八神家の養父切嗣   作:トマトルテ

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十六話:真実と嘘

「それで……いつから気づいてたんだ、切嗣」

 

 重々しい声で、同時に泣き出しそうな声でヴィータが口を開く。

 普段は明るく活気のあるリビングであるが今はその面影は飾られている家族写真だけである。

 明かりもなく、暗い部屋はヴィータの心を表しているようであった。

 

「大分前からだよ。あれだけ街中で派手にやっていたんだ。はやてならともかく魔導士の僕があれだけの結界を張られて気づかないのもおかしいだろう」

 

 その言葉にぐうの音も出ない騎士達。冷静に考えればその通りだ。

 自分達も自分の住んでいる街にいきなり結界を張られれば気づく。それも二回も。

 今の今まで何故そのことに気づかなかったのか理解できない。

 

「でも……それならどうして今まで黙ってたんですか?」

 

 シャマルの疑問は最もだろう。

 何せ家で一人に居たところに、いきなり自分達の行いを知っていると言われたのだから。

 しかも、相手の情報を自分よりも早く手に入れて、すぐに救援を出すように指示されたのだからその混乱もひとしおだ。

 

「影ながらの支援に努めるためさ。僕も正直止めるべきか、止めないべきか悩んだからね」

「しかし、主は我らに蒐集を禁じていました」

「ああ……そうだね。でも―――僕だってはやてに生きていて欲しいんだ」

 

 その言葉にシグナムは自身の浅慮さを恥じ入る。

 そうなのだ。自分達以上にこの父親ははやてを愛しているのだ。

 たかだか数ヶ月の付き合いでしかない自分達ですらこれほどの気持ちになるのだ。

 ならば、何年も共に過ごしている彼の愛情は、悲しみは、絶望は、想像を絶するものなのではないか。

 娘の想いを優先させたい心と、どんなことをしてでも娘を生き長らえさせたい心。

 相反する想いを抱いているのは騎士達だけではないのだ。

 

「申し訳ございません、お父上。私の浅はかな言葉をどうかお許しください」

「謝らないでくれ。僕には謝られるような資格なんて……ないんだ」

 

 意図せずしてこぼれ落ちた本音に切嗣は顔をしかめる。

 娘を殺そうと暗躍する自分には悲しむ資格もなく、懺悔する権利すらない。

 地獄の業火でこの身が焼きつくされようとも償いにすらならない。

 否、己を信ずる者達の安心しきった視線に晒されることに比べればぬるま湯にも劣る。

 それでも彼は目の前の家族を騙し続ける。全てが終わるその日まで。

 

「で、でも、管理局の情報なんてどうやって手にいれたんですか?」

「ははは、この家の家主は犯罪者だってことを忘れたのかな?」

 

 さらに重くなった空気を払拭するようにシャマルが気になっていたことを尋ねる。

 事実は司令部のエイミィの通信を傍受していたのであるが切嗣は無理矢理に笑顔を作り笑ってみせる。この時ばかりは常に笑い続けられる科学者が心底羨ましかった。

 もっとも、あそこまでの狂った笑みはごめんだが。

 

「そう言えば、昔、管理局にハッキングかけたって言ってたような……」

「そういうこと。元々、完全に足を洗えるなんて思ってなかったしね」

「でも……それだと切嗣が……」

 

 もう、切嗣が以前の生活には戻れないと思い、沈みこむヴィータ。

 自身を想うその表情に心をナイフでズタズタにされる気持ちになりながら彼女に微笑みかける。

 

「大丈夫、僕だって子どもじゃない。

 それに娘を見殺しにするなんて―――人間のすることじゃない」

 

 何よりも自分に対しての皮肉を含みながら口にする。

 騎士達は気づかない。この男がどれだけの隠し事をしているか。

 どれだけの罪を重ねているのか。

 何一つ知ることなく破滅への道を歩んでいく。

 

「それでは……これからも私達の手伝いを?」

「うん。まあ、これ以上はあまり派手には動かないけどね」

「それで十分です。危険な活動は私達だけで行います。主はやてだけでなくあなたもまた私達の守るべきものなのです」

「心配してくれるのかい?」

「当然です。私達はその……家族なのですから」

 

