ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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勇者vs魔王

デルムリン島――怪物島の異名をもつ南方に浮かぶ大きな離島である。

前大戦時に魔王が死んだことでその意志から解放され、

ハドラー軍の幹部・鬼面道士ブラスが平和を望むモンスター達を率いて隠れ住んでいた。

人間の赤子を拾い、心優しいモンスター達と平穏に暮らしていたが、

魔王の復活…大魔王の出現に伴い

邪悪の意志がモンスター達を蝕み苦しめていた………のも3日前までのこと。

今では家庭教師アバンが張った大結界・破邪呪文マホカトールによって平和を取り戻していた。

ダイ少年の前に現れたアバンは勇者の家庭教師として彼に特別(スペシャル)ハードコースをオススメし、

ハンコまでもらってバッチリ契約したのでそれはもうぶりばりと特訓を始めた。

修行開始から3日目にしてアバンの

火竜変化呪文(ドラゴラム)から繰り出される激しい炎を切り裂いたダイは、

これで海波斬を習得し、大地斬と合わせ既にアバン流刀殺法を2つまで修めたことになる。

ブラス、ゴメちゃん、ポップ、そしてくたくたのダイを前にして

鼻っ柱から血を垂らしつつ、

 

「ダイ君はすでに海波斬のコツをつかんでいます!

 この調子なら”特別ハードコース”の達成も夢ではぬわぁいっ!!」

 

と力説していた。

その表紙にツツっとケガから垂れてくる血が鼻血のようになり

少々カッコ悪いことになってアバンは、

 

「あっ………ポップ……バンソーコー持ってませんか?」

 

のんきに治療の要請を弟子にしたものだから思わず皆も破顔して、

 

「…しまんねえなあ……先生…」

 

ポップもお茶目で敬愛できる師をからかうようにわざと小馬鹿にするような発言。

長年のバカ愛弟子に言われてアバンも、

 

「う~~~ん、まったくカッコ悪いですね………なっはっはっは」

 

カンラカンラと大笑いであった。

和やかな空気になっていた洞窟内。

アバンの表情が一瞬強張る。 そして………。

ほんの微かに空気が震え、地が揺れる。

少しずつ大きくなるそれらに、流石にダイ達も気づきだし、

ゴゴゴゴゴゴと揺れる大きな地震レベルまでに振動が膨れ上がった。

 

「じ、地震だあッ!!」

 

「なんじゃっ!? 火山の爆発かっ!?」

 

ダイとブラスが慌てるが、アバンが即座に否定する。

この振動の性質は己が張った結界を無理矢理に突破しようとしているもの。

並のモンスターでは一歩たりとも入れぬと自負しているアバンには、

この邪悪な波動と相まって確信めいた予想が脳裏をよぎる。

振動と邪気がより強まると、ブラスが頭を抱えて苦しみだし、

ダイもまた強大な悪のエネルギーを感じ取っているようだった。

 

「どうやら不安が的中してしまったようです……!」

 

アバンが身構えた途端、洞窟の天井部が吹き飛び陽の光が注ぐ。

そこには……、

 

「クックックッ………貴様の魔法陣にはなかなか骨を折らされたぞ……」

 

アバンとブラスにとって忘れようもない一人の魔族が宙に浮かんでいた。

 

「やはり復活していたか……魔王ッ、魔王ハドラー…!!!」

 

つい数分前までのおちゃらけた雰囲気とはうってかわって、

アバンが伊達眼鏡の奥から眼光鋭くかつての魔王を睨みつけている。

宿敵の視線を受け止めつつハドラーが、

 

「久しいな……勇者アバン……!!」

 

獰猛に笑いつつ言葉を投げかけ続け、

 

「かつて貴様は、このオレの野望をことごとく打ち砕き…あまつさえ我が生命さえも奪った!

 あの痛みと屈辱は決して忘れん……!!」

 

鬼のような形相でアバンを見つめ、宿敵のかつての”不敬”を咎める。

だがアバンはその傲慢さをせせら笑うように、

 

「おまえはその数百倍にも及ぶ人間の命を奪ったではないか…!」

 

言い放つ。 と、ハドラーもまた即座に持論を述べた。

 

「フン! 笑わせるな……人間など我々魔族に比べれば家畜のような存在にすぎん!

