ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

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お久しぶりです。

大変お待たせしました。
体調を崩したときノートPCを踏んでしまいまして、液晶が破損。
スマホで執筆してみたもののものすごく書きにくくいらいらするため修理を待つこととなりました。

うん、言い訳なのはわかってます。
今度はもう少し早く書けるはずです。


VS世界樹(4)

ナザリック地下大墳墓第4層に黄昏の騎士団のメンバー3人がうろついていた。

 

「どこにいるんだろうなあ」

「アインズ・ウール・ゴウンだからなあ。なんか出現条件とかもあるんじゃないだろうか」

「さしあたりこの階層の地形だけでも持ち帰ろうぜ」

 

アインズ・ウール・ゴウン遠征中に、拠点防衛を任された黄昏の騎士団であるが、ついでとばかりにるし☆ふぁーからゲームを提案されていた。

黄昏の騎士団が立ち入れる範囲内のどこかに、設定時点のメンバーの能力を教えてくれるNPCが配置されているというのであるのである。

彼らが移動できる範囲は第1から第4層まで、飛んで第9層である。

 

この階層は某ゴーレムのインパクトのせいでまともに情報が出揃っていないエリアである。

モブや罠の類が再配置される程度のことは黄昏の騎士団だって折込済みである。

それでもまったく情報がないよりはマシだし、地形は変えないと言われているからマッピングは無意味ではなかろうとこの3人組は第4層に送り出されたのであった。

NPCは別のメンバーが探索しているのだが、彼らは基本的にアインズ・ウール・ゴウンのファンである。

できれば自分の手で情報を入手したいというのがファン心理であろう。

 

「むー、絶対あの豪華なエリアにいると思うんだが」

「メイドさんとか大量にいたしな。コピペじゃないとかドンだけ気合入れているんだろうな」

「おい、集中しろよ。いくら襲われないっていっても場合によっては死ぬんだぞ」

 

ちなみに侵入者にアインズ・ウール・ゴウンの情報を与える栄えある(?)役目を任されたのは、エクレア・エクレール・エイクレアー。

反逆を企んでいる彼なら適任だろうと、製作者の餡ころもっちもちが太鼓判を押している。

総当りでいけばいつかはたどり着くであろうが、NPCであるため話しかけないと反応しない。

ファンタジー世界であればきっと彼から声をかけただろうが、残念ながらここはゲームの中である。

抱えられないとまともに動けない掃除ばかりしているペンギンが目的のNPCだというのはだいぶ難易度が高いのではなかろうか。

 

「そういや出現条件ってお前はどう考えているんだよ?」

「そうだな……たとえばえっと、ほらあれだよ、あれ」

「答えが出てねえじゃねえか。本気で考えるならまだしも適当言っているだけなら真面目にマッピングしろよ」

 

襲われない気楽さからか、彼らはぐだぐだと話を続ける。

地底湖にかかる橋に差し掛かった時、先ほど意見を出し損ねた男が何か思いついたように声を上げた。

 

「あ、そうだそうだ。昔話みたいに鉄の斧を池に投げ込んだら女神が出てくるとかどうよ?」

「……無いとは言わねえけどよ、流石にノーヒントでアイテムが必要ってのは無いだろ」

「だなあ。アインズ・ウール・ゴウンは一応フェアだしな」

「やってみなきゃ、わかんねえだろ!」

 

せっかくひねり出した答えが一蹴されて不満だったのか、彼は石ころを拾うと地底湖に投げ込んだ。

もちろんそれで何が起こるわけでもない……はずだった。

 

「お?」

 

水面からゴボゴボと泡が立ち始める。泡は徐々に数を増し、同時に水面が荒れ始めた。

水面の荒れ具合は嵐でも来たかという程に酷くなり、橋にも波が押し寄せるまでになった。

水をかぶった一人が石を放り込んだ仲間に抗議の声を上げた。

 

「おいこら! なにしやがった!」

「わかんねえよ! その辺の石を投げ入れただけだぞ!」

「やべえぞ! なんかでかい波が来る! どっかに掴まるんだ!」

 

