ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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おげぇ!9600文字以上!
おかしい……最初の推敲では4000文字くらいだったのに……。

暴魔のメダルはほぼ原作通りです


真の不死と獣王と氷炎の誕生

魔軍司令が目覚め、2将軍を探し始めた頃、

ゴルゴナとミストバーンは魔界の第7宮へとやってきていた。

そこの研究機関の一室に2人は用がある。

幾重もの扉を通って行くと、

そこにはカプセルに満たされた蘇生液に浮かぶ3人の人間がおり、

中央のガラスの筒の中には銀髪の青年がいた。 

彼こそが不死騎団長への就任が決まっている男……魔剣戦士ヒュンケルだ。

彼のカプセル前では、

端末を操作し様々な計器を見比べる小柄な老魔族と

大きな水晶に浮かぶ棒グラフ、円グラフの数値を読み上げる青年魔族がいて、

その2人へと、

 

「ザボエラ……ザムザ……ヒュンケルは未だ目覚めぬのか」

 

独特なその声で話しかける冥王。 ややビクッとしたザボエラ親子だったが、

 

「おお……冥王様! 父上、冥王様とミストバーン殿がお越しです」

「これはゴルゴナ様………それにミストバーン殿も、よういらっしゃいました。

 キィ~ヒッヒッヒッヒッ。

 まだ目覚めてはおりませんが、ヒュンケルの強化蘇生は順調ですぞ。

 蘇生自体は魔界樹の葉で一発でしたわい。

 イマジン細胞を馴染ませる必要が無いのでしたら

 すぐにでも目覚めることが可能ですじゃ」

 

少々慣れたのか、振り返るとすぐに

喜々として己の仕事の順調っぷりをアピールするのであった。

 

「ぐぶぶぶぶぶ………

 人間のボディがイマジン細胞とこうも相性がいいとはな………。

 もっとも……適合する才能を持つ者は数十万に1人いるかどうかだが……………」

 

ゴルゴナもまた、探求者としての面が喜色に染まり、

 

「その才を持つ人間は魔族の肉体より、応用力、発展性、柔軟性に勝る。

 ヒュンケルがそうであったとは僥倖である………。

 人間故、さすがに超魔への適合性は無かったが、

 不死人間のプロトタイプとなるのは名誉なことぞ………。

 ミストバーン…………さすがおまえの弟子だな……グブブブブブ」

 

さも愉快そうに冥王が笑う。

ミストバーンは沈黙でそれを受け止めるが、

彼は、本来ならば己のスペアとなるかもしれぬ

ヒュンケルを実験台になどしたくはなかったのだ。

だが、儀式の最終局面……ネイル村襲撃の最後に予想外のことが起きた。

彼が魔法の効かぬ鎧で全身を覆っていたのが仇となり、

鎧は、兜側面から流し込まれたメガンテの効果を内側へと閉じ込めてしまい、

本来なら外へ逃げていく破壊エネルギーが残留し続け、ヒュンケルへと降り注ぎ続けたのだ。

肉体こそそこまで損壊しなかったのはさすがヒュンケルであったが、死は免れなかった。

いや、ゴルゴナが回収した時には一応生きてはいたが、

心臓は惰性で動いているような状態……瀕死と仮死のさらに上を行くような状態で、

もはや生者とはいえぬ有様であった。

バーンから命令が下り、ヒュンケルの治療を試みたゴルゴナであったが、

その過程で彼のイマジン細胞への適性が認められ、

それを大魔王へと報告すると、

 

「ヒュンケルが不老不死になる可能性、か…………ふむ、実験台には丁度良かろう。

 どのみち”壊れかけ”だ。 許可する、ゴルゴナ」

 

との言葉を貰い、現在に至る。

ミストバーンの暗黒闘気での蘇生や、ゴルゴナのアンデッド化での蘇生も可能であるし、

バーンは将来を見据え「ダメで元々……」とヒュンケルの不死化を命じ、

失敗したとしてもミストバーンには気の毒だが、

所詮、最優秀のスペアが失われるだけのこと。 代えはきく。

これが成功すれば、いずれは大魔王自身の不死化にも繋がるかもしれず、

そちらの方が重要なのは言うまでもない。

 

「キィ~ヒッヒッヒッヒッ! いやまったく!

