ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第55話 地獄を見せてやる準備はしてきたつもりだ

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島 モックタウン

 

 

背にアーロンを負うこと。クラハドールの奴は考えもなしにそんなことはしねぇだろうと言いやがったが、買い被り過ぎだ。俺にしてみれば出たとこ勝負もいいところであった。

 

ただ、数々の経験を経て能力に磨きが掛かりつつある俺は、

 

「タクト」

 

右手人差し指ひとつ動かすだけで背に負うこいつを浮遊状態にしておくことぐらいは出来るようになっている。でなければこんな愚かなことはしない。こいつを引き摺った状態で赤犬屋と戦えるなどとは自惚れてはいないつもりだ。

 

「なんだ? 浮いてるじゃねぇか」

 

「海の中だと思えばいい。上等種族なら海の中はお手のもんだろ? まあ、枷はあるがな……」

 

「どこが海の中だっ!! 浮いてるだけじゃねぇか。ふざけてんじゃねぇっ!!」

 

己の中でもかなり適当な事を言っている自覚はあるが、実のところそれどころではねぇし、勿論ふざけてもいねぇ。そもそもこいつの戦闘力はどれぐらいなのか? 魚人として腕っ節はあるようだが、覇気を使えなければ赤犬屋相手にはどうにもならない。そうなると相手になるのは赤犬屋の周りにいる海兵達ぐらいであろう。だが俺たちは枷で繋いでいる状態である。それに奴らの相手ならクラハドールで十分お釣りがくるはずだ。

 

「お前も動けよ、クラハドール。契約をどうこう言ってる場合じゃねぇぞ、これは」

 

「……ああ、奴らが撃ってきたらな」

 

両手に戦うための準備はしているが、建物の外壁に背を預けたままという戦う素振りになってないクラハドールに対して苦言のひとつでも呈してみるが、返ってきた答えはこれだ。

 

だが、一理あるのも確か。俺たちの立場上、今の微妙な状況下では正当防衛であることは絶対条件かもしれない。少なくとも俺たちから仕掛けるわけにはいかないだろう。

 

まあ大した問題ではないが……。現に海兵達が一斉にライフルを俺たちに向けている状態だ。奴らの指はしっかりと引き金に掛かってやがる。

 

「おい、下等種族、気は確かか? さっさとこの錠を外さねぇかーっ!!」

 

さすがのこいつも一斉に銃を向けられてるこの状況は居心地が悪いようだが、

 

「悪ぃが俺は正気だ。言ったはずだぞ。腹括れよってな、相手は大将だ。海兵どもに銃向けられたぐらいでじたばたしてんじゃねぇよ」

 

知ったこっちゃねぇ。

 

確かに自らの意思では動けないことがそう思わせてるのかもしれないが、それでも知ったこっちゃねぇだ。

 

 

何より、赤犬屋が動き出す。それこそが問題だ。

 

海兵達の隊列が一気に退いていく。赤犬屋に並んでいた奴らが一斉に退いていくのだ。

 

それは奴が動く合図。

 

「おどれら……、地獄は見たことあるけぇか?」

 

赤犬屋の身体から迸ってくる赤く禍々しいまでのマグマ。熱と煙を同時に噴出し一気に広がりを見せている灼熱の世界。

 

 

赤壁(せきへき)

 

 

両腕を広げたと同時、一瞬にして広がるは赤い壁。全てを焙り尽くし、全てを溶かし尽くし、無きものとするようなおどろおどろしさ。

 

地獄……、確かにそうだ。

 

発する音だけでも己の精神をざわつかせるには十分で、距離があるのにも関わらず猛烈に押し寄せて来る熱が思考までもを奪い取りそうである。

 

俺たちは完全にマグマの壁にて取り囲まれている状態だ。赤犬屋は尚も轟音に近い火砕を迸り続けており、止まることはない。

 

「おい、嫌な予感しかしねぇぞ、これは。どうするんだ? 何とかなるんだろうな?」

 

中々に切羽詰まった声音が背後からしてくる。

 

確かに、やべぇな、こいつは……。

 

己の見聞色が最大級の警告を発し続けてやがる。

 

「クラハドール!! 来るぞ!!!」

 

瞬間、

 

 

 

赤海大波(せきかいたいは)

 

 

 

一気に火砕流となって押し寄せて来るマグマの大波。それは海そのものであり、全てを消滅し得るものであった。

 

「シャンブルズ」

 

