デレマスss 僕の可愛さは不滅ですね!   作:紅のとんかつ

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かわいいボクと、プロデューサー

 

 あれから半年の月日が流れ。

 

 

 

 

 

 

 とある事務所の綺麗に整頓され、ピンクを主体とした壁紙に黄色の電灯、そして青のフロアと目が痛くなるような部屋で、ソファーにゆったりと横に寝そべりながら、手鏡で自慢の唇にリップを塗る。

 

 

 フンフンフフ~ン。

 

 

 鏡に映るボクの柔らかそうなピンクの唇が良い感じに光沢が出来、さらに可愛くなったのを確認できた、にこりと笑顔を確認する。そこには、陰の無い愛らしい笑みがある。もう犯罪的な愛らしさだ。

 

 そしてボクは奇抜な部屋を見渡し、時計を見る。時間は17時の1分前、どうやら時間が来たようだ。パタンと手鏡を閉じ、ソファーに行儀よく座り直し指でカウントダウンを始める。

 

 

 5、4、3、2、1、

 

 

 ガチャ!

 

「幸子さん、お待たせしました! それじゃ仕事行きますか!」

 

 

 部屋を開けて入ってきたのは髪を茶色に染め、赤と黄色のストライプの派手なネクタイを絞め、致命的なまでに似合わない紫スーツの肌焼きチャラ男、もといボクのビジネス・パートナー。プロデューサーさんだった。

 

 

「プロデューサーさん、相変わらず時間だけは正確ですね。そこは評価してあげても良いですよ?」

 

 

 ボクはそう言うと座りながらソファーから手を伸ばす。するとプロデューサーは手を取り立ち上がらせてくれた。

 

「社会人なんで仕事は遅れられないですよ~。表に車用意してるんで、車で待ってて良いっすよ? 自分事務所の戸締まりとか火気点検とかしてから行くんで。すぐ行くっすから」

 

「大丈夫ですよ。入り口以外は鍵をかけておきましたし、火気点検もバッチリです。さらに言えばプロデューサーの明日のスーツにアイロンをかけておきました。ボクのプロデューサーがヨレヨレスーツなんて許されませんからね。ボクはなんて気が効くんでしょう!」

 

 

 マジっすか!

 そう言うとプロデューサーは衣紋掛けにかけてロッカーにぶら下げておいたスーツを確認する。

 

 

「洗濯したままだったんで、今日仕事終わったらやらなきゃと思ってたんですよ~。いや~、助かった! 幸子さんマジ優しいっす♪」

 

 プロデューサーの嬉しそうな笑顔に思わずボクも笑みがこぼれる。プロデューサーの薄っぺらい笑顔は、それゆえ裏が無く解りやすい。

 そしてボクへの感謝の言葉は大袈裟な位大きな声で身振り手振りで表現してくれる。

 

 内心では別の事を考えておべっかを使うなんて器用な真似が出来ないこの人は、人間が薄いからこそ変な誠実さがある。その人格はボクを心から安心させてくれる。

 

 

「よし、行きますか。幸子さん、階段気をつけてくださいね」

 

 部屋の電機を消し、扉に鍵をしめる。

 そしてプロデューサーは急いで階段を下ると車の後部座席の扉を開く。

 

 ボクが車に乗って、手や足を挟まない事を確認すると優しく扉をしめ、運転席に乗り込んだ。

 

 

 

「シートベルト良いっすか? それでは車出します。寒くは無いすか? 音楽かけます?」

 

「大丈夫です。安全運転ですよ? ボクやボクのお手伝いをするプロデューサーが怪我でもしたら、世界の損失ですから」

 

 

 ”イエッサー!”とプロデューサーが敬礼すると、車は発信する。

 

 

 

 窓から冬ですっかり暗くなるのが早くなった町の街灯で照らされた景色が動き出しすのを穏やかな気持ちで見つめた。

 

 

 

 

 

 プロデューサーと出会って半年過ぎ、あれからボクはアイドル候補生としての生活を過ごしていた。

 

