ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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UAが3000を超えたようでして、読んでいただきありがとうございます。
第六話、少し短くなりますがどうぞ!!


第6話 珀鉛

北の海(ノースブルー)” ジェットランド島 元フレバンス王国 珀鉛(はくえん)鉱山

 

 

 

 私とローはフラーセル、廃墟と化したローの出生地をあとにして、馬にまたがり進みながらフレバンスの中心部分にある珀鉛(はくえん)鉱山へ向かった。

 

 途中何かしら人の気配を感じた。多分巡回する警備であったと思われる。2人連れであり、そいつらも馬を使っているようであった。だが、そのたびに一定の距離を置くことで、特に問題はなかった。

 

 警備が存在すること自体が、この場所で何かが蠢いているということであり、珀鉛(はくえん)鉱山に接近してみると案の定、二重の鉄条網と監視塔に囲まれた中に建物がいくつか存在しており、その奥には純白の丘のような山が聳えていて、いくつか穴が掘られており穴の中に線路が続いていた。きっとトロッコだ。まぎれもなく珀鉛(はくえん)の鉱山であった。

 

 

 その場所は大地を巨大なスコップで削ったかのような小さな盆地のようになっている。私たちは今、その場所を眼下に見据えながら。寝っ転がって双眼鏡片手に中の様子を窺っている。

 

 遮蔽物の何もない場所であり、2つある監視塔の丁度中間地点にあたる。

 

 大地と同化できるように白いコートも持ってきておいて良かった。私たちは大事な時は正装を身に纏うから見つかってしまえば黒に着替えるのだが。

 

 ここから先は馬では入れないし、帰りに乗ることもないので、馬はもう放してやっている。警備に発見される可能性はあるが、少しぐらいなら時間の余裕はあるだろう。

 

「なんだ?! あの旗は」

 

 双眼鏡を覗いているローがそう口にする。私もローが眺めている方向に双眼鏡を向けて、彼が言葉にした旗を確認しようとする。

 

 珀鉛(はくえん)鉱山よりも手前、屋根が雪に覆われた木造の長屋のような建物が連なるさらに手前、何かしらオフィスのような2階建ての建物脇にポールが立っており、そこではためく旗が確かに見える。

 

 白地……、両端に黒丸がある線が十字に交差している。一見して世界政府の旗のように見えるが、真中が黒丸ではなく黒く掌を広げた形になっている。

 

 なんだろうか?

 

「政府の旗のようだけど、少し違うわね」

 

 そう口にしてみる。

 

「それに、警備してるやつらの帽子にも掌のマークがありやがる。政府の別組織か……?」

 

ちょっと待って、もしかして……。

 

「あの黒丸に十字は間違いねぇ、世界の四つの海を表してる。真中の掌はなんだ、奪う……、差し出せ……、ってことなのか? なんだってんだ。わけがわからねぇな」

 

 奪う……? 差し出せ……? もしかしたら……。

 

 ローが考えを口にするのを聞いて、かすかな記憶が呼び覚まされていく。

 

「噂を耳にしたことがあるの。政府内に新設された闇組織“ヒガシインドガイシャ”」

 

「闇組織だと?」

 

 ローが聞きなれない名前を耳にしたと双眼鏡から視線をそらし、こちらに顔を向けてくる。

 

「ええ、噂でしかないけど。革命軍の攻勢を受けている政府が世界各地に直轄地を設けようとしてるって」

 

「理屈は通るが、そんなことして……」

 

 ローが考えるようにしてつぶやき、

 

「そうか……、天竜人に流れる天上金とは別に政府独自に資金源を持とうって狙いか」

 

と、答えを得たようで体を起きあげる。

 

「それもあるかもしれないけど、メリットになるものは独占しようってことじゃない?」

 

 何にせよ。私たちにとっては喜ばしいことではない。闇組織が相手となれば、完全に危ない道に片足だけではなく両足を突っ込むことになってしまう。今回の案件は危険すぎはしないだろうか。何とも言えない気分になってくる。

 

「そう不安になるな。これがやべぇヤマになることは最初からわかりきってたことだ。相手が政府の闇組織だからって、今さら何かが変わるもんでもねぇ。見たところ警備は緩そうだ。大方、侵入者などねぇもんと高をくくってんだろ。行くぞ」

 

 私が弱気になりそうなところを、ローはそう言って斜面を下に向かおうとする。

 

 兄さんもローもヤマって言うけど、これは案件よ。

 

 何よ……、年下のくせにー……。

 

 ローの余裕に満ちた言動が少し癪に障ってくる。船に戻ったらぜーったいに契約書の中身にいちゃもんつけてやる。朝食の握り飯を1000ベリーに戻してやるーっ。

 

 いけない、いけない。心が乱れている。こんな心理状態では見聞色の覇気に支障を来してしまう。

 

 まあ、ローに余裕があるのは素晴らしいことではないか。きっと、フラーセルを訪れたことが大きかったんだろう。

 

 船でのローはみんなの前では見せないが、夜ほとんど眠らずに医務室にこもっていたり、甲板に出てずっと海を眺めていたりと、何かしら考え思い悩んでいるような気がしていた。だから、これは良好なことだ。

 

 でも、兄さんとはしょっちゅうチェスをしていたが。よくも飽きないものだと思う。何というか、兄さんとローは少し似ているところがあると思う。お互い興味の対象が合っているように思われるし、危ない時ほど生き生きしてくる節がある。

 