 シグナムから少し恥ずかしそうに告げられた言葉に心が締め付けられる。

 シャマルも笑顔で頷き、ヴィータも照れながら頷く。

 ザフィーラも当然とばかりの表情をする。

 そのことが、その温かさが―――何よりも彼を苦しめる。

 

「そうだね……家族だからね」

「ええ、はやてちゃんの病気が治ったらみんなでまた静かに暮らしましょう」

 

 噛み締めるように、血を吐くように絞り出した家族という言葉。

 その言葉にどんな想いが籠っているかを気づかずにシャマルは笑顔で告げる。

 その願いが決して叶うことがないというのに。

 

「そうだよ。はやての足が治ったらもう戦わなくていいんだ。静かに暮らせるなら……他には何もいらねえんだ」

 

 少し俯くようにヴィータも続く。小さな願い以外に何も望まない。

 彼等の願いが叶ったところで誰も被害を受けない。

 誰にも迷惑をかけないはずの美しい願い。

 だというのに犠牲が強いられる。

 どれだけの犠牲を払ったところで与えられるのは新たな犠牲と絶望。

 そして、少女の永遠の眠りだけ。与えるのは家族が信頼する父親という皮肉。

 

「ああ、闇の書の完成を頑張ろうね」

「お任せください。必ず闇の書を完成させてみせます」

 

 切嗣の言葉にザフィーラが力強く返す。

 どちらも目指すところは同じ。しかし、理由はどこまでも正反対。

 一人の少女を護ろうとする者。一人の少女を殺そうとする者。

 両者の願いは決して交じり合うことはない。

 

「それじゃあ、話はここで―――」

 

 終わりにしようと続けようとしたところではやての部屋から人が倒れる音が聞こえてくる。

 つまりは、はやてが倒れたということに他ならない。

 

「はやて!?」

「すぐ行きましょう!」

 

 主の身に何かが起きたことを察した騎士達が慌てて駆け出して行く。

 切嗣も追おうとしたがピタリと足が止まる。

 体が心を置き去りにして必要なことだけを選択させる。

 そんな懐かしい症状に切嗣は心の中で呟く。

 ―――もう、あの中に戻ることは出来ないのかと。

 

 

 

 

 

 アースラ内部にて主力メンバーによる闇の書事件の会議が開かれていた。 

 その中には狙撃により気絶させられたフェイトと肩を撃ち抜かれたクロノの姿もあった。

 フェイトは特に問題はなく、クロノは安静にしておけば傷は直ぐに塞がる。

 しかし、リンディは大人として親として声をかける。

 

「それじゃあ、会議を始めたいんだけど……本当に大丈夫? フェイトさんにクロノ」

「はい、大丈夫です」

「激しく動かない限り問題はありません」

「そう……でも、無理だけはダメですからね」

 

 声を揃えて問題はないと答える子ども二人に溜め息をつきたい気分になる。

 しかし、心情的にはやはり自分達だけが休むというのも辛いと分かっているので二人の意思を尊重する。

 同時に、どこか似た者同士の、これから兄妹になるかもしれない二人に目を細めるのだった。

 

「では、早速ですが闇の書の主の目的について、アルフさん、なのはさんお願いします」

 

 ザフィーラから話を聞いた、アルフ。切嗣と会話をした、なのは。

 この二人が事件解決のための鍵となる闇の書の主の目的について語る。

 

「アタシが聞いたのは主の幸せのためってことと、闇の書の完成以外に選択肢がないってことだね」

「私の方はただ一つの願いって聞きました」

「ただ一つの願い……それが叶えば幸せになれる。一体何なのかしら」

 

 二人の証言を照らし合わせても明確な答えは見えてこない。

 逆に情報を小出しにされているせいで混乱してしまう。

 ただ、一つだけ見えてきたことはある。

 

「闇の書を破壊のために使おうとしていないことだけは確かそうね」

「そうですね。主の願いが何であっても取り込まれての破滅が幸せになるとは思えませんし」

 

 リンディの意見に同意するようにエイミィも続ける。

 世の中には世界と共に滅びてしまいたいと考える異常者もいるが極稀なため、省いても問題はないだろう。

 彼等は何らかの明確な願いがあって行動していることは間違いない。

 しかし、そうなってくると。

 

「ヴォルケンリッターと主は闇の書の完成が滅びだと知らない。もしくは死なずに済む方法を確立しているか……」

 