 あの時ボクと出会ったこの人はアイドルのプロデューサーで、街でスカウトに勤しんでいた所でボクを見付け、声をかけたそうだ。

 

 

「……最初プロデューサーに声をかけられた時はただのチャラ男のナンパかと思いましたねぇ」

 

「ハハッ、それ皆に言われます。一応スーツ着てるから真面目に見えると思ったんスけどね(笑)」

 

 

 それはスーツに対し信頼を寄せすぎである。

 ていうか茶髪にスーツにド派手なネクタイなんて、寧ろチャラさが増している。

 なんて言うか、この人の趣味ははっきり言っておかしい。アイドルのプロデューサーをしている者が地味ではいけない、そんな良く解らない自分ルールを持っているからこんな奇抜な格好になったらしい。ある程度個性が許される芸能界とはいえ、基本サラリーマンのプロデューサー業に支障をきたすのでは?と思ったが、この人は人付き合いの幅広さを武器に乗り切っている。

 

 そんな武器にボクのプロデューサーとして徐々に活躍を見せてくれて、長い訓練期間を終えたボクに少しづつ仕事を持ってきてくれるようになった。

 

 

 最初はアイドル? と思ったが、やってみたら中々どうして、ボクの天職ではありませんか。

 

 ボクの魅力を世界に伝えられ、そして世界はボクの可愛さを堪能出来る。WINーWINの関係とはこの事でしょう。なんて素晴らしい相互利益!

 

 

 

 

 あの日この人に出会えた事は、ボクと世界の幸福に繋がったと思っています。

 

 そしてこのプロダクションにとってもボクがいなくてはならない存在だというのは解っている。何故ならこのプロダクションは小さく、所属アイドルがボクしかいないのだ。恐らくプロデューサーがこんな見た目だから誰も集まらないんだろうな~、とボクは踏んでいるが、ボクが必要で無くてはならない存在なのが嬉しいので、あえて教えてあげない。

 

 お互いが無くてはならない、それは共生と言える。だから、ボクを大切にしてくれると心から安心出来るんだ。

 

 好きな事を言えて、好きなように振る舞える。

 本当の自分を出していられる。安心する。

 

 この軽薄そうなプロデューサーが、今ではボクのかけがえの無い相棒になっていた。

 

 

「プロデューサーさん? ボクが大事ですか?」

 

「勿論、世界一大事っすよ!」

 

 

 

「ボクは可愛いですか?」

 

「勿論、世界一可愛いっすよ!」

 

 ボクは満足げにフフーンと鼻を鳴らす。

 

 毎日行われるこの軽いやり取りに、ボクは幸せを感じていた。

 

 

 

 

 

 ボクは友達がいません。でも、今はそれが辛いと思わない。

 

 ボクにはこの人とプロダクション、そしてアイドルがある。友達に割く余計な時間が無いからこそ、よりトレーニングを励む事が出来る。

 だから、ボクは友達なんかいりません。そう、ボクは強がりではなく本当にそう思っていた。

 

 今は何よりもこのプロデューサーとこの事務所が大切だ。どんな奴にもこの大切な小さなお城を壊させはしない。この城の姫として、あらゆる敵からもこの国を守ってみせる。まるで姫騎士のように。

 

 戦う凛々しい鎧ドレスのボク、アリですよね! 可愛さとカッコよさが合わさり最強に見える。それほどでもあります!

 

 

 その為にはまずお仕事! お仕事を沢山取ってお金を稼ぎつつ知名度を上げなくてはなりませんね。早速今日の仕事についてプロデューサーに確認だ。

 

 

 

 

「さてプロデューサーさん。今日のお仕事はなんですか? なんであろうと完璧にこなしてみせますよ!」

 

 

「はい、まずはローカル番組での企画で”巨大サメと戯れよう”っすね!」

 

 

「ふんふん、早速テレビのお仕事じゃないですか。サメのグロチックさがボクの可愛さをより引き立てる事でしょう」

 

 

「そして午後からは吉田沙○里VSアイドル20人! 可愛いは”言わせる”エキシビジョンマッチです!」

 

 

