ハドラー子育て日記 異世界家族旅行編   作:ウジョー

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異世界で開店したカフェに加勢にいきました 後編

黒川たちが家に帰った後 オレたちは店の調理器具を確認した

オレの知ってる器具も多いが はじめて見るものも多い

この世界は精霊の力を魔術具という形で一般人でも使えるものにし

様々なものに利用しているらしい

オレの知る魔法の筒やコーセルテルの術道具に近いが

それよりも便利で融通が利くもののようだ

調理器具にもそういったものが多く一見しただけでは用途がわからんが

実際使う様子は撹拌や加熱、保温など調理の補助を主とするようだ

 

・・・いつのまにか背中で寝息をたてているジゼルはほうっておき

道具の手入れと店内の天井を掃除していると夜が明けはじめ・・・ム?

 

『どうしました?』

 

店の外に何者かの気配が近づいてくる これは黒川らではない

ジゼルを降ろして起こし待機を命じ店内からそっと外にでて様子を伺うと

フードで顔を隠した小娘が大きなバケツを持っているようだった

 

〔・・・せーの!〕

 

「待て」

 

その手をつかみバケツの中を見るとその中身は果物や野菜の皮などだった

こやつ オレたちが最初に店に入る前に店の前にいた小娘だな

腐敗臭がする・・・ということは

 

〔ひっ・・・!〕

 

「声を上げるな オレはこの店の助っ人ハドラー

そのまま店に入れ小娘」

 

オレのひとにらみで声をあげることもなく

おそるおそる店内に入った小娘をジゼルがむかえる

 

 

「こいつはオレの娘だ」

 

[ジゼルと申します]

 

「ジゼル こいつはお前に任せる

オレは準備がある」

 

『おはなしをきいてあげてね』

 

[はい!]

 

〔え・・・?〕

 

呆然とする小娘を客席に座らせ

オレは小娘の持っていたバケツをとりあげ厨房に行った

 

オレの姿が見えず さらに見た目は小娘よりも小さい

幼さの残るジゼルを前にしある程度安心したのか

小娘は少しずつ話はじめた・・・

 

少し離れた厨房でもオレの耳なら問題なく聞こえていた

それによるとこやつの名はヘレナ・チェスター

家はパン屋をやっており王家御用達の看板をあげていたが

黒川の店のパンが今までの常識では考えられない程の出来だったせいで

逆にチェスター店に悪評がたち 父が悩む姿にいてもたってもいられず、

それでこれを店前にぶちまけようとしたのか・・・

バケツの中にはそれらしいパン?のようなものがある

 

「これがチェスターのパンか・・・どれ」

 

ガツッ

 

人間が食べるにしては硬いな しかもロクに味がない・・・

いくら捨てるはずのものとはいえ 人間用とは思えん出来だな

・・・でははじめるとするか

 

・・・

・・・・・・

 

[わたしなら店に火をはなつよ! もう一瞬で丸焼きに!!]

 

〔そこまでする気はなかったわよ・・・!〕

 

[ハドラー様に敵対して 迷惑をかけるなら当然よ!]

 

「何をいっとるんだおまえは」

 

      ゴン!

 

[あうっ!]

 

ジゼルにゲンコツを落とし隣に立った

 

[だって ヘレナがお父様のために立ち上がったっていうから

わたしだったらそれくらいやりますよ]

 

「・・・まあここまで情報を聞き出せただけでも上出来としよう

ヘレナだったな お前にオレの過去を少し話してやろう

このジゼルにもまだ直接話していないことだ・・・」

 

〔・・・え?〕

 

「オレには宿敵がいる

はじめて会ったときはオレの半分も生きていない人間の若造と侮ったが

その後オレは 奴からはじめて決定的な敗北を味わった

そしてやつが第一線を退いた後はその弟子達にまで連敗した・・・」

 

〔[・・・]〕

戸惑っていたヘレナもジゼルもじっと聞き入っていた

 

「オレはやつらに勝つために手段をえらばなくなり

全てを捨てでもこの手に勝利をえようとした」

 

淡々と話しているが オレの中で静かに燃えるものがたしかにある

 

「だがその無理がたたり 身体を壊した・・・

そして最後の勝負を挑んだ・・・ 正々堂々とな」

 

[ええ?!]

 

〔それで・・・どうなったんですか?〕

 

「敗れた・・・ものの見事にな

その後 その弟子と1年ほど過ごすことがあってな

オレをじいちゃん、じいちゃんと呼び 孫のようだったよ

ジゼルが生まれるよりも前のことだ」

 

[・・・・・・・・・]

 

「そこでまた思うことがあり そいつを親元に送り届けた後

・・・オレは宿敵に教えを乞うことにした」

 

[ハドラー様が!?]