 クロノが言うようにこの二つの可能性が浮上してくる。

 後者であればまだ救いようはある。だが、前者であれば最悪だ。

 完成してしまえば誰も救われることのない終焉が訪れる。

 しかも、どんな願いかは知らないがそれしか道がないのであれば相手の抵抗は必須。

 文字通り死に物狂いで向かってくるだろう。

 

「せめて話ができれば最悪の事態は避けられるんだけど……やっぱり難しいわよね、フェイトさん」

「はい……。一度覚悟を決めたらそれ以外のものに目を向けないし、話も聞かない。……昔の私みたいになっているから、難しいかもです」

「そうよね……。でも、フェイトさんみたいなら諦めなければ必ず声は届くわ。ね、なのはさん?」

「え、は、はい!」

 

 いきなりリンディから話をふられて慌てるものの、力強い返事を返すなのは。

 その言葉にフェイトは少し嬉しそうに頬を赤らめる。

 暗くなりかけていた空気も少し持ち直したところでクロノが別の議題を持ち出す。

 

「それで主の正体について何だが、銃弾の種類、魔法と質量兵器を組み合わせた戦闘、魔法を用いない高速機動、これらから少なくとも真っ当な魔導士じゃないことが分かる」

「まあ、魔導士の戦いって言うよりも質量兵器全盛期の戦いみたいだよね」

「ああ、それと特にカートリッジ銃弾何だが、製造元は分からなかったが、調べたら地球で使われている銃弾をわざわざ模して作られていた。おまけに銃器も全て地球で出回っている物がデザインだ。次元世界ならもっと高性能なやつが幾らでもあるのにも関わらずにね」

 

 クロノの考察にエイミィが相槌を打ち、さらにクロノが続けていく。

 コンビと言われるようになって長いがエイミィが居るときはクロノの口がよく回るというのがアースラ内で共通の認識となっている。

 

「それって地球にかなり馴染んでいるってこと?」

「もしくは使い慣れているからだな。そうなってくると出身世界が―――地球というのもあり得る」

 

 闇の書の主が同じ世界出身かもしれないということに目を見開くなのは。

 フェイトも驚くが同時にクロノがやけに銃器に詳しいことに小さな疑問を抱く。

 

「クロノ、どうしてそんなに詳しいの?」

「フェイト、君も執務官を目指すなら覚えておいた方がいい。僕達は目の前の犯罪者を捕まえたら仕事が終わりというわけにはいかないんだ。後ろを叩かない限りは終わらない」

「後ろ?」

「例えば質量兵器を使った犯罪が起きたとする。その時に犯人が使った質量兵器。まさか、犯人が自作したわけじゃないだろ?」

「あ!」

 

 そう言われてみてハッとするフェイト。

 質量兵器を使った犯罪者がいるということはその後ろにそれを売った者がいるということだ。

 質量兵器の所持が禁じられている以上、当然密売だ。

 犯人を一人捕まえてもそれは氷山の一角にすぎない。

 密売の大元をどうにかしなければ同じことが繰り返されるだけだろう。

 

「だから、ある程度は質量兵器にも精通しておかないといけない。物によってはどこの組織が後ろにいるか一発で分かる代物もあるしね。それに知っていれば対処も可能だ。まあ、今回は映像から調べて探してもらったが」

「なるほど……」

「ただ、僕としては君達にはあまりそういったことをして欲しくないんだけどね」

 

 感心しながら頷くフェイトにクロノは苦笑いする。

 自分の母親も自分が執務官になろうとしているのを見ている時はこんな気持ちだったのではないか。

 そう漠然と思い、そっと横目で見てみるとニコリと笑みを向けられる。

 やはり母には敵わないなともう一度苦笑してから逸れていた話を戻す。

 

「とにかく、地球に何らかの関係がある可能性が高い。ミスリードを誘う線もあるが、それなら有名な管理世界にするのが普通だ。こういうのもなんだが、地球を知っている次元世界の住民は極稀だからね」

 

 見当違いの場所に目を向けさせたいなら如何にも、というところにした方が捜査の目を逸らしやすい。

 だというのに、魔法文明の無いマイナーな世界を選んだのは何らかの関わりがあるからに他ならない。

 ランダムに選んだという可能性もなくはないが、クロノはあの男がそのような行き当たりばったりの行動をするようには思えなかった。

 

