そして、お待たせしております。
ではどうぞ!!
“
CP9……。
その言葉の意味を、聞いた瞬間に完全に理解できたわけではないが、俺の体はすぐさまに反応していた。
右手は背後に伸びて、新たな連発銃を取り出しつつも体を反転させて、言葉を発した相手に対して能力を使わずに銃弾を1発放つ。その間にも見聞色の覇気を働かせる。
「
言葉を発した相手には瞬間で空中に避けられる。
六式使いか……。まあ、こうなるだろうな。
眼前の光景を視野におさめながらも、見聞色により相手が1人ではないことを脳内は知覚している。
吊り橋の下に一人……、背後のツリーハウスにもう一人控えている……。
間髪いれずにその場で跳躍し、もう一度反転する。ツリーハウスに控える奴も
こちらへ向かって飛んでいる……。
相手の未来位置を瞬間に予測して2発目を放つ。と同時に下に目を向けて最後の一人に3発目を放つ。
こいつもマスクか。
3人共、一様にして純白仮面を被っている。服装は俺たちのように黒服である。
下の奴は微動だにしておらずこちらを見上げている。何のつもりか知らないが笑っているようにも感じられる姿が、ランタンの光で影に覆われながらも吊り橋の丸太と丸太の間を通して眺められる。一連の動作を終えて再び吊り橋の丸太に着地する。
2人目と3人目は
とにかくここは決断を下さねばならない。
今重要なことはニコ・ロビンを万難を排してでも捕まえることにある。次のヤマでカギとなる人間だ。
「ロー、ここはいい。行け!!!」
この一言で、あいつはやるべきことを理解するだろう。
「シャンブルズ」
ROOMは既に張っていたのだろう。背後であいつが能力を発動させる様が感じ取られ、気付けば背後にはふわっと落ち葉が舞うのがわかる。あいつ自身とどこかで積もっていた落ち葉の場所を交換して移動したようだ。
「追え、カク」
吊り橋の下で地面に仁王立ちする3人目の奴が、今は斜め上方で木の枝に立つ2人目の奴に指示している。どうやら3人目の奴がリーダーのようである。
「……」
二人目の奴は吊り橋やツリーハウスのランタンから離れて闇にまぎれており、無言のまま空中に消える。ローを追うのだろうがまあいい。こちらはクロを考慮に入れれば2対2。ローの方はニコ・ロビン次第で展開が変わるが何とかなるだろう。
「有無を言わさず攻撃してくるとは好戦的な奴だな。我々がここに現れた理由も話させてはくれないのか?」
リーダーらしき純白仮面野郎がこちらを見上げて話しかけてくる。
「おまえたちがそんな情けを持ち合わせているようには思えなかったものでね」
CPなら不意打ちの暗殺も有り得る相手である。やられる前にやらねばならないだろう。
「確かに一理ある。我々を知っているようだな。CP……、サイファーポール
やはりな。CP9自体の知識はなかったが大方予想通りだ。ヒナの報告書には記載されているかもしれないが、なにぶん全てに目を通す時間はなかった。とにかく碌なものではない奴らってわけだ。
「おまえたちは賞金首。本来であれば海軍の捕縛対象だが、今回は政府より直接命令を受けている。おまえたちは知る必要のないことを、知っていてはならないことを知ってしまったようだ。我々も詳細は知らされていないが、命令を受けた以上は……、おまえたちを抹殺しなければならない。やれやれだ。我々には本来の重大な任務があるというのに。とんだ休暇扱いがあったもんだよ。まずは……、頭のおまえからだな、ネルソン・ハット」
下方からの死刑宣告を耳に挟みつつも頭は回転している。
もしかしたらこいつら、さっきオークション会場で終始静観していた3人組じゃないのか……。だとすれば、ニコ・ロビンの存在に気付いている可能性がある。こいつの任務は俺たちの抹殺だけなのか、それとも、もうひとつ別の任務を携えてやってきているのか……。
左斜め後方……。
思考の途中で、予期せぬ方向からの攻撃を見聞色の覇気が敏感に察知する。右斜め後方からの攻撃は先程から予期は出来ている。最初に言葉を投げ掛けてきた一人目だ。
