今回は11,600字程、よろしければどうぞ!!
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「……クラハドール、現れたのはほんとに大将なのか?」
町の喧騒が先程までとは打って変わって大きくなっていく様子を眺めながら、俺は同じようにして町の様子に視線をやっているクラハドールに問い掛けていた。
傍らにて横たわっていた奴は既にいない。ついさっきまで治療してやっていたが大将襲来の報を聞いて、付き添ってる奴らに逃げるよう伝えてやったのだ。奴らの力では大将などひとたまりもないであろうから。
「ああ、間違いない。帆にはMARINE、掲げてるのは大将旗。ワインレッドのスーツを着込んだ偉丈夫が確認出来た」
クラハドールが答えて見せた容姿は大将赤犬に関する噂と符合する。どうやら間違いねぇようだ。
赤犬屋が現れやがった。
喧騒の中には既に複数の銃声が混じってるし、刃と刃が打ち合わされる無数の金属音も聞こえてきてる。海兵の奴らが逃げ出そうとしていた海賊連中に対して正義の鉄槌とやらを下しはじめてんだろう。
「赤犬屋がこんなところに現れやがった理由は分からねぇがまあいい。面倒くせぇ相手であるのは確かだが、本来であれば大したことではない相手だ。俺たちがちゃんと四商海ならな……。この記事は一体どうなってやがるんだ」
新聞の一面を拳で叩いてやりながら湧いてくる怒りに身を任せて言葉を放ってみれば、
「この記事が事実かどうかは問題ではない。こいつが出た時点でこれを元にして動く奴らが出てくるんだ。俺たちは嵌められたんだよ」
厳然たる現実を突きつけてくるクラハドールの言葉が返ってくる。
奴は俺の傍らにて建物の外壁に身を預けているが、カップを手に持っており湯気が漂うそいつを時折口にしている。地に腰を下ろしている俺の背には碌でもねぇ巨体がくっついており、そいつもまた食後の一杯にうつつを抜かしてやがるのが感じ取れる。
で、なんで俺だけ何も口にしていない?!
「……ふぅーっ、食ったあとのコーヒーはたまんねぇな。おい、体をずらせ、俺にも奴ら下等種族どもが逃げ惑うのを見せろ」
「黙れ!!」
何度口にしたかわからない言葉を背後に向かって吐き出してやる。俺の怒りを増幅させる要因のひとつが背後のこいつだ。己でやったことであるから仕方がないが、今になって振り返ってみてもなぜこういう選択をしたのか理解不能なのである。
「貴様もコーヒーにしておけばいいものを。茶を出せと言って聞かないからだ。どうやらこの島の連中は茶の存在を知らないようだな。あの店主、さっきから首を傾げてばかりだぞ。トラファルガー、諦めろ」
クラハドールからは店の中の様子が見えるらしい。確かに俺が注文した茶は一切やってはこない。だが俺は問いたい。
茶がねぇとは一体どういうことだと……。
ここには全く以てして俺を怒らせる要因しか存在しない。
止めだ、止めだ。イライラしてても仕方がない。
「クラハドール、ひとまずボスには連絡しておいた方が良さそうだが、もうやってるのか?」
「……つながらんのだ。何度やってみてもな。多分に念波妨害。どこから出されてるのか分からねぇが、ツノ電伝虫を使ってんだろう」
なんだと……。
クラハドールの言葉を己で確かめるべく内ポケットから小電伝虫を取り出してみたが、ウンともスンとも言いはしない。どうやら確かのようだ。
「どうなってる? 何が起こってんだ?」
「トラファルガー、俺は貴様こそどうなってんだと問い返したいところだ。貴様とそいつが背をくっつけてることについてどれだけ考えを巡らしてみても明確な答えが出てこねぇんだが……」
得体の知れない状況が起きていることに危機感を募らせて口をついた俺の言葉に対し、クラハドールは俺が陥っている状況に対して疑問を呈してくるわけなんだが、
そんなもんは俺にも分からねぇんだから、どうしようもないとしか言えないだろう。
「何言ってやがる。明確じゃねぇか。てめぇらが下等だからだろうが。下等なてめぇらはこうでもしない限り、俺を抑えることが出来ねぇんだろ」
