「イット―、久しぶりだな。お前とこんな場所で再会することになるとは思っていなかったよ。ジョゼフィーヌが知れば泣いて喜びそうなものだがひとつ聞いておきたい。お前が借金取りとは一体どういう了見だ?」
顔には
「ジョゼフィーヌがおるんは知ってるんやけどなぁ。せやかて今は仕事が先なんや。闇金王のル・フェルドから話は聞いてるさかい。ハット、実はネルソン商会の借金150億ベリーはわてらで買い取ったんやで。ル・フェルドは福の神とか言われてるらしいけど。そりゃそうやろ。あいつはといちでやってるさかいなぁ。せやけどわてらはそないな
「イット―だけにか。ふざけやがって、どこの世界に1日10億ベリーの利息を付ける奴らがいる」
「イットットッ、ほんまやなぁ。ハットにしてはおもろいこと言うやないか。まあでも、ここにわてみたいな奴がおるんやから諦めなはれや。ほれ、しょーもないこと抜かしてんと、払うんか、払わんのかどっちにするんや? わてはいらちなんやで。早う決めんと、この
腰に差した刀の
結論、イット―が言うあの
辺りに目を配ってみれば、
そして
「で、俺の眼鏡は誰が上げるんだ?」
「ンマー……心配するな。俺が上げてやる。どうだ? こんなもんか?」
両手が
まあ取り敢えずは
「イトゥー会か、しばらくだな」
そこへ放たれたアイスバーグからの言葉は俺の思考を中断させるには十分の内容で、
「あんた、イット―を知っているのか?」
直ぐ様問わずにはいられない。
「ンマー……そういうことだ。俺が“ベクトル”を教わった相手はこの男だからな」
「よう見たらアイスバーグやないか。そう言えば、そないなこともあったなぁ」
人間驚くべきところで繋がっているものだ。ただそうなるとイット―は“ベクトル”とやらを操るということになる。しかも相当な
「割り込んで申し訳ないが、俺たちの借金を取り立てたいというのであれば、さっさと解放した方が良いのでは? ここに留めても金は入ってこないでしょうに」
クラハドールが本題へと押し戻すようにして
「そらそうやなぁ。まあ正論やで。……それはつまりはや、……払えんと、そういうことでええか、ハット?」
イット―からの問いは最後には相当ドスが利いたものとなる。とはいえ、凄まれたところで俺たちには首を縦に振るしか答えは存在していない。
―――プルプルプルプル―――
で、このタイミングで掛かってくる電伝虫。まさかのコールかと
「かなんなぁ。自分らは四商海になったんやから、金はどんどん入って来るんやろうけど、わてらは今必要なんや。ほんま、いらちやさかいに堪忍やでぇ。こうなったら自分らのそっ首斬り落としてから、ぶら下げたもん“
イット―が俺の答えに対して
「私は私の仕事をするだけよ。その意識を失った男の命を貰い受ける。ただそれだけ……」
奴の
「そらええわ。ハット、わても昔の縁より目の前の仕事の方が優先や。……ほな、行こかぁ」
――――来る――――
敏感に察する己の見聞色が脳内に響かせる大音量の警報を感じ取り、クラハドールに目で合図を送った瞬間には
考えなければならないことは山程に存在するがその
刹那の中を駆け巡りながら連発銃を取り出して発射するという一連の動作を最速で終えて、
「
放つは王気を瞬間で最大限
目には見えぬその黄金弾を気配だけで感じ取り直ぐ様に、
「
追跡を掛けようとしたところで、襲い掛かる何かに意識を刈り取られるような衝撃を与えられた。
気付けば俺は突っ伏していた。
視界に入るのは
そして状況は最悪だった。
なぜならクラハドールも戦わざるを得ない状況に追い込まれていたからだ。相手はヴァイオレットと名乗った女。そういえば
―――
と呟いたのを。
