多分、GA文庫さんにだした作品の評価シートが原因だなと確信してますw
次は2次審査を通過したいなー
では、本編どうぞ
13
その叫び声があまりにも生々しかった為、朔夜は夢から醒めてもここが現実かどうかすぐには判断できなかった。
肩で荒く息をする。全身汗だくでたまらなく不愉快だった。
「知らない天井だ。ここはどこだ?」
体を起こし、辺りを見渡す。
白を基調とした部屋。すぐそばにはパイプいすが置いてあり、反対側には医療装置が規則性のある音をだして佇んでいた。
椅子に触れてみるとまだ温かい。誰かがさっきまでいたようだ。
「ここは病院か? そういえば消毒液みたいな匂いがする」
自分の体の丈夫さもあって縁遠かった場所だったからかすぐにピンとは来なかった。
どうして自分はここに? と少し前の記憶を探ろうとするがそれよりも先に来訪者が現れた。
「朔夜! 目を覚ましたの!?」
誰かが飛びついてきた。ふわりと甘い匂いがする。
痛みがあるくらいキツイ抱擁に目を白黒したが、不思議と安心感を覚えた。
抱擁の主を確認すると予想通り風香だった。今は勤務中なのか白衣姿である。
「痛いよ先生。あと、色々、その当たってる」
「お馬鹿……もう本当に馬鹿なんだから」
最後に強く抱きしめられた後、風香は目元を拭いながら抱擁をやめた。
「すごい叫び声が聞こえたから慌ててきたけど、大丈夫だった? 泣いてたみたいだけど……」
「ああ、うん。まあ、ぼちぼちでんな」
「なんで関西弁?」
意図的に言葉を濁しながらも、疑問を口にしようとした時、体のあちこちから鈍い痛みが思い出したかのように襲ってきた。
全身をよく見ればいたるところにガーゼや包帯、僅かに見える肌が青くなっていた。
「そういえば、俺、ぼこぼこにされて……そうだ! あの女の子は!? それと僕らを助けてくれた人も――イテッ」
「まだ無理しちゃダメ。全身ひどい怪我をしてるんだから」
今更だが、口の中も重症だ。下で傷口をなめるとピリッとした痛みが口内を走る。
「それで二人は? 男の方もどうなった?」
「まず朔夜が助けた女の子は無事。こちらで保護した後、男共々警察に引き渡したから」
それを聞いてほっと息を撫でおろす。
気の毒なことかもしれないが今回の件は彼女の心に深い傷をつけたに違いない。だが、それでも無事のらせを聞いて朔夜はうれしく思った。
しかし、思うところはある。
「別に俺は守ってない。できたことはただのサンドバックだった」
「それでもあの女の子は朔夜にお礼を言ってたよ。ありがとう、と伝えてくれって」
僅かに目頭が熱くなった。「バカバカしい何を泣いているんだ俺は」と自分を嗤い、顔を反対側に向けた。
「朔夜はよくやったよ。だから、あまり自分を責めなくてもいいから」
「……先生。おれはやっぱりダメだ。あの時も結局誰かを守れなかった。多分ずっとこうだ。何もできず、ただ腐っていくだけだと思う」
「それは違うと思うな」
その慰めの言葉を発したのは驚いたことに風香ではなく第三者だった。
驚いて振り返ると更に驚愕した。
陽光を受け、僅かに陰りが見えるもののその綺麗な栗色の髪に整った顔立ちの少女は誰の眼も奪う。朔夜も例外ではない。
「初めまして、双葉凛です。年は君より一つ上になるのかな? 二人の話を聞いてたら思わず口を挟んじゃった」
心臓が早鐘のように鳴り響き、血が熱くなっていく。
その姿は目に焼き付いていた。見間違えなどありえない。
今は手に拳銃はないが、声の主は間違いなくあの時の少女だった。
「あなたが朔夜君ね? 噂と違って勇気のある人だね君は。私はそういう人好きだよ」
思わぬ言葉に朔夜の顔に赤みが増す。
なぜか体が勝手に風香の方に助けを求めたが、ヘルパーはにやりと意地悪そうな顔を浮かべた。
先程のしおらしい雰囲気は犬にでも食わせたと言わんばかりの顔でにんまりと笑う。
「あ、そうだ! 急患がいたんだった。早く戻らないと!」
「おい、待て先生。今置いて行かれるものすごく困るんですけど!? てか、あんた精神科だろ! 急患とか入るの!?」
「アイ ルー ビー バック」
「なら、今すぐ帰ってこい!」
にゃはははは、とふざけた笑い声がだんだんと遠くなっていった後、朔夜は首だけで項垂れてみせた。
「先生と仲いいんだね」
ここ座るね、と一言断り、パイプ椅子に座る。近くで見てもやはりと言うべきかその美貌は朔夜にとって目に毒だった。なぜか鼓動が一層速くなる。
「ほとんどからかわれているだけですよ」
可能な限り、冷静を装う。少しぶっきら棒すぎたか? と不安になるが凛は特に気にした様子は見られなかった。
「そんなことないよ。表に出さないだけで君の事すごく大事に思ってる。だって、今日はすごかったんだよ? 持ち場をほっぽりだして君のことを捜しに行ったらしいし」
フフと花が咲いたように笑う。その仕草から育ちの良さを感じた。
そんな彼女がどうしてあんな暗い場所にいたのだろう? それに拳銃の所持もそうだが、腕前の方も尋常ではなかった。
「あ、私は学校の帰りに連絡を受けたんだ。顔写真付きのメールが届いてね、君のことを見かけたら教えてくれって。とりあえず、早く帰ろうと思って近道をしたらたまたま君達に遭遇しちゃって」
それであとは知っての通りとどこかおかしそうに話す。そんなにメールの件が面白かったのだろうか?