 あくまでも念密に、緻密に、計画を立てるタイプだと二度の戦いから感じ取っていた。

 そのような人物でなければ自分の父親のことをだして挑発することもない。

 相手はクロノ・ハラオウンについて調べ上げ、最も心を乱す言葉を選んできた。

 しかし、単純に父親に怨みを持つ人物、または関係者という線も捨てきれない。

 父、クライドの交友関係についても調べておく必要はあるだろう。

 

「そして、その推測を基に条件に一致する人物を調べてみたら一人の該当者が居た」

「本当!?」

「ああ。だが、あくまでも僕達の権限で調べられる範囲の人物から探しただけだから確率としては低い。どこかの世界の見知らぬ魔導士が偶々主になった確率の方がよほど高い」

「それでも、凄いじゃない。それでそいつは何者?」

 

 僅かな情報からここまでの考察を打ち立ててみせたクロノを師匠であるロッテが褒める。

 アリアの方は無限書庫でユーノの検索の手伝いを行っている最中だ。

 周りの期待の籠めた視線を受けながら若干答え辛そうにクロノは告げる。

 

 

「できれば当たって欲しくないが―――魔導士殺しのエミヤだ」

 

 

 その言葉にリンディは息を呑み、なのはとフェイトは魔導士殺しという物騒な二つ名に眉を顰める。

 ロッテはその名前が出ても相変わらずの表情で変化は見られない。

 ここまで突き止められるのは驚きではあるが全て想定内であり、作戦の一部である。

 元々、切嗣は最後までばれずに済むなどと都合よく考えてなどいない。

 ばれないようにすると同時にばれても挽回できる策を作っておいたのだ。

 

「魔導士……殺し?」

「五年程前まで精力的に活動していた、素顔すら明らかにされていない、フリーランスの暗殺者だ」

「依頼さえ受ければどんな高ランクの魔導士でも抹殺していったことからつけられた名前よ」

 

 管理局には主に上からの圧力で切嗣の素顔を知るすべは残されていない。

 魔導士殺しという響きに、思わず聞き返してしまうなのはにクロノとリンディが簡潔に概要を伝える。

 その話を聞いてフェイトはそれだけ強いのかと漠然としたイメージを浮かべる。

 なのはも同じように思ったらしく尋ねてみる。

 

「そんなに強い人なんですか?」

「正確な強さは分からないわ。でも、何よりも暗殺者というのが厄介な所なのよ」

「エミヤは手段を選ばない。食事に毒を盛ったり、睡眠時に寝床ごと爆破したり、普通に過ごしている所を狙撃すると言われている。とにかく、相手を仕留めることだけに特化しているんだ。ただ、強いだけよりも余程やりづらい」

 

 切嗣の殺しは正面から堂々と顔を見せ合って行うことは殆どない。

 殺された人間は自分が誰に殺されたのかを知ることもなくあの世へと行く。

 そして、例え素顔を晒したとしてもそれを見た人間は全てこの世(・・・)にはいない。

 そんなイメージをクロノは闇の書の主に抱いたからこそ調べたのだが、やはり確証を得るには至らない。

 

 寧ろ、そのような思考の人間が何をしでかすか分からないので主であって欲しくないと切に願っているのだが。

 なのはとフェイトは二人から聞いた話に思わず顔を青ざめさせる。

 純粋に戦うのであればそう簡単に負けないという自信はあるが搦め手には弱い。

 毎日、毎食、食事に毒が盛られているかどうかに怯えることや、寝る時ですら安心できないというのは精神にくるものがある。

 

「次元世界のあらゆる紛争地帯で活動して荒稼ぎしていたみたいだよ」

「管理局の方でも追っているんだが……情報が少なすぎてどうしても捕まらない」

「まあ、元々管理局員だからねぇ。もっとも、十年以上前の話だけど」

『えぇっ!?』

 

 ロッテが溜息と共に吐いた言葉になのは、フェイト、アルフが驚きの声を上げる。

 彼女達にとっては管理局員とは正義の象徴であり、悪とは正反対に位置するものという認識なのだ。

 

「元管理局員だからこっちのやり方は全部知っている。だから、中々捕まえられないんだ」

「それに、用意周到に管理局データベースにあった所属当時のデータはハッキングして消していくし」

「バックアップデータとかはないのかい?」

「それが、上層部が身内の恥だからって消されたことをいいことに元々所属していなかったことにして開示してくれないんだ」

 

