まあ、話の合う女性でもいればってだけなんですが。
アップデートがあってユグドラシルに復帰して以降は怒濤の展開だったと言える。
限界突破もそうだがワールド・サーチャーズとの合併は驚きの一言に尽きる。
予想外のことが多くて退屈がないのはいいことだ。
さて、こんな時期まで残っていたワールド・サーチャーズ、現ゾディアックの面々は、それぞれ探したいものを抱えていた。
新ワールドである「生命の木の丘」にも興味はあろうが、彼らは自分の趣味にも手を抜かなかったのだ。
本当に絶頂期に交流がなかったことが惜しまれてならない。
で、俺も探索はそこそこやっていた方なので、ちょいちょい彼らを手伝っていたわけだ。
その中でレイレイさんは、とある鉱石を探していたと言う。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! 私が探しているのは熱素石の対となる存在なんです!」
「ほう、仮に冷素石とでも言えばいいのかな?」
話してわかったがこの子は理屈屋だ。しかも好きなことになると止まらないので、まともに聞いてくれる人間が周りにいなかったのだろう。
俺としてはこれくらい理屈っぽい方が話しやすくて助かる。
やたらとテンション高く語ってくれたところによると、熱素石はいわゆる永久機関に当たるものであり、物理学のにおける妄想レベルの夢の一つなのだそうだ。
それに並ぶ物理学上の妄想の産物が完全剛体と呼ばれる性質だ。
「無限のエネルギーに完全なる物質! これを合わせたとき何ができるんでしょう! 色々できすぎて妄想が止まりませんよ!」
「入手の当てはあるのかい?」
「たぶん大雪原のどこかなんですよ。あそこには到達不能極があるはずなんです」
「確かすべての入り口から最も遠い地点のことだったかな?」
レイレイさんの言う大雪原には名前がついていない、いわゆるその辺の草原とかと同じ扱いのフィールドだ。
一応固有のモンスターやボスもいるにはいるのだが、特にめぼしいドロップもなくダンジョンがあるわけでもないため人気のないエリアだった。
おまけに冷気ダメージを軽減・無効化する魔法やアイテムを使うと一定時間で解除されてしまうので、突入するにしても最短距離を突っ切るのが常識とされていた。
「ええ。種族特性で冷気耐性でもないと中々探索できないんで困ってたんですよ」
「それで雪女なのか。だが神器級なら種族特性並みの耐性をもっているものもあったような」
「あのですね。目的に合わせて神器級装備を使えるなんて本気で稀なんですよ? アインズ・ウール・ゴウンは装備も資金も潤沢すぎるんだからそれを基準にしないでください」
じと目で返されてしまった。そんなつもりはなかったが我々はかなりの金満ギルドであったらしい。
そういえばどうやってここまで資金を貯めたんだったか……
ああ、思い出した。音改がゲーム内で相場操作を仕掛けたんだった。
たかがゲーム、されど中の人は普通の人間。ならば現実世界の道理が通用しないわけがないといって荒稼ぎをしたんだった。
資金の流れの追跡調査なんかできようもないので反撃を受けない一方的な蹂躙だったと高笑いしてた。
こちらも確認できないのにどうやったんだか。
後は装備(あるいは種族)と根気だけという状況だっただけに、案外あっさりと目的のアイテムは見つかった。
あたり一面真っ白で吹雪く中、目的地にたどり着くのが困難というだけだったので、レベルアップで増大した魔力にものを言わせて雪原の中に線を引いたのだ。
目的地に向かってひたすらまっすぐ魔法をぶっぱなして歩くだけなのだが、当然モンスターが襲ってくるので楽とは言い難かった。
何しろ俺が向きを失うとやり直しなので戦えなかったからな。
壁に用意できたメンバーに、たっち・みーがいたことだけが非常に遺憾ではあったが仕方ない。
みーにゃちゃんもついてきたので、格好いいところを見せたいと言われれば協力してやることも吝かではない。
一応(本当に申し訳程度だったが)頭を下げさせたので良しとしよう。
* * *
そうして手に入れたアイテムは当然のようにワールドアイテムだった。熱素石同様に量産できる類の。
名前はリジッドストーン。まあ、剛体ってことだ。
どうもワールドアイテムを形作る素材(の一つ)と設定されているようで、これを利用することで世界に唯一のアイテムを作れるらしい。
うちでは早速ガルガンチュアの装甲に流用されたのだが、その時の
そいつらが今地底湖で猛威を振るっているというわけだ。
「ふーはっはっは! 見たか、俺の試製21式ゴーレム改の強さを! いけ、そこでパンチだ!」
やたら盛り上がっているのはユッタリぷりんだ。