だが、左斜め後方の奴は何とも気配が読みにくいが、
百計のクロ……、奴だ。
「
右斜め後方からは凄まじいスピードで空を切るようにして蹴りが振り下ろされようとしている。
「……」
左斜め後方からも超高速で跳んでくる人間が両手に装着した仕込み刀で体を切り裂こうと迫ってきている。
「
体をすぐさまに鉄の最硬度まで高めて防御態勢に入ることで、俺の右肩を強襲する人体を切り裂くような蹴撃を弾き返し、一人目の奴を背後に飛びのかせる。さらに背中に五線譜の切り傷を付けようとするかのような仕込み刀の斬撃も弾き、クロを再び左斜め後方の木々に飛び移らせる。
ここは俺も六式使いであることを存分に思い知らせてやろう。
ロッコは覇気だけの師匠ではない。戦闘の師匠である。亡き父は海軍中将まで上り詰めた海兵であった。その右腕であったあいつは、当然のように六式にも精通している。そのあいつから俺は薫陶を受けているのだ。
そんな思いを胸に秘めて、
「どういうつもりだ」
と、左斜め後方を睨みつけながら、先程まではオークション会場内で言葉を交わしていた相手に対して真意を問うてみる。
「あなたこそ、どういうおつもりですか? 私が先程……、何か申しましたでしょうか?」
闇にまぎれて若干影になってはいても、クロが5本指の先に刃をつけた手袋を両手に嵌め、あの妙な仕草でメガネをくいっと上げながら、若干の笑みを浮かべつつ言葉を返してくる様子がわかる。今になってようやくあいつの仕草の意味が理解できるが、口調まで変わってやがる。
「おまえ……、本当に六式を使えるのか?」
今度は背後からの少し驚きに満ちた声がする。どうやらこいつらは俺たちの事前情報を得つつも半信半疑でこの場に臨んでいるらしい。勝機はありそうに思えてくるが、クロの思惑がわからない。一体どういうつもりなんだ。
「あなた方はわたしたちを誤解なさっているようですね。わたしは通りすがりの賞金稼ぎでクラハドールと申します。この方の首を頂戴するためにお近づきとなっているだけですよ。取引と参りませんか? わたしたちの利害は一致しているように思われるのですが」
クロは木の枝に腰を下ろして下方を見据え、リーダー格の奴に俺としては気に入らない提案をしようとしている。
「ほう、これは失礼。なかなか魅力的なご提案だが、我々は任務を遂行するまで。市民の方からご助力をいただくには及ばない」
リーダー格の奴はクロの口調に乗っかるように丁寧な物言いではあるが、逆に慇懃無礼に感じられ警戒している様子が見て取れる。どうやらクロを測りかねているようだ。確かにこいつの手配書は過去に手配者死亡で無効となっているらしいので、一応賞金首ではない。
「そのように御遠慮なさらずともよろしいでしょう。賞金首をぶち殺すのは良き市民の務めでございますよ。あなた方は先程までこの状況を3対3で考えていらっしゃった。そして1対1が場所を移し、2対2と見ていらっしゃる。ですがその状況が3対1になるのですよ。考えるまでもないことでしょう。それに……、政府としてはおもてに出せる
クロはやんわりとした拒絶にも気にせずに、畳みかけるようにして説得に乗り出している。たっぷりと皮肉を練り込みながら。
そんなクロの提案に対して、リーダー格の男は思案するような佇まいを見せている。
そして、結論を下したようで、
「ご勝手にどうぞ」
ときたもんだ。
市民に対してはあくまでやんわりとした言葉使いらしい。
「それは取引成立と考えてもよろしいですね。では、成立の証にお名前をお聞かせ願えませんか? どうせこちらの方はここで命を落とされるのですから何も問題はありませんよね」
さらにクロはそんな言葉を口にして、最後に俺の方を指差している。まったく、とんだ市民がいたもんだ。
「……、ロブ・ルッチ。そいつはブルーノ。これで満足でしょうか?」
そのロブ・ルッチとやらは仮面は装着したまま、何ともご丁寧にクロに名を明かしてやっている。
それにしてもわからないのがクロの狙いだ。こいつは一体何を狙っているんだ?
