ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

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たっちさんの娘さんの名前に千年桜の案を採用させていただきました。
変則的ですがkimiakiさんの奥さんの名前案からネタを出しています。
ご両名ともありがとうございます。


世界征服計画(3) ※やまいこ視点

今の世の中、子供は少ない。

必然的にその子供を教える教師という職業は人数が減る。

つまりは狭き門というわけだ。

 

実際就職はすごい大変だった。学力が高くないといけないのは当然なのだが、そちらはまだ頑張れる。

それより大変なのが人格テストという名の思想調査だ。

子供を持つのは例外なく富裕層である。その金持ち共が子供を預けようというのだから慎重にもなろうというものである。

危険思想を持たないか、子供への態度は良いかといったテストが、これでもかというほど細かく行われる。

テロリストなんかに情報が漏れたら大変だしね。

ああ、富裕層を狙うテロリストなんかは普通にいる。恨まれているのが分かっているからこそ教師を選別したり警察を囲ったりしてるんだろう。

だからか知らんけど就職してからも年2回行われるんだよね、これ。

 

まあ、子供は好きだったからこそ頑張れたわけなんだが……ちょっとばかり誤算があった。

子供は親の背を見て育つとはよく言ったもので、どいつもこいつも見事なクソガキ様なのである。

特権意識の塊というか、甘やかされてわがままに過ぎるというか。

どこぞの国家で一人っ子政策を行っていた時代、子供は小皇帝と呼ばれていたというがまさにそんな感じ。

 

僕はやまいこ。

教師を目指し、クソガキ様のお守りをすることになった、ちょっと現実に裏切られた人間である。

……先生と生徒の交流って憧れだったんだけどなあ。

僕がユグドラシルをやっているのは、あれだ。ストレス発散の意味もあるのだ。

 

 

*   *   *

 

 

そんな僕にとって、みー君の娘さんは青天の霹靂、は言いすぎか。だがそれくらいの驚きがあった。

我儘を言わないわけじゃないのだが実に子供らしい、良い子なのだ。

僕の生徒もこの子くらい可愛けりゃいいのに。

気張って良すぎる学校に就職したのが良くなかった。

 

ちなみに娘さん、キャラ名を「みーにゃ」ちゃんと言うのだが、最初は「きゃっち・みー」という名前だった。

うちが誇る(?)変態ペロロン君と茶釜君がそろって「やばいから変えろ」とみー君を説得したことで改名と相成ったのだ。

みー君にそんなつもりは微塵もなかろうが、小さい子供に「私を捕まえて」という名前は確かにやばい。

世の変態がどう考えるかは先の姉弟が示している。みー君も慌てて娘さんを説得していた。

 

そんなみーにゃちゃんが一番なついているのが、僕らのギルド長モモンガ君である。

反応を見るにモモンガ君は子供との触れ合いに慣れてはいない。

しかし、ほぼ満点の対応をするのだから仕方ないといえる。

 

まず、声をかけられたら何をしても必ず振り返る。

子供というのは敏感なもので、大人が適当に対応していれば気がつくのだ。

作業をしていても中断して話を聞いてくれるというのは子供にとって非常に大きい。

この人は無視しない、きちんと相手をしてくれる人だと認識されている。

 

次に子供の話をさえぎらない。

きちんと最後まで聞いてくれるというのはこれまた子供にしてみるとポイントが高い。

大人にしてみると子供の話は支離滅裂でまとまりがなく聞きにくかったりするので、つい口を挟んでしまいがちだからだ。

彼は非常に真面目なのでごく普通にそうしているのだろうが、両親が共働きのみーにゃちゃんにしてみればこれはうれしいだろう。

 

他にも話すときは可能な限り目線を合わせようとしたり、質問にはできるかぎり難しい言葉を使わないで答えようとしたりと枚挙に暇がない。

おまけに尊敬されていると分かってからは、彼女の前で醜態をさらさないように準備までするようになった。

この前体験コンテンツをやりに行ったときなど事前に予行演習しにいって質問に答えられるようにしてた程だ。

 

正直に言おう。大変うらやましい。

「お姉ちゃん」呼びくらいは甘受してほしいと思ってしまうのはしょうがないだろう?

 

 

*   *   *

 

 

さて、2ch連合攻略の話である。

もはや完全に通称として完全に定着してしまっているが「2ch連合」という名のギルドは存在しない。

数多くのギルドが掲示板経由で連合したのでそう呼ばれているだけだ。

方針らしい方針はなく、その場の勢いとノリだけで行動する上やたらと人数が多いので周囲の迷惑になることも多い。

それでもその数は侮れず、ついこの間まで3位、ワールド・サーチャーズとうちが合併した結果2位になった。

僕らはこれからそこに喧嘩を売ろうというわけだ。

 

「正直なところ、2ch連合のギルドを全て壊滅させるのは現実的ではありません。なので連合の要になっているギルド「O・RE・RA」のギルド武器破壊が第一目標になります」

 

ぷにっと君が説明を始める。

しかしギルド武器破壊か。確かまともにやったところはほとんどなかったはずだ。

2ch連合は一度拠点をトリニティに破壊されているが、ギルド武器までは壊されなかった。

なんで破壊に至らなかったのか理由はわからないが、敗北の結果2ch連合は大きく求心力を失い人数は3分の1程度に減ったといわれている。

それでも1000人を超える大所帯なのだからいかに巨大なのかわかろうというものだ。

 

「実のところここまではさほど難しくないと思います。いくら人数が多いとはいえ常時拠点にいるメンバーはいないでしょう。いるとしても生産職でしょうか。何よりあそこは方針が定まらないから拠点に配置されるNPCは見かけだけの趣味的なものばかりです」