 

〔そんな・・・!悔しくなかったんですか?!〕

 

「・・・無論 屈辱だった

だが それ以上にやつに劣るままでいることが自分の無力さが許せなかった

そして その実力も指導力もオレはだれよりも知っていた

ならば最短の道はひとつしかなかった・・・」

 

[〔・・・・・・・・・〕]

 

「そして1年の修業期間を経てやつの元を卒業し

さらに腕を磨いている間にジゼルが生まれ現在に至る

そしてその成果がこれだ くらうがいい」

 

朝食につくり隠し持ちながらオレの術で保温していた

湯気のあがるまんじゅうをヘレナとジゼルにだしオレもひとつ食った

 

[いただきます!]

 

〔・・・いただきます はむ!

ん!・・・ あん・・・ んぐ・・・ ぱく・・・

ぺロ・・・ はぐ・・・

やわらかくて分厚い皮にジュっとした汁と具・・・

そして体にしみこむような優しい感じ・・・〕

 

[おいしいです!ハドラー様〜♡]

 

〔あ・・・ すみません思わず・・・

その、すごくおいしかったもので

あ、そのお金をはらいます!〕

 

「遠慮はいらん ・・・材料は全ておまえが持ってきたものだからな」

 

ニヤリと笑い返す

 

〔え・・・えーーーーーー!!

だ・だってあれはうちのざんぱん・・・〕

 

「そしてそのまんじゅうの皮はおまえの店のパンだ」

 

〔うそ!? だってこれに比べたらうちのは石・・・あっ〕

 

「そういうことだ・・・

同じ材料でこれほどの差がでる・・・ということは

単純にお前の親父のレベルが足らんということだ」

 

〔・・・・・・〕

 

「ぐうの音もでまい

ジゼルよ もしお前が同じ状況で敵の店を燃やせば

オレは戦わずに敗北を認めた上に再戦の機会さえ奪われる

それがどういうことか・・・今なら少しはわかるな」

 

[はい・・・ ハドラー様 ごめんなさい・・・!]

 

「そして・・・ 早朝から朝飯も食わずに慣れない悪事と

細腕での輸送のストレスで弱った体に 言葉と味でつけこみ

いっぱい食わせる これが悪魔のやり口だ 憶えておけ」

 

『子供たちに何教えてるんですか?!』

 

別にやれとは言ってはいない 知っておけと言っておる

 

『あなた・・・ それはそれとして大丈夫でしょうね』

 

「安心しろ 解毒処置はしてある

まんじゅうをよほど くいすぎねばまったく問題ない」

 

[わたしはハドラー様のごはんは毒のかたまりでも迷わずたべますよ]

 

『別の意味で心配なのですが・・・』

 

む、また一人店に近づいているな これも黒川らではない

 

       ゴンゴン!

 

〔あんたたちだれ?! ここはリサの店よ!!〕

 

ドアを開けて外にいた 知らん顔の小娘にまた名乗った

 

・・・

・・・・・・

 

〔助っ人って・・・ 

私となりに住んでるけどあんたみたいな大男なんてはじめて・・・

あれ?あなたチェスターのパン屋の娘じゃない?〕

 

「なんだ知っているのか ならばこやつの父親を今すぐここに連れてこい

・・・こやつの命が惜しければな 急げ」

 

『ちょっと! あなた!?』

 

「ククククッ・・・! 騎士団は呼ぶな 面倒だからな」

 

〔そんな!? わかったわ!すぐに呼んでくるから

絶対に待ってなさいよ!!〕

 

隣の小娘が走っていった後に 黒川らがやってきた

 

〔おはようございます!ハドラーさん ジゼルちゃん マザードラゴンさん

あれ どうしたんですかその子? お客さんですか・・・〕

 

「ああ 詳しい話は・・・ ちょうど来たようだな」

 

〔ハァ ハァ ちゃんと連れてきたわよ! さあその子を開放しなさい!!〕

 

〔ヘレナ!! 娘は! 娘は無事でしょうね!!〕

 

「いいから店に入れ 詳しい話は茶でも飲みながらしてやろう・・・」

 

〔 〔 〔・・・は?〕 〕 〕

 

・・・

・・・・・・

 

〔うちの娘が馬鹿な事をして本当に申し訳ありませんでした!!〕

 

娘の口からの自白を聞いた パン屋でヘレナの親父

ポール・チェスターは黒川に謝り倒し

 

〔そしてあなたが娘を止めてくださったそうで・・・

本当にありがとうございました!!〕

 

オレにも頭を下げた

ポールを連れてきた隣の魔術具店のアンジェリカはオレをにらみながらも

オレがこの店の昨日の残り物で用意した茶と茶菓子をつまんでいる

 

