ランキングに入っていたんですね。
今後とも頑張りますのでよろしくお願いします。
義務教育9年目の俺達に、大人たちはいつも
「進路は?」「将来の夢は?」と聞く。
大抵の中学3年生はこう答える。
「わからない」「まだ決めていない」
よりよい高校、大学、会社へと進むのがふつう。
そう、ふつうに生きていくだけ。
事実、俺はその通りに生きていた。
少なくとも前世の俺は。
朝6時に起き、顔を洗い、歯を磨いた後、15分間じっくり身体の調子を確かめるようにストレッチをする。
いつも通り走りに行こうかとも考えたが、神奈川は少し遠い。9時半には向こうに着くのを逆算して朝食と弁当の準備をする。
両親と遅れて起きてきたアニキ(ここしばらく仕事場に籠もりっきりだったせいか辛そうだ)に挨拶をして7時には家を出た。
北谷草の駅を出て東京方面へ。
夏休みといっても社会人は仕事のある平日だ。7時台の電車はスーツを着たサラリーマンで混んでいる。
文庫本を読むにも集中しにくい環境のため、MP3プレイヤーを取り出しイヤホンを耳に。
ついでに携帯をチェックすると清水さんからメールが来ていたので返信する。
スマートフォンが普及していない時代だ。携帯と音楽プレイヤーはまだ別。荷物が増えて少し不便だなとも思う。
テニスバッグを金網に載せ、試合前によく聞く、心を落ち着かせてくれる雨宮洋一郎のピアノを含めたマイリスト、クラシックの世界に没入する。
コージィーとか国吉ちえみとかが売れてるみたいだけど全然ピンと来ない。
日高舞は実際聞いたら凄かったんだけどな。あと、マイナーでほとんどCDを出さずに消えたけど音無小鳥は結構良かった。
そう言えばアニキは前世の俺と同じでロックが好きだったな。
ベル・アームは売れなかったアルバムが一番良かったとか。あとはジェネレーション69あたりが学校でも好きな奴が多い。
洋楽はまだそんなに手を出してないとか。最近のオススメバンドはROOM13って言ってたっけ。
……味覚も含めて音楽の好みなども前世とは微妙に違っている気がする。
まだ思い出せていない記憶と関係があるのだろうか。
前世のことを思い出す。
中学校は部活を頑張りながら、特に眼を見張るような結果を出すこともなく、
3年夏休みの引退後、受験勉強を頑張り進学校へ。
高校は特にやりたいこともなく、本ばかり読んで過ごしていた。
勉強はそこそこ。本を読むのは好きだったけれど国語の授業は嫌いだったので理系を選択。
といっても別に機械とかが特別好きというわけでもなかったので、
理科はセンター試験だけ、二次試験は得意だった英語と必死で世界史を勉強してそれなりのレベルの国立大学の言語系学部に入った。
ところどころ、まだ記憶が抜けてる気がする。
大学はバイトと、たまたま取ったプログラミング言語の授業が面白かったので、
それにはまっていたことしか覚えていない。サークルとか入ってたっけな、どうだろう。
プログラミングを3年の終わりくらいまで独学でかなりやって、
あとはバーでバイトをしてたからそのときの対人能力を活かして就活。
IT系の中では比較的まったりした大きい会社を選んでそこに入社した。
そういえば大学4年のときのこともほとんどまだ思い出せてない。
まあ、たぶん卒論とかバイト、あとは遊んだりで時間を潰していたのだろう。
前世のことを考えると、いつもカサブタが上手く剥がれないような、妙な違和感を感じる。
まあ、転生に関しては普通の人間とは違うのだから仕方ない。テニスに集中しているときは考えることはないけれど、大きい大会が終わった後で気も抜けている。自分に限らず、何かに集中していないときは余計なことを考えるものだ。
アニキ、シュージンはいよいよ今日、少年ジャンプに初めての作品を持ち込む。
今まではどこか気が抜けた感じもしていたが、サイコーと組み始めたここしばらくの集中力はずば抜けていた。
才能もあるのだろうけれど、人間はきっと自分で望んで決めたものに挑戦するときが一番力を発揮するのだろうということがよく分かる。
昨年の大会、決勝で池爽児と打ち合ったときのように。
