ、あかん…。これは完全に滑ったわ。調子に乗り過ぎたわ)

 

 無反応のアイズを見て、盛大にやらかしてしまったと焦るロキ。

 

 しかし実際にはロキにとって予想外なことが起きていたのだ。

 

 何とアイズ自身は、『姉』という言葉の響きに悪い気分を感じていなかったのである。

 

 というのも、【ロキ・ファミリア】は、アイズよりも年上ばかりでありいつもみんなから妹扱い(リヴェリアには娘扱いだったが)であり、少々不満に感じていたのだ。

 

 そしてロキの言葉を聞いたとき、アイズは自然と願っていた。

 

(こんな私でも、弟がほしい…。もしこの子が――兎みたいに可憐で繊細で、何故か見ているだけで癒されるようなこの子が弟なら、私は…)

 

「な、なぁ~んて、今のは軽い神様ジョークで…」

 

「わかった、ロキ。今日から私はこの子の姉になる」

 

「した~…って!?い、今何て言ったんやアイズ!?」

 

「…?この子の姉になるって言ったけど」

 

「「………」」

 

「「えええええええええええぇぇぇぇぇ――――!?!?!?」」

 

 ロキとベルは共にアイズの発言に驚愕し、思わず大きな声で叫んでしまうのであった。

 

 そんな二人のことを不思議そうに首をかしげて見つめる、ちょっぴり…いやかなり天然なアイズであった。

 

 

 

***

 

 

 

―――その後。

 

「そ、それじゃあ、今日からベルが弟でアイズがお姉ちゃんや!お互い初めは姉弟という関係に慣れへんとは思うが、ベルは弟としてアイズのことを頼り、アイズは姉としてベルのことを優しく支えてあげてな~」

 

 アイズの『ベルのお姉ちゃんになる』発言で一悶着あったが、そこは主神であるロキが何とか場をまとめるのであった。

 

「よ、よろしくお願いします、ヴァレンシュタインさん」

 

「…アイズでいいよ、ベル」

 

「い、いいんですか…?」

 

「もちろん…姉弟なら名前で呼んで当然だから」

 

「わかりました…ア、ア、アイズさん!」

 

「うん…これからよろしくね、ベル」

 

アイズは弟ができた事実が無性に嬉しく、思わず顔を綻ばせていた。

 

そしてそんなアイズの微笑みを見て、ベルは真っ赤になってしまったのは言わずもがなである。

 

 

 

こうして戦闘一筋であったアイズに、初めて弟ができたのであった。

 

 


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