ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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やはり魔王軍側を書いてると捗ります。


その頃の人間達&魔王の目覚め

偉大なる助平爺……大魔道士マトリフ。

世界で1,2を争う程に優れた頭脳を持つであろうこの男は、

現在完全に世捨て人になっていた。

ハドラー出現時にマトリフにへーこらして戦いに駆り出したパプニカの貴族達。

終戦後には懇願されてパプニカ王の相談役に収まったマトリフだが、

今度はへーこらしていた貴族達が手のひらを返して彼をいびりだした。

イジメなど屁でもなく、寧ろやり返してやったマトリフだが、

人間の……その余りにも身勝手で都合の良い身替りの速さに、

人の魂の奥底に潜む”ドロドロ”した……ヘドロのような心を感じてしまって、

それ以来人間を生理的に受け付けなくなってきていた。

世界が謎のアンデッドに蝕まれようが戦争をしようが興味はなく、

滅ぶなら勝手に滅べ……

とすら思えるのは彼が100に近い老齢だから、というのもあるだろう。

そんな彼だが全ての人間が嫌いなわけではない。

共にハドラーと戦った4人の人間のことは大好きであった。

そしてそんな友の2人………

ロカとレイラ、そしてその娘のマァムの元へ遊びに行こうと気まぐれに思い立ち、

 

「なんでぇこりゃあ………」

 

久々に洞窟を出てネイル村にやって来てみれば、そこで驚愕の風景を目の当たりにしていた。

素朴ながらも美しかった村は腐毒に浸かり、

風が吹けば木々と花と洗濯物の匂いで満たされるネイル村特有のいい香りは、

目も痛くなるような腐れた土と肉の臭いに取って代わられていた。

徘徊する腐った死体やアニマルゾンビ共をメラ系とイオ系であしらうマトリフだが、

 

「ヒデェことしやがる。

 腐った死体共に残った傷は………………死因は恐らく鋭利な長い刃物による斬撃。

 どの死体も首や心の臓を一突きか………ロカの剣技とは違うな。

 病気でやけっぱち起こしてイカれたロカが犯人じゃないようで一安心だが、

 とんでもなくやり手の剣士が相手だったのは間違いねぇ。

 ロカとレイラがいるネイル村を単身……多くて2人3人程度で攻略しちまうとは何者(なにもん)だ……?

 ………この足跡は新しいな。 お揃いの靴を履いた複数人………兵士共だな。

 こいつらは白か………連絡がないもんで調べに来たロモスの兵隊さんってとこか。

 …………………………漂う邪気と毒は…………人間のもんじゃねぇ」

 

原型を留める腐った死体や家屋の損傷を観て当たりをつける。

ゾンビ共をよく観察すれば生前の面影をちらほら発見できて、

そこに親友の遺体が混じっていないことに、

ホッとするような……不安が増長するような複雑な心持ちであったが、

邪気と毒が人間の手では発せられるものではないと察してからは不安しかない。

 

(太刀筋はどれもこれも似たもんだった……最初の襲撃者は恐らく1人。

 そして、二度目に違う誰かがこの村に来た………。

 そいつは………………とんでもなく邪悪で外道な野郎だ)

 

恐らく生き残りがいないかを確認し、毒と邪気を撒き散らした。 そして……

 

(ロカとレイラ……マァムの死体。 或いは瀕死のあいつらを持って帰った?)

 

何のためだ…と沈思する。

もう一つ二つの可能性としては、

彼らが死体も残らぬ方法で殺されたか、

村を滅ぼされてしまったがロカ一家は何とか全員で逃げ延びた、ということ。

 

「できれば、後者がいいがね………」

 

呟いたマトリフだが、その可能性は少ないと思えた。

なにせこのネイル村にはロカがいたのだ。

病で臥せっていた彼だが、村が襲われでもしたら真っ先に飛び出し、

そして決して諦めずに最後まで戦うだろう。

 

「…………そういやロモスにはあのジジイがいたな。

 大将(ブロキーナ)に聞いてみるか……何か知ってるかもしれねぇ」

 

親友のジジイの住む山奥は、そういえば一度も行ったことがない……

と思い出したマトリフは、ルーラじゃ行けねえじゃねぇかよ、と頬を指でかくと、

トベルーラでロモス山を上空から探すが、

2、3時間程経ってもブロキーナを見つけられなかったマトリフは、

 

「チ……ダンジョンに篭って修行でもしてんのか?