 このヒュンケルとか申す人間は実に優秀な肉体を持っておりますなぁ。

 既に彼の細胞の全体の7割までが、分裂限界を突破いたしました。

 不老不死人間の完成は間近ですじゃあ~~~!!!」

 

ニンマリ笑顔で興奮するザボエラの後ろで、ザムザもまた嬉しそうである。

喜ぶゴルゴナ、ザボエラ、ザムザの3人を見ながら、

 

(………科学者・研究者という人種は、どうも好きになれん………)

 

ゴルゴナとは何故か一定の友誼があるが……、と己でも不思議がりながら、

自分のスペアをモルモット扱いするザボエラを軽く睨む。

 

(だが、ゴルゴナが評価する程の頭脳……需要はある。

 ………………大魔王さまのお言葉は全てに優先する……。

 バーン様が望まれたのならばヒュンケルをも生け贄に捧げよう。

 ………それに、もし……こやつが本当に不老不死となれるのならば、

 私は永劫、バーン様にお仕えすることが出来ると確約されるのだ。

 これ以上の幸福はない………)

 

透明のガラス容器に浮かぶ魔剣戦士を凝視する。

ミストバーンは彼の目覚めを一日千秋の思いで待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔軍司令ハドラーが新たな軍団長に求めた絶対条件。

それは忠誠心である。

ゴルゴナは集めていた地上の資料を漁り、

それを元に自分自身の目で悪魔の目玉を齧り付くように見て探し、

そしてとうとう彼を見つけた。

ハドラーが求める条件にドンピシャな男……その名を”魔の森の獣王・クロコダイン”。

ハドラーは自らロモスの洞穴へと足を伸ばし彼のもとを訪れ、

 

「邪魔をするぞ、クロコダイン」

「む! 貴様……何者だ! この洞窟を俺の寝座と知ってやってくるとは……!」

 

堂々とその住処に足を踏み入れた。

 

「俺の名は魔軍司令ハドラー。 大魔王様に仕える最高幹部である!

 クロコダイン……おまえの強さ……武人としての心意気。

 気に入ったぞ……俺の片腕にもなれる逸材だ!

 俺の部下になれ!

 大魔王バーン様の名のもとに、地上から愚かな人間を一掃しようではないか!」

 

ハドラーが覇気を漲らせ誘い文句を力強く述べると、

 

「ハドラー……? まさか、かつて魔王であった……?」

 

戦斧を構えつつクロコダインが驚嘆する。

まさか前大戦時に活躍した魔王本人が来るとは思っておらず、

 

「そうだ…! 俺がそのハドラーだ!」

 

という肯定を聞くと、僅かに冷や汗をかきながら「なんと……」と小さく呟いた。

しばしハドラーを値踏みするような視線を投げかけていたクロコダインだったが、

無骨な斧を徐々に下ろしながら

 

「なるほど、その身に宿る魔力……闘気……並々ならぬものがある…!

 俺もひ弱で身勝手な人間共は好かん。

 魔王軍に付くのは構わんが、一つ聞きたいことがある」

 

それでも僅かながら殺気を放ち続けている。

(腕試しでもしようというのか?)とハドラーは思ったが、そういう雰囲気でもない。

 

「………構わん。 言ってみるがいい」

 

万が一を思い、黒いローブの下で何時でもヘルズクローを展開できるよう気を漲らせる。

 

「しからば………この魔の森の程近くにネイル村という人間の集落があった。

 そこを滅ぼした者がいるらしくてな……だが、それはまだいい……取るに足らんことだ。

 しかし!