あの試合は不思議だった。
共感覚とでもいうのだろうか。
あのとき、なんだかあいつの考えていることや実力や才能が、他人やあるいは池爽児自身にも分からないような深くまで分かったような気がした。
そうだ。あれはたぶんハンターハンターのキメラアント編、宮殿への突入の際に回想の中でゼノが解説していた、心的拳聴がたぶん一番近い。
大会も終わったし、そろそろ進路のことも考えないといけない。
前世とは違う。でもまだ将来を決めるには何かが足りない。
思い出せないこと。死ぬ前の数年に謎が残っている。
会社に入ったあとの5年間の仕事のことはほとんど覚えているのに、会社を辞めた過程とか、
その後3年くらい、何をしていたのかが全然思い出せない。
貯金が600万くらいあって、退職金が100万くらい出た。退職後は失業手当を貰ったことも覚えている。
でも、その後何をしていたのかの記憶が無い。
最後の記憶。恐らく転生の前の日は、9月10日だった。
退職後のことは思い出せないことが多い中、それだけは何故か覚えている。
何か祝日とか、そういうわけでもない。
いったい、あの日に何が起きたのだろう。
「やあ、高木くん。わざわざすまないね。大会が終わったばかりだというのに」
「いえ、STCの施設を一度きちんと見てみたいと思っていましたから」
「遠慮無く見ていってほしい。ほら、ナツもせっかく来てもらったんだからきちんと挨拶しなさい」
「わかってますよ、コーチ。高木さん、よろしくお願いします!」
難波江優に負けたこの前の大会。
表彰式の終了後に声をかけてきたのはそれまで接点のなかった鷹崎奈津だった。
準決勝で清水さんに敗れ、3位決定戦で勝利した彼女と話したのはこのときが初めて。
翌日、彼女の所属するSTCの三浦コーチから連絡が来た。
鷹崎の練習に付き合って欲しいというのと、一度STCの見学に来ないかとのことだった。
そういった事情で今日はわざわざ埼玉から神奈川までやってきたのだ。
クラブの入り口にいたのは三浦コーチ、鷹崎。そして、なぜか清水さんだった。
「あのっ、今日はよろしくお願いします」
「清水さん? どうしてここに?」
「私、東京が実家で。大会も終わったし、夏休み最後なので進路の関係もあってこっちに来てたの」
そう言うと、彼女は顔をほんのりと赤く染め、顔を傾けて前髪で表情を隠した。
「それで、高木くんがSTCに来るってメールで知ったから。打たせてもらえないかなって」
「こちらも考えていることがあってね。池君の海外での活躍もある。今後も彼のような選手を育てていく環境を作るのは我々の仕事だ。所属クラブや学校を越えて有力選手を集めた練習会などをやっていきたいと考えている。その企画のためにテストしてみたいというのもあって、ちょうど良い機会だと思ってね」
そう三浦コーチが言った後、ロッカールームや筋トレ用の機材が置かれたトレーニングルーム、コートなど一通り説明を受け、練習が開始された。
男子は同学年の深澤諭吉、天才小学生の田島勇樹などがいたが、江川逞はいなかった。昨年の大会で池爽児に負けて以来、スランプというか腐っているようなのでそのせいかもしれない。
午前の練習を終え、昼食の後、しばらく身体を休ませる昼休みに入り、清水さんと深澤・鷹崎、それに三浦コーチと話していると話題は自然と今後のことになっていった。
「高木くんは、進路はどう考えているのかな?」
「それは、テニスのことを言ってるんですよね」
「ああ。もちろんそれ以外の要因もあるかもしれないが、君レベルの実力者なら全国の強豪校からも声がかかっているかと思う。正直な所、今の環境では不満があるのではないかと思ってね」
「……そうですね。こちらの施設に比べるとうちのクラブはどう見ても劣ります。コートなど基本的な設備はそろっていますし、悪くないコーチはいますが、やはり全国的に見た場合に知名度も低いですし。ただ、やっぱり家から自転車で10分以内という立地条件は自分で試行錯誤、努力するには最適だと考えています」
俺の言葉を聞くと、三浦コーチは少しだけ表情を険しくした。
