ハドラー子育て日記 異世界家族旅行編   作:ウジョー

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七五三編 凍れる時間の秘法

オレがジゼルを伴い店の前に来た時には既にアシュラマンとサンシャインが待っていた

 

「待たせたな」

 

【いや時間通りだ】

 

【グォフォフォフォ 時間に正確な魔王だ】

 

「元、魔王だがな この世界の人間の勇者の招待だ

この程度はせめてもの礼儀だ」

 

[サンちゃん アシュちゃん久しぶり~]

 

ここはブラッディ井上が経営するステーキ屋【武羅ッディ】

先日の試合で女子プロレス若手ナンバー1を決めるヤングドラゴン杯の

予選突破を果たしたジゼルの祝いの席ということで井上から招待された

アシュラマンとサンシャインにその話をしたところ

丁度オレを交えた悪巧みをする場所を探していたから

便乗したいそうだ

 

【既に井上には話を通して昼の営業時間までは貸し切りにしてある

支払いは私に任せろ まずはジゼル嬢を祝うとしよう】

 

   ガラッ

 

店内に入ると

 

〔いらっしゃい〕

 

〔いらっしゃいませー・・・〕

 

井上と、細野(だったか?)が出迎えてきた

井上は既に現役を退きこの店で経営者と料理人をしているが

この秘めたる闘気 衰えを見せない鍛えあげた肉体

そして細野 現役レスラーであり 給仕の格好をしているが

目の前にいながらにして希薄な気配 面白い店だ

 

〔ハドラーさんの魔法のおかげで井上さんが現役時代より元気

とっても感謝・・・ありがとうございました〕

 

細野が頭を下げ礼を述べた

 

「祭りのときに使った回復呪文(ホイミ)のことか

あれはオレをゆるがせたほどの一撃を見舞った勇者への礼儀だ

言っておくがジゼルが世話になっているとはいえ

人間が魔王の気まぐれを期待するなよ」

 

〔それはもちろん ジゼルを可愛がるのは私がお姉ちゃんだから当然・・・〕

 

[迷路(細野)お姉ちゃんは優しいけどいつの間にか後ろにいるから

たまにびっくりするけど・・・]

 

【グォフォフォフォ それはいい心がけだ

人間の持つ魔への憧れ 安易な力への欲求

そういったものにつけ込むのが悪魔の手口よ

大魔王サタンのようにな

悪役(ヒールレスラー)とはいえ人間が関わるものではない】

 

【フン あんなものは我々の悪魔超人道とは相容れぬ

この身にジェネラルストーンを宿し サタンの醜態を直接見た

あの経験から断言できる

それよりもハドラー、ジゼル嬢 時間だ テレビを見よう】

 

「そうだな この世界の大魔王サタンとやらも気になるが

アレを見た後にでもするか」

 

はぐれ悪魔に促されこの世界の悪魔の目玉が見えやすい席に座った

ジゼルが当然のように小さくなってオレの膝に乗ってきた

 

「凍れる時間の秘法、・・・あれか」

 

流れる字幕に 宿敵とのかつての(いくさ)を思い出す

だが画面に映っているのはダイの仲間達と

以前にオレの体の黒のコアを爆破させにきたときに見せた

素顔のミストバーンと対峙している謎の男・・・

いや あの足取り そしてわずかに見える腕と足、やつは・・・

 

「どうやらあの男 ミストバーンと戦うようだな

ジゼルよく見ておけ あの男の戦い方を」

 

映像ではあの男がミストバーンと一対一の接近戦をはじめた

 

【たしかにあの動き ただものではない

相手の猛攻を受け流す技量が圧巻だ】

 

【大木は風に折られるが柳に雪折れなし、か】

 

[東女だと誰に近いかな?

迷路お姉ちゃん?]