 よりにもよってその方法が毒をばら撒く……などという大それたもののようでな。

 毒が風にのって魔の森全体に影響を与え始めている……。

 俺の部下のモンスターにも被害が出ているのだ!

 俺のテリトリーの側で、この俺の顔に泥を塗るようなことを……!

 あれ程に強力な毒霧と毒沼………只の人間に出来る筈がない!」

 

斧を握る手の力が、少しずつ大きくなり……、

僅かだった殺気が再び膨れ上がる気配が見え始め、

 

「さぁ答えろ! 毒を撒いたのは貴様ら魔王軍か!

 返答次第では、俺は貴様を許しはせんぞ!」

 

鋭く力強い眼光がハドラーを射抜く。

ハドラーの焦燥が大きくなり始め、それが表に出ぬよう必死に抑えるが、

 

(まさか………ネイル村は、確か……ゴルゴナの資料に載っていた、

 俺が目覚める前に行われたヒュンケルの儀式に使われた地……!

 もしや………、だ、だが! 俺は毒のことなど聞いておらんぞ!

 だ、第一俺が命じたわけでもない! 俺は関与せぬことではないか……!

 く、くそ……何たることだ! ヒュンケルめ! あいつのせいだ!!)

 

洞察力に人一倍優れていたかつてのライバル……、

アバンならばハドラーの目が泳いでいるのを瞬時に看破しただろう。

動揺を悟られぬよう隠しつつ、

クロコダインが納得出来るだけの理由をでっち上げなければならなかった。

 

「ふ、ふはは……はははははは!

 な、何を言うかと思えば……そのようなことか。

 いいかクロコダイン! 

 我ら魔王軍はそのようなことはせん!

 何故ならば必要が無いからだ。 脆弱な人間を殺すのに毒など用いるわけがない。

 殴り殺すほうが余程早く、確実よ!」

 

咄嗟にここまで言えるハドラーは優秀である。

疑っていたクロコダインも「確かに…」と表情で語っていて、

 

「クロコダインよ……

 人間共がここ10年ばかり、全世界を巻き込み

 戦争に明け暮れているのは知っているだろう。

 奴らはその間にあれ程の毒を作り出すことも出来るようになったようでな……。

 戦争は文明の母とは良く言ったものよ。

 ネイル村は、ロモス王国に楯突いた為に毒を撒かれたと調べが付いている。

 戦争のために税と男手を奪われるのを嫌がった村への見せしめというわけだ!

 脆弱で愚昧な人間だからこそ毒などに頼ったのだ」

 

急場しのぎの嘘にしては上出来であろう。

ハドラーは自分で自分の頭の回転の速さを褒めたい気分であった。

 

「むむ………ハドラー殿のおっしゃること、一々ごもっとも!

 疑って申し訳ない……!

 そうか……人間があれ程強力な毒を、な。

 吹けば飛ぶような脆弱さ………そして恥知らずな小細工に長ける人間らしいわ!

 よし! 俺の腹は決まったぞ。

 ハドラー殿のもと、大魔王バーン様の為に戦うことを誓う!」

 

こうして、なんとかクロコダインを引き入れるのに成功したハドラーであった。

百獣魔団の長に相応しい男は手に入れた。

これで安心して兜の緒を緩めるわけにはいかないが、

氷炎魔団軍団長については、もはや手に入ったも同然である。

何故なら、ハドラーは禁呪法により

その地位に相応しき将を作り出すことを決めていたからだ。

(氷炎将軍……といったところだな。

 炎と氷に特化した軍団ならば、その両属性に長けていなければ話になるまい)

という至極単純な発想と、

そして禁呪法によって生み出された生命体は

作成者に逆らえないという法則が決め手となった。

かき集めた溶岩魔人、氷河魔人の岩石……

フレイム、ブリザードの炎熱と凍結のエネルギー。

それらに自身のありったけの魔力を注ぐと、

見る見るうちにそれらが人型となり、

左半身がマグマの岩石、右半身が凍てつく氷石の岩石人間が完成し、

 

「フフフフ………いいぞ。 予想よりも良い手応えだ……!