アイスバーグはどこから持って来たのか壊れかけたような木製ベンチに横たえられていた。その周りで円を描くようにしてクラハドールは蹴りの猛襲から辛うじて守っていた。護衛をかなぐり捨てるところをギリギリのところで何とか踏み止まっているそんな状態だ。相手は明らかに覇気使い。クラハドールの奴はモヤモヤの最大限を使わざるを得ない状況へと追い込まれているに違いない。それにそんな能力行使はそう長くは保たないはずだ。
かなり拙い状況と言えた。
そうやってこの場を絶望一歩手前の状況であると確認したのちに、これを作りだした根源を見やる。
「何をした? あれは何だ?」
切迫した状況が俺から冷静さを奪い取りつつあるのかもしれない。言葉が細切れにしか出てこない。
「そこに横たわる奴が言ったことそのもんや。“ベクトル”。わての
イット―の真一文字の唇が最後には吊りあがり、
「イット―流」
そのまま振り下ろされる。
飛ぶ斬撃。
己の見聞色が何とかそれを察知する。
直後、
一直線に抜けてゆく気配。
それは空気を真っ二つに、地を真っ二つに、直線上にあるヤルキマンマングローブの幹を真っ二つに、
した上で刹那のあとには、
弾くように、爆発させるかのようにして、その一直線の両側へと広がる斬撃の嵐。
「
回避するなどおこがましいにも過ぎることは瞬間に理解していた。それでも
ゆえに、
「
己の身体を黄金化した上で更なる黄金を生み出してゆき、絶壁と化して守りゆくのだ。クラハドールとアイスバーグまでも。
ただそれでも見舞われた斬撃の嵐は全てを切り裂いてゆく。否、切り裂くというには生温い。それは
背中から倒れ込まざるを得ず、無数の痛みが
「イット―流」
だがそんなことよりもイット―は容赦が無い。どこまでも容赦が無かった。
イット―は既に跳び上がっていた。中空にて黒刀を構える姿を捉える事が出来る。痛みに打ちのめされる己の身体は、全くと言っていいほど言うことを聞いてはくれそうにない。
死を意識する。
久しぶりに死を意識せざるを得ない。
戦闘で死の境地を見せられたのはいつ以来のことか。あれはアラバスタでの青雉の時だろうか。
あの時も何とか切り抜けた。
何とか切り抜けて見せたのだ。
ならばそれを今出来ないなどという理由は無いだろう。
動け。
動け。
動け、動け、動け、動けっ!!!!!!!
己の身体に対してこれでもかと発破を掛け続けたその先に……。
身体の奥底から渇望する何か。
否、これは何かではない。
覇王色マイナスの根源。
そして、
己の能力、
ゴルゴルの
ゴルゴルの
これは覚醒だ。
その尻尾だ。
頭上に振り下ろされてくるのは黒刀の
イット―の両の
「
それは己の首目掛けて一閃された斬撃。
その一点を爆心地とするかの如くに
ただ、
たとえそうだとしても、
俺は一度目を閉じた上で見開いてゆき、
口角を上げてゆくのだ。
「
その瞬間、
地は黄金へと変わる。
実体としてある覇王色のマイナスを無意識に運ぶ。
己の喉元が斬撃の爆心地になるはずであったところを己のソレが吸収する。
その上で、
弾き飛ばす。
俺は立ち上がる。
全身は血だらけ。
頭は
それでも、イット―が向こうで地に突っ伏していた。
否、奴もまた立ち上がる。
血を流していても、俺よりも動けるであろうことを己の見聞色は冷徹なまでに告げている。
最後か。
やはり最期なのか。
「いいえ、まだこれから。遅れてごめん、この人ったら叩き起こしてものらりくらりで」
振り返った先に立っていたのは申し訳なさそうにしながらも、少しホッとした表情を浮かべるチムニーだった。
そして、その横に立っていたのは、
「人の昼寝を邪魔するのは犯罪だぜ、
眠そうに欠伸をしながらも鋭い眼光と笑みを
どうやらガレーラの小さなスパイマスターは特大の助っ人を準備していたらしい。