見聞色の読みは間違ってはいない。何とか先に動くことが出来ている。こんなことされては是非もねぇだろう。己とクラハドールを同時に溶かし尽くす大波の猛威の外側にいる海兵二人と入れ替えてやるまでだ。

 

この世のものとは思えねぇ光景をさっきと反対側から眺めることになったが、とんでもねぇ有様である。全てを溶かし尽くす大波は俺たちが居た料理屋を跡形もない状態にして見せ、

 

 

辺りは一瞬にして焦土と化していた。

 

 

だが、悠長に眺め続けているわけにはいかない。俺たちの周りには海兵どもがいるのだ。

 

クラハドールは既に動き出している。

 

杓死発動だろう、これは。

 

両手に装着した猫の手と呼ばれる5本刃を使って無差別に相手を切り刻んでゆくもの。

 

今のうちだな、鬼の居ぬ間に何とやらってやつだ。

 

 

瞬間的に手足に赤い線が生まれて血を流していく多数の海兵達。真っ白な制服を血で真っ赤に染め上げる海兵達がそこかしこで生まれ出でて来る。何かが一瞬のうちに蠢いていることは海兵達にも分かるようで辺りは一気にパニックの様相を呈していた。

 

「俺にキリバチでも持たせりゃ、これくらい暴れてやるがな……」

 

「何だ、そのキリバチってのは?」

 

「ノコギリ刃の武器だ。今はねぇが……」

 

アーロンのやつ、どうやら武器を扱うようだ。とはいえ、覇気を纏わねぇ限りあまり意味はないだろう。赤犬屋に対しては。海兵ども相手なら十分なんだろうが……。

 

奴らはクラハドール相手にパニックに陥ってはいるが、当然ながら俺たちの存在にも気付く奴らは出て来るわけであり、そんな奴らには、

 

背後のアーロンから水を掛けられるわけだ。使ったのは多分にさっきのコーヒーに申し訳程度に付いてきた飲料水だろうか。

 

ただの水掛けと侮っちゃならねぇようで、少量の水を掛けられたに過ぎないにも関わらず背後の海兵たちが散弾銃にでも撃たれたかのように身体を穿たれて倒れてゆく様子が見て取れる。

 

まあ、これくらいは出来て当然か、魚人なんだしな。

 

「シャハハハハハ!! 海兵どもよ、貴様ら下等種族如きが俺をどうにか出来ると思ってんじゃねぇだろうな」

 

「それぐらいにしておけよ、アーロン。枷を嵌められて浮遊している状態で吐く言葉じゃねぇぞ」

 

「てめぇがやってんだろうが!! こんな錠がなけりゃ、海兵どもは俺が皆殺しにしてやってるところだ」

 

ああ、そうかい……。この場じゃ海兵どもを皆殺しにしたところで大して意味はないんだがな……。

 

 

また、来るぞ……。

 

 

焦土と化した向こう側からはこの世の終わりのようなマグマの海は消え去ったが、その元凶が消え去ることなどは当然なく……。

 

 

突如として眼前に現れ出でるのはマグマの塊。しかも特大サイズだ。どうやら手近にあった建物を建屋ごと引き剥がしてマグマ化しているらしい。

 

 

「大噴火」

 

 

ってわけか。

 

仮にも正義を掲げる海軍の大将ともあろうに、やってることが海賊と大して変わらねぇじゃねぇかと言いたくなるが、言ったところで眼前の特大マグマの塊が消えてなくなるわけではない。しかも連続で来やがった。焦土の先にいる赤犬屋の腕は轟々たる赤くドロドロしたもので覆われており、その腕の先には根こそぎ引っこ抜かれた別の建物が焼け爛れた状態で既に見る影もない。

 

それがそのままこちらへと放り投げられてくるわけだ。マグマの塊がふたつ。言葉にすれば何のことはない氷の塊ぐらいのもんに聞こえてしまうが、相手はマグマだ。しかも特大サイズでの……。

 

ならば、

 

取り出すのは己の得物である鬼哭(きこく)

 

鞘を放り投げて刀身を露わにし、振りかざすは、

 

 

帝王切開(カイザーシュニット)

 

 

通常の切断(アンピュテート)ではなく、それに武装色を纏わせたものである。あのマグマ塊にも武装色が纏われていることを咄嗟に感じての技。武装色の王気マイナスを纏った大切開は飛ぶ斬撃となってマグマ塊ふたつを一刀両断にし、俺たちの両側に文字通り大噴火を引き起こして見せている。

 