 アルフからの問いに苦々し気に答えるクロノ。

 その真実としてはハッキングとデータの消去は切嗣とスカリエッティが行い。

 上層部への圧力は彼等のスポンサーが行ったものだ。

 故に管理局には当時の切嗣の写真一枚たりとも情報は残っていない。

 

 そして、切嗣と関わりがあった者達のほとんどは余程の高官でない限りは左遷や口止めをされているのでそこからも情報は出てこない。

 魔導士殺しは存在しているのに、その存在を知られないという伝説のような、怪談のような存在と化しているのである。

 因みに活動を休止したこともあり一部では都市伝説的な存在になりかけていたりする。

 

「ホント、そのせいで父様は降格されたしね。恩を仇で返すっていうのはまさにこの事だよ」

「え? それってどういう……」

「クロノがあの子を容疑者に挙げた一番の理由は地球出身ってこと、エミヤは父様が管理局にスカウトしたんだよ」

「本当ですか!?」

 

 明かされた驚愕の真実に信じられないような顔をする、なのは。

 ロッテは如何にも恨んでいるといった表情で切嗣について語っていく。

 しかし、それは擬態に過ぎない。

 いや、少しばかりは自身の主に迷惑をかけた事については恨んではいるが。

 これも作戦の一部。正体がばれた時の為の保険。

 より良い、状況を作り出すための嘘の前の真実。

 

「それにしても、良く知ってたね。調べても出てこないでしょ?」

「4、5年前に、グレアム提督に聞いたことがあったんだ。……全部自分のせいだって」

「父様が気にすることなんてないのに……」

 

 自分が間に合わなかったために彼の身に起きてしまった悲劇。

 手を差し伸べても結局、彼を救い出すことができなかった後悔。

 幼い少女の未来を奪い、その役目を彼に押し付けることになった罪悪感。

 

 普段から弱音など吐くことがないグレアムが罪の意識からつい零してしまった言葉。

 クロノはその姿が意外だったこともあり今まで覚えていたのだった。

 ロッテは情報の出処を聞いて切嗣が怒るなと考えながらも原因の発端は切嗣自身にもあるのだから許してやってほしいと思う。

 

「とにかく、確証はないけど魔導士殺しの可能性も頭に入れておいてね。ただ、別人の可能性の方が高いから今後もしっかりと調査を行うこと」

『はい』

「それと、ロッテさん。簡単でいいのでエミヤの特徴を教えてくれないかしら」

「はいよ。まあ、あたしらしく戦い方の指導でも」

 

 内心で来たと呟くロッテ。情報がない状況でそれを知る人物が身近にいれば必ず尋ねる。

 確かにそれならば情報は得られるだろう。提供者が嘘をつかない限りは。

 

「今回、クロノの肩を撃ち抜いたあの魔法はただの防御じゃ防げないよ」

「じゃあ、どうしたらいいんですか?」

「単純にもっと強い(・・)シールドを張るか、全力(・・)で自分の攻撃を当てて打ち消すかだね」

 

 切嗣から伝えるように言われていた言葉を伝えるロッテ。

 それは確かにあの魔法に対しては有効な手段であるだろう。

 貫通力は高くとも威力そのものはさほど高くない魔法ゆえに相手の魔法に押し負ける可能性が高い。

 それが―――ただの弾丸であるならばの話だが。

 

「分かりました。ありがとうございます」

「いいよ、いいよ、これぐらい。それよりも顔とか教えられなくてごめんね」

「いえ、十年以上前の顔だとそれほど参考にならないし、まだ確定していないのに思い込むのも不味いもの」

 

 笑顔でリンディと語り合いながらロッテはこれで目的は果たせたと胸を撫でおろす。

 しかし、彼女は気づいていなかった。

 いや、心のどこかで切嗣が全面的に自分達の味方だと思い込んでいた。

 

(それにしても、自分の銃弾を全力で撃ち落とさせるように誘導しろなんておかしなこというよ。ま、出来るだけ殺さないようにするって言ってたから三人とも大丈夫でしょ)

 

 自身もまた、どこまでも平等に嘘をつかれていることに気づくこともなく。

 




質量兵器を取り締まる側が質量兵器の知識は持っているべきだと思ってのクロノ君の語り。

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