必死に橋にしがみついた彼らの目の前で湖底から赤い光を纏った巨大な物体が浮上してくる。

湖面がぐぐっと持ち上がり巨大な水柱が立ち上がる。

大きな波が橋を覆い水柱が消えた後には、両腕を交差させて鎖で封印された重厚で巨大なゴーレムが屹立していた。

 

「は、は、ははは。ほ、ほらみろ、出現条件あったじゃねえか」

「い、いや、なんか変だぞ」

 

下にいる彼らには目もくれず、人造の巨人は鎖を引きちぎると同時に魔法陣を展開し、徐々に姿を薄れさせて転移していった。

 

「……なんだったんだ」

「とりあえず、会話が成立する相手じゃなかったし正解ではないだろう。そういうことにしとこうぜ」

 

偶然彼らが石を放り込んだ瞬間にモモンガがガルガンチュアを召喚しただけなのだが、そんなことは彼らにはわからない。

関係なかったと無理矢理自分を納得させた彼らは賢明だったといえる。

 

「あれさ、攻略時に出てきたりしないよな?」

「……攻略時に湖に物を落とすなって警告しておくか」

 

ただし勘違いはしていたが。

 

 

*   *   *

 

 

攻城兵器というものはユグドラシルにおいて非常に使いにくいシステムの一つである。

 

なにしろ召喚できる戦場が少ないし、使いどころがとても狭い。

基本的にオブジェクト破壊に特化した存在であるため、軍団規模戦闘の拠点破壊くらいにしか使い道がない。

一応、通常モブにも攻撃可能ではあるのだが極端なマイナス補正を受けてしまい、異常に高い攻撃力がそこそこの前衛程度まで落ちてしまう。

そのくせターゲットは任意に切り替えができないので、オブジェクト以外にターゲットがいってしまうことが良くある。

攻撃方法が物理攻撃のみなので物理軽減、あるいは無効の敵が出てくればプレイヤーが手をかけるしかなくなる。

そして大問題なのが、生半可な攻城兵器ではオブジェクトへの攻撃すらスキルを駆使したプレイヤーに劣ることがあるという点である。

ユグドラシルはどこまでもプレイヤーが戦うゲームであり、兵器はおまけでしかないのである。

 

加えて防御能力は耐久頼み。避けるとか軽減するとかを考えてはいけない。

もちろんHPは非常に高いが削りきれないかと言われれば、そんなことはないと返すべきレベルである。

加えて戦闘中の耐久回復が容易でない。修理できる生産系プレイヤー、素材がなければならないのである。

戦闘能力が極端に低い生産系プレイヤーを、攻城兵器が必要とされるような戦場に引っ張り出すこと事態が無茶であるのだからその難易度はおしてしるべし。

戦闘が終わればギルドが存在する限り、拠点に戻せば完全回復するのがまた回復の無意味さを煽る。

本当に攻城兵器の立ち位置は「あれば便利」の域を出ないのであった。

 

それでも攻城兵器の制限を緩和する方法は、あるにはある。

[アームズルーラー]という職業があれば、攻城兵器を制御して色々なマイナス部分を補うことができる。

しかし前提に[マシンマスター]という[アームズルーラー]にならねばまったく意味が無いジョブを15レベル取得しなければならない。

明らかに取得順序が逆だろうとまで言われる運営の悪意を感じる構成である。

もちろんとことん人気が無い。正しくは浪漫にかけた一部の変人にしか需要がないというべきなのだが。

あくまで20レベル近いリソースを攻城兵器にかけて、それでもなお純粋な前衛と同程度の能力を非常に限定された場面でしか使えなくてもいいと割り切れるなら、それでもいいんじゃない? というわけだ。

 

 

それに挑戦したプレイヤーは少なからず存在したが、ほとんどすべてが挫折したといっていい。

試してみたくはあったものの継続させる情熱を持ち続けることは難しかったわけだ。

特にロボット兵器の操縦をメインにしたDMMOがリリースされてからはその人口はほぼ絶滅したといってよかった。

そう、あくまで『ほぼ』でありユグドラシルで攻城兵器にこだわり続けたプレイヤーはいたわけである。

そしてその変人はアインズ・ウール・ゴウンにも当たり前のように存在した。

 