 

〔そういうのはホワイトフェイス()の方がうまい

習いたいなら頼んでみる?〕

 

【他団体だがこの手の技術ならFWWWのぽひがスペシャリストだ

対戦機会があればいいのだが他団体のトップクラス相手では難しいか】

 

[メアリから何度か聞いたことはあるけど・・・]

 

「初見であの動きは捉えにくい 格闘の教科書のような闘い方だ

ジゼルが学ぶことも多いはずだ」

 

『これを身につければジゼルが怪我をするリスクが減りそうですね』

 

それはそうだが 簡単なことではない まさに極意といえる

あれを習得できる人間か 興味がある

 

【場面が変わったな 過去の話か】

 

【ハドラーの魔王時代か】

 

「魔族のオレにとってはわずか20年ほど前だが

随分と懐かしい顔ぶれだな

今では顔つきも変わった」

 

『あなたも随分と変わってますが

懐かしい、ですか』

 

そこは気にするな

 

【皆既月食を利用する秘術か・・・】

 

ウェザー(お天気)・デスマッチの天才のアシュラマンも気になるか

やはりこのアニメは面白いな】

 

アバン達がパーティを2分し ウロド平原の戦に挑むところで

話は一度一区切りした

 

[こども?こっそり卵産んだの?]

 

〔ジゼル、人間は卵は産まない〕

 

[あ そっか じゃあなんでこどもがいることがわかるの?]

 

〔それは・・・わからない〕

 

話の合間に飲み物を持ってきた細野とジゼルがどこかズレた会話をしていたが

オレはウロドの戦であの二人が不在の理由を今はじめて知った

 

「あの男があの決戦の場にいなかったのが不自然だったが

このような裏があったのか・・・」

 

【友のために体を張って勝機をつくろうとする男と

そんな友と生まれてくる子供のために決死の戦に挑む男

そしてそんな友を見守り共に決戦に赴く男・・・

これも友情の形か】

 

【その結果泣いてる女がいるわけですがそれは・・・】

 

そして場面はウロドの決戦へ

 

〔・・・これハドラーさんが遅刻したら作戦が成立しない?〕

 

【【「[!!??]」】】

 

「・・・罠を張っていることは想定していた

人間どもの精鋭部隊や各国連合軍

伏兵や魔・呪術罠 色々と踏んだ上でこちらも精鋭を揃えて

宿敵からの挑戦状に応じたのだ

例え毒蛾の粉の罠で配下全員を敵に回すことになっても勝つつもりだった

だからこそ 魔王の矜持、礼儀として時間を守るのは当然だ」

 

映像の内容は実際の決戦よりもかなり省略されていた

例の男がオレと戦う姿もあったが

 

「肝心の戦がかなり短いな

初手でオレに恐ろしい奴と認識させた閃華裂光拳や

配下の大部分を無力化させた大魔道士の大呪文、

アバンが姿を消した奇策 そして共に呪法に取り込まれる瞬間に見せた

このオレに寒気すら感じさせたあやつの笑顔すら省略されている

これでは参考になるか?」

 

【なるほど

まあこの映像だけではわからぬところがあるのは仕方あるまい

真実を伝えるというこうとはかくも難しいもの

ワシも若いものに過去を伝えることの難しさはよくわかる】

 

『ですが この経験を通じて 神々すら知らなかった

大魔王バーンの秘密に近づけたのはかなり大きかったのでは?』

 

たしかにそれが分からなければ

敵の位置も見えずに武器を振り回すようなもの

ダイ達に勝機などなかったと言える

 

「親から子へ 師から弟子へ

過去と未来が繋がる、か」

 

【親から子 師から弟子・・・】

 

『・・・アシュラマンの仮面の奥に涙が見えるような?』

 

そこは見るな

その後 ミストバーンを 柔から剛の武術による足止めと

決意と覚悟を込めたポップのメドローアがとらえた、

その瞬間 弾かれたメドローアが逆にポップ達を包んだ

 

[え!?]

