八神家の養父切嗣   作:トマトルテ

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五十一話:問答 ☆

「全人類の救済…? そんなの……」

 余りにも馬鹿げている。出来るはずがない。子どもだって本気で口にしないような願いだ。しかしながら、この男は本気で言っている。まるで夢見る少年のように、全てを悟った老人のように彼は宣言する。

 

「どうやって成し遂げるつもりなんですか?」

「大量のレリックに込められた無色の魔力をジュエルシードの願望を叶える性質で染め、それを僕のレアスキル(・・・・・)を用いて全世界に広げ新たな理を創る。そして―――全人類を不老不死に変える」

 

 人類の不死化。それは恐らく人類が産み落とされた時から誰かが願ってきた夢だろう。本来であればその実現は歓声と共に迎え入れられるものかもしれない。しかし、それは人類が総出となってその段階にまでたどり着いた場合だ。一人の人間が独断で叶えていいような願いではない。

 

「不老不死になれば本当に人類が救われるのですか?」

「ああ、人類は高次元の生物へと昇華される。朽ちぬ肉体は人間の生存本能を薄れさせ、結果として無益な争いは根絶される。そもそも殺し合ったところで誰も死なないのだから争いの必要性はなくなる」

 

 シャッハの問いかけに律儀にも切嗣は答える。不老不死となれば、もはや肉体は必要が無い。人類は魂だけで活動するような物体へと変質するだろう。彼の言う通りに全人類が不老不死に至れば、生物の根源的恐怖である死の考察の必要は皆無となる。

 

 飢餓とも無縁となり、存在するだけで生き続けることができる。その結果、命を賭して生存を勝ち取る生存競争から、生きる為に他者を殺すという逃れられぬ業から人類は解放されるのだ。

 

「エネルギー問題も解決され、その他全ての社会問題も解決される。全ての人間は救われる」

「まさかとは思いますが……その全てに過去と未来も含まれているのですか?」

「―――当たり前だ」

 

 この世に生まれ落ちた全ての人類を救う。狂気に満ちた答えを切嗣は戸惑うことなく言い切る。悪人も善人も関係はない。等しく人類と定義される存在全てを救い上げる。まさしく神の所業のように。過去すらも歪めて己の願望を叶える。そんな独善的なことが許されるわけがないとフェイトが噛みつく。

 

「死者を悼み、置き去りにしてしまった人々のために未来を作ろうとしてきた人達の努力を無意味にする気!?」

「無意味じゃない。置き去りにした、切り捨てた弱者を救い、未来永劫の平和を成就することこそが彼らの努力に報いる答えだ」

「違う! それは起きてしまったことを無かったことにしようとしているだけだッ!」

 

 まるで彼女の母親のプレシアが娘が死んだという事実を抹消して望んだ世界を手に入れようとしたように。こんなはずじゃなかった世界を否定しているだけだ。そんなものは進歩でもなければ進化でもない。ただ逃げているだけだ。

 

 この世全ての悲しみを取り除く所業は、確かに奇跡と言える価値がある。しかし、その悲しみを懸命に受け止めて、日々を生き抜き、生を全うしてきた人々の努力はどうなってしまうのだろうか。全てが救われるということは彼らの人生そのものの否定となる。少なくともフェイトにはそう感じられた。

 

「……ああ、そうかもしれない。でも、君にだって生きていて欲しかった者達が、救うことの出来なかった者達がいるだろう。彼らが救われることすら君は否定するのかい?」

 

 その問いかけにフェイトはある女の子を思い出す。助けようと必死に抱きしめたその腕の中で息を引き取ってしまった子。生きていて欲しかった。死んでなんて欲しくなかった。笑顔で笑っていて欲しかった。その子が救われるのならどんなに素晴らしいことだろうか。未来を奪われた子どもに再び未来を歩ませる。これが悪であるはずがない。

 

「私は……否定したくない」

「フェイト執務官…?」

「そうだ、それが正しいことだ。君は世界を平和にするべきだ」

 

 俯き切嗣の意見に肯定するような言葉を呟くフェイト。シャッハはそれに恐れるような表情をし、切嗣は僅かに安堵の表情を覗かせる。だが、フェイトが顔を上げた瞬間にその表情は苦々しいものに変わる。

