ハドラー子育て日記 異世界家族旅行編   作:ウジョー

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居酒屋ハシゴの旅 異世界居酒屋「のぶ」

「看板は・・・居酒屋 のぶ か」

 

    ガラガラ・・・

 

〔いらっしゃいませ!〕

 

〔・・・らっしゃい〕

 

オレを出迎えた給仕の女とカウンター内にいる料理人の男が一人見える

あの男・・・できるな

 

〔お一人様ですか?〕

 

「ああ」

 

オレは店内を見回した

 

『店内の雰囲気もヴァンプさんのおうちに少し似てますね

あ あちらに神気を感じる棚がありますよ』

 

あの角にある 小さな木でできた祠のようなもののことか

・・・それよりもオレが気になるのは

カウンター席に座る男だ 客の一人だろうが

 

『あなたよりも大きな体ですね』

 

ああ しかもかなりの古強者の風格がある

それでいてこの店の雰囲気を壊さず悠然と食事をとっていた

 

  グイ       カリ

 

ただものではないなあの男・・・

着ているコートや帽子から見えるあの金色の肌

明らかに人間ではない

オレの知っている怪物で該当しそうなやつは・・・

 

「ゴールドマンか?」

 

【!? グォッ フォ フォ フォ

たしかにワシの体には砂金も含まれているが

その名前は恐れ多くもあのお方のご本名

訂正のためにも名乗らせて貰おう

ワシの名はサンシャイン

かつてはいくつもの異名を誇っていたが・・・

今は現役を退いた一匹のはぐれ悪魔 サンシャインだ

懐かしき空気を纏う猛者よ・・・ 名を聞かせてくれるか?】

 

「オレの名はハドラー

オレもかつては自らの地位を誇っていたが

今は・・・ただの子守術士 ただのはぐれ悪魔だ」

 

【グォッ フォ フォ フォ

どうだこっちへ来ていっしょに食べないか?

初対面だが あんたとは面白い話ができそうだ

お互い汗と血とシューズの革の匂いの充満した場所で

年を取ってきたのだろうが・・・

たまにはこういう普通の場所で 飯を食いながら

話をするってのもいいじゃないか

大将 とりあえず生と こいつをもう一皿】

 

〔わかりました〕

 

\ シノブちゃん こっちもトリアエズナマおかわりー! /

 

  \ オレも! あとこっちにもクシカツ一皿! /

 

〔はーい!〕

 

トリアエズナマ? なんのことかわからんが

オレは誘われるままサンシャインの隣に座った

たしかにこの男とはなにか通じるものを感じる

どうやら今日の魔界での仕事帰りの一杯は面白いことになりそうだ

 

〔はい 生一丁お待たせしました!〕

 

「ほう これは・・・」

 

グビリ グビリ グビリ

 

「よく冷えているな これは以前ヴァンプ将軍のアジトで飲んだ

ビール・・・のようだな 仕事上がりのノドによくしみる」

 

〔本日のオトーシのパリパリキャベツです〕

 

『あら かわいらしい給仕さんもいるんですね

ジゼルよりすこしだけ大きいお嬢さんですね』

 

キャベツの乗った皿をうけとり適当につまんだ

 

   パリパリ     グビリ

 

「・・・なるほど」

 

シンプルだがなかなかいい

 

    じゅわあっ   じゅううう

 

「ほう 油で揚げる料理か・・・」

 

\ うわ!いつ聞いてもいい音!待ちきれんぜタイショー! /

 

〔さぁ 揚がったぞ! 串カツおまち 熱い内にどうぞ!〕

 

【このソースをつけて食べな ・・・二度漬けは禁止だぜ】

 

   ザクッ  サク サク

 

「これは おもしろい しかもなかなかうまい」

 

【グォフォフォフォ 大将の揚げ加減が絶妙だからな

カリ  このレンコンもうまいぞ 熱いうちにな】

 

『そんなにいいものなら是非ジゼルにも・・・』

 

・・・む

 

【どうした ハドラー?】

 

「ああ これを娘に食わせてみたいと思ってな

タイショーの調理を見ていた」

 

思ったのは聖母竜だが

 

【・・・娘か 今はどうしている?】

 