「わあ、超有名人との対談まで出来るなんて流石ボクですね!」

 

 

「最後は、鳥アイドルコンテストで、レインボーブリッジから空に向かって……」

 

 

「ボクが天を舞うなんてまるで天使じゃあないですか! ナイス演出!」

 

 

 

 

 

 ……って

 

 

「殺す気ですか!!!!?」

 

 

 

 さっきから嫌な予感、どころか嫌な予断しか出来ないような仕事のラインナップにボクは運転中にも関わらずプロデューサーの頭両手でつかみかかる。

 

 

「幸子さん!! あぶ、あぶねえっす!!」

 

 

「仕事の内容がですよね!?」

 

 

 サメとか鳥アイドルとか人類最強だとか!

 それ明らかに芸人とかがやる奴じゃないですか!

 

 

「いや確かに危険な感じの番組に聞こえるかもですが、何度も安全確認はしてますから大丈夫っすよ! サメは絶対壊れない柵の中から眺めるだけですし、鳥アイドルコンテストは下が網になってますし! 吉田沙保○さんは何も本気で戦う訳じゃありませんから! ちょっと軽く関節技っぽいこととかするだけで……」

 

 

「そのあの方にとっての”軽く”がボクには致命傷になりかねないか心配なんですが!」

 

 

 サメも鳥コンも怖いですが一番恐ろしいのはそこなんですよ! お医者様の注射の”ちょっと痛いですよ?”の比では無い怖さ。だからといってあからさまに痛くなさそうにされてはテレビ的に面白くないからある程度はやって貰わなくてはならないですけどね?

 

 

「そこは絶対怪我とかしないんで大丈夫っす。正直、テレビ的にはかなり”美味しい”っすよ!」

 

 信号で止まったプロデューサーが笑顔でグーサイン。うぜえ。

 

 

 そもそもアイドルに”おいしさ”を求めてる時点で既に違うんですよねプロデューサーさん!

 

 でも、だけどもテレビで相当視線を取れるお仕事である上に有名人とのコラボでさらにボクが有名になる一歩としては確かで、確かに良い仕事を取ってきていると言えるのが困る。

 

 有能といえば有能ですがアイドルプロデュースとしては、このボクのプロデュースとしてはまだまだとしか言いようがありません! 全く、この人は……

 

 

「仕方ないですね! ダメダメなプロデューサーが精いっぱい取ってきた仕事ですから、やってあげますよ! 本当、ボクが担当で良かったですね? ボクじゃなかったら出来ない仕事でしたよ?」

 

 

「はい! 幸子さんならと思って取ってきました! 大変とは思いますがよろしくお願いします!」

 

 

 

 そういってプロデューサーは青に切り替わると同時に、周囲を確認し車を出発させた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 アイドルになってからの日々は

 

 

 

 

「幸子さん! CMの仕事取れたっすよ!」

 

 

「でかしましたプロデューサーさん! なんのCMですか?」

 

 

「梅酒です」

 

 

「バカですか!?」(未成年)

 

 

 

 

 

 忙しくて楽しくて。

 

 

 

 

「この間募金活動していたボランティアの方々に、ボクのこの素晴らしい笑顔を寄付してあげましたよ。ボクはなんて優しいんでしょう!」

 

 

「イメージダウンになるんで止めて貰えます?」

 

 

 学校や夜の一人の時間がとても長く感じるのに、実際には此方の方が時間的に長いにもかかわらずあっという間で

 

 

 

 

「アイドルになったら、ボクの可愛いグッツやアイテムが沢山出来ますね~」

 

 

「成程~。輿水幸子パンケーキとかっすかね?」

 

 

「可愛くってナイフが入れられないから、それは売れませんね~!」

 

 

「幸子クッションとかっすか?」

 

 

「ボクを尻の下に敷くなんて、とんだ無礼者がいたものですね!」

 

 

「じ、じゃあ無難にストラップとか……。鞄に皆がぶら下げて……」

 

 

「ボクを吊るすとかどんな性癖なんですか!」

 

 

「よし。幸子さんグッツは無しっすね!」

 