 仕方ねぇ。 この辺りの岩肌にでっかく書き置きでもするか」

 

と山の崖に向かってメラゾーマを連続で放ち、溶かし抉るとデカデカと文字を彫る。

”マトリフ参上! これ見たら山の麓で酒買って待っとけ大将”

という、なんとも自己主張の強いものだった。

 

 

 

 

ちなみに……ブロキーナはそのメッセージを見たのだが、理解することはなかった。

何故ならバラバラに砕け散り幾らかの文字が消失したからだ。

何故砕けたのか……その理由は、

 

「武神流……猛虎破砕拳!!」

 

どごん、という轟音と共に岩盤を内側から砕き、

夕日が差すなだらかな山の斜面に飛び出してきたのはパッと見幼い少女。

おさげにした髪がよく似合う可愛らしい容姿で、

将来は間違いなく美少女になると予感させる充分な素材を持っている。

そんな彼女を、薄暗い洞窟の中から拍手して祝福する者達が3人……いや2人と1匹。

 

「おめでとう、ミーナ! たった1日でトンネル開通しちゃうなんてやるわね!

 私でも最初は2日かかったのになぁ~」

「僕なんて3週間はかかりましたよ! いやぁさすがマァムさんの妹分!

 さすがは僕の姉弟子たち! くぅ~~~美してかっこいい~~~!!」

 

桃色の髪をした豊満な体つきの美少女と、

ミーナと呼ばれた少女以下の身長しかないチビの大ネズミ。

そして、

 

「こりゃ、ミーナ。 ダメでしょ……この程度で猛虎破砕拳つかっちゃ。

 おまえはもっと技の怖さを理解しなきゃいけないね。

 大きな力には大きな責任が伴う。 ゆめゆめ、忘れちゃいけないよミーナ。

 ………それに、あれぐらいパパッと普通のパンチで壊さなくちゃ

 アッという間に”ヒジがイガイガ病”になっちゃうよ? ゴホゴホッ……ほら、わしみたいに」

 

松明を持った、黒丸メガネをかけた胡散臭い老人。

彼らこそ至高の拳聖・武神ブロキーナとその弟子達である。

わざとらしい咳をしながら、

「わしってしぶい?」と大ネズミのチウに聞くその姿はトボけたものだが、

年端のいかないミーナがたった一人で、

人1人通れるトンネルを拳だけで山腹をぶち抜いて作ってしまうのだから、

それを指導しているブロキーナの実力は本物である。

開通したトンネルの内側で

漫才染みたやりとりを始める老人とネズミをとりあえず放っておいたマァムは、

疲れたであろう大切な妹分にベホイミをかけてやろうと近づくが、

 

「あれ? マァムお姉ちゃん。

 あの岩の破片………文字っぽくない?」

 

そう言われてミーナが指差す岩を見ると、そこには……

 

「……本当ね……文字みたいだわ。 え~と、なになに………。

 ト、リ……酒………買っ、て………。

 トリ酒買って? トリって……鳥? なにこれ?」

 

無残に粉々になった岩片を並べるマァムとミーナだが、さっぱり意味が分からなかった。

どう並べ替えても”トリ酒買って”以上に意味のある文章にはならず、

 

「ねー、ブロキーナおじいちゃん。 これって何だと思う?」

 

とミーナに尋ねられた老師も、

 

「………モノ好きな酒屋行商人の宣伝?」

 

と3人と1匹で頭を捻るのだった。

そんな事情により、マトリフとブロキーナの合流は叶わぬのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンガイアを囲んで1年と十月ほどが経った頃、

ロモス王とパプニカ王が自国に帰還すると言い出した。

 

ロモスの理由は、本国からの報せによると、自国に勇者候補の男が訪ねてきているとかで、

伝説のゴールデンメタルスライムを捕らえてみせると豪語する精悍な若者らしく、

王自ら未来の勇者を見分し、出迎えたいとのことだったが、

本音を言えば、疲れた部下を祖国に帰して休ませたいのだろう。

王本人も、孫までいる年齢で年甲斐もなく自ら兵を率いて出陣などして、

しかも精強なリンガイア相手に思わぬ長陣になって疲れきっている。

ゴールデンメタルスライムの件を伝えた伝令将校を即座に帰還させ、

本国に交代の将兵を派遣させるという。

 