 おまえの名はフレイザードとしよう! さぁ、目覚めるのだ、フレイザード!!」

 

ハドラーが叫ぶと、閉じられていた鋭い眼が勢い良く開かれて、

フレイザードの体中から灼熱の炎と凍てつく氷が噴き上がる。

”予想よりも良い手応え”と評したハドラーの更に予想を上回るパワーの奔流に、

「うおお!?」と思わず後ずさってしまう。

フレイザードの創造を行っていたハドラーの自室が、あっという間に燃え、そして凍る。

 

「い、いかん! フレイザード! さっさと意識を覚醒せんか!

 大魔王様より授かった俺の部屋を焼くとは何たる奴だ!

 鬼岩城を火事にしたいのか!!」

 

落成間近の鬼岩城を、自分が生み出した部下の不始末で全焼させるなど、

冗談でも想像したくない大失態だ。

これ以上パワーを垂れ流すようなら「は、破壊せねば!」という結論に至るが、

 

「クククク……クカカカカカ! クワーーハッハッハッハッ!!」

 

大口を開けてフレイザードが笑い出すと、

炎と氷の嵐はピタリと止むのだった。

 

「おいおいハドラー様。 生みたての息子をいきなり破壊しようたぁ物騒だな。

 安心してくれよ………テメーの炎と氷くらいは自在に操れるさ」

 

言いながら、焼ける調度品に”氷の息”を……

凍りついた扉に”火炎の息”を吹き付けて鎮火と解凍をしてやると、

それを見ていたハドラーは、

 

「ふ、ふふ……フハハハハハ。 知性、能力、どちらも申し分ない!

 上出来だ……禁呪法は成功した!

 氷炎将軍フレイザードの誕生だ! ここに6大将軍は揃った……!」

 

歓喜に打ち震えた。

過言ではあろうが、かつて生み出した最高傑作の一つ、バルトスと……

生まれたて(レベル1)のフレイザードは既に並んでいるように、ハドラーには思えた。

それ程のポテンシャルを秘めていると予感させる出来栄えで、

その事実は、作成者であるハドラー自身の大幅なレベルアップを物語るものでもあるのだ。

 

「クゥークックックッ………精々楽させてやるぜ? ハドラー様よぉ」

 

フレイザードは、愉悦を覚え笑うハドラーに獰猛に笑い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日という日を、大魔王は柄にもなく楽しみにしていた。

これ程の喜びは何時以来だろうか。

かつて、自分の肉体を分け凍れる時の秘法を用いた不老不死を実現した時……。

かつて、秘法の中に封じた肉体を安心して預けることが出来る忠臣を得た時……。

かつて、魔界で自分とヴェルザーに続く第3の実力者と言われた魔神を打ち破った時……。

それらには少々劣るだろうが、

それにしても全知全能に近い能力と永すぎる人生を持つバーンが

これ程に嬉しがっているのは珍しい。

 

今日この日、鬼岩城は完成する。

鬼岩城の玉座の間に創設された6大軍団の長が集い、

そして城外の大広場には凄まじい数のモンスターがひしめき合い、

落成式の始まりを今か今かと待ち焦がれていた。

城外の熱気とざわめきが、玉座の間の魔軍司令と6将達にも伝搬する。

 

「バーン様のお言葉を拝聴するまでには、まだ少し時間があるな。

 6将が一堂に会するのは初めてのこと……。

 お互い顔や名前ぐらいは既に知っているだろうが……丁度良い、皆に挨拶をしておこう。

 俺の名はハドラー。 大魔王様より魔軍司令の座を与えられた。

 俺の仕事はおまえ達を指揮し、逆らう人間共を一人残らず始末し地上を支配することだ!

