ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

35 / 36
相変わらず戦闘シーンは難しい。
今回は援軍及び秘密兵器の投入までです。
書き溜めもないのに予告なんてやるもんじゃないですね。


VS世界樹(3)

「やっぱりつながらないか」

 

九曜の封印を実行した後、先ほどと同じように世界は不気味な鳴動をした。

良い兆候なのか悪い兆候なのか、本体を見ていないぷにっと萌えには何とも判断できなかったが、直後から本体と対峙しているメンバーと連絡がつかなくなったのは間違いなく危険な兆候だった。

 

「お嬢様方がピンチになっているということでしょうか?」

「少なくともチャットに出る余裕もないのは間違いない」

 

こんな時ですらロールを貫くホワイトブリムの確認に答えると、ぷにっと萌えは増援予定の人員に即座に指示を出した。

 

『初期プランは放棄です。とりあえず単独突破できるメンバーは戦闘を可能な限り避けて急行してください』

『おうよ』『了解~』『んじゃさっさと行きますか』『いってきます』

 

軽いメンバーの返しにちょっと大丈夫かなと思うも、緊張したりして実力が発揮できないことはなかろうと思考を打ち切る。

油断のし過ぎでいきなりやられる可能性は見ないことにした。モモンガたちがいればとりあえず即死はしないだろう。

要するに丸投げだ。

 

『俺らはどうするよ?』

『そうだね。僕らが行かないと切り札が置物になりかねないよ』

 

カッチンとぬーぼーの不満そうな発言だったが、どう考えても二人のビルドでは単独突破はできない。

 

『彼らがモモンガさんに余裕を作ってくれるのを期待するしかないですね』

 

カッチンたち作成班はギルド武器にギルドメンバーを即時に自分の下に召喚する機能を組み込んでいた。

元々ギルド武器にしか組み込めない効果であるため、ギルド長にしか発動できないのが難点だが状況次第ではかなり有効な効果ではある。

ユグドラシルでは基本ギルド武器がお飾りになっていたため、急遽組み込む羽目になったのである。

 

『そっか……準備でもして待っているよ』

『向こうがどうなってるかわからないことには、次を封印するわけにもいかないのが困りものです』

『こっちの封印は順調にできておるが、向こうが一気に危険になる可能性があるからの』

『今現在向こうが手一杯なんですから可能性じゃなくて事実ですよ』

 

通話を打ち切るとぷにっと萌えは次への対策を考え始めた。

 

 

*   *   *

 

 

「カグヅチの陣!」

 

モモンガがミコ(巫女)のスキルで火属性を大幅軽減する防御陣を構築した直後、イルミンスールから噴き出した奔流のような火炎がたっちー・みーを飲み込んだ。

追加で回復をかけようとするモモンガだったが、たっち・みーは手振りだけで不要を伝える。

九曜の封印後からまともに会話できなくなって久しい。

本体からの攻撃頻度が上がったのももちろん原因の一つなのだが、それより致命的な問題が二つほどあった。

 

「! ワダツミの陣!」

 

つい先ほど張った陣をモモンガが水属性軽減のものに張り替える。

その後の濁流は先ほどと同様に囮を実行しているメンバーに致命打を与えることなくしのぎ切られた。

 

そう、問題の一つはイルミンスールの属性攻撃が九曜の封印後からいわゆる四大属性に切り替わったことである。

単一の属性であれば陣の継続時間を気にかけつつ他の支援を飛ばすことは難しくはなかったのだが、属性を切り替えて対応しなければならないためモモンガにかかる負担は急増していた。

本体の力が膨大すぎるためか、事前にどの属性が来るかは判別可能であり対応するための時間は十分取れるものの、その威力は直撃を貰えば立て直しに手を取られる程度には凶悪である。

結果モモンガは防御に回らざるを得ない状況に追い込まれていた。

それでも回復とバフを途切れさせていない手腕はさすがと言えたが、少人数すぎるメンバーで攻撃の手が減ったことは確実に彼らの余裕を奪っていた。

 