 

「でも―――あの子達が生きた証を、ありがとうって言葉を否定するのはもっと嫌だ」

 

 もし、全ての人達が救われてしまったらあの子の言葉はどうなるのだろう。自らの死を感じ取りながらも最後の最後に想いを込めて言ってくれた言葉『ありがとう』。それは生きた証であり、あの子のありったけの感謝。

 

 全てがなかったことになればそれすらも意味が無くなる。例え、その子自身が生き返ったとしても生きた証を否定したことに変わりはない。だから、フェイトには切嗣の言葉を受け入れることはできなかった。

 

「……シスターシャッハ、君はどう思う?」

「同じく。悲しみや嘆きは確かに肯定されるべきではありません。ですが、肯定されないからこそ忘れてはならないものです。無かったことにするなどもってのほか、あなたは未来に願いを託すべきです」

 

 自身の願いを否定し聖職者らしく諫めるシャッハに切嗣は溜息を吐き、目を瞑る。納得してくれたかと期待し二人が見つめる中再び瞳が開かれる。その瞳は、果てしない怒りと憎悪に満ちていた。

 

「そうか……君達も―――血を流すことの邪悪さを認めようともしない馬鹿どもか…!」

 

 これ以上の殺意を込めることなど到底できないような低い声で切嗣は二人を侮辱する。彼には決して許せない。人が闘争を行うことが、殺し合うことが、誰かが血を流すことが……決して認めることが出来ない。

 

「そんなことはありません! それらの悲劇を乗り越えながら未来に進むことこそが人間のあるべき姿だと言っているのです!」

「フン、これだ。お前達は未だに闘争という最悪の禁忌に尊さがあると(はや)し立てる。綺麗ごとを並べ立てて掛け値なしの地獄を“悲劇”という演劇に見立て、ありもしない尊さ(幻想)に酔いしれる」

 

 剥き出しの憎悪はシャッハとフェイトに向けられているようで全く別の存在に向けられているようにも感じられた。それはまるでこのような悪逆を犯し続ける人類というまるで成長しない子どもに対して激怒しているようだった。

 

「幻想ではありません。例え善行だけでなくとも、古より続く人の歩みは美しく尊いものです!」

「冗談じゃない…ッ。敗者の痛みの上にしか成り立たない勝利などただの罪科に過ぎない! なのに、人類はどれだけ死体を積み重ねてもその事実に気づこうとしない!!」

 

 そこには人類を信じて裏切られた男の絶望があった。かつて彼は誰よりも未来を、正義を信じていたはずだ。だが、どれだけ彼が努力しようとも、惨劇が世界そのものを滅ぼそうとも人間は変わらなかった。そのうちに自らが必要悪となり、その悪すらも否定することになった。もはや彼の心には絶望と妄執しかない。

 

「貴様らのように争いを美化する奴がいるから人間の本質は石器時代から一歩も前へ進んじゃいないんだッ!!」

 

 何度も同じ過ちを繰り返し続ける人類に失望したからこそ、その手で人類の救済を願う。まるで旧約聖書で神が人間に見切りをつけてノアの家族以外の人類を滅ぼしたように浄化を試みる。そうでもしなければ殺してきた者達に示しがつかないために彼はこの世界を塗り替え滅ぼす。全ては人類を救うために、たった一人のエゴをぶつけ続ける。

 

「確かに……人の歩みは遅い。一歩も進んでいないかもしれない。でも、だからと言って進んでいないわけじゃない。人間は決して進んでいないわけじゃない! だからたった一人の人間が勝手に決めていいことじゃないんだ!」

「そうです。そもそもたった一人の人間に救えてしまう世界など、あってはならないのです」

 

 一人で世界を救う。これだけ書けば大偉業としか受け取られないだろう。しかし、実態は一人が望む救済の形を残りの全ての人間に押し付けているだけだ。不老不死になりたくない人間など少し尋ねて回れば簡単に見つけられるだろう。

 