クラハドールも間一髪だったな、あれでは。海兵どもがどうなったのかは考えるまでもない。

 

「これが奴ら海兵のやり方なのか……」

 

「何だ、アーロン。思うところでもあるってのか?」

 

珍しい口調で背後から言葉が飛び出してきたので尋ねてみれば、

 

「俺は同胞に対してこんなことはしねぇ……」

 

そんな答えが返ってくる。

 

実際やったのは俺だけどな。まあそれでもこうなるであろう可能性も考慮に入れているだろうってのも確か。悪を駆逐するのに味方の犠牲は付きものって考え方ってところだろう。

 

とはいえ、こんなペースでやられてしまっては俺たちがこの島でまずするべきことが復旧作業になりかねない。っていうか、そもそも復旧可能なのかという疑問さえ湧いてくるってもんだ。

 

「こんくらいで地獄じゃと思うちょらせんやろうなぁ、おどれらぁ!!」

 

奴の凄味はいや増しており、声音には一層のドスが利いてきてやがる。

 

「ああ、そうだな。俺たちも伊達に修羅場を経験して来てるわけじゃねぇからな。地獄は何度も見てきたつもりだが」

 

「ええ根性しちょるわぁ!!」

 

 

陽が傾きつつある。宵闇の空となるのは近いだろう。ただ今回は時間の経過が意味を持つのかどうか定かではないが……。

 

「トラファルガー、海兵達は粗方片付いた。貴様が刻んだマグマによる影響が大ではあるがな。……それから、あの女が来てるぞ」

 

マグマの近くに居た証拠であろう煤けた状態かつ全身に火傷の跡を作りながら現れたクラハドールはそれでもメガネだけは変りなく無事であった。

 

あの女……、

 

「ロー、何とか無事にやってるみたいね。大将相手にして中々やるじゃない。あんたはやる時はやるやつだって、私ずっと思ってたのよね~」

 

つまりはジョゼフィーヌさん。それなりに煤けた状態でいきなり現れ、労いのつもりなのか俺の肩をポンポンと叩きながら褒められてるのかよく分からねぇ言葉を掛けられている俺。何気に痛いんだが、そのポンポン……。

 

「あ~、そうだったわね。あんたたちまだ繋がったままだったんだ~。あんたはいつもほんとにバカなことばっかりしてるけど、今回のこれはとんでもなく大バカだと私は思ってるわ。まあでも、あんたがやることだから別にいいけど。バカがバカやったところで大して変わらないしね、バカがさらにバカになるだけだもん。…それでなんだけど」

 

それで一体なんだ? 俺は一体全体何回バカと言われなきゃならねぇんだ? そのポンポンを止めろっ……とは言えねぇんだよな。

 

 

「休んどるヒマはないんじゃけぇ、いくぞぉ!! 連鎖火山」

 

赤犬屋の両腕から淀みなく迸るマグマは見る見る内に形を成してゆき、巨大な拳形のマグマとなって俺たちに襲い掛かって来る。それは野球でいうところのノックそのものであり、巨大マグマがボールよろしく次から次へと打ち放たれているのだ。

 

「ちょっと、何よあれ! なんかとんでもないの飛んできてるじゃないっ!! ちょっと、ロー、あれ何とかしななさいよ」

 

「おい、下等種族の女、バカバカって俺のことじゃねぇだろうな。俺はてめぇら下等種族にバカ呼ばわりされる筋合いはねぇんだ」

 

「何よあんた、ちょっと黙ってなさいよっ!! 繋がれてる身なんだから大人しくしてなさいよ、まったくっ!!」

 

「何だと……」

 

黙れ、黙れ、黙れっ!! 全員、黙りやがれっ!!!

 

その言葉を脳内に刻みつけた後に、

 

 

帝王切開(カイザーシュニット)縦横無尽(フライ)”」

 

繰り出すは再びの斬撃。だが今回はその乱れ撃ちである。奴も覇気の強度を上げて来てやがる。赤犬屋が持てる力全てでの覇気を纏われてしまえばどうにもならねぇが……。

 

次から次へと襲い掛かってくる巨大なマグマの拳に対して俺の斬撃の嵐は、

 

一つ目にはOK。

 

二つ目にもOK。

 

三つ目……、ダメだなこれは。俺の王気よりも上だ、くそ……。

 

「どうしようもねぇな……、離れるぞ!! シャンブルズ」

 

やはり、まだまだ互角というわけにはいかねぇか……。

 

 

 

 