そしてパプニカ王。

彼は祖国に残している一人娘の大事な儀式を執り行いたい、とのことで、

それには大司教テムジンと賢者バロンも欠かすことは出来ないと言い、

こちらは中々の戦巧者であったバロンの帰還も伴うからロモスよりも離脱が痛い。

 

両国とも、確かに一国の王が1年以上もの間、玉座を留守にするのは少々不味かろう。

それに、もともとロモスは弱兵に区分されてしまう質の兵で、

しかも疲労が溜まっていて士気も低い。

これ以上はリンガイアにとって”鴨が葱を背負って来る”といった感じで、

確かにロモスとパプニカは退き時であるとアバンも思う。

 

無理強いは出来ぬ状態だし、さてどうするか……とアバンがウンウン唸っていると、

勇者殿の側にいるだけでそなたの勉強になる、

と1人ベンガーナから送り出された騎士アキームが、

 

「我が国の軍団が再編成され、

 出陣が可能な状態と……先日我が王から連絡がございました。

 ロモス、パプニカ両国が抜ける穴は、ベンガーナ軍がお埋め致します!」

 

と提案してくれた。

ハッキリ言って、ベンガーナ軍はロモス・パプニカ連合より強い。

立ち直ってくれたのなら、これほど心強い援軍はない。

アバンとフローラは諸手を上げて喜び、オーザム王は渋い顔をしながらも承諾した。

オーザムとしてはあまり自分達以外に活躍されると、

戦後の領土分配で不利になるという勘定から、あまり強い援軍に来て欲しくはなかったが、

フローラ、シナナ、パプニカ王………そして大勇者アバンに賛成されては、

正当な理由もないのに反対も出来なかったのである。

 

(……ふぅ、オーザム王の野心を抑えるのは中々骨が折れますね。

 リンガイアの城壁も、生半可な魔法や闘気技ではびくともしませんし……。

 バウスン将軍やノヴァ君も恐ろしく手強い。

 どちらも打ち破る方法は無いこともないですが巨悪が迫っていることは明らか………。

 できれば双方これ以上の血を流さずに、味方に引き入れたい。

 むむむ!

 隠遁生活を決め込んでしまっていますがマトリフか老師にご助言を仰ぎましょうかねぇ。

 もう歳だし、ゆっくりはさせてあげたいのですが……)

 

ロカ達を失った心細さと寂しさもあるだろう。

アバンは旧友の老人達に会いたい衝動に駆られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間達がギルドメイン北方で右往左往している一方で、

魔王軍は悠々と陣容を整えていて……

かつての魔王が魔軍司令ハドラーとして強化蘇生され目覚めた。

バーン最大のお気に入り、鬼岩城も落成まで後1年を切っており、

城としての機能は既に完成していて、

ハドラーは鬼岩城の居住区画にある指揮官用の部屋の中でも

飛び切り豪華な一室を大魔王より賜った。

自室となったその大部屋の、

棘や爪と見事な金の装飾で飾られた椅子に腰掛けたハドラーは考えに耽っていた。

謁見の間にある新魔王軍のシンボルマークである

”バーンの顔”から大魔王よりの勅命を早速に受けていたのだ。

 

「ハドラーよ……よくぞ目覚めた。 おまえの目覚めを余は長らく待っていたぞ。

 早速、お前に任務を授けよう……。

 余は、地上を侵略するにあたり、

 邪悪の六芒星を象徴する最強不滅の6つの軍団を望んでいる。

 6つの軍団とは即ち……

 不死騎団・氷炎魔団・妖魔士団・百獣魔団・魔影軍団・超竜軍団、

 この6つである。

 これらの内……氷炎魔団と百獣魔団の軍団長となる者が未だ見出されておらん。

 相応しき将器を持つ者を探しだし、最強の6軍団を完成させよ。

 これがおまえの最初の任となる………。

 軍団の詳細は、追って遣いの者を寄越す故、その者に尋ねるがいい。

 期待しておるぞ、魔軍司令ハドラー………」

 

ハドラーの頭の中で反芻される大魔王の指令。

 

(既に軍団長の4人までが決まっている……。

 これは、大魔王様が直々に選ばれた実力者と見て間違いない。

 ……………チッ、俺の息がかかっていない実力者などやり難いだけだ!)