「いいから、てめぇは黙ってろ」
背後のアーロンが俺たちの会話に割って入ってきたところで、俺の怒りは再び燃え上がる。こんなことを続けていては自然とこいつの心臓を握り潰しそうになりそうだ。
「そう邪険にしてやるなよ。暫くその状態を続けるつもりなら、少しは親愛の情でも見せてやった方がいい」
「……くそ、他人事だと思いやがって」
「ああ、俺にとっては他人事だからな」
奴の皮肉を張りつかせたような笑みとメガネを上げる仕草が癪に障ってたまらない。
そこへ現れ出でる存在……。
己の見聞色をざわつかせる存在……。
「お前らか、ネルソン商会とやらは……」
純白のコートを身に纏い、ワインレッドのスーツを中に着込み、胸元には桃色のバラが咲き誇る。一段と低い声色で俺たちの前に現れた海兵。
こいつが赤犬屋か……。
MARINE帽を目深に被り、その表情は窺えないが、立ち居振る舞いには威厳しか存在せず。こちらに畏怖感を抱かせるような圧倒的な存在感がそこにはある。後ろに従えているのは数多の海兵たち。動作は俊敏で無駄が一切なく、辺りに居たであろう海賊どもがきれいに一掃されている。
つまりはこの場に居るのは俺たちだけかもしれないとそういうことだ。
「……だったらどうだってんだ?」
喧騒の中であるにも関わらず、俺たちの周りだけ止まっている様に錯覚させられるこの空間を再び動かしてやるがごとく、短い返答をしてみる。
「闇商人が随分と悪さをしちょるそうじゃのう。そげな奴らは潰してやらんといけんのじゃけぇ……、お前らもそうは思わんか?」
俺たちを見据えるようにして視線を上げた赤犬屋の表情からは何も読み取れはしない。だがその眼は口ほどに物を言っている。
「それは同意しかねますね。我々は真っ当に商売をやってきたに過ぎませんが……」
「……あんた、赤犬屋だよな。俺たちの間にはどうも見解の相違があるようだが、はっきりしておきたいのは俺たちはあんたら海兵にとやかく言われる存在では無くなったってことだ。俺たちは
冷静な声音で返すクラハドールに合わせて、俺も至極真っ当な返しをしてみるわけだが、
「話は聞いちょるが……、今朝の新聞記事もあったんじゃけぇ。万が一があってはならん。悪は可能性から根絶やしにせにゃならんわい」
赤犬屋は自身のグローブを嵌めた両手を拳にして打ちつけ合い、押し殺すような低い声で俺たちを睨んでくる。
どうやら奴は俺たちの四商海入りを聞いてはいるが、新聞記事に出ていることが事実である可能性も考慮に入れて動くということらしい。つまりはやる気満々ってわけだ。
「そいつが大将か。てめぇらやりあうのか? 俺にも見せろ」
どこか他人事な口調でアーロンが身体を揺すって前を見ようとするので身体をずらして願いを叶えてやる。繋がっている状態である以上は一蓮托生。こいつにも相手を確認しておく権利はあるだろう。今にそんな他人事な口調は叩けないようにしてやる。
「わしらは白ひげんとこの“火拳”を追ってたに過ぎんが、ここで出会ったも
赤犬屋の様子を見る限り、俺たちは覚悟を決めなければならないようだ。本来の目的は俺たちではなく白ひげ海賊団の2番隊隊長にあったようだが、新聞記事を見て俺たちに標的を切り替えて、この島にやって来たというところだろうか。
だがこれは奴にとっても博打になるはずだ。
「お前こそ覚悟しておくんだな。四商海に手を出すんだ。明らかな協定違反。この落し前はは後で高く付くぞ」
「百も承知じゃぁ!!」
赤犬屋に対し凄味を利かせるようにして俺も脅しの言葉を掛けてみる。当然ながら赤犬屋も全く以て退きはしない。
売り言葉に買い言葉。
喧騒は既に止み、辺りを覆い尽くすは静寂のみ。
俺たちを取り囲むようにして勢揃いする海兵たち。
「クラハドール、お前にはもう今回の筋書きはあるのか?」
一触即発の状況を前にして俺たちの参謀には聞いておかなければならない。策はあるのかと、どこまで見通してやがるのかと……。
「……何とも言えねぇな。情報が足らない。全体像を掴めねぇ限り脚本を練り上げることは出来ないだろ」