……まあ考えても仕方がないな。先程の一撃には明らかに殺気がこもっていた。こちらとしてもやられるわけにはいかないので迎え討つまでだ。
「ではルッチさん、ブルーノさん、よろしくお願いします。そしてハットさん、参りましょうか?」
まるで散歩でも如何ですかぐらいのノリでクロは俺に声を掛けてくる。奴がいる木々の上はランタンの光より遠ざかる闇の中であり、メガネがキラリと光ったように感じられる。
つまりは、現状2対2ではなくて1対3ということである。
「我々と同じ六式使いとはな……、それに妙な銃を使う。これは楽しめそうだ」
静かにそう呟くルッチ。
生憎俺には楽しんでいる時間はない。さっさと片付けて、ニコ・ロビンと話を付けねばならない。
背後を振り向き銃身を構えてブルーノに向けて4発目を放とうとする。今度は武装色の覇気を纏って。だが見聞色の覇気で察知するのは思いもよらぬ動き。
こいつ能力者か……。
無駄弾を放つのはやめにする。眼前では、
「
の言葉と共に、何もないはずの空間にドアが現れ、その中にブルーノの姿が消える。
俺からの銃撃に対し回避行動。だが、それは回避だけではないはず。次の攻撃につなげてくるはずである。
案の定、左側、吊り橋の手すり上方に突然先程と同じように、ドアが開かれて、そこから姿を現してくるブルーノ。
「
と呟きながら、右手人差し指に力を込めつつ首を狙ってくる。
「
俺も再び体の左側面を鉄の硬度で防御して、奴の
「ゴールドフィンガー」
能力を使っての
当然ブルーノも、
「
となるわけではあるが、俺のひと突きはその防御を破り、奴の左胸を幾許か抉り取る。
グハッという言葉と共にブルーノは吊り橋の手すりの向こう側へと崩れて地に落ちていく。が、致命傷とはなっておらず、すぐに立ち上がる。
これでわかったことがある。ブルーノはがたいがでかくとも、純粋な力では俺の方が上ということだ。
「ブルーノ、おまえは前面に出るな。力では奴の方が上だ。それから……、覇気を使え」
何……、こいつら覇気使いでもあるのか。
ルッチの言葉に驚きを覚える。だが考えてみれば当たり前のことだ。俺たちが覇気を操ることを政府は知っている。その俺たちに向けた刺客が覇気使いでないわけがないではないか。そこまで政府も馬鹿ではない。
「随分と厄介な能力を持っているじゃないか」
「ドアドアの実だ。お互い様だと思うが」
ダメージで息を切らせることもなく、ブルーノが呟く。丈夫な奴だ。
「それもそうだな」
そう言いながら状況を分析してみる。構図は1対3、相手は覇気使いで六式使い2名と未知数1名。厄介な状況であることは間違いない。
だが、活路は開かなければならない。
俺も飛び上がって地に下り行き、
「
一瞬にして何度も地を叩きつけるようにして高速で移動する。
狙いはルッチだ。このリーダー格の奴が多分に最も厄介であろうと思われる。
高速移動で落ち葉を散らすこともなく至近距離まで近づいて、覇気を纏わせた3連射で残り全弾を放つ。
見聞色で奴が避ける様をギリギリのところで見極めた軌道だ。
武装色対武装色。どっちの方が上なのか、そういう問題になる。
だが、奴の取った行動は武装色を纏うだけではなく、見る見るうちに体を巨大化させ、皮膚を黄色と斑模様に変化させ、顔を見る限りは、豹そのものである。
くそ……、
そして銃弾は弾かれていく。武装色の覇気は奴の方が上かもしれない。
「ネコネコの実、モデル“
そう言った後にルッチは裂ぱくの気合いを放ちながら右足を振り上げ、
「
と、覇気を纏わせた蹴りによる強烈な鎌風を叩きこんでくる。
その力は増幅されて数mにも及ぶ高さの鎌風となってこちらに襲いかかってきている。俺は縦方向の鎌風に対して瞬時に見聞色の覇気を働かせ、跳躍して避けようとする。
だが、ルッチは続けざまに同じ
「
横向きの鎌風には武装色を纏いながら、鎌風の動きを受け流すようにして六式の防御技“
「
その言葉と共に今度はブルーノが仕掛けてくる。足を蹴り上げた状態で
腹を撫でるようにして飛びすさる鎌風は、相手の武装色が上回る分、切り傷となって俺の体に現れるが軽傷で済みそうである。
背後では何本もの木が切断されて倒れ込む音、ツリーハウスが崩れゆく音が合わさり轟音を生み出している。
「
さっきルッチは覇気と言った。
銃弾は弾かれた。鎌風を完全には防御できなかった。
俺が使えるのはまだ覇気なのか?