「な、なるほど。助けてもらってありがとうございます。……それで、その、なんて聞いたらいいか分からないんですけど一つ聞きたいことがあります」
「うん、どうぞ。何でも聞いて」
「じゃ、遠慮なく……あなたは誰ですか?」
「? 私の名前ってこと?」
「あ、違います。えっと、なんで拳銃を持ってたとか、どうして先生と知り合いなのかとか、そういうことです」
早口でそう告げるとまた凛はフフと笑った。気恥ずかしさを感じながらも言葉を待つ。
「そういうことなら簡単かな? 私は防災省にあるC―ユニットのパイロットをやってます。拳銃は訓練の過程で覚えちゃった。あ、この拳銃は一応本物だよ? 弾はゴム弾だけど」
「ああ、なるほど……」
凛が腰にぶら下がっているホルスターをポンポンと叩く。
朔夜は可能な限り表情変えずにそう返すが、内心は困惑でいっぱいだった。
彼女がCーユニットのパイロット? そんな馬鹿な! と叫ぶが記憶の奥底で眠る情報を思い出す。
自分の他にもパイロットは必要だから、と言って父が交渉していることを聞いていた気がする。その人と同一人物かどうかは分からないが希少なCОDEの持ち主なのだから高い確率でそうだろう。
「君のこともある程度聞いてるよ。名前は柊 朔夜君。16歳。事情があって引きこもりになっちゃっ
たって。だから、もっと暗い子だと想像してたけど……うん、そこまでじゃないね」
「ハハハ、そうですか。よかったです」
自分は意外にもポーカーフェイスが得意らしい。先程から一つの疑念が心中を渦巻いて離さない。
彼女はどこまで自分のことを知っているのだろう?
もし、仮に彼女が朔夜の正体を知っていたら、朔夜はまた逃げ出してしまうかもしれない。
「うん、本当によかったよ。仲良くできそうで。だから、これからもよろしくね?」
「えっと、はい、よろしくです」
差し出された手に一瞬の躊躇を覚えるが、無心になってその手を握る。
しかし、無理だった。その女性特有の肌の柔らかさを感じるといやがおうでも体温が熱くなる。気を抜けば、ウヒョーなどとふざけた言動が口から滑り落ちそうだ。
「煩悩退散煩悩退散」
「?」
邪念よ去れ! と自身に喝を入れる。正直、効果は露ほども期待してない。
「やっぱり、君は面白い子だね。えーと、柊君は面白い!」
凛がしばし逡巡した後、朔夜の呼び名が決まった。困り顔も見惚れてしまう程、心を掴まれている。
「それにしても嬉しいな。私は部活とかやってこなかったから後輩って初めてなんだよね」
「はあ、そうなんですか」
「そうなんですよ。だから、お姉さんが可愛がっちゃうからね柊君?」
「え、はい。……はい?」
話が見えてこない。何か決定的な行き違いが二人の間にはある。
「改めてよろしくね。4番目のパイロット君」
「…………え?」
「…………ん?」
今までの発言の数々を照らし合わせてようやく合点がいった。
つまり、彼女の中では朔夜は防災省に所属するまたは所属されたことになっているのだ。
冗談ではないと慌てて訂正に入る。
「ち、違います。俺はパイロットになるつもりなんてありません。だって、その、うーん、えっと、あ、俺は引きこもりですし!」
どもりながらもなんとかそれだけは伝える。
凛も二人の食い違いに気付いたようで目を丸くした。
「え、でも、先生が『いつか朔夜が外に出れるようになったらきっと凛ちゃんの力になってくれるよ』って言ってたから」
「……ごめんなさい。俺が今日外に出たのは逃げただけなんです。……多分、俺が外に出れるようになるのはまだ先だと思います。それに俺にはCОDEなんていう大層な物なんてありませんし」
そう言って手の甲をひらひらと見せる。朔夜の手の甲はなんのことはない普通の手だった。
果たして、凛はその言葉を聞いて何を思ったのだろうか?