「動くしかねぇわけか。まあいい、……その脚本にはこいつも勘定に入れろよ。今俺たちはこういう状況なんだからな」
不敵な笑みなど見せずにメガネをくいっと上げるクラハドールに対して、俺とアーロンを繋いでる枷を指し示しながら訴えてみれば、
「貴様が考えもなしにそんなことをするはずがねぇことくらいは分かってる。既に島全体で張ってるんだろ、
奴は口角を吊り上げ、いつの間にか両手に装着している“猫の手”で器用にもメガネをあげてみせた。確かにRoomはこの島に着いた時から張り出している。島全体に対して。体力を使い過ぎるが致し方ない。
眼前にて赤犬屋の右手グローブが炎を纏う。いや、あれは炎なんて生易しいものじゃねぇ……。奴の能力は“
「おい、上等種族!! てめぇも覚悟を決めろ。奴はとんでもねぇぞ……。ほら、立て!!」
「ようやく魚人の偉大さに気付いたか、シャハハハハハ!!」
皮肉で言ったつもりの言葉に気を良くしてやがるとはめでたい奴だ。
何とかタイミングを合わせて立ち上がり、眼前の相手に視線を合わせてみれば、
「おどれら、ぶちまわしじゃぁ!!!!!」
奴の咆哮が飛んできた。
地獄の業火とはこのことだろう。
まさに、ぴったりじゃねぇか……。
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「いい部屋ね」
心地良い春風が吹き抜けていく。
「さ……最上級スイートでございますから、ね……ねぇ~~」
案内をしてくれる支配人はどうにも落ち着きがない。さっきから右に左に体を揺らしっぱなし。まるでフェイントしてるみたい。どういうつもりかしら……。
ここはトロピカルホテル。この島で唯一のリゾートホテルと呼ばれる施設である。レッドブラウンと白を基調とした外観は最初の門扉から始まっていた。そこを抜けて広がっていたのは水上に浮かぶように建てられた建物群。それぞれは曲線に配置された木製の橋にによって繋がっていて、ところどころにヤシの木が顔を覗かせていた。
そしてここは離れにあるコテージの2階。支配人曰く最上級スイートであるらしい。
3方には全面吹き抜けの開放窓。その先にはぐるりと囲むようにバルコニー。さらに先には広がる水面。瀟洒な母屋。揺れるヤシの木。吹き抜ける春風。
部屋の真ん中に置かれたダイニングテーブルは大人数が席についても十分な大きさであり、ここで食事をしたり会議をすれば随分と居心地がいいことだろう。
支配人に薦められるままバルコニーに出てみればこのホテルをぐるりと一望出来る。思わず背伸びをしてしまう私。傍らには昼寝には持ってこいであろうリラクシングチェアが置かれている。
素晴らしいの一言に尽きるわね。
「プールもあるんだっけ?」
ここからは確認できずに多分有るんだろうなという思いで支配人に尋ねてみれば、
「も……もちろんでございます。と……当ホテルのプールは母屋の裏側にございまして、ざ……残念ながらこちらからは見ることが出来ませんが……」
また右に左に体を揺らしながら懸命に質問に答えてくれる。
そうなんだと心の中で頷きながら、名残惜しくもバルコニーを後にしていくが、
「す……既にお連れ様方には、と……当ホテルのプールを存分にご堪能頂いております」
付け加えるようにして飛び出してきた支配人の言葉で瞬間にカチンと来てしまう。
あいつら……。
ベポとカールに違いない。カールはもう能力者である。キューカ島ではこっぴどく叱ってやったというのに全く懲りてないらしい。これはまたとっちめてやらねばならないようだ。
「そう……。じゃあ案内してくれる?」
心の中で腸が煮えくり返っていようとも、振り返りざまの私は満面の笑顔を浮かべてみる。
「か……畏まりました」
勿論、私が笑っている理由はあいつらにどんなお仕置きをしてやろうかと考えているからだけど……。
「ところで、ここのオーナーは誰なの? いるんでしょ、ここを所有している真のオーナーさん……」