 

*   *   *

 

 

その変人(アームズルーラー)であるぬーぼーがガルガンチュアを操り、その豪腕をもってイルミンスール本体に殴りかかる。

巨大な質量がその巨樹を打ち据えのけぞらせた。

感情などないはずのイルミンスールが怒りを覚えたかのようにガルガンチュアに攻撃を叩き付けるが、ガルガンチュアはまったく意に介さない。

未だギミックの都合でイルミンスールのHPが削れる段階には至っていないものの、確実にヘイトを向けることに成功していた。

 

戦場に投入されたガルガンチュアは頭脳(ぬーぼー)を得て的確にイルミンスールに打撃を加えていた。

いくら眷属が増えようとターゲットも見誤るような無様はさらさない。

更に凡百の攻城兵器と違い、ガルガンチュアは世界級の素材をふんだんに用いて作られている。

もはやその体そのものが世界級の武器と言っても過言ではないため、一撃一撃の威力は災害のレベルである。

[マシンマスター]のスキル効果により攻防ともに強化され、動力エネルギー(動力炉の性能できまる稼働時間のこと)を消費してスキルさえ放つことができるようになっている。

 

「バリア展開!」

 

封印が更に進み再び行動パターンが変わったイルミンスールが放つ巨大な雷撃を、展開した障壁ではじき返すガルガンチュア。

無限エネルギーであるカロリックストーンがありそれを膨大にプールするリジッドストーンを素材にしているためクールタイムを考慮しなければ本当に無限にスキルを使える……はずだったのだが。

 

「畜生! やっぱりまだバランスが取れねえか!」

「動力足りるのか!」

「問題はねえ。今出力いじってるからすぐ回復する! だがプール分が減っているからしばらくスキルは控えろ!」

 

今までのガルガンチュアではカロリックストーンのエネルギーを十全に受け切れなかったことから、出力を絞るという本末転倒なことになっていた。

素材の交換によりその問題は解消されたのだが、さすがに試運転をする場がなかったのである。

なにしろリジッドストーンは未知の素材。理論上は大丈夫、というレベルにすら詰められていないというのが生産組の総意であった。

その懸念は当たっておりカロリックストーンの出力設定を最大にすると暴走してしまうことが、この戦闘中に判明しており速攻で修正されていた。

 

そう、現在カッチンは中に乗り込んで(・・・・・・・)リアルタイムで動力炉を修正しているのである。

元々戦闘中に耐久を回復させるべくガルガンチュアの内部にはスペースが確保されている。

大抵の攻城兵器ではスペースが足りず乗り込みなどという真似はできないのだが、ガルガンチュアはその巨大さを持ってそれを可能としている。

前述のとおり戦闘中の回復は大分意味がないことなので、完全に趣味要素だがそれが役に立った形である。

 

そして敵側で最も厄介なイルミンスールをガルガンチュアが抑えているおかげで他のメンバーが眷属の掃討に集中できている。

封印が進めば順次増援がくるし、このまま押し切れるかもしれないという予想がよぎり始めたとき、ぷにっと萌えから通信が入った。

 

『そちらはどうですか?』

「順調です。強いて言えば私が回復役に徹しなくてはいけないので面白くないくらいです」

 

答えるモモンガが愚痴を言える程度にはボスと対峙している組は余裕を持てている。

ただこのタイミングで連絡が来たことにいい予感はしなかった。

 

「で、厄介ごとですか?」

『ええ、予想通り予想外の展開です』

 

ぷにっと萌えの声はいつもと変わらなかったが、彼の予想を超えている時点でろくなことではないだろう。

当たり前のようにいやな答えが返ってくることにため息をつきたくなるが、順調な方が困難に立ち向かっている方のメンバーのやる気を削ぐ意味もないと報告を待つ。

 

『こっちでもボスが出ました』

 

本当にろくでもない情報だった。




今回ガルガンチュアの設定を盛大に捏造しました。
たぶんものすごい使いどころがなかったと思うんですよね。

今後設定が出てきたら奏しましょうね。

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