 自分が悲しみを乗り越えた過去を無かったことにされたくない人間はさらに多いだろう。だというのに、衛宮切嗣は己のエゴの為に世界を救う。全ての人間の意思を踏みにじり、無視しながら。だからフェイトとシャッハは暗に言うのだ『たった一人の人間に救えてしまう世界なら、いさぎよく滅びるべきだ』と。だが―――

 

「なら、全ての人類で救えばいい! でも、誰も救おうとしないから結局たった一人で救わなきゃならないんだッ! 今まで救おうともしなかったくせに知ったような口でほざくなッ!!」

 

 その程度で止まれるのなら最初から人類の救済などという馬鹿げた夢を抱きはしない。恐らく、全ての人間が、犯罪者に至るまでの人間が一度は願ったことがあるはずだ。全ての人間が幸せであるようにと、争いの無い世の中でありますようにと。

 

 だが、その中で誰か一人でも本気で世界の救済を試みた者がいただろうか。大人になってもその心を持ち続けられた人間が何人いるだろうか。結局は口先だけで現実的には無理だと言い訳をして皆諦めていく。全ての者がその願いを抱き続ける、それだけで世界は救われ人間は新たな段階へと昇っていけるということに気づいているというのに。

 

「誰も救おうとしないから僕が救うんだ! 第一―――」

 

 救おうとする人間がいないからこそ、世界はいつまでたっても悲しみに満ち溢れている。だから切嗣は立ち上がり武器を取った。正義の味方を目指しながら悪にまで身を落とした。しかし、本当の意味で彼が一人で世界が救えないはずがないと考える理由は別のところにあった。

 

 

「たった一人の“少女”に世界の滅びを担わせるような腐った世界なら、一人で救えなきゃおかしいだろう!?」

 

 

 今まで一番の感情が籠った怒声がフェイトとシャッハを叩き付ける。かつて何の罪もないのに死の運命に立たされた少女。小さな肩に世界の消滅などという宿業を負わされた最愛の娘。あの時の世界はまさに少女一人を犠牲にすることで救われるというおとぎ話のような状態であった。

 

 一人で世界を壊せるのなら、一人で世界を救うことも不可能ではない。否、そうでなければ余りにも不公平だ。一人に壊されるほど脆弱なくせに、一人で直せないなど認められない。そうでなければこの手であの子を殺していたとしても世界は簡単に滅ぼされただろう。あの子の死などでは何も救えはしないとあざ笑うように。それが切嗣には許せなかった。

 

「切嗣さん……はやてのことを……」

「世界なんて一人で壊せるんだ。だから一人で救えない道理はない。もし、それでも救えないというのなら……僕はもう…欠片たりともこの世界を愛せない」

 

 仮に彼が世界は救えないと判断してしまったら、愛は憎しみへと変わり世界を滅ぼす魔王へと姿を変えかねない。かつての彼ならどんなに絶望的な選択を突き付けられても世界を存続させる選択をしていただろう。だが、世界にも己にも本当の意味で絶望した今の彼がどういった行動に出るのかは本人ですらその時になるまでわからないだろう。

 

(……切嗣、もういいだろう。早く行こう)

(そう……だね。敵が()に気を引かれているうちに準備を済ませてしまおう)

 

 これ以上は見ていられないと思ったアインスが切嗣を促し、話を切らせる。そのことに気づかぬ切嗣ではないが時間が無いのも事実なので知らぬふりをして脱出の機会を作り出すべく二人を煽るような言葉を吐きだす。

 

「そもそもだ、シスターシャッハ。君達は神、聖王なんて“殺人鬼”をどうして信仰しているんだい? 殺人鬼を崇拝しているから血で血を洗う闘争を肯定しているんじゃないのかい?」

「なにを…! 私の目の前で神を侮辱するのですか!?」

「シスター、抑えてください」

 

 自らの信奉する神を侮辱され思わず頭に血が上るシャッハ。それをフェイトは切嗣の策だと察し抑えようとするが簡単にはいかない。これが彼女自身を馬鹿にするものであれば簡単に流す程度の器量も持っている。だが、シャッハは生来の生真面目な性格もあり熱心な教徒である。

 