ベポとカールがこれから始まることを知らずに呑気に楽しんでいるであろうプールへと向かいながら、先ゆく支配人に声を掛けてみる。
ここも素敵。
今は母屋の中を横切っているわけだがエントランスの先にダイニングレストランが広がっているのだ。テーブル席が無造作に配置されており、それぞれにはゆらりと灯るキャンドル。沢山のテーブルに囲まれたその中央には純白のグランドピアノが置かれている。
「え……ええ、おります。と……と言いましても、あまりこちらにはま……参りませんが……。せ……世間ではこう呼ばれる方でございます。か……歓楽街の女王と……」
へー、歓楽街の女王か。どんなおばさまかしら。女王だもん、歓楽街だもん、きっとおばさまよね。
「それで、来てるの? 今日は」
「き……来ております。こ……今回のネルソン商会様の件を受けまして」
「そう」
幸先がいい。私たちがジャヤを根拠地にすると言い出してから来るとなったわけであるから、これは話を纏められそうだ。
「ど……どうぞ、プールはこ……こちらでございます」
支配人の手案内に導かれ、まだ見ぬ歓楽街の女王様に思いを馳せつつ板張りの通路を進みゆく。
プールは海のすぐ側にあった。入った瞬間にはプールと海の境目がまったく分からないようになっている。インフィニティプールというやつだろう。そのインフィニティプール上にてベポとカールはそれぞれマットに寝そべって寛いでいた。とてもまったりとした感じで。
当然ながら私の怒りは瞬間的に沸点を軽々と越えてゆくが、
「ベポ、カール、とても気持ち良さそうね。ゆっくり出来てるみたいで私はとても嬉しいわ……。ねぇ、そのままでいいから聞いてくれる?」
私はとてもとても穏やかな声音で言葉を紡ぎだしてゆき、
「今度新しい商談をしようと思ってるの。何を売るかって言うとね、……目ん玉よ。あんたたち、目ん玉がいくらで売れるか知ってる? ねぇ、知りたいでしょ……、教えてあげるから聞きなさいよ。今回は4つの目ん玉を売りに出そうと思ってるんだけど、ひとつ50……」
相手を蕩けさせてやるような優しい声音で話を続けてゆけば、皆まで言わせずにベポとカールは素っ頓狂な叫び声を上げながら飛び上がり、プールに盛大な水飛沫を巻き起こすのだ。
そのあとはもちろん、
「べ~ポ~っ!!!! カールを連れて直ぐにここまで来るっ!!!!」
甲板上で指揮を執る時のような大音声を張り上げて呼びつけてやる。
カナヅチで動けないカールを必死になって介抱しながらベポはプールから上がってくるわけであるが、当然ながら容赦をするつもりは毛頭なくて、
「あんたたちっ!!!! この前言ったわよね? 目ん玉取り出して売り飛ばしてやるって!!!! 忘れたとは言わせないわよ。こんのバカたれどもがーっ!!!! お仕置き決定だからね、あんたたち、覚悟なさいっ!!!!!!」
私はありったけの怒気を込めて鉄槌を下してやるのだ。
「あらまあ、可哀そうに……」
そこへプールの向こう側でリラクシングチェアから立ち上がって来る人影。
それは彼女と言っていい姿。真っ白で柔らかそうなハット帽には深紅のバラがアクセントにあしらわれており、ピンクのドレスワンピースに真っ白なカーディガンを羽織った女。かなりの美人。
目敏いカールはもう起き上がっており、
「わ~お!! キレイなお姉さんだ~!!!」
この始末。カールも立派に男だわ。……なんて言ってる場合じゃない。
「まあ、嬉しいこと言ってくれるわね、坊や♥ よしよし、このお姉さんに怒られて、怖かったのね~。お姉さんから言ってあげるわ。もっと優しくしてあげてって。は~い、良い子だわ、坊や♥」
ご丁寧にもカールに視線を合わせて前かがみになって、手で頭を撫でてあげている。あれはカールにはまだ早いわ。悩殺のセットポジションじゃない。あの角度なら胸元がチラリと見えるはず、とても自然に。でもそれは実を言うとちっとも自然じゃない計算され尽くしたものであるはず。それに、
なんか私だけ悪者みたいになってるじゃない。
「ス……ステューシー様、こ……こちらにいらっしゃいましたか」
この女がステューシー!!