 よいな! 我ら魔王軍に負けは許されん! 全員その心積りでおれ!」

 

ハドラーが一同を見渡すと、

それぞれが頷いてみせて一応の服従の姿勢を見せるが、

 

「ふん………魔軍司令殿に言われずともその程度心得ておるわ。

 あなたこそ……精々、無様な指揮を見せぬよう気をつけた方が良いでしょうな。

 下がいくら強かろうと、

 それを指揮する者が無能であったら勝てる戦も勝てんのだからな」

 

全身鎧で身を包み禍々しき魔剣を背負う青年が、

尊敬の欠片も見せぬ反抗的な態度で、各将達の面前で堂々と魔軍司令を侮ってみせる。

 

「よさぬかヒュンケル。 ハドラー殿に無礼であろう!

 ハドラー殿は十数年には地上制覇まで後一歩という所まで独力で来た御方だぞ。

 その指揮っぷりに間違いなどあろう筈がない」

 

青年……ヒュンケルの無礼を咎めたのは巨漢のワニ獣人。

クロコダインは自分を見出してくれたハドラーへの忠義故に同僚をたしなめるが、

 

「フ………その地上制覇が挫折したからこそ、

 指揮能力に問題があるのではないかと言っているのだ。

 そもそも魔軍司令殿がアバンなんぞに負けていなければ………、

 人間風情に我が物顔で地上を闊歩されることもなかったのだ」

 

外の熱気に充てられているのか、普段は水面下に閉ざしていたハドラーへの憎しみ……

”ハドラーが弱く、殺されたせいで彼から生み出されたバルトスは死んだ”という捻れた怒りが

強く表層に出てきてしまっているようだった。

ヒュンケルは知る由もないが、

バルトスの死の事実はそれとは異なるが、ハドラーが原因であるのは間違いない。

クロコダインがなおもヒュンケルを宥めようと口を開く……よりも速く喋りだした者がいた。

 

「ククククク……だがよォ……

 ハドラー様が負けた原因の1つは、

 五体満足なアバンの野郎と戦うハメになったからじゃねえのか。

 ハドラー様が殺られちまったのも……、

 どっかの誰かさんがテメーの仕事もろくに遂行出来なかったからじゃねぇのかい?」

 

炎の左半身と氷の右半身を持つ怪物(モンスター)、氷炎将軍フレイザードである。

生みの親であるハドラーの残酷さに加え、炎のような凶暴性と氷のような冷酷さを持つ。

そのフレイザードの言葉に、

 

「何だと……?」

 

不死騎団長の声に冷たさが生まれる。

 

「”ハドラーの間”へ続く地獄門を、

 たかだか剣の勝負で負けたくらいで降伏して通すなんざよォ!

 腑抜けもいいとこだぜ!

 俺だったら噛み付いてでもアバンの指の一本でも食い千切ってやるがね……。

 根性ねぇよな! ギャハハハハハハハ!!」

 

ヒュンケルに見せつけるようにケタケタと獰猛な高笑いをし続けると、

次の瞬間には魔剣戦士が右腕を掲げその掌を開き、

 

「ネクロス!!」

 

冗談では済みそうにない殺気を放ちながら背の魔剣を召還した。

さすがにすぐには斬りかからなかったものの、

「テメェ……やろうってのか」と氷炎将軍までも殺気を放ち始めて、

大魔王バーンへの6大将軍、初お披露目でこの有様はあまりにも不味過ぎる。

そう判断したのかミストバーンがヒュンケルを、

ハドラーがフレイザードをそれぞれ抑えこむ。

 

「うぐ……! と、闘魔傀儡掌……か!」

 

ヒュンケルの両腕が強制的に下ろされる。

ミストバーンに勝るとも劣らぬ暗黒闘気の使い手であるヒュンケルならば、

無理をすれば傀儡掌を破れなくもない……だが、

さすがに身内同士でそこまでして殺しあうわけにもいくまい……。

そう考えるだけの冷静さは彼には残っていて、大人しくミストバーンの傀儡掌に従う。

フレイザードも、

 