 たとえ数万数億集まったところでオレの生命(いのち)とは釣り合わんわ!」

 

「……変わらんな。 いや、以前にもまして愚劣極まりない性格になった……!」

 

こういった言い合いでは昔から切れ者のアバンがハドラーを圧倒する。

ハドラーは「なんだとぉ~!」と顔をしかめ怒りを示すが、

はっきり言うと2人の舌戦は

獅子同士の甘噛のし合いとでも言おうか、慣れ合いの感も含んでいる。

が、それも一段落すればいよいよ力と力の背比べ。

双方の気力と魔力は急上昇し、アバンはダイ達を洞窟外へ出るように指示し、

ダイが一緒に戦うと言い張るもそれをポップが制し、

彼はブラスを抱えダイの手を引くと迅速に脱出した。

(先生の凄さは戦争でも見てきた! 大丈夫だ……魔王なんざに負けねぇ!)

ダイよりも長く、より身近に接してきたポップは

かつてのアバンが勇者であることも知っている。

只々、師の勝利を信じるのみであった。

 

”外野”が外に避難して一呼吸後、洞窟内で立て続けに爆発が起こる。

熱風と爆音が入り口から溢れでて、

かつての魔王と勇者の激闘を容易に想像させた。

剣と拳、魔力と魔力が真正面からぶつかり合い、周囲の空間を激しく破壊する。

しかし、その拮抗にハドラーは狼狽えた。

 

「はぁー、はぁー、バ、バカな! パワーアップしたオレと互角だというのか!」

 

肩で息をする程に消耗して尚、アバンに致命傷を与えられない。

それどころか己の呪文全てを完全に海波斬で切り払われて、アバンはほぼノーダメージ。

 

「残念だったなハドラー。

 私としては不本意だったが、衰える暇もなかったものでね」

 

「く……!」

 

ハドラーは完全にアバンを見誤っていた。

短命な人間種ゆえ、月日が勇者を衰えさせていると予想していたが、

以前と変わらぬ………いや、下手をすれば昔よりも強い。

(く、くそぉ……! アバンめ………、

 まさかここまでレベルアップしていたとは完全に予想外だ!)

度重なる戦争をくぐり抜けたアバン。

寧ろかつてハドラーと相対した時は若すぎたと言えよう。

アバンの全盛期は”今”なのであった。

油の乗り切った肉体、充分な経験。

現在のアバン………その年齢は31……レベルは46。

間違いなく地上最強の人間であった。

ギリリッ、と歯噛みしたハドラーが、

 

「こうなったら………オレの最強の呪文で一気にケリをつけてくれるわ!」

 

叫びながら両の手を広げ構え魔力を蓄え、

 

「むううううんッ!! くらえィ! 極大爆烈呪文(イオナズン)ーーーーーッ!!!」

 

渾身の力で撃ちだした。

だが、ハドラーが両手を広げたその時に、

既にアバンもまた自身最強の奥義の構えに移行していたのだ。

 

「アバンストラッシュ!!!」

 

地・海・空を切り裂き、そして全てを切り裂くアバンストラッシュが、

魔王のイオナズンを切り裂き、そして、

 

「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

屈強な魔族の肉体を深く切り裂く。

魔族の蒼い血が胸板に刻まれた斜め一文字から噴き上がり、

ハドラーを大きくよろめかす。

さすがのアバンも、

ハドラーのイオナズンを無効化しきれず衣服や皮膚がやや焦げ付き、

軽くはないダメージを負いはしたがハドラーに比べれば大分マシだ。

 

「ぐはッ……ぐ、あああぁぁぁ……、まさ、か……! こんな!!」

 

「はぁ、はぁ、ハドラー……! この場でおまえを倒し世界の暗雲をはらしてやる!!

 ぬぅぅぅ! ベ・ギ・ラ・マ~~~ッ!!」

 

ハドラーの胸元の傷めがけ閃熱呪文を放つ。

イオ系ギラ系を得意とし、その体に耐性も持つハドラーとはいえ、

当時よりも強力になったアバンの魔力で放たれたベギラマは、

傷ついた体では(危うい…!)と判断し、

 

「ぬ、ぐうう! ベギラマァーーッ!!!」

 

咄嗟に勇者のベギラマを撃墜する。

ベギラマ同士の誘爆をモロに受けたハドラーは、

深手と体力の消耗によってとうとう片膝をついた。

その様子を外から見ていたポップは、

 

「い、いやぁったぁぁぁ!! さっすが先生! いよっ、現役勇者!」

 

と、師の勝利を確信し歓喜していた。

だが、アバンもハドラーも……双方全く気を緩めず互いから意識もそらさない。

 

「つ、強い……! 認めねばならんようだな……昔よりも腕を上げたではないか。

 だが、オレが負けるはずはないのだ!!