「くそっ! またか!」

 

悪態をつきつつウルベルトが追撃の範囲攻撃を放つ。

無詠唱化しているため威力は落ちているが、瀕死であった眷属はそれに巻き込まれてあっさりと消滅していく。

順調ではあるもののウルベルトの顔色は全くさえない。

 

もう一つの問題がこれ。すなわち眷属を掃討しているウルベルトが確殺できないことが増えたという点である。

敵のレベルは210まで上がっているため当然HPは増えるし耐性も若干とはいえ上がっている。

結果として微妙にHPを残して耐える眷属が出始めたということだ。

 

HPがごくわずかで軽い追撃で倒せるなら問題ないじゃないか、と思うのはおそらくあまりRPGをやりこまない人種だけであろう。

これは格闘ゲーム由来の言葉だが「死ななきゃ安い」という格言がある。

ゲームではHP減少に伴って行動が鈍るなどありえない。ゆえにHP1でも残るのであればそれは即死(敗北)に比べたら全く問題にならないという意味である。

 

そう、ゲームの世界ではHP1だろうがHP1000だろうが一撃で倒せるのであればそれは「同じ」なのである。

逆に言えばHPの残りがいくらでも撃破に2発必要ならば手間は2倍。

被弾リスクも「全くない」のと「わずかながらあり得る」のとでは大違いである。

デス・ナイトが重用される理由もわかっていただけると思われる。

ともあれ手数が二倍必要になったウルベルトはMP消費の増大もあり、じりじりと継戦能力を削られつつあった。

 

そして二人の手数が減ったことはたっち・みーにも影響を及ぼしていた。

現在のたっち・みーの役割は魔法無効の眷属の掃討と、無駄でもイルミンスールの本体に攻撃をかけ続けてヘイトを稼ぐことである。

眷属の掃討は公式チートともいえるワールドチャンピオンのおかげでいまだに確殺ラインを維持できているものの、イルミンスールへの攻撃頻度が格段に落ちていた。

ウルベルトのように範囲攻撃に巻き込んでしまうという手が簡単で確実なのだが、近接職であるがためにどうしても彼よりは敵に近づく必要がある。

接近に際しなるべくダメージを負わないようにするにはモモンガとの連携が必須なのだが、モモンガが頻繁に防御を張り替える必要があるため彼との距離を長時間開けられない。

かと言ってモモンガが移動するのも厳しいし、ダメージ覚悟となれば結局回復役でもあるモモンガの負担が増す。

結局、射程の長い単発攻撃を牽制目的で撃つため彼もまた追い込まれつつあった。

 

元々3人で囮をするのが無茶である中でここまで粘っている方がおかしいのだが、破綻の淵に来ていたのは間違いない。

……彼らに援軍がなければ、だが。

 

 

*   *   *

 

 

「いぃっやっほーーーー!」

 

雄たけびを上げつつ一人の獣人が飛び蹴りで前線に突っ込んできた。

無駄に声がでかいが意味がないわけではない。彼のスキルには雄たけびを聞かせることで挑発を与えるものがあるからだ。

ちなみに声の大小はそこまで重要ではない。

 

「メコンか。ありがたい」

「おう、お呼びがねえから走ってきたぜ。とりあえず俺は雑魚散らしの方に専念すっから、てめえは一息入れて来い」

 

速射砲のようにパンチを繰り出し、時に蹴りを交えと嵐のように暴れまわる獣王メコン川に礼を言うと、たっち・みーは少し下がって息を整えた。

実際に呼吸が乱れたりするわけではないのだが、DMMOでは案外そういったリアルに近い意識の切り替え方法が有効だったりするのだから面白い。

剣の柄を握りなおすとたっち・みーは再び乱戦の中に突っ込んでいった。

 

「お前が一番乗りなのはいいとして、ほかのメンバーは?」

「おっつけ来るだろうさ。返事がない時点でうちの軍師殿が急げっつったからな」

 

超特急で来たぜと笑う獅子頭に、少しは連携しろよと常のごとく返しつつ二人は掃討を続行した。

 