厄介だわ……。おばさまかと思ってたけど、とても若く見える。でも……、っていうか、年齢不詳ってやつね。
もう、この女、まだカールの頭を撫で撫でして……。
ああ、そうか、もしかしたらこの女もカール必殺の上目づかいからのキラキラした眼差しと屈託のないあの笑顔にやられてるのかも。あれは確かにこの私でも寸でのところで落ちかねない危うさを秘めてるものね。
「ああ、支配人さん、御機嫌よう。……もしかして、こちらの方かしら? 例の商人さんたちは……」
「え……ええ、そうですとも。こ……こちら、ネルソン商会の会計士であるジ……ジョゼフィーヌ様でございます」
こうして私たちはホテルの支配人によって互いに紹介を受け、和やかな雰囲気の中でも私的にはバチバチの敵意を奥底に秘めながらこのホテルに関する話を進めていった。ただこのステューシーとやらは驚くほど寛大で、このホテルを無償で譲って構わないと言うのだ。それには最大限の警戒心を以てして挑んでいた私も瞬く間に絆されてゆき、満面の笑顔で契約書にサインをする運びとなったのである。
傍らではステューシーお姉さまがベポのモフモフした体を撫でてやっており、立派な白クマさんね、などとのたまっている。私もあとでステューシーお姉さまには30代からの美の秘訣について指南して貰おうと考えている次第。
ステューシーお姉さま、……神である。
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私たちは森の中をひたすら駆けていた。
島の西を目指して必死に駆けていた。
「カルー!! もっと、もっとよ!!! 急いでっ!!!!」
「クエエエエエーーーッ!!!!!」
午後も随分と周り、太陽は西に傾きつつある時刻。
私たちは島の東端にて総帥さんとさらにはついさっき知り合いになったクリケットさんと共に物凄く大きな立ち上る海流を眺めた後でおしゃべりに興じていたのだけれど、そこへ突然親子連れが現れてあっという間に緊迫した状況に陥ってしまったのだ。
う~ん、あっという間にっていうのは語弊があるわね。徐々に徐々にっていう感じ。とても素晴らしい親子愛を見せて貰ったから。ああいうのは本当に懐かしい。そして羨ましい。
ほんの少し、ほんの少しだけ私もあの頃に戻れたらなぁ~って思ってしまったもん。
パパは元気にしてるかな~~。
いけない、いけない、昔を懐かしんでる場合ではないし、パパを想ってる場合でもなかった。それにパパだってきっと物凄く忙しくしてるだろうし……。
いいえ、私が考えるべきはあの親子連れのことよ。そう、あの親子連れはBHだったのだ。賞金稼ぎ、その中でも別格である賞金稼ぎについてはBHという俗称がいつしか使われるようになった。私もバロックワークスではそれなりに関わった稼業であるため、少しは知識として持ち合わせている。
あの親子連れはイトゥー会、子連れのダディであると名乗っていた。子連れのダディ……、ダディ・マスターソンはかつて
いつの間にか舞い戻って来たとそういうことみたい。イトゥー会は謎の多い組織。確かクロコダイルも彼らと競合することは絶対に避けるように口を酸っぱくして言っていたはず。きっと敵に回せばかなり厄介な相手なんだわ。
謎は多いけど、最大の謎が“大将”BHであるミキオ・イトゥーの存在。賞金稼ぎであるにもかかわらず賞金首であるという話。しかもその額100万ベリー。まさに最大の謎。
それに子連れのダディは31丁拳銃だったし……。
………………!!
この音……。
私の物思いを突き破って入り込んで来た聞き慣れない音。どれだけ深い思考に埋没していようとも私のモシモシの
飛んでる?
森の中は当然ながら音の宝庫である。あらゆる音が飛び交っているのだ。風がそよげば木々は揺れる、草も揺れる。動物が移動する音。鳥が羽ばたく音、虫が羽ばたく音。ほんとにあらゆる音がこの森の中には存在している。
そう言えば、途中変な鳴き声の鳥にも出会ったっけ。さっきまでカルーの頭の上に乗っては楽しそうにしていた。ずっと南ばかり向いていてほんとに変な鳥だったけど、カルーも楽しそうにおしゃべりしていたしな。きっとあれはカルーの脚の速さを褒めていたんだわ。
いけない、いけない、もう、いけな~い!!