 バーン様よりいただいたこの肉体が、貴様なんぞに劣るはずはない!!」

 

再び気を漲らせガッシリ立ち上がるハドラーの、その言葉。

 

「バーン……?」

 

ハドラーが”様”付けで呼ぶ聞き慣れぬ単語にアバンが片眉をややピクリとさせると、

 

「知りたいか……? 知ればきっと後悔するぞ……」

 

ニヤリとハドラーが笑みを浮かべる。

(……今は少しでも時間を稼ぎ、体力と魔力を整えねば!)

というハドラーの目論見通り、アバンはハドラーの言葉に耳を傾けているようだった。

 

「…貴様は相変わらずオレが魔王だと思っているらしいからな……」

 

「なんだと……?」

 

「オレはある御方の力で再びこの世に蘇ったのだ!

 以前よりも強力な肉体を与えられてな……」

 

「何者だ……そいつは…!」

 

ニヤリとハドラーが笑う。

 

「大魔王…………バーン……!!」

 

今までの地上の混乱はハドラーの好みではないことを見抜いていたアバン。

やはり、より強大な闇が潜んでいたのかと合点がいく。

 

「貴様に敗れ死の世界を彷徨っていたオレを蘇生させて下さった偉大なる魔界の神だ!!

 ……バーン様に忠誠を誓ったオレは、

 大魔王の片腕として魔王軍の全指揮権を与えられた!

 今のオレはバーン様の全軍を束ねる総司令官……!

 魔軍司令ハドラーだ!!!!」

 

大口を開けて宣言するハドラー。 その心中では……、

(フフ……よ~~し、いいぞ。 呼吸も整ってきたわ!)

虎視眈々とアバンの隙を狙っている。

だが、

 

「ふっ……なるほど。 大魔王の使い魔になり下がったということか。

 世界の半分を与えるなどと言っていたお前が、落ちたものだなハドラー!」

 

アバンがずばり痛いところをついてくる。 ハドラーは一瞬、沸騰し、

 

「な、なんだとォッ!? 使い魔ぁ…!!

 貴様ーーーーーッ!! このオレを! 大魔王の使い魔とぬかしたなぁ~~~ッ!!」

 

激昂してヘルズクローでアバンに斬りかかった。

 

「図星をさされたみたいだな…!」

 

不敵にアバンが微笑んで、オマケの挑発も忘れない。

 

「だまれェッ! 殺してやるぞアバン! 弟子の見ている前で……串刺しにしてやる!」

 

身体能力の限りを尽くしてハドラーは駆けだし、

洞窟の壁をさも地面かのように走ってアバンの左側より襲い来るも、

 

「そこだ! 海波斬!」

 

動きと素早さを予期していたアバンに、最速の刀殺法で斬り込まれて、

 

「うぐおおおおーーーーッ!!!」

 

ハドラーの左腕を斬り飛ばし、宙を舞わせた。

だが、(……むっ!? 止まらない!)

ハドラーはそのまま突進を続け腕一本を犠牲に

右拳をアバンの土手っ腹に打ち込むつもりであったのだ。

 

「左腕の一本などくれてやるわッッ!! もらったぞ!!!」

 

「くっ!」

 

アバンはそのまま左肘を振り下ろし肘打ちをする形で

ハドラーのヘルズクローをあえて左腕に貰いにいき致命傷を避ける。

 

「ええい、臓腑は貫けなんだかッ!! やるなアバン!

 だが貴様も左腕は使い物にならんだろう!」

 

距離を詰めての格闘戦ならば未だ互角とみたハドラーは

そのままアバンへと肉薄しつつ激しい拳打と襲撃の弾幕を浴びせるも、

アバンもまた流れるような体捌きでそれらを躱して、

 

「おまえもやるじゃないかハドラー!