そんな一瞬の思考を終わらせるようにして、鉄の塊と化した蹴りが振り下ろされようとしている。
「武装軟化」
振り下ろされる瞬間に呟かれたその言葉、
不味い……、こいつ武装色マイナスだ。
奴の蹴りは俺の肩に入る間際に武装色の覇気を纏って襲いかかり、俺の纏う武装色を弱める作用を施してくる。物理的ダメージはあまりないが、この瞬間を逃す奴らではないはずだ。
案の定、今まで静観していたクロがどこからともなく目の前に現れており、両手合わせた10本刃で脚に襲いかかってきている。しかも、その刃には覇気が纏われているではないか。
くっ……、こいつも覇気使いか。
かつて
くそ……、こんなこと考えている場合ではない。間違いなく奴も……、ルッチも襲いかかって来るはずだ。
「回転ドア」
の言葉と共にブルーノが畳みかけるようにして能力を使い、俺の視界はぐるぐると四方を回転させられることになる。
方向感覚を崩されて、一瞬の間を作ってしまったことが致命傷となる。
クロの10本刃は正確に俺の両足を切り刻んで血を流させ、そして、
「
と、至近距離まで移動してきているルッチから、今度は覇気を纏わせた蹴りが渦を巻くようにして襲いかかって来る。
覇気を弱められている俺には、たとえ
1対3の構図とはこういうことである。俺は今窮地に陥ろうとしている。
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あのキレイなお姉さんを探し出さないといけないんだ。次のお仕事に集中しないといけないんだ。
でも……、
僕たちは負けたんだよな……。
総帥やロー船医は、やっぱすごいや。僕にはあんなにもすぐに気持ちを切り替えるなんてできないよ。
僕たちは今、オークションが開かれていたテントの裏に回って、出入り口を監視している。
べポさんと相談して、吊り橋の上だと怪しまれると考えて、下に降りて上を見上げながら監視している。僕は念のためにメガネを掛けている。会場ではスポットライトを当てられていたから顔を知られているかもしれない。
シルクハットも泣く泣くゴミ箱に捨ててきた。ハット帽は目印になるかもしれないから。べポさんは短時間でどう変装すればいいかわからなくてシルクハットを捨てただけ。うまくいくのかどうか全くわからない。
「カール、そんなにくよくよしたって仕方ないよ。負けるときだってあるんだから」
べポさんが僕を見おろしながら優しい言葉を掛けてくれる。
「べポさん。その言葉は嬉しいけど……。べポさんは悔しくないの?」
お礼の言葉を言いつつも質問をしてみる。
「そう聞かれると悔しいけど。次頑張るしかないだろ」
そのべポさんの単純な考えに憧れを持ってしまいそうだ。僕もこれぐらい単純に考えられるといいのにな。
「それよりカール。本当にお姉さんは現れると思うか? もう、どこか別のところに行ってしまってるかも」
べポさんが話を変えて、僕に質問してくる。
「べポさん。お姉さんじゃないよ。キレイなお姉さんだよ。そこは大事なところなんだから」
僕にとっては譲れない部分なのでしっかりと訂正しておく。
「俺には人間の女なんてみんな一緒だよ。キレイなを付けるのは白クマに対してだけだ」
べポさんの言葉になるほどとうなずいてしまう。べポさんからしたらそうなのかも。
まずいまずい、
僕たちが話をしているとなぜだか話が脱線してしまうんだ。最近ようやく自覚できるようになってきた。
「大丈夫だよ、べポさん。現れるよ。僕たちが裏に回り込んでくるまで5分も掛かってないよ。僕たちがあのテントを出てくるとき、まだキレイなお姉さんはステージにいたよ。だから、まだ出てきてないはずだよ」
話を戻して、べポさんを安心させようと僕の考えを言ってあげる。でも、そこまで僕も自信があるわけではないから、そう言われると心配になってくる。