あの音に集中しないと。どんどんこっちに近付いてきてる。
カルーの背に乗って揺られながらも上へと顔を向け、森を覆っている木々の隙間から覗く空へと目を凝らしてみる。
音に集中して!! この音は……、何だろう? 確かに飛んでるんだけど……。鳥……ではない。砲弾……ではなさそう。銃弾……でもないわよね。
鳥でも砲弾でも銃弾でもなくて飛んでいるもの?
思い出して、この音……。
!!
矢!! そうだわ弓矢。こんな音をしていたような気がする。でもだとしたらかなりの距離から飛んできてることになるけど。
!!!
かなり近い!! こっちに向かってる!!!
「カルーっ!!! もっと、もっとスピードを上げてっ!!! ……いい? よく聞いて、10秒経ったらジグザグに移るのよ。そして右にカルーの体二つ分ずれなさい!! いい、二つ分よ」
高速で飛翔している弓矢。さらにはカルーの速度を考慮し、ぶつかる未来位置を瞬時に予測して指示を出す。
そして私は、
跳ぶのだ。
最大速で駆けるカルーの背に私は立ち上がり、踏み込んで一気に左斜めへと跳躍する。
ふわっと一気に私の体は持ち上がり、カルーの黄色い姿は消えてゆく。
宙空で私は浮いているが当然ながら何の飛ぶ力も持たない私はそのままであれば重力に従うのみ。
でも、
私がポケットから取り出すのは“圧縮トランポリン”。
ウソップさんありがとう。ウソップ工場万歳!!
取り出したそれを私の足付近で急速に膨張させれば、
急激な上昇力を得て、私の体は一気に森の生い茂る葉を突き破り、
ほんとに宙空へと舞い上がるのだ。
うん、聞こえる。タイミングはバッチリ。
私の場合は視力だけではどうにもならない。
矢をどうにかするには音に集中しなければならない。
ここだ。
「
ロープのように連ねた
一気に放り投げてゆく。
あの音の一点に向けて。
え?
音が二つに分かれた。
「カルーッ!!!! あと二つ分っ!!!!」
届くだろうか?
いいえ、信じるしかない。
それより、戻らないと。
「
カルーの音。
うん、まだ聞こえる。
ちゃんと生きてる。動いてる。
両手の孔雀の羽根をひとつに連結し、さらには体に仕込んでいる長大な孔雀の羽根にも繋げて、
カルーの音目掛けて放り投げるのだ。
勿論、この距離であるから“アラバスタ体術”を使って。
よし、引っ掛かった。
あとは、
一気にカルーの下へ。
なぜならカルーの体には巻き取り装置を付けているから。
ローさんのようにはいかないけれど、
ルフィさんのようにはいってると思う。
多分ルフィさんのゴムで飛ぶのもこんな感じ。
「クエーッ!! クエーッ!! クエーッ!!!!」
カルーも無事を喜んでくれている。多分、私が着いた瞬間は相当痛かっただろうけど。
「ごめん、カルー、許して」
でも、これで終わりではなくて……。
またあの音……。
誰だろう? 私を狙っている? 当然私を狙ってるわよね。
どうしよう。もう“圧縮トランポリン”は使えないし、避けるしかないかな。
でもさっきのあの矢は途中で二つに分かれてしまった。それがどういうことなのかが分からない。
それでも音は急速に近付いてきている。さっきよりもスピードは速いような気がする。
「カルーッ!!! スピードを上げて、全速力よ!!!!」
もうこうなったらカルーのスピードに賭けるしかない。
音はひとつ……。
音は……、ふたつ……。
音は……、よっつ……。
何とか、何とか、カルー……。
!!
「
よっつの音はほぼ同に消えた。ペルによって。
ペル!!