朔夜は見落としたが、彼女の顔が刹那の瞬間、影が差した。
しかし、すぐに笑顔を作るとおどけたように残念だなー、とはにかむ。
「なら、しょうがないね。私は君のことは昔パイロット候補だったって聞いてたからてっきりそうだと思っちゃった。ごめんね? 早とちりして」
本当に申し訳なさそうに言うので、朔夜の中の罪悪感は余計に増した。
「こちらこそ勘違いさせるようなことをしてすみません」
どうにかそれだけを絞り出す。
「ううん、本当にごめんね」
「いや、元はと言えば俺が悪いので」
「そうかな……?」
「そうだと思います……多分」
そこで会話が途切れた。二人の間に沈黙が続く。
今まで凛が能動的に話しかけていたが、勘違いだとわかってしまい、羞恥や気まずさで話題を振ることができなくなってしまったからだ。
朔夜も自分から話しかけられるような人間ではなく、嫌な焦燥感だけが胸をかき乱す。
しかし、なぜか嫌だと心が叫ぶ。凛の顔を曇らせたくない、とそればかりが心を支配する。
なら、もうなけなしの勇気を振り絞るしかなかった。
「えっと! 俺が、もし外に出られるようになっったら……その」
言葉に詰まった朔夜にキラキした瞳が期待を込めて先を促す。
「その?」
委縮した舌を叱咤し、続きを口にした。
「真っ先にあなたを助けに行きます。絶対に」
言い終えた瞬間、羞恥のあまり、死ぬかと思った。いや、やはり死ぬ。体中の鳥肌がざわめき立って仕方ない。
しかし、そんなもの凛が見せた最大級の笑顔に吹き飛ばされた。
――ああ、そうか。と一人納得する。
自分がなぜ彼女の悲しい顔が見たくなかった理由が分かった。
「じゃ、期待するね? 絶対にいつか私を助けに来てね? 柊君」
「約束、しますね。えーと」
「凛でいいよ。苗字は嫌いだから」
「じゃ、その、凛さん」
その日の出来事を朔夜は一生忘れない。
なぜなら、自分は彼女のことが好きになったのだ。一目惚れというやつだ。
それからほんの少しだけ二人でお話なるものをした。凛の好きな物や現在は一人暮らしをしているだとか。朔夜はあまり自分のことを語れなかったが、相手のことを知れたのはとても有意義だった。
それと話しているうちに判明したが、どうやら朔夜=前任のパイロット、つまりプリンセスだとは思っていないようだ。
どうやら、プリンセスは今は療養中でいつか戻ってくるのだとか、なんとか。どうやら上はこちらの事情を汲んでくれているらしい。
凛が「プリンセスちゃんがどんな可愛い子なんだろう」と夢見る少女のように言った時は冷や汗をかいたが、自分だとバレてないならよしとするしかなかった。
そうして、日も沈んだ為、凛が身支度を始める。
名残惜しいがいつまでもここにいるわけにはいかない。逆にいつまでも居られたら朔夜の心臓が心停止する。
「じゃ、そろそろお暇するね」
「はい、今日はありがとうございました。先生にも今日ずっと居てくれてありがとう、と伝えてください」
「その言葉、先生に直接言ってあげたらいいのに」
「調子に乗りそうなので遠慮しておきます」
ささやかなジョークを飛ばし、二人は別れを告げた。
しかし、扉に差し掛かった時、凛が何かを思い出したかのようにこちらに振り返った。
「あ、そういえば私達が来る前に柊君にお客さんが来てたみたいだよ」
「え、俺にですか? 心当たりはないんですね」
「そうなの? 長い間椅子に座ってたみたいだけど、椅子も暖かかったし」
「え……?」
可愛らしい仕草で考え込んだ後、やがて凛は手を叩いて告げた。
「あ、あの子かも。先生と柊君が話してる時に私は部屋の外で待っていたんだけど一人の可愛い女の子がこっちに歩いてきたの」
「女の子、ですか」
「うん、本当に可愛い子でね、私を発見したらどこかに行っちゃたけどね」
一拍空く。続く言葉に朔夜は呼吸を忘れた。
「紅い髪でね、ツインテールがとても似合う女の子だったよ」
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