 

一瞬の出来事にジゼルが呆然としている

・・・ポップとは最近も顔を合わせたから死んではいないはずだ

おそらくアバンあたりが救出したのだろうが あえて口にはすまい

 

ここで映像は終わったようだ

それを待っていたように井上が料理を持ってきた

 

〔お待たせしました

料理を置いてもよろしいですか?〕

 

【ああ 少し待て

これを使わせてくれ】

 

   スッ   バッ

 

アシュラマンが一番上の右腕の腕輪状の装飾品を外すと

白い布キレ、テーブルクロスへと変わった

 

「ほう 面白いな」

 

【それだけではないぞ】

 

    バサッ

 

テーブルに広げるとまるで大理石のようになった

 

【悪魔霊術の応用だ よし そのステーキ皿を置いてくれ】

 

    コト

 

「質感も大理石だな」

 

    スッ

 

【そして これはジゼル嬢へのヤングドラゴン杯出場祝いだ

機会があれば使ってもらいたい】

 

アシュラマンが上から2本目の右腕の装飾品を外してジゼルに渡した

 

【布自体はサンシャインが用意したものだ

マントとしても使えるが 広げて敷けば

リングをチェス盤に変えることができる

転所自在の術程 霊術を込めてはいないから

あくまで質感は通常のリングになる

ルール上も問題はないはずだ】

 

魔法陣を仕込むこともできるな

洗濯の時にでも技術を盗めないだろうか

悪魔霊術が気になるところだが料理を味わうとしよう

 

「ほう 力強さを感じる肉だな」

 

[歯ごたえがあって いかにも筋肉って感じますね]

 

〔あの祭りでテリーマンさんと直接交渉できましたからね

彼の牧場の肉を融通してもらえました〕

 

【なるほど 広大なテキサスの大地で育まれた肉か

サンシャイン お前のボロボロの歯で嚙み切れるのか?】

 

【ワシは不滅の命を持つサンシャインじゃぞ

たしかに長いレスラー生活で歯を食いしばりすぎて

ボロボロになったが まだまだステーキ肉に負けるわけにはいかん】

 

たしかにいい肉だ それだけに扱いも技術がいるだろうが

このステーキもいい出来だ

ブラッディ井上、料理の腕もかなり鍛え込んでいるようだな

全員がステーキをたいらげジゼルがおかわりを頼んだところで

 

「アシュラマン サンシャイン 悪巧みとはなんのことだ?」

 

【ああ 今度の興行のことだ

今鍛えている若いやつらをメインでやろうと思っている

今回は正義超人共は抜きでな】

 

【ああ やつらはまだ新世代正義超人の主力が帰ってきていない上に

伝説超人もラーメンマンの行方不明 ブロッケンJrの腕が消失

キン肉マンですら姿が消えかかる事件が発生している】

 

「おまえ達悪魔超人からすれば好機ではないのか?」

 

【我々の手でやったことならともかく

時間超人などという 縁もゆかりもないやつらがやったこと

そこにつけ込むのは 我々の誇りに傷がつく】

 

【せめて万太郎達の帰還の時期がわかっていれば

今いるやつらを叩いてから迎え撃つというのも面白いがな

そこで今回は悪魔の内部抗争を興行の軸にしようかと】

 

『物騒な内容 たしかに悪巧みですね』

 

【だが我ら悪魔超人軍は完全な縦社会

上の命令に従うだけのヒラの悪魔達だけでは

真剣に戦う理由がない】

 

「どういうことだ?」

 

〔興行という形なら

お客さんを盛り上げるドラマ性が必要なんです

はい おかわりお持ちしました〕

 

[いただきます]

 

「・・・・・・お前たち二人が指導方針を巡って対立

そこから内部抗争に発展 というのはどうだ?」

 

【たしかに悪くない が

どうせなら若いやつらが自発的になるような

エサを巡る争いの方がいいのだ】

 

【我ら悪魔の力の源は情だ

反骨心 劣等感 憎悪 友情 愛情 激情

そういった感情の心の揺らぎを力にする

それが我々の使命であり 若い奴らに必要なことなのだ】

 

「なるほど そのためのエサか・・・」

 

【だが 正直今の若い奴らが 心から望むこと

しかも共通して求めるものとなるとよくわからんな】

 

【たしかに・・・何かあったか・・・・・・】

 

サンシャインらが考え込んでいると細野が飯と飲み物のおかわりを持ってきた

 

〔じぇねれーしょんぎゃっぷー これはかっぷー ドヤッ

ジゼル おかわりどうぞ〕

 