 幼いころから神を信じ、神に仕えることに喜びを感じてきた。言わば彼女を彼女たらしめる根幹に信仰が存在するのだ。それを侮辱されたのだ。人間というものは不思議なもので自分自身よりも自分の大切な者を傷つけられた方が、怒りが湧くことがある。今の彼女の状態はまさにそのようなものであるのだ。

 

「はっ、いい加減目を覚ましたらどうだい? ゆりかごを見ろ。そして、古代から聖王の血筋の者はあの兵器を操り何をしたかを考えてみろ」

「それは……世界を平定し平和の礎を築いたと伝わっています」

 

 モニターに今もはやてと地上本部航空隊が必死に戦うゆりかごを映し出しその邪悪なまでに洗練された武装を見せつける。流石のシャッハもその光景に今まで教義として教えられてきたことに疑問を抱かざるを得なかった。尻すぼみになる彼女と反対に切嗣は一気に声を張り上げ押しつぶしにかかる。

 

「世界に平和にもたらした? ハ、笑わせるな。兵器にできるのは人を殺すことだけだ。あの力で何万、何億の人間を殺して挙句の果てには世界そのものを滅ぼした。それを“正義”だと高らかに謳い上げながらね。僕が今までやってきたことを大きくしただけに過ぎない。それを悪だと言わずに何と言う!!」

 

 自身の価値観を揺さぶられシャッハは反論の言葉を出すことが出来なかった。そもそも、神が人間を救うことはない。人々の理想によって存在を得た神は、人間の望み通り、人間を悪として扱う。神とは名ばかりの人間への究極の罰である。例え、実在した人物であろうと人の悪性に触れていけば原初の姿は忘れ去られ理想の神となるだけだ。

 

「神や正義なんて碌なもんじゃない。聖王のクローンのあの子も人を惑わすいてはならない存在だ。争いの種になるぐらいなら生まれない(・・・・・)方がマシだった」

「……今の言葉、訂正してください…ッ!」

 

 今度はヴィヴィオを、クローンとして生み出された者達を侮辱するようなセリフを吐きフェイトを焚き付ける。自分の子どもを馬鹿にされて怒りを覚えないまともな親はいない。それはフェイトとて例外ではない。おまけに実の親から存在を否定されたフェイトにとってみれば生まれない方が良かったという言葉はこれ以上ない程に心をかき乱すものとなる。

 

「フン……訂正させるのは構わないが―――まずは彼らを守らないとね?」

 

 煽りに煽って作り出した隙を突き両サイドに並ぶ培養槽前に手榴弾をばらまく。ハッとしすぐに手榴弾を抑えに行く二人を見届けることもなく切嗣は固有時制御を用い逃げていく。

 

「しまった……全部安全装置が付いたままだ」

「あれだけの数を同時に一人で爆発させるなんてできないのは冷静になればわかったはずなのに……すいません、私が敵の挑発に乗せられて至らなかったばかりに」

「いえ、私も冷静さを失っていました。それよりも追わないと―――」

 

 自分達が騙されたことを知り苦々し気に唇を噛む二人の耳に警報が響く。続いて洞窟全体が地震のように揺れ動きだし岩盤が崩れ始める。

 

「これは…! まさか自爆システム!?」

「これだと追っていっても道に迷った時点で私達も生き埋めに。それに……」

 

 フェイトはチラリと立ち並ぶ培養槽を見る。今から逃げれば間違いなく脱出することが出来るだろう。しかし、自分達が逃げられてもここにいる者達は逃げることが出来ずに暗い洞窟の中でその生涯を終えることになるだろう。そんなことは決してさせない。そのためには自分がここに残って自爆システムを解除しなくてはならない。だが、それは衛宮切嗣を追うのを完全に諦めなければならないということだ。

 

「……嫌な人だ。私が絶対にこの人達を見捨てないのを分かって自爆システムを作動させたんだ」

 

 全ての人達を人質に取りながらその者達を生かす道をしっかりと残していく。悪にも正義にも徹することができない弱さがそこには透けて見えた。その不器用さと計算高さに何とも言えない気持ちになりながらフェイトは自爆システムを止める為に動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 地上本部の自らの城とも呼べる一室にてレジアスは座り続けていた。今の自分は待ち人を待ち続ける以外にすべきことはない。地上が、空が、海が大騒ぎしているというのにその責務を放り投げただ待ち続けるだけ。待ち続けた結果、遂に―――友が訪れた。