「すまんな おまえがオレを見る目が不信そのものだったからな

ついからかいたくなった ゆるせ」

 

〔ゆるすかーー!!もう!リサも何でこんなの雇ってるのよ!!〕

 

〔ええと・・・ でもほらハドラーさんのお菓子おいしいでしょ!〕

 

〔もーう!私はこれで帰るからね!お昼はここのランチオゴリね!!〕

 

ガチャ カランカラン

 

「いい友人がいるではないか」

 

〔ええ そうなんですけど・・・

ハドラーさんこれっきりにしてくださいね〕

 

「わかったわかった そいつらをどうするかは店主であるお前の仕事だ

オレは口出しせんが・・・情報を聞き出したジゼルの功績に免じて

その裁きをジゼルに見届けさせてくれ」

 

〔ええ?! ・・・わかりましたけど

じゃあジーク君が来たら開店準備お願いしてもらえますか?〕

 

「任せておけ」

 

茶を下げ後を任せオレは厨房に戻った

 

・・・

 

黒川の裁きはポールにはパン作りの指導の対価として店に安値で

黒川流のパンを納品し ヘレナには迷惑料がわりに店のスタッフとして

しばらく接客を担当するというものだった

 

〔ポールさん以外のパン屋さんで指導を受けたいかたがいらっしゃれば

積極的に声をかけてください できるだけ対応しますから〕

 

〔ええ!?いいんですか?いくらレシピを公開しているとはいえ〕

 

〔見てのとおりこの店の店主は私のような小娘ですから

今回のようなことは これからもあるかもしれません

ですが たとえばヘレナ〕

 

急に名前を呼ばれビクっとしたヘレナ

 

〔ハドラーさんが店にいることを最初から知っていたら

今日みたいなこと やってた?〕

 

〔いえ・・・ 多分こわくて できなかったかもしれません・・・〕

 

なるほど

 

〔ポールさんや他のパン職人さんたちが指導を受けていることが知られれば

またそれを見せることができれば このお店を必要にする人が増えれば

この店を守ることにつながるそういう狙いもあるということです〕

 

意外としたたかなようだ これは黒川の評価を改める必要があるな

ジゼルにはまだ理解できるか怪しいが それもよい経験だろう

 

〔それにこの店が忙しいときに周りに頼りやすくなりますし

それを通じて新しい料理や作り方が広がることに

協力して下さるならそれに越した事はありません〕

 

〔そんな・・・ こちらとしては願ってもないことです〕

 

〔よろしくお願いします!〕

 

〔ヘレナ・・・ 本当にご迷惑をおかけ致しました

親子共々よろしくお願いします〕

 

〔あとは ラインハルト君に相談してからになるけど・・・

この『私服騎士立寄り所』の看板を上げようかと思ってるんだけど

ハドラーさんお願いしますね〕

 

オレの課題をクリアする算段をしっかりと立ててきたようだな

犯行を未然に防ぐ狙いばかりで敵を返り討ちにするものがないのが

つまらんが・・・ しばらく様子を見るとしよう

 

その後 オレたちは一週間この店に滞在しジゼルは接客も経験し

服屋を営む黒川の養母がオレ達親子とヘレナの服を仕立てたり

ヘレナが正式な店のスタッフになったりと・・・

色々なことがあったが・・・

 

 

 

「いい土産ができた 感謝するぞ」

 

両腕に土産の菓子を抱え・・・

 

『ジゼルおわかれを・・・』

 

店の制服の上に黒いエプロンを着て

バジルを頭に乗せヘレナと泣きながら抱き合うジゼル

 

「・・・いくぞ ジゼル」

 

[・・・はい ・・・ハドラーさ・・・ま・・・]

 

〔・・・ジゼル~〕

 

‘ジゼル・・・’

 

すっかり情がうつったようだな

これは好都合かもしれん ジゼルの頭にバジルごと手を乗せて

パア・・・

 

「ジゼル、バジルお前たちにつながりを作った

精霊同士の意思疎通をつくりだす術だ 何かあれば助けを呼べ」

 

『まあこの術は世界に干渉し弊害を起こすほどの力はありませんし

竜術でもないので問題にもなりませんから』

 

[・・・じゃあ また会えるの?!]

 

「まだまだ保護者同伴が条件だが お前次第でな」

 

オレがニヤリと笑うとジゼルが抱きついてきた

その嬉し涙も今回の収穫・・・か

カフェ・おむすび・・・この店がむすんだもの 何よりの土産だ

 

 




ギリアム・イェーガーや竜眼のゼニスのように異世界を渡る猛者・・・
でもやってることは・・・まあ食欲の秋ということで

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