「厳しい言い方をするかもしれないが、それは、一人で頑張った場合の話だ。見た感じでは君の身体はそろそろ成長が止まる。これからはより筋力トレーニングなどの分野で専門的な知識が必要になるだろう」
そう言った後で、しばらくの沈黙。
すると、三浦コーチは何かに気づいたように驚いたように口を開いた。
「いや……まさかとは思っていたが、君は、プロになる気がないのか……?」
「……どうなんでしょう。冷静に考えてみれば、今年の決勝みたいな組み合わせの不運とかはそれぞれの試合に対する戦略を変えればクリアできると思います」
学校の友人や軟式テニス部の知り合いには言えないことが、何故か口にできた。
多くの選手を育ててきたきちんとした指導者でありながら、自分の普段通っているクラブのコーチほど距離が近くないから逆に言いやすかったのかもしれない。
「でもね、やっぱり思い出してしまうんです。去年の決勝を」
分かってしまったのは池爽児の力だけではない。
「ああ、俺の才能は池爽児には遠く及ばないんだなって」
それと比較した、自分の力こそを、思い知ったのだ。
「あいつが目指すのは世界のトップです。それが許された人間なんです。そして、それは俺には与えられなかったものなんです。少なくとも、今の時点ではまったくそこを目指すのに自信、いや、うぬぼれを持てるような根拠が何一つないんです」
ふと周りを見る。鷹崎の表情は曇っている。そして、清水さんの顔は俯いていて見えない。
「プロでそこそこの成績を残して、その後は指導者に。あるいはメーカーに入ったりテニスに関わる仕事をする。そんな選択肢は俺にはまったくないんです。俺は、何をやるにしてもプレイヤーとして生きていきたい。こればっかりは性分だからしょうがありません。テニスのプロとしてやっていけるのは30歳、長く見積もっても35歳まで。これから先の20年、テニスをやったら他のことはできないことを考えると、簡単に結論は下せません」
深澤は確か関東大会に出ることは結構あるが、全国にまで行ったことはない。
思うところがあるのだろう。俺の言葉を真剣な表情で聞いている。
「大学受験を本気で考えたら、いっそ、キレイにここで辞めてしまうのも良いのかもしれませんね」
「……そうか。すまなかったね。いずれにせよ、まだ少し時間はある。そんなに結論を急がなくても良い。私で良ければいつでも相談に乗るよ」
重苦しい雰囲気の場を無視するように、やる気のない挨拶が聞こえた。
「ちーす」
「タクマ! 一体、どうして遅れたんだ」
180cmの俺よりも一回り大きい恵まれた身体。ひとつ上の学年で全国大会の常連、江川逞だった。
「……好きなバンドのギタリストが撃たれて瀕死の重体だって昨日のニュースでやってたんすよ」
「まったく、何をふざけたこと言ってるんだ! たるんでるぞ」
江川の声には悪びれたところがない。
こういった普段の様子では図太いようでいて、しかしプレー自体はしばしばメンタルに大きく影響される繊細なタイプ。
他の人間に対する態度と三浦コーチに対する彼の態度はだいぶ異なる。彼は彼で三浦コーチを信頼しているのが分かる。
「コーチには分からないかもしれないですけどね、ダイブリのエディ・リーって言えば世界最強のギタリストですよ」
ちくりと。
靴の中に小さな固い石が入っていた時のような違和感。
思い出せ。と頭のなかで声が聞こえたような気がした。
俺は、反射的に思わず二人の会話を遮った。
「ちょっといいですか、タクマさん」
「あ? 何だよ?」
面倒そうにこちらに向き直る江川。
俺は振り絞るように声を出した。
「ダイブリってダイイングブリードのことですよね」
「ん、ああ。そうだけど」
面食らったように、江川は声を詰まらせる。
しかし、今はそんなことに気をかけているような余裕はない。
やはりそうだ。
ダイイングブリード。音楽漫画『BECK』の中で最強のバンドと呼び声の高いアメリカのロックバンド。
主人公コユキたちとも関係が深いそのダイブリのギタリスト、エディの死は物語の転機となっている。
少なくとも、前世、漫画の中ではそうだった。
彼が、死んでいない?