「ジョゼフィーヌさん、手短に要件を言ってくれ。ここはあまり時間がねぇんだ」

 

俺の強い要望に対してジョゼフィーヌさんが語ってくれたことを要約すれば、

 

俺たちはまさに誰かによって嵌められた状態。泥沼に陥りつつあった。碌でもねぇとはまさにこのことであろう。

 

ここでは赤犬屋と相対している。ボスは島の東で強力らしい賞金稼ぎと相対している。ビビは何者かに突然弓矢で襲われている。そして俺たちは四商海じゃねぇことになっている。おまけに念波妨害がされていて通信を遮断されている。

 

誰だ? 誰がこんなことをしでかしている? どいつが裏で糸を引いてやがるんだ?

 

くそ……、考えてる時間はねぇな……。

 

「奴らの目的を考えるんだ。海軍と賞金稼ぎ、謎の弓矢使い、それぞれで連携を匂わせるような会話は出ては来なかった。だが連動してないわけはねぇだろう。ってことは背後で動かしている奴らがいる。それぞれはそうとは知らずに動かされてるってところだろう。背後にいる奴らの目的は何か? 俺たちを抹殺するならもっと手っ取り早い方法はいくらでもある。だが、奴らはかなり回りくどい方法で俺たちを身動き取れねぇ状況に追い込んでやがる」

 

クラハドールはそこで一旦言葉を切って、不敵な笑みを見せつつメガネをくいっと上げて見せ、

 

「……貴様、最後に出会った女を何と言った? ホテルの契約を交わした相手だ。……そうだ。歓楽街の女王、ステューシー……。奴は……CP(サイファーポール)だ。サイレントフォレストであれだけやったんだ、NO.9(ナンバーナイン)ってことはねぇだろう。そいつはもしかしたらCP0かもしれねぇな。つまりは天竜人の手先かもしれねぇってわけだ」

 

そう続けてくる。

 

そういうことか……、くそっ!!! 奴らの狙いが読めてきた。

 

「ジョゼフィーヌさん、ベポとカールはどうした?」

 

「ベポは途中でブロウニーに会ったから上手く逃げられるように誘導してるわ。カールは……、カールは……、多分ホテルにいると思うけど……」

 

「多分だと?! どういうことだ? 一緒じゃねぇっていうのか?! 奴らの狙いはカールだ。ナギナギだっ!!! くそっ……、カールが危ないぞ。奴ら俺たちひとりひとりを分散させて身動き取れねぇ状態を作り出してまんまとカールを攫うつもりだろう」

 

敵の狙いは分かった。とはいえ、現状はやべぇことだらけだ。俺たちはまず対峙している相手をどうにかしなければならない。だがその間にもカールがどこかへ連れて行かれてしまう。この島から出してしまえば、もうそう簡単には探すことは出来ない。

 

どうする? どうするんだ?

 

「……ロー、ごめんなさい。私がちゃんと見ておくべきだったわ。でも焦っちゃダメよ。奴らの目的は分かったんだから。やるべきことをやるだけ」

 

……ふぅぅ……、ジョゼフィーヌさん、あんた良いこと言うじゃねぇか。そうだな、確かにそうだ。

 

「ジョゼフィーヌさん、ハヤブサを探してボスにもこのことを伝えるように言ってくれ。それと俺たちに見聞色を同期してくれないか、島全体になってしまうが出来るよな? あと、ビビのところに行ってやった方がいいな。あいつもヤバい状態のはずだ。頼む」

 

「承知致しました、副総帥!!」

 

最後にジョゼフィーヌさんは見事なまでのお辞儀を俺にして見せ、にっこりと微笑んでくれた。この人はたまにこういうことをするんだ。だがそれは俺たちには勝利の女神のように思えてならず、特大の勇気に繋がるのである。

 

 

「相手は天竜人なのか?」

 

そうか、お前もいたよな、アーロン。

 

「ああ、そんなところだ。だからどうこうなるわけでもねぇだろ、お前にとっては……」

 

そして、

 

「やるしかねぇぞ、クラハドール。俺たちの相手は赤犬屋だ」

 

クラハドールと共に向き合う相手は再びのマグマ野郎である。

 

 

 

 

 

シャンブルズによってジョゼフィーヌさんをビビの下へと移動させ、俺たちもまた赤犬屋の下へと舞い戻れば、奴からの開口一番は、

 

「おんどれぇ!! どこをほっつき歩いとったんじゃぁ!!!」

 

であった。

 