「息子と孫に任せてきた

あいつらも子守の経験を積ませればいい」

 

【ならば言っておこうか

カツばかり食ってちゃ 胸やけしてしまって体に悪いぜ

間・・・間にキャベツを食べるんだ】

 

  パリパリ

 

【そうするとキャベツの成分が胸やけを防いでくれる】

 

『・・・いい人ですね この悪魔 あなたと違って!』

 

ちがいない バルトスのように自分の強さに誇りを持ち

戦場の外では子供たちには甘いタイプなのだろう

 

【しかも キャベツ以外の野菜じゃあ その効果はないそうだ・・・】

 

\へーじゃあオレも あら?パリパリキャベツくっちゃったな /

 

 \ シノブちゃん クシカツと一緒にこれもおかわり! /

 

〔はーい!  エーファちゃん お皿洗いお願いね〕

 

〔はい!〕

 

【ワシも教え子たちへの食事にはこだわったものだ

ワシが現役時代に戦ったやつらは牛丼やハンバーガーだの

カップラーメンといったジャンクフードを好んでいたからな

差をつける為にも特に直弟子のふたりには

ゆで卵の白身だけのものやチキンの皮をはいだものなど

低カロリー・高蛋白なものに限っていた

正直あまりうまいものではなかった】

 

「ほう・・・」

 

『ずいぶんと極端ですね』

 

〔鶏肉も白身も調理次第で化けますよ〕

 

【もっともほかに味を知らなければ さほど疑問も もたないがな

オレが弟子と出会ったときは 飢えて痩せこけた子供だったが

強さを求める上でその飢えた目が ハングリー精神が重要だった】

 

「たしかに食事の摂り過ぎは格闘家としての勘を鈍らせる」

 

『真似しないでくださいね!ジゼルは成長期の子竜なんですから』

 

【・・・今にして思えばそれが本当に正しかったのかと

思うこともあるがな・・・

ワシの元を離れた弟子はすっかり食い気に目覚め

ワシの前では見せなかった顔や力をみにつけていた

・・・やはり勘は鈍っていたがな

ワシの現役時代の365日修練漬の地獄の日々は

たしかに辛く苦しかったが あれはあれで楽しかった

この店のような空気もたしかにあったのだ

ワシはそれを弟子たちに伝えることはできなかった】

 

『この幸せそうな顔があふれる店のような空気がある地獄・・・?』

 

「・・・たしかに 子育ては迷うことの連続だ

時間がたって 思い返すことも多い」

 

わが宿敵アバンですらヒュンケル相手に悪戦苦闘の日々だったと聞く

 

【ジャンクフードと思っていた牛丼にしても

肉と米の組み合わせが生み出すものをオレは

あのときに思い知ったはずだったのに・・・】

 

〔あー たまに無性に食べたくなりますよね牛丼とか〕

 

『?なんのことでしょうか』

 

話していれば いずれわかるだろう

 

クシカツを片手に酒を酌み交わしつつ

話題はお互いの過去の戦歴になった

この男の潰れた片目 ボロボロの歯 曲がった腕・・・

明らかに長年の戦いによるものとわかっていたが

その中身は・・・・・・

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・わかる」

 

【そうか おまえさんも・・・経験したのか】

 

「ああ・・・ あれはそれまでの価値観がひっくり返るほどだった」

 

【たしかに・・・ あのときのワシは 尊敬するあのお方から

軍の最高幹部の首領格に任命され まさに得意の絶頂

自分の力がもっとも充実していると感じていただけにな】

 

「オレも似たような状態だったな・・・

だからこそ余計に辛いのだ・・・・・・・・・・

よりにもよって 人間の・・・勇者に負けるというのは・・・」

 

【あのジェロニモをろくに実績もない若造と侮ったことはあるが

技一つくりだすたびに骨がきしむやわな体の人間相手に

絶対にありえない・・・負け恥を 全世界に晒した

だからこそ あの時にオレは誓った もう生き恥は晒さねえと】

 

「そして 弱点を克服し更なるレベルアップを重ね

直接雪辱を果たしたと・・・」

 

【もっともその直後にその仲間に負けたが】

 

『ますます あなたといっしょですね』

 

・・・・・・・

 

【あのお方に憧れ 認められたことを誇りとし

ルール無用で暴れまわるだけだった日々から脱却し

はぐれ悪魔として 悪魔の誇りを抱いたまま宿敵たちと戦い

敗れた後は超人墓場にまで落ち そこからも抜け出し

再びあのお方に仕え また戦い・・・

そしてあのお方の最高最大の戦いにも立ち会えた

オレはその過程で多くのものを失い そして掴み取ってきた

その経験を後継者に伝えたかったが それもまた難しいものだ】

 

「・・・サンシャイン おまえはなぜ戦い続けることができた?