 挑発に乗ったように見せかけて、その実クレバーとはベリーナイスですよ!」

 

まるで生徒に話しかけるような口調で言ってやる。

少しでもハドラーの集中力を乱す心積もりであると同時に、

旧友へ語りかけるような気軽さも含んでいた。

互いに疲労の色も濃くなってきて、戦況はハドラーが圧倒的に不利である。

というのも本人同士の実力は伯仲しているが、

アバンには未知数の実力である弟子2人が背後に控えている。

ハドラーとしてはこれは不気味であった。

(ちっ………単騎で挑んだのは浅はかだったか。

 せめて部下を連れていれば小僧どもを抑えて安心して戦えたのだが……)

どのみちマホカトールが邪魔で、魔王クラスでなければデルムリン島で戦うなど出来ないのだ。

ハドラーは潮時であると悟った。

 

「……アバン……その首、しばらく預けておくとしよう。

 だが覚えておけ! 次こそは、必ずやお前を殺すッ!!

 メラゾーマッ!!」

 

「うっ!」

 

ハドラーは残った魔力を全てメラゾーマとして撃ちだし、

周囲を地獄の紅蓮で包み込む。

アバンは咄嗟に海波斬で切り抜けるが、ハドラーのメラは地獄の炎。

一度燃え移れば生半可なことでは消えはしない。

洞窟内から炎が溢れでてデルムリン島の自然を焼き始める。

 

「ポップ! 急いで消火してください! ハドラーのメラは危険です!」

 

自身もヒャダインを唱えて必死に鎮火作業。

ポップも慌ててヒャダルコを連発してそれを手伝う。

ダイも一緒になってヒャドを撃つも、

ポンッ、

と見るも悲しい氷粒が一欠片飛び出るだけだった。

鎮火が一段落した頃には、当たり前だがハドラーの姿はない。

ルーラかキメラのつばさで、どうやら逃げたらしかった。

(ハドラー………そして、大魔王バーン。

 どうやら、ダイ君とポップの修行を急いで完成させねばならないようですね……)

ヘルズクローによって穴が空き、

だらりと力なく垂れ下がる左腕に

ブラスのホイミを受けながらアバンは固く心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュンケル様………パプニカの地下宝物庫で、何やら変わった鎧が発見されました。

 トロールやゴーレム並の巨体で、2本の腕と4本の足……

 およそ人間が着るものではない、とのことです」

 

チリーン、と涼やかな鈴の音を響かせながらくさった死体の執事・モルグが言った。

万全の装備で腕を組んだまま報告を受け取った不死騎団長は、

 

「……恐らくそれがキラーマシーンだろう。

 ゴルゴナの奴は気に食わんが、バーン様の命とあらば仕方ない。

 運び出し、鬼岩城まで輸送する。 手筈は任せたぞ、モルグ」

 

燃え盛るパプニカ王都を見つめながら、

ミイラおとこやがいこつ達が逃げ惑う人々を斬り伏せる様を観察していた。

泣き叫ぶ少女がミイラおとこに捕まり、その怪力で胴を千切られる。

身の毛もよだつ金切声の断末魔と光景。

それらを見ても不死騎団長の心は波風一つ立たぬが、今は別の理由で些か苛立っている。

 

「ふん………ゴルゴナの策だか知らんが、リンガイアめ……。

 奴らのせいで全く歯応えがない」

 

主力不在で王国襲撃は敢行され、帰還してきた主要な騎士団も疲弊しきっていて、

ヒュンケル率いる不死騎団の敵ではなかった。

既に王と側近達は首だけとなっており、

地下牢の司教と賢者も膾切りにして海にばら撒き、魚の餌にしてやった。

後はパプニカの首脳といえばレオナ姫と三賢者のみであるが、

その発見も恐らく時間の問題だろうとヒュンケルは考える。

(つまらん仕事だ………)

少女の千切れた死体を見て、そう思った。

 

 

 

 

フレイザードが受け持った極北のオーザムは、

パプニカ以上に呆気無く終わった。

なにせ王も将軍達も”リンガイア会戦”で討ち果たされ、主力が壊滅しているのだ。

氷炎将軍は、

 

「王も騎士どもも情けねぇ!! リンガイア程度に全滅させられてりゃ世話ねぇぜ!!」

 

と、折角の初陣を味気ないものにしてくれたオーザムの不甲斐なさに激怒していた。

こうなりゃ…と半ば八つ当たりでフレイザードは、

 

「人っ子一人生かしちゃおけねぇ………老人も、子供も、家畜も………!!