「エディが撃たれたって、死んでないんですか。瀕死の重体……?」
「なんだか死んでなきゃいけないような言い方だな。頭ととっさにかばった両手を撃たれて意識不明の重体、命だけは取り留めたが脳に障害が残る可能性が高いし、もう二度とギターは弾けないだろうってさ」
思い出せ。
他にも忘れていたことがあったはずだ。
思い出せ。
それはすごく大切なことだったはずだ。
思い出せ。
俺は今、自分が動いたとしても動かなかったとしても「世界は変わる」っていうことをようやく実感したんだ。
あとは忘れているそれを思い出せば――
「おい、どうしたんだよ。急に黙っちまって。まあいいや。まだ時間あるだろ? せっかく来たんだから俺とも打ってけよ。コーチ、良いですよね」
「まあ、やるべき練習は他にもたくさんあるが、せっかく高木くんが来ているんだ。午前サボった中で甘やかしたくはないが、仕方ない。試合形式でやろうか」
そんな二人の声が通り過ぎていく。
「待ってください」
ぼんやりとした頭に、やけにくっきりと響く声。
「高木くんとは私が打ちます」
今までに見たことのないような、何か大切なことを決意したような顔をした清水さんだった。
「それで、私が勝ったら、高木くんはもうテニスを辞めるなんて言わないでください」
江川が清水さんの言葉に突っかかる一幕もあったが、結局、コーチの取り計らいで帰る時間も考えた末、鷹崎、江川、清水さんとそれぞれ1セットマッチをすることになった。
ぼんやりと。
俺は何かを必死で思い出そうとしていた。
200kmのサーブ。
身体は自動的に反応し、リターンを決める。
ときに決まらなかったリターンに、ボレーが返ってくる。
繊細にコントロールされたそれに、身体は再び自動的に反応する。
本気になっていない、磨き上げられていない今の江川逞では、俺の相手にはならない。
「ゲームアンドマッチ、ウォンバイ高木。カウント6-3」
薄い紙の膜を張ったすくい枠で、記憶を自分の奥深くから汲み上げようとする。
あと一つ、何か大切なことがあった。それを俺は思い出さないといけない。
ときにオーソドックスな選択肢から外れた、意図の分からない感覚的なプレー。
一方で、男子ですら反応できないような際どい俺のショットにも反応する輝きの片鱗。
だが、まだ足りない。
才能が、積み上げられたものが、何よりも覚悟が。
プロになりたいと思っていながら、一度も清水さんに勝てないという理由だけでどこか心の奥底では自分を信じきれていない今の鷹崎奈津では、俺の相手にはならない。
「ゲームアンドマッチ、ウォンバイ高木。カウント6-2」
頭は考える。
まだ思い出せない記憶を。
身体は反応する。
しっかりと整備された信頼性のある機械から生み出されたようなプレーに。
ノイズが走る。
私を見て
頭は考える。
自分の核にある大切な何かを。
身体は反応する。
獣のような俺のプレーとは真逆の、緻密に計算されたプレーに。
ノイズが走る。
私を見て
頭は考える。
自分が自分になるために必要な何かを。
ノイズは気がつけば、ざあざあと固い地面を叩く無数の細い雨のように俺の意識を捉えた。
自動的な反応だけでは身体は対応しきれなくなる。
直径6.5cm強の黄色い硬球が、ラケットの先を滑り抜け、後ろの金網に刺さる。
いやに清水さんの身体の輪郭がはっきりしているように感じた。
「ずっと思ってた。私はどこまで強くなれるのかなって」
ネットを隔てた向こう側にいる相手のつぶやきが、聞こえるはずがないのに聞こえる。
「きっと、才能じゃ鷹崎さんに負けてる」