人間の勇者に負けた過去がありながら」

 

【人間に負けたことは確かだ!

しかし いつまでも記憶してちゃあ 悪魔超人は務まらねえ

〝都合の悪いことは忘れよ!〝

悪魔超人には記憶力の欠如が必要なんだよ】

 

「フハハハハハハハハハ!」

 

【グオッフォフォフォフォフォ!】

 

『・・・たのしそうですね 正直 私にはついていけませんが』

 

【おまえさんと話していると なんだか若返るようだ

どうだ この後もう一軒つきあわないか?

わが友と待ち合わせていてな 是非会わせてみたい】

 

「別にかまわんが・・・  では払いはこれでいいか?」

 

オレは200G相当の金貨を給仕の女にわたした

 

〔あっ 金貨ですか はじめて見るデザインですけど〕

 

【ほう かなり金の純度が高そうだな】

 

〔わかるんですか?〕

 

【ワシの体には砂金も含まれているからそれくらいはな】

 

「オレが料理修業に下働きしていたときの

給金二日分程度の価値だろう」

 

〔そんなに!?ちょっと待ってください お釣りを・・・〕

 

「釣りはいらん サンシャインの分もいれておけ」

 

〔それでも多すぎですよ!〕

 

「・・・なら そこの神棚にでも供物を足しておけ

オレをこの店によんだのはそいつだろう」

 

〔お供え物ですか 珍しい使い方ですね〕

 

「それでも多ければ 他の客にクシカツをふるまっておけばいい」

 

\\ おおー 太っ腹だね旦那!! //

 

〔お客様これを!クシカツとキャベツお弁当箱に詰めてきました

娘さんといっしょにどうぞ〕

 

〔ヘルミーナさん流石!〕

 

「ほう ・・・今度は娘もつれてこよう」

 

〔はい!ありがとうございました~〕

 

       ガラララ

 

店の外に出ると 明らかに景色が変わっていた

やはり世界を越えていたか

 

『やはりあの聖人たちやヴァンプさんたちと出会った

世界のようですね』

 

そうだな

 

「サンシャイン 次はどんな店だ?」

 

【古都特有の上品さを感じるこの居酒屋もいいが

次に行くのは食い倒れの街大阪を体現する店だ

特に煮込みが絶品だ 今度はワシが奢ろう

金貨払いはできそうにないしな】

 

「ほう いいのか?」

 

【悪魔がただで借りを作るわけにはいかないのさ】

 

『たのしみですね』

 

おまえはジゼルの元に早く帰れと言いそうだったが

 

『ジゼルへのお土産もらいましたから

ジゼルたちにまた何かあればいうことはありません』

 

現金なやつだ

 

オレたちは大阪の通天閣という名の塔を目指して空を飛んだ




書きたいことが溜まる一方で消化しきれないウジョーです。
今回のネタも去年から構想してましたが
「どうせ居酒屋でハドラーとサンシャインが串カツ片手にぼやくネタなんて
他に書く人もいないだろうし東方サッカー編が終わってからでいいか」
と思っていたら よりにもよってキン肉マン休載の合間に
「カナディアンマンとスペシャルマンとプリプリマンがファミレスでぼやく」
なんて漫画が掲載されてて焦りました
元ネタのⅡ世の串カツ話が大好きすぎて書いたとはいえ
こんなタイミングで妙な被りかたを・・・

キン肉マンの次シリーズに期待しつつキャプテン翼のドイツ対ブラジル戦にやきもきし
プレイボール2ndに盛り上がり ドカベンの最終戦に・・・
平成も終わろうしているはずなのに まるで昭和のラインナップ
いい時代になったものです・・・

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