[ありがとう 迷路お姉ちゃん]

 

【【あっ!】】

 

サンシャイン達の視線がオレに、

いや オレの膝の上で肉と飯を頬張るジゼルに向けられた

 

【そうだ若い奴らが共通していること

全員東女の、しかもジゼル嬢のファンだった!】

 

【七五三イベントで新衣装を獲得するたびに大歓声があがっていたな】

 

「そうなのか?」

 

そういえばここの若い悪魔に稽古をつけるときに

ジゼルを連れて行ったことがなかったな

 

『それは知りませんでしたね

流石 ジゼルの可愛さは若い悪魔も魅了しますか』

 

親馬鹿はやめろ

 

【ジゼル嬢 ヤングドラゴン杯本戦のチケット

できればリングサイド席 手に入らないか?

そしてプレゼンターもやってもらえれば

若い奴らには十分すぎる】

 

聖母竜だけでなく若い悪魔どもも 馬鹿だったか

 

[ハドラー様のために必ず1枚は確保してるけど・・・]

 

「お前の試合はオレも解説に呼ばれている

オレが解説席に行くからそのチケットをやればいい」

 

〔あ それは待ってください〕

 

話がまとまるかと思ったが井上に止められた

 

〔今人間の世界ではチケットの譲渡、転売が厳しく規制されています

ジゼルをプレゼンターにする話も含めて東女に話を通した方がいいです

社長はノリがいいですから はりきって協力しますよ〕

 

【なるほど そういことならワシが行こう

堅気の人間に迷惑をかけるのは本意ではない】

 

気遣いのできる悪魔だな

魔王軍とはえらい違いだ

 

【もうこんな時間か 昼の営業時間が近い

今日のところはこれで解散としよう】

 

【そうだな ではジゼル嬢 ヤングドラゴン杯の優勝と

七五三衣装のコンプリート 期待しているぞ】

 

[ありがとうサンちゃん]

 

「アシュラマン ひとつ預かっているものがある

受け取ってくれ」

 

【? ああ 受け取ろう】

 

別れ際にオレがアシュラマンに本を一冊渡した

 

【悟れ!アナンダ2?マンガか これがどうした?】

 

「奥付を見てほしい とのことだ」

 

【奥付? 最後のページか】

 

     パラ・・・

 

【・・・!!?

アシスタント  ハドラー、阿修羅族 シバ・・・・・・】

 

【なんだと!?】

 

〔ハドラーさん 漫画家のアシスタントやってるの?〕

 

「ああ 立川のアパートにたまに呼ばれて作業をしている」

 

【立川のアパート!?そんな近くにシバがいるのか!?】

 

「オレはシバというやつとは会ったことがない

たしか天部所属で人間界には来ていないはずだ」

 

〔遠方アシスタント 今時リモートスタイル〕

 

【・・・シバ そうか お前も贖罪をしているのだな・・・】

 

アシュラマンの顔の三面が涙に濡れ

サンシャインが何も言わず傍らに立っている

 

『シバ たしか亡くなった息子さんでしたね』

 

ああ 母殺しの罪を犯し 自らの手で処刑した、な

井上にしばらく そっとしてやってほしいと伝え

ジゼルと共に店を後にする

 

「親から子へ 師から弟子へ・・・、か」

 

隣を歩くジゼルを見ながら かつての(いくさ)に思いを馳せた

 

 




今月は色々あってでっかいロスを抱えているウジョーです
今日買ったメガドラミニ2でいくらか埋まるでしょうか
とりあえずメガCD版キャプテン翼をプレイ中

ダイの大冒険アニメ100話ついに終わってしまいました
連載当時放送されたアニメは大人の事情であまりに中途半端なところで終わり子供心にモヤモヤを残し
連載終了時は行方不明になったダイを探す冒険がいつかは はじまると思いながらも自分もそこそこ歳になり
いくつかのダイ大の2次創作SSをきっかけに自分なりに納得のいく形を模索し拙作を書き始めたのがもう9年前になります
まだ書きたいネタを抱えているのでもうしばらく拙作にお付き合いいただければ幸いです

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