キレイなお姉さんはまだかな……。
そう思いながら上をずっと見上げている。
「あ、あれじゃないか」
べポさんの言葉を受けて僕も視線を動かしていく。
テント裏口から現れた長身の女のひと。あれは間違いない。さっきステージで司会をしていたキレイなお姉さんだ。仮面を取っている。
やっぱりキレイなお姉さんだな~。
いけない、いけない。見とれている場合じゃないや。
キレイなお姉さんはもう吊り橋を渡り始めている。
「べポさん。二手に分かれようよ。僕は左側、べポさんは右側から後を尾けていこう」
「よしきた」
そう言って僕たちは二手に分かれ、キレイなお姉さんの動きに合わせて移動を開始する。
キレイなお姉さんはどうやら北に向かっている。吊り橋を別に急ぐ様子もなくゆっくりとした歩幅で歩いている。
ひとまずは気付かれてはいないような気がする。吊り橋を挟んで右側を移動するべポさんにも時折、目で合図を送って確認を取りながら僕らは慎重に移動する。
ランタンが灯されているのは木の上のツリーハウスであったり、吊り橋の上だけなので、落ち葉が積もる地面はあまり光も届かず、どこか薄暗い。行きかう人たちは人相の悪いひとばかりで何とも心細くなってくる。
キレイなお姉さんは一つ目のツリーハウスに行きあたると、今度は右の吊り橋へと渡って行く。僕はその木を大回りして、再び吊り橋の左側へと回り込み、右側に居るべポさんと目配せをして追跡を続ける。
総帥からの連絡はまだ来ない。追って連絡するって総帥は言ってたけど。なんかあったのかな? 連絡がなかなかこないことも僕を不安にさせる問題である。
短い吊り橋を渡ってまたツリーハウスに行き当たるが、今度は分かれ道になっておらずキレイなお姉さんはそのまま次の吊り橋に入っている。進行方向は再び北へ向かっている。
どこに向かってるんだろ。僕はてっきり港に向かうと思っていたのだけど。港は南西方向だ。キレイなお姉さんは謎に満ちている。
謎と言えばさっきテントに居たメガネのお兄さんもそうだ。成り行きを見てると味方なのか敵なのかよく分からない。もう分かんないことだらけだ。
ここは暗いしおっかないので早くこの追跡を終わらせてしまいたい。なんで二手に分かれようなんて言ったんだろう。論理的にはその方がいいことは分かっているのだが、感情としてはべポさんが傍にいてくれれたらなと思わないでもない。
気付けばキレイなお姉さんはツリーハウスに行き当たっている。今度も分かれ道にはなっておらず、吊り橋は右方向に抜けている。僕は再び木を回り込むようにして吊り橋の左側へ向かう。
だが、
いない……。
キレイなお姉さんが吊り橋の上に現れてない。
思わずべポさんの方に顔を向ける。べポさんも驚いた表情をしている。
うそー、見失ってしまったのかな。僕は焦ってしまい四方八方に顔を向けてどこかにいないかどうかよく探してみる。
ダメだダメだ。よく考えないと。
さっきまではいたんだ。ツリーハウスまでは……。ってことはツリーハウスから……。
ヤバいよ、もしかしたら……。
「あなたたち……、わたしに何かご用かしら?」
その声と共にいつの間にやらキレイなお姉さんが木のそばに立っていた。
気付かれてたよー。どうしよう、どうしよう。
べポさんも慌ててるよ。何とかしないといけない。でもいきなりのことで言葉が出てこない。
そうやって僕たちがまごついているところに、
「悪いな……。こいつらキレイなお姉さんを見ると付いてっちまう癖がある。悪気はねぇから勘弁してやってくれねぇか。……、なぁ、ニコ屋」
と、手に刀を持つロー船医が現れてくれたー。
きっと救世主とはこのことを言うんだよ。
ひとまず僕たちの仕事は成功したように思う。
読んでいただきありがとうございます。
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