 

 

 公園でプロデューサーに出会ってから

 

 

 

「幸子さんはトップアイドルになったら、まず何をしたいですか?」

 

 

「そうですね~、まずはボクの慰霊碑を立てて、その周りに幸子ランドを建てたいですね! ボクの可愛さをたっぷり堪能できる夢の国です! ではプロデューサーはトップアイドルのプロデューサーになったら何をしますか?」

 

 

「毎日の発泡酒をビールに、つまみのコンビニのちくわにチーズを入れますね~。やっべ、テンション上がる」

 

「おっさん臭い上に小さいですね!」

 

 

 

 

 

 あっという間に半年が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 テレビの撮影でオーバーなリアクションをとり、

 

 

 イベントのお手伝いで精いっぱいスタッフにアプローチをして、

 

 

 エキストラの役で、その役割を越えない範囲で目立ちまくってやった。

 

 

 全てボクがメインの仕事ではない小さな役だけれどボクのアイドル活動。

 

 忙しく、大変ではあるけれど一緒に頑張ってくれている人がいたから。

 

 

 

 ボクは辛くは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事が終わった車の中。

 

 周囲は夜になり、プロデューサーは遅くなったのでボクを下宿している寮に送ってくれていた。

 

 そんな時、ふと車を止めてボクを公園の高台に連れ出して、そしてプレデューサーはカメラを取り出した。

 

 

 

「こんな所で宣材写真の追加撮影ですか? 全く、プロデューサーはいつも急に、ですね」

 

 

 

 公園の夜景を見て、この場所でも写真を撮りましょうとボクを車から手を取り、連れ出して写真を撮影している。

 

 この人はたまに、空が綺麗な夕闇だから、雨上がりの澄んだ景色が綺麗だから、と普通に撮った宣材写真があるというのに、こうして事務所のカメラでボクの宣材写真を撮ろうと提案してくる。

 

 プロが撮った写真では無いのだから当然使われる事なんて無いのに、この人はいつでも”今のボク”をこうして収めようとしてくるのだ。

 

 

「この夜の街を背景に撮ったら、またいつもと違った幸子さんが映るじゃないですか。だから少しでも多くの種類の宣材を撮っておきたいんすよ。一枚だけでいいんで!」

 

 

 言って、高台に立つボクから少し離れてしゃがみ込み、ボクにレンズを向ける。

 

 

「こんな近所の公園なんかでボクの宣材写真なんて、本当プロデューサーったら甘いんですから。最低でも函館の夜景位バックにしないとボクの可愛さについてこれませんよ?」

 

 

 ダメ出しをしておきながらボクの声は弾んでいる。

 

 

「大丈夫っすよ! どこで撮ったって皆が見るのは幸子さんなんで!」

 

 

「成程! それならわざわざ函館まで行く事無いですね! 流石ボクのプロデューサーさんです! 経費をケチろうという魂胆で無い事を信じてあげますよ!」

 

 

 ボクが自慢げに鼻を鳴らすと、プロデューサーのカメラのシャッターがきられる。ボクは自分のアイドルの宣材写真も自分でやろうとする、この人の無駄な努力が嫌いではない。

 

 だって、その間だけはこの意外にも視野が広く周囲に気を配っているプロデューサーがボクだけを見てくれているから。

 

 

「そんな事言いませんよ! 確かに本社のちひろさんに、経費について厳しく言われてるからって、自分のアイドルの為のお金を惜しんだりなんかしないんで!」

 

 

「本社勤務の人とはいえ女性に頭が上がらないなんて、情けないプロデューサーさんですね。このボクをプロデュースしているんだから、もっと堂々としてくれないと困りますよ?」

 

 

 言われなくたって新しくポーズを変えて決めてあげると、終わろうと一瞬カメラを顔から離したプロデューサーさんが戸惑い、微笑み、ボクの意図を汲んでそして再びシャッターを切る。

 その意思を感じて、ボクは高台のベンチに寄りかかり、口元に手を寄せて得意の微笑を向けてあげる。

 

 