 

これまた事実だ。

連中の拠点は言い方は悪いが雑居ビルみたいなもので、収容人数こそ多いが防衛施設としての性能は低い。

うちみたいなダンジョンが拠点なんてのはだいぶ異端な方だ。

元々の建造物に居住スペースが皆無だから課金で追加したんだよね。

どうせ追加するなら豪華にしようぜ、とばかりにみんなが悪乗りした結果が第9階層だ。

まともに活用されていないのはご愛嬌といったところか。

 

「問題は彼らを攻撃した後の反撃が、まず間違いなく「祭り」になることです。ギルドがなくなろうがプレイヤーはいるわけですから当然反撃を仕掛けてくるでしょう。プレイヤーがレベル110になっただけでこちらの守護者が苦戦、どころか一方的に負けることが予想できたため、今まで攻撃できませんでしたが今なら問題ありません。十分防衛戦力として機能してくれるでしょう」

「1500人なら実績はあるしなあ」

「わからんぞ。引退したやつも古巣が消滅したとなれば復帰してでも参加する可能性はある。最悪3000人規模になることもありえる」

「それにあの時は上位陣はいなかったはずです。2ch連合はそこそこ上位陣も抱えているはずですから侮れませんよ」

 

ぷにっと君が反撃のことに言及するとメンバーが口々に意見を出す。

アインズ・ウール・ゴウンは拠点がダンジョンなのもあって、攻撃よりも防御に長けたギルドなのだ。

何より自分の考えた仕掛けに敵が嵌ってくれるのを楽しめる人間が非常に多い。

さしあたっての行動に問題はなさそうだが、聞いておきたい事があるので質問をしてみた。

 

「ちょっといいかな? いくつか聞きたいことがある」

「なんです?」

「ぷにっと君は守護者、というか拠点の強化があると確信していたのかい? 拠点が強化されなかったら攻撃はともかく防御はかなり無謀だったと思うんだが」

「流石にあるとは思ってました。無いと拠点が蹂躙されやすくなるので悪ふざけするプレイヤーが出たら最終日にはギルドが一個もなかったなんてこともありえますから」

「それは運営も避けたいだろうね」

「間接的とはいえアップデートでギルドがなくなったらユーザーは面白くないでしょうしね」

「なかったらどうしてたんだい?」

「最終日付近に我々より上位のギルドを片っ端から襲撃してましたよ」

 

一つ目の疑問に答えが返ってきて安心した。ぷにっと君が運営の回し者だったらちょっと嫌だからね。

 

「では二つ目。反撃の規模が予想以上だったらどうするのか、だ。具体的にはトリニティと2ch連合が手を組んで襲撃してくるとかだな」

「それは避けたいところなんですよね。敵対しているギルド同士ですが我々異形種のギルドという共通の敵をもって手を取り合うなんて事もないとはいえないので。なので限界突破チケットを利用して不和をしかけているんです。今のところ成功してますし心情的には協力しにくい状況に持っていけているでしょう」

 

【永劫の蛇の腕輪】を使った仕掛けは今のところうまく2ch連合とトリニティを動かすことができている。

言ってはなんだが2ch連合を煽るのは簡単なのだ。

2ch掲示板というのは匿名で誰でも書き込めるから2ch掲示板なのだから。

つまり僕らだって書き込みも閲覧もできる。しかもばれないようにだ。

うちの宣伝工作を仕事にしているメンバーが仕掛けてきたのだが、面白いように2ch連合はこちらの思惑通りに動いてくれた。

 

「そうか。じゃあ次、彼らが断続的にというか何度もうちに侵攻するようになったらどうする?」

 

僕が思うにこれが一番厄介だ。

常に負荷をかけられ続ければこっちもうんざりするし、変な慣れが生じて不覚を取りかねない。

防衛の罠を作動させるのだって安くないし、一度仕掛けてしまえば外に出るのも困難になるから資金調達も難しくなる。

「丘」に行けばいいのだがあそこは未だにこっちの消耗もひどいからなあ。

 

「その為に「祭り」を仕掛けさせたいんですよ」

「ふむ?」

「要するに大人数で仕掛けても落ちなかったという状況を作ることで、個人や少人数の襲撃を抑制します。新規階層の存在や事前準備なしで攻略できる難易度ではないことを見せ付けることで、間をおかない再攻撃は防げるでしょうから」

 

大体の懸念事項には手を打っているわけか。

軍師の異名は伊達じゃない。おっと、もう称号で本当に軍師なんだったか。

 

「じゃあ最後に。この後のトリニティ攻略にはどうつなげる?」

 

ぷにっと君は我が意得たりとばかりに答えてくれた。

 

「そりゃもちろん、「攻めてきてみろ」って宣戦布告します。異形種排斥の急先鋒だった彼らがこの挑発に乗らないわけがありません」

 

 

*   *   *

 

 

そんな方針で僕らは行動を開始することになった。

問題があるとすればみーにゃちゃんが「私も行きたい」と言い張っていたことだろうか。

みー君が奥さんと説得してもきかなかったのに、モモンガ君が説得したら渋々ながら了承してくれたのでみー君が大層へこんでいた。

……モモンガ君は保父さんか教師に向いているんではないかね。




とりあえず2ch連合攻略計画。
何をおいても規模がでかいギルド連合体ですが、拠点が柔いのは原作でも言及されています。
ここの問題は何よりも反撃が大規模になることでしょう。

彼らには最終決戦に先じてナザリックで散ってもらうとしましょう。
彼らの死によってさらに改修できますしね。
まあ、最終決戦時にもう一回散れますからお得かも?

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