ボールを打つための一連のフォームは、機械のような精密さを越えて、さらにイヌワシのような気高い猛禽類が滑空するために翼を広げたときのよう。なめらかな美しさを兼ね備えるまでになっていた。
「背が高いわけじゃないし、足が特別速いわけでもない」
頭と身体がバラバラでは、この相手には対処できない。
意識が切り替わる。
「江川さんみたいに凄いサーブが打てるわけでもないし、矢沢選手のライジングみたいにこれだけは誰にも負けないっていうものがあるわけでもない」
互いを行き来する直径6.5cm強の黄色い硬球は、
一球ごとにより速く、より厳しいコースを当然のように跳ねまわる。
「お母さんの期待に応えられないかもしれないことが、すごく怖かった」
積み重ねてきた努力を思う。
「でも、そんなのどうでもいいことだったんだ」
ときに自分の才能を疑い、それに屈しないための工夫と挑戦を思う。
「これは私の人生なんだ」
自分の歩く道を自分で決め、迷わずに進んでいく覚悟を。既にそれを歩み始めている事実を思う。
「去年のあの日、池君と高木くんの試合を見た時思った」
答えは初めて足を踏み入れたときよりも、いくらか狭くなった、このコートの中にあったのだ。
「私はもっと、もっとテニスを好きになっていいんだって」
前世のことを思い出した時から、きっと身体と心はバラバラだった。
「私は私のやってきたことをもっと信じていいし、もっともっと遠くまで行けるはずだって」
自分の中には同じ魂が二つ、重なるように存在していて、それはきっと何とか一つになろうとしてきて、なりきれずにいたのだ。
「私が私のまま、どこまで行けるのか知りたいって」
気づかせてくれた彼女に感謝する。
その動作としぐさのすべてを焼き付ける。
それにしても、ああ、ラリーがこんなに愛おしいと思ったのは初めてだ。
「そしてもし許されるのなら」
思い出した。
「あなたがどこまで行けるのか知りたいって」
前世最後の日。
9月10日は、電撃大賞の、4次選考の発表日だ。
「私、もう負けない」
試合の後で、彼女は涙を拭くこともせずにそう言った。
「鷹崎さんにも、中城さんにも、他の人にも」
それは宣誓であり、誓約だった。
「高校のうちに海外に行って、プロになる」
さっきまでの試合の影響か、感覚がひどく鋭敏になっている。
彼女の言葉は俺だけではなく、鷹崎をも強く揺さぶっていた。
俺にはそれが見なくても分かった。
「天才とか、そうじゃないとか、関係ない! 積み重ねていったものが、無駄になることなんてない! 私が世界のトップと戦えるようになってそれを証明する」
彼女はもっと強くなる。そして鷹崎もきっと強くなる。
そして、俺は。
「それで、私が高木くんの気持ちを変える。私があなたにテニスを辞めさせないから」
俺は何も言わず、ただその頬を流れた涙を拭った後、彼女の頭に手を載せて微笑んだ。
途中まで一緒だった帰りの電車の中はお互いに無言。
それでも、十分だった。
俺と彼女は、今必要な分を既に言葉以外の手段で伝え合ったのだ。
プロを目指さないからといって、テニスを辞める必要はない。
でも小説を書いても良い。
答えはいつだって本当はシンプルだ。
どちらも本気でやればいいというだけのこと。
それが、自分が自分であるということだと、ようやく受け止められたのだから。
その日の夕食、アニキとの会話の中で、俺はごく自然に言う。
「今日はっきりしたよ。俺は、もうプロを目指さない」
さて、そろそろ前世で知ることの出来なかった、最終選考の結末を見るために。
小説家になるという夢の続きをはじめるとしよう。
次回よりいよいよライトノベル投稿編に入ります。
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