「そう言っても、ちひろさんマジすげぇんで。そういうの、性別だの年齢だの関係無いんすよね~。だから頭が上がらないっすわ。怒ると怖いし……」

 

 

 

 

 

「全く頼り無い人ですね。ボクがいないとプロデューサーはダメダメなんですから!」

 

 

 シャッターの音とボク等の声だけが静かな夜の公園に響く。

 

 肌寒いはずの夜の風が何故か心地良く、疲れているはずのボクの体がいつもより軽くて弾んでいる。二人だけの世界で、聞こえないはずの無い距離なのに、ボクの声はいつもより大きくなってしまう。学校では考えられないくらいはしゃいでしまっている。そしてボクが今最も嬉しい言葉をプロデューサーが投げかけてくれるんだ。

 

 

 

「そうっすね。幸子さんがいないと、自分困ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カシャ……。

 

 

 

 

「……お、幸子さん! 今の笑顔、今までの中で一番素敵っすよ! 今回こそ宣材写真に使って貰えるかも! 武さんにも見て貰おうかな!」

 

 

 

 そういって、プロデューサーは自分の撮った写真を自我自賛して大騒ぎしている。そんなこの人の隣をボクは呆れたような顔で、大きく伸びをして態度で今日の撮影の終了を示した。そしていつものように嫌味を一つ。

 

 

「被写体がいいから良く見えるだけですから、プロデューサーの腕じゃ無理ですよ。もういいですから、さっさと帰りましょう。今日は疲れましたし」

 

 

 それに今の表情はアイドルとしての顔じゃないから、多分宣材にはなりませんから。

 

 

 そしてボクはプロデューサーの裾を引っ張りながらボク達の車に引っ張って走り出す。

 

 

 

 

 

 

 ありがとうプロデューサーさん。

 

 仕事を取ってきてくれて。ボクを支えてくれて。ボクをアイドルにしてくれて。

 

 ボクを、見つけてくれて……。

 

 

 ボクは小さな声でありがとうを囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 永遠に続いて欲しいと願ったこの時間、しかしすべての物は永遠ではない。

 

 とうとう、この生活が変わる瞬間が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで幸子さん、夕食でも行きませんか?」

 

 それは、突然の夕食の誘い。

 

 いつものレッスンの帰り道、いつもより早い解散の日に車の中で提案された。

 

 

 

 確かに1900過ぎましたものね、お腹が空きました。あんまり遅くにご飯を食べる事は美容にも良くないし、いいでしょう。御一緒してあげますか!

 

 

「かまいませんよ。このボクに相応しい所に連れていってくださいね? 言っておきますが生半可な所ではボクを満足させる事は出来ませんよ!」

 

「そう言ってくれると思ったっす! びっくりド○キーでいいすか?」

 

 

「いいですね!」

 

 

「簡単すね!」

 

 

 この人は何を言っているのでしょう。

 和洋中全部選ぶ事が出来てお店の内装も凝っていて、素晴らしい所じゃないですか! びっくりドン○ーの良さが解らないなんて、プロデューサーは可哀想な人ですね!

 

 

「まあ、今回はもう決まってた用な物なんスが……」

 

 プロデューサーが車を駐車場に入れる。

 そして車から出て後部座席の扉を開いた。

 

 ボクが手を伸ばすとボクを引っ張りあげてくれる。

 

 

「幸子さん、今日は会って欲しい人がいるっす」

 

「会って欲しい人?」

 

 

 なんだ、プロデューサーの二人で食事ではないのですか。仕事の人かな?

 でも仕事ならいつも数日前には事前にボクに伝えてくれる人なんですが、今日は急ですね。

 

 そんな風にボクは呑気に、これから起こる出来事をいつもの日常の中の物と決めつけていた。

 

 

「ふふふ……! 驚いてください幸子さん、今から会うのは、幸子さんと同じうちの事務所で働いて頂く事になったアイドルです。お待たせしました、仲間ですよ?」

 

 

 

 ……え?