ぬーぼー達と交渉して希少な新アイテムを確保してゴーレムを作成したというわけである。
本人は壊れないトラバサミやまきびしなんかを作りたかったようだが、拾われたらどうすんだと怒られ渋々ゴーレムにしたそうだ。
ちなみにゴーレムは、るし☆ふぁーがデザインした筋骨隆々のマッチョマンである。
……なんというかとりあえず殴っておきたくなるような「いい笑顔」を浮かべている上、ビキニパンツ一丁。なにかとポージングを取るという相手を挑発するためだけに作られたようなゴーレムである。
今もユッタリぷりんが言うようにパンチをすればいいところで、見事なアブドミナル&サイを決めていた。
2ch連合のプレイヤーが全力で攻撃をしかけているが、全身にリジッドストーンをコーティングしてあるので耐久性が跳ね上がっているので効いていないように見える。
先に進むためには別に倒す必要はないのだが、ポージングを見ると「魅了」の状態異常にかかるか、その耐性が徐々に下がっていく。
無駄に視線を集めるのでそのうち、魅了にかかってしまうというわけだ。あのゴーレムに魅了されるのは大分屈辱だろう。
攻撃を当てると耐性低下もリセットされるのでやられた方は、ゴーレムを殴らざるを得ないのだ。
攻撃のたびにゴーレムを見るので、直視しないようにしつつ攻撃してとっとと離脱しないと無限ループだ。
何人かはどツボにはまってイライラした結果、大技をくりだして無駄に消耗しているというわけだ。
* * *
「くそう、私が長年追い求めてきたアイテムをあんなものに使うなんて……」
「だが、効果的ではあるようだぞ。攻撃を無駄撃ちさせているし、攻撃を受けることが決まっている以上耐久を上げるのは理にかなっている」
「理屈はわかるんです。わかるんですが……もう理屈じゃないんですよ! なんか、こう、汚された気分になるんです!」
レイレイさんがどんよりとしていたので、慰めてみたがダメだった。
理屈屋の彼女が理屈ではないというのだからロマンというのは恐ろしい。
いや、俺に女性を慰める才能がないのか。
「普通ワールドアイテムってもっとこう、立派なことに使うべきだと思うんですよ! なんでこのギルドではワールドアイテムの価値が安いんですか! 死蔵されるよりはいいですけどなんか私の価値観が崩壊しそうです」
「なら立派なことにも使えばいいさ。何かやりたいことはないのかい?」
「むー、それでもアレはなくならないのですが、ここはごまかされてあげましょう。……そうですね、時間があればそれこそ色々したかったんですが。やっぱり最強装備作りたいですね。最強こそロマンです」
中々意外な答えが返ってきた。
確かに作成したものが準ワールドアイテム級になるのだから最強装備というのは間違いではあるまい。
元々のワールドアイテムは形状も効果も決まっているから、個人の最強装備にはよほど相性が良くないとならないのだ。
「おや女性でそういうのは珍しいね。茶釜さんもやまいこさんも最強には興味なさそうだったんだが」
「それは個人差ってやつですよ。私はRPGやるなら全キャラ最強装備をそろえる人間なのです。全員が無理なら一人の究極キャラを作るのが好きです」
「おやおや。それは自分じゃなくてもいいのかい?」
「このゲームで最強になれないのはわかってますからね。だからこのギルドで強い人の装備作りたいです。モモンガさんのギルド武器強化は決定として、たっちさんと、あとウルベルトさんにも何か作りたいですね」
モモンガさんとワールドチャンピオンと一緒に自分の名前が挙げられるとは思わなかった。
確かに戦士職最強と魔法職最強と並んで称されたりするが、ワールドディザスターは世界の名を冠しつつも量産型と言える程度に取っているやつが多い。
大体魔法傭兵ギルドのせいなのだが。
「ありがたいが完全剛体なんて魔法使い装備に使いようがあるのかね」
「武器の素材として使うと大量のデータが入れられるのは確認済みですからね。シユウさんは武器方面の作成者ですから、カッチンさんとタブラさんに協力頼まないとですね」
なに入れようかなー、等と言っている彼女は非常に楽しそうだった。
ゴーレムは想像した人もいるかもしれないですが、超兄貴のサムソン&アドンです。
きっとあれならみんな殴ってくれる。
※追記
パンツの種類間違えてた。
さらっとウルベルトさんがボディビルダーのポージングを語ってますが、運動が盛んでない代わりに体を鍛える趣味の人はボディビルディングやってると考えてます。
なので普通の人でもそこそこ詳しいというどうでもいい設定。
あとなんで地底湖なのかというのは一応ゴーレムなのと、服装が水着と言い張れるから。