「そこまでにしておけ、フレイザード。 大魔王様が直に御出でになるのだ。

 つまらぬことで目くじらを立てることもあるまい」

 

内心ではフレイザードの暴言に溜飲を下げていたハドラーにたしなめられ、

小さく舌打ちしながらも引き下がる。

生みの親には一応忠実であった。

それら一連の醜態を見ていたドラゴンのビジョンが、

 

「フフ……ハハハハハ! 中々面白い見世物だったな。

 くくくくく………滑稽、滑稽……」

 

これはたまらぬ、と吹き出すように笑う。

ボリクスは、その巨体故に玉座の間の門を通り抜けることが出来ない。

そのため、自身の胸像を投影したものだけでの出席で、

彼自身は鬼岩城”右肩(ライトショルダー)の間”の可動甲板の半数を廃止して改造した

彼専用の間でくつろいでいる。

これは余談であるが……ボリクスの巨体を聞いて、

ムー人達は仕様変更は避けられぬ、と察して泣く泣く徹夜をした。

突然の改造を押し付けられたのはトピアポとツークーマンであったらしい。

クロコダインが他の将を見やって、

 

(……初日から何たる有様だ。 このようにいがみ合っていては、

 いかに強大な力を持とうとも綻びが生じるぞ……いかんな)

 

溜息を付く。

と、その時……、

 

「一同、静まるがいい………大魔王様がお見えになられる………ぐぶぶぶ」

 

騒動に”我関せず”でいた冥王ゴルゴナが口を開いた。

本来ならミストバーンの役目だと冥王も思っているが、

彼は喋るのを嫌うためにゴルゴナが代弁する機会が多いのだ。

急ぎハドラーが先頭に立ち、

6将がその後ろに横一列に整列する。

しばしの静寂が謁見の間を包み、やがて玉座後方……

大六芒星中央のバーンのエンブレムの瞳が光りだすのを確認したハドラーが、

 

「偉大なる大魔王バーン様……今ここに邪悪の六芒星を司る最強の精鋭達が揃いました。

 この鬼岩城を拠点とし、再び世界を暗黒に染めバーン様に献上する所存にございます!」

 

6軍団の結成を高らかに宣言すると、エンブレムの眼光がより強く輝く。

 

「うむ……見事だハドラー。 実に頼もしい顔ぶれ………。

 余は大変満足しておる……」

「ハハーーッ」

 

恭しく頭を下げるハドラーは、

(無事、任務を成し遂げた……)という安堵に包まれたが、

 

「では6団長の誕生を祝して余が特別に褒美をとらせよう……」

 

思いがけぬことを大魔王が言い出すのであった。

ハドラーは、

 

「…褒美……?」

 

思いがけぬ大魔王の言にやや驚くが、心の中は

(フッフッフッ…! これで魔軍司令としての面目は立つな……。

 ヒュンケルの青二才めが………俺に対するバーン様の御信頼を見たか!)

優越感で満たされ始めていた。

しかし、突如……ハドラーの後方間近で豪炎が立ち上り、

轟々とした灼熱の柱が渦巻きだしたのであった。

そして、炎の渦の中にはバーンのエンブレムが刻まれたメダルが揺蕩い、

 

「ウウッ!?」

「こっ…これは……!?」

 

クロコダインが驚嘆し、

ビジョン越しに炎の凄まじさを解したボリクスも驚きの声をあげる。

 

「これは”暴魔のメダル”………いわばこの余への最大の忠誠心の証だ。

 さぁ、我にと思わん者は手にとるが良い」

 