 

 

 プロデューサーの軽く発表されてしまった事実にボクは戦慄する。

 

 

「事務所に、ボクに以外の、アイドルが?」

 

 

 

 この満たされた生活に、また新たな変化が訪れたのだ。

 

 

 ボクは、小学校の友達や家族達に囲まれていた幸せな生活が、新たなる変化によってあんな風に変わってしまった事をどうしても思い出す。

 

 

 

「はいそうっす! まだ、アイドル見習いですが、幸子さんに仲間が出来るんす! 今まで1人で負担をかけてしまいすみませんでした」

 

 

 ……そんなの気になんてしてない。

 

 ボクは笑顔で取り繕うプロデューサーに、下唇を噛んで俯く事でしか答えられなかった。

 

 ボクは、どんなに忙しくたってあの事務所の為ならかまわなかった。

 今のこの幸せが続くならと願う事があれど大変なんて思った事なんて無かった。

 

 

 仲間なんて必要無い、あの場所にはボクだけいれば……いいのに。

 

 

「来週から正式にうちの事務所に来て頂く事になってますので、今日は顔合わせをして頂きたくて。皆良い子ばかりっすよ。友達になれると良いっすね!」

 

 

 そしてプロデューサーはお店の扉を開き、ボクを招き入れる。

 

 ふと、学校のクラスメイト達の顔が頭によぎった。最初は友達のように振る舞って、時には笑顔で、時には怒ったようにしてボクを迫害する彼女達の顔が。

 

 

 

 ……ボクに仲間なんて、友達なんていらない。もう、幸せな時間に余計な変化なんて必要なんて無かった。

 

 ボクにはプロダクションとアイドルと、そしてプロデューサーさんがいればそれで良かったのに。

 

 そうしてボクは憂鬱な気持ちになりながら、お店に入っていった。

 

 

 店内に入ると店員さんが手慣れた所作でボク達を禁煙席に連れて行ってくれた。

 

 ただひたすら憂鬱なボクに戸惑うプロデューサーさんを横目に、ボクはその新しい仲間とやらを目線で探す。

 

 せめてクラスメイトのような気持ち悪い笑顔を浮かべないような人達である事を祈りながら。

 

 

 

 

 順番に席を見ていく。

 

 

 優しい笑顔の家族が、お父さんが息子たちにご飯を振る舞っている。楽しそうでなによりだけど、この席じゃない。

 

 

 

 落ち着いた感じのカップルが、二人で同じメニューを頼みながら会話を楽しんでいる。女性の方は綺麗な人だが、アイドルになろうという人がいきなり男女関係を見せびらかすハズもなく、ココでもない。

 

 

 

 下品な笑顔を浮かべながら学校の先生の悪口を言い合って笑う女子高生達の姿が目に入る。ボクは、どうしようもない感情が胸に一杯になりながら目を反らす。でも、幸運な事にココでも無かった。

 

 

 

 

 そして、窓際の広めの席に近づくと、プロデューサーが明るい声音でボクの背中を叩いた。

 

 

「さぁ、この方達が幸子さんと仲間になるアイドル達っす!」

 

 

 

 

 恐る恐る、片目を開きながらその席に座る人たちを見上げた。

 

 すると、ボクが想像していた悪い予感とも望みともかけ離れた三人がボク達を見上げて座っていた。

 

 

 

「ふ、ふひひ……」

 

 

 キノコを鉢に入れたまま半笑いを浮かべる、色素の薄い女の子。

 

 

 

 

「アーハハハハ!」

 

 

 

 おでこを大胆に開けたワンレンのパンク寄りなファッションセンスの、人目を気にせず高笑いをする女の子。

 

 

「あ、あのプロデューサー、もう帰りたいんですけど」

 

 

 くるくるカールのお嬢様のような髪型と服装をした、既に帰り支度をしている弱気そうな女の子。

 

 

 

 

 

 

 そこで出会った人達の笑顔? はボクの考えていた笑顔とかけ離れたとんでもない人達だった。

 

 

 

 

 続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







続く


アドバイスを受け、間に物語を追加しました。

また幸子さんとプロデューサーの二人の話を挟むかもですがよろしくお願いします!

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