カルーの背中を叩いて止まるように指示を出し、森の木々の合間から現れて来るペルを出迎える。
表情は凛々しくもペルの爪の先は痛々しいまでに血が流れている。もしかしたらさっきの矢には覇気というものが使われていたのかもしれない。でなければペルが弓矢くらいでこんなにも血を流すことなどないはずだ。
「ビビ様、ご無事でしたか」
血を流しながらも痛さなど微塵も表情には見せないペルへ向かって私も笑顔で無事を告げる。
「ありがとう!! ペル、助かったわ!!!」
ペルには総帥さんの件を告げる。当然ペルの方が早いため、先回りして伝えて貰うのだ。そして弓矢を使う相手。飛び道具には飛び道具かもしれない。オーバンさんの力が必要だわ。
よってオーバンさんを探すようにともペルには伝える。
「ビビ様、お供致します!! またあの矢は飛んでくるでしょう」
「いいえ、ペル、行って!! 私は大丈夫だからっ!!!」
私にはまだ勝算があった。
ジョゼフィーヌさん。彼女の見聞色なら私の声を聴けるはず。それにローさん、私の見立てが正しければローさんはこの島に着いてからずっとあの
だったら、……勝算はある。
私は私に出来ることをする。ただそれだけ……。
****
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ジョゼフィーヌ会計士が慌ただしくなったんだ。突然にだけどね。
多分良くないことが起こったんだろう。
ベポさんとも真剣な表情で話し合っているんだよね。
ここはホテルにあるダイニングレストラン。真ん中に真っ白なピアノが置いてあるんだ。きっとローさんがあれを弾いたらキレイな音楽を聴けるんだろうな~。
さて、僕はどうしたらいいんだろうか?
ジョゼフィーヌ会計士の話を思い出してみると、どうやら港に海軍の偉い人が現れたらしい。海軍本部大将だってさ。それに新聞記事も持っていて血相変えてたよね。
そう言えば、畜生め~~って叫んでたな~、ジョゼフィーヌ会計士。
あんな言葉初めて聞いたよ、まったく。
とにかく良くないことが起こっているんだろうな~、多分。
僕も今回はサイレントを使って一丁やってやろうって思ってるんだけどな~。
どうだろうか……。
「だ~れだ?」
物思いに耽ってうんうん唸っていた僕の視界が声と共に突然真っ暗になっちゃった。両掌で目を塞がれてるみたいだ。
「う~ん、誰?」
この声は女性だよね。そんでもって、ここは2択だよね。ジョゼフィーヌ会計士か、あのキレイなお姉さんだよね。そしてこのすべすべした手の感触とこのいい匂いといい、キレイな声といい……。
「ステューシーお姉さんでしょ」
「大・正・解♥」
答えと共に視界が広がって振り返ってみようとしたけど、そのまま肩に両腕を回されて抱き締められてしまった僕。
「……可愛い坊や♥」
蕩けるような甘い匂いに包みこまれた後にようやく振り返ってみたら、満面に可愛らしい笑顔を向けてくれるステューシーお姉さんが居たんだよね。
キレイなお姉さんが見せる可愛らしい笑顔って罪作りだな~。僕にも分かるよ、なんとなくだけどさ……。
「どうしたの、ステューシーお姉さん?」
「……ねぇ、坊や。お姉さんと少し森の中にいかない? 実はお姉さんこのホテルとは別に森の中でカフェをやっているの。坊やも歴とした商人さんでしょう。お姉さんのカフェも譲ってあげるから下見に来ない?」
ステューシーお姉さんはそこで一旦言葉を切るんだ。そして、僕の耳元にまで近付いてきて囁き声になるんだよ。
「……素敵なところよ♥」
ってね。
さらには前かがみになって僕を見詰めて来るんだよ。胸元をさりげなく見せながら可愛い笑顔でさ。僕にも分かってるんだ。あの胸元には危険がいっぱい詰まってるっとことぐらい、なんとなくだけどさ……。
でもこの魅惑の誘惑には抗えないよね。
「うん、いいよ。連れてってよ」
そして僕もまた満面の笑顔でキレイなお姉さんに言葉を返すんだよ。
自分でも思うんだけどね。僕、大丈夫かなって……。
読んで頂きましてありがとうございます。
皆さま胸元の誘惑にはくれぐれもご注意下さいませ、危険です。
そしてキレイなお姉さんには付いて行ってはいけません!!
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