 

「久しぶりだな、レジアス……見た目はともかく、心は随分と老けたようだな」

「ふん、それはお互いさまだろう―――ゼスト」

 

 旧友の再会に感動的なものはない。どちらも罪の意識があるのか表情は硬い。それでも大切なことはお互いに分かっている。一度死してもう蘇った男とそれを殺してしまった男。二人の交わす言葉は初めから決まっている。

 

 

「レジアス、あの日に誓った。俺の、俺達の信じた正義は今―――どうなっている?」

 

 

 若き日に語り合い希望を託した二人の正義についてだ。

 




~おまけ~「アハト爺が第三次で反則をしなかったら」

 ユーブスタクハイトは悩んでいた。前回の第三次聖杯戦争はまっとうな手段で勝ちに行くために剣の英霊を呼び出し挑んだが惜しくも聖杯に至ることはできなかった。剣の英霊が最優であることは過去の実績から見ても明らかである。しかし、それでも勝つことが出来なかったのだ。

 前回の欠点を分析しアインツベルンはホムンクルスの一族であるために戦闘に不向きであるという結論を導き出しメイガスマーダーの衛宮切嗣を婿養子として迎え入れた。後は前回のように最優のサーヴァントと組ませれば問題なく勝てる。しかし、それでもなお不安は残る。

 最優のサーヴァントと言えどサーヴァント。万が一にも負ける可能性はある。勝利をより確実にするにはどうすればよいか。考えに考え抜いた結果ユーブスタクハイトはある結論に至った。


 ―――そうだ、裁定者(ルーラー)を呼ぼう。


「当主殿は本気か? 裁定者(ルーラー)のサーヴァントを呼ぶなんて」
「あら、ルール違反は嫌い?」
「まさか、ルール違反した数なんてそれこそ数え切れない僕が嫌悪するものか。僕が言いたいのは本来参加者として呼べないクラスを呼ぼうという無謀さだよ」
「でも、大お爺様の理論は完璧よ。必ず呼べるわ」
「……本当に出来てしまうアインツベルンには言葉が出ないよ」

 一組の夫婦がこれから行われる召喚の儀式について話をしている。夫の名は衛宮切嗣。妻の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。一見すればどこにでもいそうな仲睦まじい夫婦であるが彼らの抱く願いはとてつもないものだ。願望の器たる聖杯に恒久的な世界の平和を願う。例え―――かけがえのない代償を支払うことになってでも。

「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 特殊な召喚陣の前に立ち切嗣が英霊を呼び出す呪文を唱える。辺りには青い光、エーテルが充満していき小さな嵐が起きているような光景が創り出される。

「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 圧縮された力の渦が弾け、召喚の疲労もあり切嗣は思わず目を瞑ってしまう。アイリもその風圧から身を守るように手で顔を覆う。そして二人が目を開けたときにまず初めに目に入ってきたのは黒いカソックであった。続いて浅黒い肌に脱色した白髪。最後に若い外見に相応しくないどこまでも澄み切った瞳。


「召喚に従い参上しました。サーヴァント、ルーラー。天草四郎時貞です」


 ルーラーの召喚に成功したことにホッとするアイリをよそに切嗣は不機嫌な表情になる。天草四郎時貞。日本の江戸時代に一揆とはいえ争いの指導者となった人物だ。どんな聖人が来るかと思っていたがとんだ外れを引いてしまったなと内心でぼやき、天草四郎を見る。そんな切嗣の視線の意味に気づいたのか天草四郎の方からうっすらと笑みを浮かべて話しかけてくる。切嗣がどれだけ彼を嫌おうとも決して無視できないことがらで。



「初めに言っておきましょう。私の願いは―――全人類の救済です、マスター」



 きしくも世界の救済を願う主従がここに生まれ落ちたのだった。

~おわり~


天草「人類を第三魔法で不老不死にして救済します」
切嗣「人類が救済されるんですかー、ヤッター!」
アハト爺「第三魔法が実現するんですかー、ヤッター!」

ハッPエンド!

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