 そんな風に考えを飛ばしながら、私も起きあがって、ローに追いつき、彼が展開している能力ROOMの内側に入り、鉄条網の内側に潜入する。

 

 この能力だけは本当、便利ね。

 

 毎度ながら羨ましい能力である。

 

 

 

 

 

 ローはROOMを最大範囲まで大きくして、私たちは監視塔からは見つからないように二重の鉄条網を突破して一気に珀鉛(はくえん)鉱山のオフィスのような建物内に入ることに成功している。

 

 ローは少し能力を使いすぎたと言っているが、すぐに回復するだろう。

 

 私は建物内に入る前より、しっかりと呼吸を整えてローの呼吸をも同調させ、気配を消している。

 

 ロッコが言うように、見聞色マイナス、“縮地”の領域だ。そして気配を消しながらも、周辺の気配を感じ取り何をやっているかがわかる。見聞色マイナスに秀でつつも、ある程度プラスのこともできる。これが見聞色への偏りがなせる業のようだ。

 

 建物は当然のように真っ白で、驚くことに内部も真っ白だ。これも珀鉛(はくえん)なのだろうか。それはそれは透き通るような白色をしており、厳かな雰囲気を漂わせている。

 

 入り込んだ場所は建物を横に貫く1本廊下だったので、こんなところでは発見されてしまう。

 

 私たちは気配がないことを確かめて建物内の廊下を素早くも気配を消して移動し、なおかつ人のいる気配を探りながら2階奥の重厚そうな扉の近くに来る。

 

 建物内に入ってから手の汗がひどい。緊張はしている。そして扉の内側から声が聞こえてくる。

 

「反応があるな」

 

 ローが腕にはめている黒電伝虫(くろでんでんむし)だ。盗聴用の特殊な電伝虫(でんでんむし)

 

 手に入れるためにかなりのべリーを積んだ覚えがある。この扉の奥で誰かが電伝虫(でんでんむし)による会話を行っているようだ。見聞色の気配でもそれがわかる。だが、

 

「反応が消えやがった」

 

 どうやら、盗聴防止用の白電伝虫(しろでんでんむし)も飼っているようだ、さすがにこのあたりはぬかりが無いと言うべきか。でも言葉が聞こえてくる。

 

 すごい……。

 

 極限状態に置かれていることのなせる業か、見聞色マイナスで気配を消しつつ、中にいる人間の会話を聞き取れる。自分がやっていることに驚いてしまう。ローもびっくりして、

 

「俺にも聞こえてくる」

 

と囁き声を口にする。ローにも同調するのか。

 

 部屋の中に居るのは一人だけだ。

 

~「報告を。総督はそばに居るのか?」~

 

 電伝虫(でんでんむし)が口を開いている。

 

~「いえ、あの方は現場に出ておられますが、報告致します。今月の産出量は20tで、先月より1t増です。今回の搬出で2t、そちらに送ります」~

 

 中に居る人間が答えている。珀鉛(はくえん)についての報告のようだ。総督? それに、相手は誰だろうか?

 

~「まだまだ足りんな。もう少し何とかならんのか?」~

 

 電伝虫(でんでんむし)の相手は不満のようである。それほど沢山の量が必要なのだろうか?

 

~「昔のようにはいきませんよ、ご老体。ベルガーの時代の様にはね。まだまだ労働力と資材が足りません。それに人知れず運び出すにはある程度の量に抑えないとね。いくら不老不死のために必要だとは言えね」~

 

~「コーギー、貴様。ベルガーと不老不死を無闇に口にするな。あの男は知りすぎたのだ。我々の提案を呑んでおれば長生きできたものを。まあよい。わかった。五老星(ごろうせい)には私より報告しておく」~

 

 ……え……? どういうこと……? 何を言っているの……?

 

 父はあいつらに殺されたの? 政府に……、五老星(ごろうせい)に……。

 

 今のやり取りを聞いて思考が形を成さない、重大な情報なのだが頭の中に入ってこない。

 

 なになに? 何なのよ。どういうこと……、どういうことなのよ……。

 

 ローがこちらを少し焦った表情で見おろし、落ち着けと声に出さずに伝えようとしている。

 

 あ……。

 

 自分の心が乱れていることに今さらながら気付いてしまう。でも今気付いても遅すぎるのである。

 

~「誰だっ!! そこにいるのはっ!!」~

 

~「ん? どうした?」~

 

 しまった。逃げなければ。

 

 私は何とか反応して、ローと共にそこを立ち去ろうとするが、どうも体が重い気がする。

 

 覇気を使いすぎたのかもしれない。

 

 だが、かすかにまだ部屋の中の声が聞こえる。

 

~「コーギー監督官。鉱山南方3km地点において鞍の付いた2頭の馬を確認」~

 

 別の電伝虫(でんでんむし)……。

 

~「何、侵入者か? 警報だ。非常警報を出せっ!!!!」~

 

 まずい、まずいわ。見つかるのが早すぎた。

 

「ROOM」

 

 ローが能力を発動している。やっぱり体が重い。急がなければならないというのに。

 

「もう見つかったものはしょうがねぇ。陽動に移るぞ。急げ。小電伝虫(こでんでんむし)の用意を。ボスに連絡だ」

 

 私はローに何とか肩を掴まれてROOMの中に入り、

 

「シャンブルズ!!」

 

 そのローの言葉と共に私たちは建物をあとにした。

 

 

 先ほど得た情報の中で亡き父のことだけが脳内を駆け巡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
始まりますね。怒涛の何かが。
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