 

内心で、早速愚痴をこぼす。

ハドラーの言うことも正しくはあり、

大魔王が直々に選んだ者に命令するなどやり難いことこの上ない。

だが、ハドラーの成長をやや歪んだ形で期待している大魔王バーンは、

肉体と魔力で勝るハドラーがアバンに敗れたのは精神の脆さが主原因である……

そう考えていて、敢えてハドラーの精神に揺さぶりをかけているのだ。

精神的圧迫に耐えて一皮むけて欲しい……と同時に、

才気溢れる若き魔族の心が打ちのめされる様も楽しみたい。

………それが大魔王の望み。

 

腕を組み、瞑目していたハドラーの耳に、

 

「ぐぶぶぶぶぶ……魔軍司令ハドラー………バーン様の遣いである。

 扉を開けられたし…………」

 

唸るような、笑うような……低く、おぞましい声が飛び込んできたのだった。

(何とも薄気味悪い声だ)とハドラーは思うが、

それをおくびにも出さず、

 

「……入れ」

 

殊更強い口調で己の威厳を示し、入室を許可する。

すると、誰も触れていない扉が重々しい鉄音を軋ませながら一人でに開いていく。

開け放たれた扉の前にいた者の、邪悪な声に似つかわしい姿。

そして魔力の放出も感じられないまま扉を開けた、という事実に、

(な、なんだこの男は……薄気味悪い奴……)

そう思いながらも、やはり表情に出ぬよう抑える。

 

「初めまして………と言っておこう、魔軍司令殿。

 我が名は冥王ゴルゴナ………。

 妖魔士団を預かり、おまえの傘下に入る者だ……以後お見知り置きを……ぐぶぶぶぶ」

 

黒の装束で全身を隙間なく覆った背虫の男の発言に、

 

「そ、そうか。 妖魔士団長はおまえか……期待しているぞ。

 では早速だが我が軍の特徴、他の軍団長などを教えてもらおう」

 

とりあえず社交辞令を述べるハドラー。

魔王時代ならばいざ知らず、今は偉大な魔界の神のもと部下達をまとめねばならぬ……

と理解しているため、そこまで唯我独尊に振る舞うつもりはなかった。

どれだけ気味が悪かろうと、どれだけ気に入らなかろうと、

大魔王が定めた将ならば上手く付き合えるよう努力はするつもりのハドラーである。

 

「まずは不死騎団………アンデッド系モンスターを集めた軍団である。

 数としぶとさ、そして”疫”を引き寄せるその性質……

 人間共を真綿で絞め殺すように屠るのに最適だ……ぐぶぶぶぶぶ。

 魔剣戦士ヒュンケルが不死騎団長を務める」

「ヒュンケル……? どこかで聞いた名だ」

「伝説的な魔界の剣豪の名であり…………

 おまえのかつての部下、地獄の騎士バルトスが拾った人間の子の名前でもある」

 

どこか引っかかったその名。

ゴルゴナがあっさりと解答を示すと、

 

「あ、あいつか! まさかバルトスの子が生きていたとは……!

 ぬぅぅ………バルトスの子を、我が部下に迎えようとはな。

 フン……父親のように仕事を投げ出す奴でないことを祈るか」

 

腕を組み直し、やや前のめりになった上半身を再び背もたれに乱暴にもたれる。

ゴルゴナは僅かに肩を揺らして低くくぐもった声で笑いを返すのみで、

「続けるぞ」との一言でさっさと次へ進む。

 

「氷炎魔団……フレイムやブリザード、溶岩魔人、氷河魔人を代表とする

 炎、氷属性のモンスター……岩石生命体などで構成されている。

 軍団長は未選出………

 魔軍司令殿に決めてもらう軍団長の1人はここに属することとなる」

 

ふぅむ、と顎をさすりながら考えこむハドラー。

なにやら腹案があるらしい。

 

「次いで、魔影軍団。

 大魔王様から頂いた魔気を生命とするモンスター達の軍団……。

 さまよう鎧、スモーク、怪しい影、ギズモなどが主な構成員だ。

 魔影参謀ミストバーンが率いる………ぐぶぶぶ」

 

ゴルゴナの含むような笑いと、『ミスト”バーン”』という名前がやや気になり、

 

「ゴルゴナよ。 ミストバーンとはどのような者だ。

 バーン様が禁呪法で生み出したモンスターか?」

 

部下となり大魔王より預けられた軍団を任すのだ。

魔軍司令として、その為人(ひととなり)は知っておかねばならない。

 