自分に与えられるとばかり思っていたハドラーの当ては完全に外れてしまい、

(く、くそ……俺は軍団長と同列扱いか…!)と密かに憤慨するやら赤面するやらであった。

これは大魔王の”悪戯”に近い催し物で、

バーンとしては、

自分の最大の忠臣・ミストバーンと、最高の功臣・ゴルゴナの反応を楽しみ、

そのついでに皆の反応を見て楽しめればそれで良く、

そしてボリクスが見せたしかめっ面は早速に面白いものだった……と大魔王はほくそ笑む。

雷竜はバーンに対する忠誠心を見せよう、などとは思わないだろうが……、

プライドの高い彼のことだ。

格下としか思っていない他の将(2名除く)に遅れを取るのは我慢ならぬだろう。

投影したビジョンでしかない彼に、メダルを掴むことなど出来ないのだから。

 

ミストバーンはためらった。

自分が、主人から預かっている肉体は決して傷が付かぬと理解しているが、

それでも万が一を思ってしまい腕を伸ばすのが遅れた。

肉体に施された凍れる時の秘法を超えて、

傷付けられる可能性を持つ者はこの世でたった1人………

そうミストバーンは思っている。

それは当然、彼の主である大魔王自身で、バーンの召喚したこの業炎ならば、

ひょっとしたら”この肉体”を焼いてしまうのでは……と考えてしまったのだ。

(バーン様から与えられた試練……

 しかし、バーン様より預けられたこの御体を、その試練で傷付けるのは……

 や、やはり許されぬ………どうすれば良いのだ……!)

生真面目な彼がそう思ってしまうのも無理はない。

 

そしてゴルゴナは、というと……

(ぬぅ……! 我の仙術でもビクともせぬのか!?)

驚愕していた。

バカ正直に腕を突っ込む気などさらさら無かった冥王は、

小さな島すら自在に空中を飛ばす己の念動力でメダルを掻っ攫おうとしたのだが、

やはり大魔王バーンは一枚上手で、

しっかりと自分の部下の性分を見抜き、その異能への対策をしていて、

「欲しければ自らの腕で取れ」ということらしかった。

 

(むぅ……し、しかし…この凄まじい炎の中では……!)

ハドラーが、

(だ……だが、なんとしてもこの場でバーン様への忠誠心をお見せせねば!)

クロコダインが、

(ええい……ま…ままよ!!)

ヒュンケルが僅かに鼻白み、

皆が意を決し一斉にその手を伸ばした、その時。

 

「「「ううっ!!?」」」

 

暴魔のメダルは、紅く煮えたぎる赤炎の掌の中であった。

 

「クッ……クックックッ………!!」

 

氷炎将軍が、氷の半身の大半を溶かしながらも炎の腕で栄光をもぎ取っていた。

 

「……見事なり、フレイザード!」

 

座興に過ぎぬが、予想外の者がメダルを手にしたことで大魔王も素直に称賛する。

ハドラーが作り上げてから1年弱の未成熟なモンスターであるフレイザードの、

自分の身すら安々と危険に晒すその果断さに……

その場の全員が思い思いに驚嘆し羨望し……或いは妬みの眼差しを送った。

 

「よもや生まれて1年足らずのお主が暴魔のメダルを手にするとは……余も驚きを隠せぬ。

 素晴らしいぞ、フレイザード。 選りすぐられた諸将を出し抜くとはな……。

 これからも期待しておるぞ………」

「お、おぉ! 俺の体が一瞬で元通りに!

 あ、ありがとうございますバーン様! 必ずやご期待に応えてみせます!!」

 

バーンが、シンボル越しに魔力を送り手ずから回復してやる。

”お褒めの言葉”といいその回復といい、破格の労いであった。

フレイザードの心に、

(奴らの驚く顔が……! 皆の羨望が俺の心を満たす! 俺を見ろ……俺を認めろ!!

 もっとだ……! 俺はもっと”これ”が欲しい! 俺が求めているのは”これ”なのだ!!)

かつてない程の充足感が広がり、浸透していく。

 

「ククククククク……ッ! カーッカッカッカッカッカッカッ!!!」

 

高々と掲げられたメダルが、燃え上がるフレイザードの炎に照らされ怪しく光っていた。

 


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