 

「ほいほい、追撃するぜ!」

 

そんな軽い言葉とともに攻撃魔法が乱舞する戦場に現れたのは一人のサキュバスだった。

普通、妖艶と表現されることの多い種族だが、どうにも色気の感じられない仕草と言動である。

 

「リリーか。どうもさっきから撃ち漏らしが多くなっていてな。適当でいいから追撃ぶちこんでくれ」

「お任せあれ。適当はおふざけチームの専売特許だぜ」

 

微妙に信用ならない発言をしつつもリリーはウルベルトが放った魔法に属性を合わせて追撃を仕掛ける。

撃ち漏らしが出なかった場合にはちょいちょい回復を挟んでくれるおかげでウルベルトの負担は格段に減った。

 

「さっき突っ込んでいったのは?」

「もち、脳筋ライオンだよ。追っかけるのに苦労させられた」

「またあいつ先行しやがったのか」

 

状況を確認したウルベルトは呆れたように呟くがいつものことと頭を切り替えて肝心のことを聞くことにした。

 

「こんだけ早く来てくれたってことは、ぷにっとが気が付いてくれたんだろうがあいつらはどうするって?」

「やっぱ移動させる人員付けらんないから、モモンガさんに呼んでもらうってよ」

「じゃああっちは残り二人が行っているのか」

 

そういうこと、というリリーの言葉を受けてウルベルトはちらりとモモンガの方をうかがった。

 

 

「おーす、助けに来たよモモンガお兄ちゃ……ってなんでまだお姉ちゃんモードなのさ?」

「うっわ、このレベルでもここまでMP削れるんですか。とりあえずすぐポーション出しますから」

 

モモンガの所に来た援軍はピンク色の肉塊と見事な三角帽子を被った魔女だった。

ぶくぶく茶釜とわるぷーである。

 

「ま、いいや。とりあえずしばらく属性防御代わるからちゃっちゃと召集頼むよ」

 

自分で聞いたくせに質問の答えを聞かないままぶくぶく茶釜は全員の防御が可能な地点に移動する。

ガード役はポジショニングが大事なのだ。いざというときにかけつけられないのでは意味がない。

返事をし損ねたモモンガは一瞬弁解をしようか悩んだものの役目を優先し、自身にMPの回復を早めるポーションを使ってくれているわるぷーに確認を取る。

 

「召集していないのに来てくれたってことは、プラン変更されたってことですね?」

「そうですね。私たちは普通に移動して来ました。ですが残りのお二人はどうしたって単独での移動は無理ですからね」

 

ならば急いだ方がいいですね、と返すとモモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを構えると高々と宣言した。

 

「緊急召集! ぬーぼー、並びにカッチン! 盟約に従い疾く参上せよ! ……なんでこんな口上言わなきゃならんのですかね」

「突貫だったそうですからね。デフォルトの音声認識のままなんだそうですよ」

 

言った後気恥ずかしくなったモモンガの呟きに、わるぷーが律儀に補足を入れる。

そんなやり取りをする二人の目の前で魔法陣が展開され、まばゆい光の中二人の人影が転移してくる。

 

「やれやれ、どうにか出番がなくなるといった事態は避けられたようだね」

「憎まれ口をたたくこともなかろう。我らがギルド長と最強コンビがおるんだ。そうそう遅れは取らんだろうさ」

 

出てくるなり捻くれた言動をしたぬーぼーをカッチンが諌める。

本気で言ったわけでもないぬーぼーはふんと鼻を鳴らすと、改めてモモンガに向き直り言った。

 

「それじゃあ、モモンガさん。連続で悪いけどあいつ(・・・)も頼むよ」

「ええ」

 

再び杖を構えてモモンガは詠唱を行う。

 

「ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの長の名において――――――ガルガンチュア! 召喚!」




というわけでガルガンチュア投入。
防衛に使えると思ってたけど使えないらしいからここで参戦させちゃいます。
攻城戦用ってなら対世界戦にだって使っていいでしょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。