 人間の痕跡一つ残らず破壊しろ!!

 オーザムだけじゃ物足りねぇ…マルノーラ全土で殺し尽くすのだ!」

 

との厳命を下し、その言葉通り徹底的な人間狩りが行われ、

オーザム王国は勿論、マルノーラ大陸に点在する村々の存在も許さず

大陸全土から人の文明の痕跡を根絶やしにしてしまった。

 

 

 

 

オーザムとパプニカの呆気なさと比べて、

ロモス王国は弱兵ながらよく持ちこたえている。

というのも氷炎魔団や不死騎団と違い、団長が先陣を切っていないからであった。

ただでさえ弱国(それでも大国である)のロモスをあてがわれて「つまらぬ……」と

思っていたところに主力の疲労である。

パプニカとロモスは一足先に本国に帰還したとはいえ、

一部を包囲網に残していたし更に別働隊を旧アルキードに駐留させてもいた。

トータルで人的被害はカールやベンガーナに並ぶ。

(自分がいなくとも部下だけで充分……)と判断した獣王は己の森の洞窟で寝こけており、

百獣魔団は一糸乱れに乱れた乱雑な攻撃を個々に繰り返しているだけで、

それだけでロモスはもうぼろぼろなのである。

クロコダインが先陣にて指揮を振るっていたら

ロモスもまたパプニカ同様数日で滅んでいただろう。

どう転ぼうともロモスの滅亡はもうすぐそこなのだ。

 

 

 

 

カールとベンガーナは共に大国の中でも頭一つ抜けた強国であったが、

カールは魔王軍の中でも最強と謳われる超竜軍団と雷竜ボリクスが来襲しており、

空から雷を国土全土に降り注ぐボリクスには、

リンガイア会戦を生き延び更にレベルアップした騎士ホルキンスといえども手も足も出ない。

見る見るうちにその国土は破壊されていった。

ベンガーナもまた長く続いたアンデッドの疫病と、

立ち直りかけたその時に発生した謎の衝撃波で国は深く傷ついており、

また、南方の旧アルキードが大陸ごと消滅したという情報も相まって

多くの国民の心は既に挫けていた。

クルテマッカ7世の優れた手腕を持ってしても、

もはや衰退は押しとどめることは出来ないだろう。

襲い来る魔影軍団は、不死騎団ほどでないにせよ

高い不死性と無尽蔵のスタミナを有した暗黒生命体達で、

先のアンデッド包囲網の如くのいつ終わるともしれぬ”王国封じ込め”を敢行され、

トラウマが蘇る形でベンガーナはさらに疲弊していく。

 

 

 

 

もはや人類に逃げ場なし。

どの大国、強国も虫の息であり、

人々は肩を震わして身を寄せ合い逃げ隠れするのみであったが、

その中にあって唯一、平和と富貴を欲しいままにしつつある国。

それがリンガイア王国であった。

阿鼻叫喚地獄に陥る隣国達を尻目に、

リンガイアは”魔界の神のお告げ”によって

税を始め国民の負担が格段に軽くなるよう取り計らわれ、

また不足がちであった物資もどこからかじゃんじゃんと持ち込まれていた。

さらに領土を温暖で豊かな南方まで広げており、旧テラン領を中心に大幅な領土を接収。

アルキードの消滅……大魔王6軍団の一斉侵攻から1ヶ月も経っていないが、

周辺国から逃げてくる人間をどんどん迎え入れその国力は急速に膨張している。

当初こそ魔物達を受け入れるのに戸惑い、怯えた人間たちであったが、

税と兵役を全てモンスター達が肩代わりするのだと

国王からの布告があってからはそこまで悪い気はしない。

仲が良くなったわけでもないし、かといって奴隷代わりにこき使うことも出来るわけがなく、

目の前を歩いていても干渉しないことで共存の形が出来上がっていた。

だが、国民達は知らない。

既に国王の魂は破壊しつくされ、

バウスン親子を除いて殆どの大臣や将軍が魔物と置き換わっていることを。

 


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