「その正体は謎である………。 また、その詮索も無用。

 だが、その実力と任務に対する忠実さは確かだ……ぐぶぶぶぶぶ。

 非常に寡黙な男で、一度口を閉ざせば数十年は声を聞けぬ。

 参謀と銘打っているが、ミストバーンの意見は聞けぬと思っておくがいい」

 

なんだそれは、と小さな声が漏れてしまう。

それでなぜ参謀なのだと、頭の中から疑問符がとれぬハドラーであったが、

そんなハドラーを置いて冥王は話を進める。

 

「……超竜軍団………最強のモンスター、ドラゴン族が属する。

 雷竜ボリクスがその長となり、ドラゴンをまとめる」

 

さらりと言ってのけたゴルゴナに「ま、待て!」と魔軍司令が待ったをかけた。

 

「ボリクスと言ったのか?

 雷竜ボリクスとは………あの”真竜の闘い”のボリクスか!?」

 

「そうだ」と軽く返事をする冥王に、

 

「そんな馬鹿な! ボ、ボリクスはもう何百年も前に死んだ伝説上の魔竜だ!

 なぜそんな化け物が!!」

「大魔王バーン様の超魔力に不可能はない……ということだ。

 ハドラーよ………おまえも死の淵から救われた身。

 理解できるであろう?」

 

かく言うゴルゴナも、死という底なしの深淵から掬い上げられた身である。

大魔王の桁違いの超魔力と、その魔力を存分に活かす魔力操作の技術は、

天の神々の”奇跡”にも劣らぬ事象を人為的に起こすことを可能とする。

もっとも、ボリクス復活に関しては、

冥府よりの魂の引き寄せと肉体の不完全な再生成という

8割方の作業を冥王ゴルゴナが行っていたのだが。

 

「まさか………あのボリクスを甦らせ……俺の部下としてあてがうとは…!」

 

それは背筋も寒くなる恐ろしい事実である、と同時に、

堪らなく甘美な響きもするように、ハドラーには思えた。

(伝説の雷竜を、俺の部下に! ボリクスを俺の手足として使えるのか!)

という喜びと、

(だが、ということは……

 俺自身にボリクス以上の器量と実力を求めておいでなのか……バーン様は)

という途方も無いプレッシャー。

伝説に謳われる魔界の英雄の1人を従えねばならぬ、

という現実にハドラーは戦慄した。

 

「そして妖魔士団。

 悪魔の目玉、メドーサボール、悪魔神官、エビルマージらが我の軍団に所属する。

 魔法に優れるが肉体は脆弱なモンスターが多い。

 前線で自ら出張るよりは、他の軍団を支援することが妖魔士団の主任務となろう。

 軍団長はこのゴルゴナである……………グブブブブ」

 

ハドラーの頬に、一筋の冷や汗が伝う。

得体の知れない、底知れぬ不気味さを外見以上に気配で醸し出しているゴルゴナは、

どう見ても己の部下に収まる器には思えなかった。

 

「最後に、百獣魔団………獣系のモンスター、

 そして他の軍団に属さぬモンスター達は全て百獣魔団に分類される。

 スライム系もここの所属だ。

 軍団長は、未だ定まっておらぬ…………。

 百獣魔団と氷炎魔団……………2人の軍団長を見出すのだ」

 

うむ、と短く返答し、頷くハドラー。

ゴルゴナは彼に、

 

「鬼岩城の完成の暁には、6大軍団長を集結させ落成式を行う予定である……。

 期限はおよそ1年………………。

 今日より我はおまえの部下だ……魔軍司令殿の命あらば、可能な限り力を貸す故、

 選考に詰まるのならば悪魔の目玉に語りかけよ………馳せ参じよう……ぐぶぶぶぶ」

 

それだけ言うとハドラーの目の前でフッ、と音もなく消える。

 

1人になった部屋で、ハドラーは考えれば考える程、

呼吸が苦しくなるほどの精神的圧迫を己が臓腑に感じるのであった。

自分に反逆したバルトスの子、ヒュンケル。

バーンの名を冠していることから、大魔王のお気に入りなのであろうミストバーン。

魔界の伝説に残る知恵ある竜、雷竜ボリクス。

大魔王その人の言葉を己よりも多く知る冥王ゴルゴナ。

この者達を率いることが既に決まってしまっているのだ。

残り2人の軍団長は、

(絶対に俺に忠実な、心許せる奴にせねば……!)

そう心に固く誓う魔軍司令であった。

 




10万以上のマッチョ集団(デーモン軍団)は今のところ大魔王様直属です。

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