奴の身体からは変わることなくマグマが噴き出しており、迸るそれは当然ながら臨戦態勢は十分。俺たちも心して掛からなければ命が危うくなるレベルであることは火を見るよりも明らかだ。

 

「悪ぃな、商談だ。これでも商人だからな、れっきとした。俺たちは王下四商海(おうかししょうかい)、忘れるなよ」

 

故に言葉の応酬からまずは叩き込んでおくべきだ。ボスがこの場に居ない今、俺がネルソン商会の代表とならねばならない。

 

「そうかいぃ、どうせおどれらの仲間集めての話し合いじゃろうがぁ!! 言うとくが、おどれらの仲間には既に楔を打ち込んどるんじゃけぇ!! ……テェェルゥゥ、首尾はどうじゃぁ!!!!」

 

赤犬屋が明かしてきた情報。テル……だと……。

 

クラハドールを見やれば、奴もこちらへと鋭い視線を向けて来ている。どうやら初耳のようだ。誰だそいつは?

 

 

「御大将、上々にござりまするぅ!!」

 

声がした先。上か……。

 

塔の上……。

 

居た。

 

遠目ではあるが、スキンヘッドの頭に鉢巻き。あの姿は……鎧なのか。とにかく真っ赤じゃねぇか。

 

そして、手には弓矢。あいつ……。

 

「気付いたか。察しがええのう。テルはワシの副官じゃけぇ。先に物見をさせちょるわぁ。弓の腕は世界で3本の指に入るんじゃぁ、おどれらさっさと縄に付いた方がええじゃろのう」

 

そこで初めて赤犬屋の口角が少しばかり上がる。奴が見せる幾許かの笑顔は不気味そのもの。

 

テルと呼ばれる奴が塔の上にて弓を斜めに持ち上げている。矢を引き絞り、放たれてゆく。向かう先はどこなのか?

 

 

何だと? 矢がふたつになりやがった。

 

否、四つ……。

 

八つ……。

 

「テルはフエフエの実を食べた増殖人間じゃけぇ。あいつの放った弓は倍々で増えるってことじゃぁ」

 

そういうことか……。これで繋がった。ビビに弓矢を当てやがったのはこいつに間違いねぇだろう。

 

それであのスピードか……。

 

奴が放った矢のスピード、桁違いである。

 

「おい、俺にやらせろ」

 

「やめておけ、貴様の腕がいくら魚人のものであっても無理がある。覇気を纏ってやがる」

 

その通りだ。通常の矢ならばいざ知らず、覇気を纏ったもんではこいつには無理だろう。

 

「どうじゃぁ、ワシの火山も拝んでいかんかぁ!!!」

 

で、赤犬屋だ。奴の拳から迸る巨大なマグマ塊が再びの来襲。

 

 

 

やるか……。

 

 

 

「クラハドール、メガネ無くさねぇようにな……」

 

 

 

Unit(ユニット)

 

 

 

崩壊(コラプス)

 

 

 

オペオペの能力(ちから)覚醒への序章、Unit(ユニット)。改造自在の手術空間をさらに昇華させた“集中治療域”。(サークル)の中の(サークル)

 

Unit内の全てのものを崩壊させる。それひとつでは意味を成さないものにしてゆくのだ。

 

建物は建物としては意味を成さないものに変わりゆく。通りを形作る板も草木でさえも、全てだ。

 

俺の両の指がそれを成してゆく。

 

この世界は俺の世界……。改造は自在だ……。

 

もちろん、飛翔する矢も、放たれたマグマ塊も例外ではない。

 

俺の空間内で例外は許されない。

 

 

 

さらにだ、

 

 

 

回転(ローテーション)大気(アトモスファー)”」

 

 

 

空間内で崩壊した全てを回転させてゆく。

 

それにも当然ながら例外は存在しない。

 

何ひとつとして……。

 

塔は既にない。テルとやらは回転運動に巻き込まれつつある。

 

赤犬屋……、お前とて例外ではない。

 

 

「おんどれ……」

 

奴からの声音は一段と低いが……、

 

回転運動に巻き込まれないのは俺だけだ。

 

なぜなら、ここは俺の空間だからだ。

 

体力は消耗する。

 

覇気も当然ながら消耗する。

 

だが、それでも……、

 

見せてやるよ。

 

王下四商海(おうかししょうかい)のレベルってやつをな。

 

 

 

「赤犬屋、俺たちもな、地獄を見せてやる準備はしてきたつもりだっ!!!」

 

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

今回も、長くなりそうですね、これは。

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