なにしろ原作主人公視点ですので。
ケツアゴさんよりいただいた種族を採用させていただきました。
ありがとうございます。
「むう……」
目元をマッサージしながら外装クリエイトツールを終了させる。
最近は仕事とゲームをしていない時は大抵このツールで外装をいじっている。
自分で言い出したとはいえ、ギルド内のイベントで使用が決まったアバターの変更には自作が必須だからだ。
正直もうちょっとよく考えるべきだった。
見た目が悪くないのに使いたくないアバターに当たるとかはあり得たのに。
……何より自分の造形センスが壊滅的だというのは分かっていたんだから、予防線の一つや二つ張っておくべきだった。
1カ月以上経つが未だにみんなを納得させられそうなアバターは完成していない。
最初このツール起動した時はすぐ落として不貞寝したくらいだ。
なぜかって?
それが今もって修正されず残っている辺りで、俺の腕前がどれほどなのか察してほしい。
俺はモモンガ。
分不相応にも素晴らしい仲間を差し置いてギルド長なんぞをしているプレイヤーである。
* * *
現在使用しているアバターは容姿は恐ろしく整っている。
長い黒髪、切れ長の黒目で肌は血の気があるのか疑いたくなるほど真っ白。
若干大人びているものの、年のころはおそらく10代だろう。
よほど変わった趣味でもなければまず「綺麗」と評するだろうことは分かっているのだ。
しかし残念なことに女性アバターである。
DMMOにおいてもネカマというのは珍しくないし、ギルドメンバーにも幾人かはいる。
それについてはどうとも思ったことはなかったのだが、自分でやるとなるとこんなにもやりたくないと感じるとは思ってもみなかった。
似合うと言ってくれた仲間には本当に申し訳ないが、ロールを重視してきた身としてモモンガを女にすることには非常に抵抗がある。
特にあれだ。服装も女性用にしなければならないのがキツいのだ。
女装している気分になるのも嫌なのだが、センスのなさを自覚している身としては本当に困る。
リアルで全く女性に縁がないこともあって服のコーディネイトには本当に自信が持てない。
仕方なしに色はモノトーン、というか黒と白だけ、デザインも下手に選べないのでこのアバターの年齢なら大丈夫だろう制服、いわゆるセーラー服っぽいものを選んでいる。
制服をイメージしているという言い訳でギルドメンバー(主に女性陣)から着せ替え人形にされることを回避する意味合いもある。
おかげでスカート着用は免れなかったがタイツをはいて下に何もつけていない感覚からは逃れている。
嫌がっていることは主張しているので、大人であるメンバーはそこまでいじってこないのが救いである。
特にるし☆ふぁーがランダムに負けた悔しさから余計なちゃちゃを入れてこないのが大きい。
早く3カ月経たないかなあ……
* * *
自分のアバターにへこみつつもレベル上げは順調に進んでいた。
ワイズマンさんによって信仰系の職業を取っていけばいいという指針があるのも大きい。
信仰系の職業を取り続けることでオーバーロードのもう一つの専用職業、[
……アバターのせいで[巫女]だの[聖女]だのといった文字を目にする機会が多かったことだけが誤算である。
取得に性別制限はなくても職業の和訳に反映されるとは思わなかった。
メンバーは気を使ってくれるがシステムは気を使ってくれない。
ゲームから謎の攻撃を受けつつも、とりあえずは無事に取得できた。
“あらゆる生あるものの目指すところは死である”と対になるような“あらゆる死するものの渇望するものは生である”というスキルも得た。
これは「即死が効かないものに即死を通す」の逆で「蘇生させられないものを蘇生する」効果があった。
要するにアンデッドだとかゴーレムのような無機物すら蘇生できるのだ。
「自分を蘇生させるために信仰系の魔法を極めて届かず神に背いた」という職業の設定からか、自分に事前に蘇生魔法をかけたりできないのが弱点といえば弱点なのだろうか。
異形種ばかりで色々な制約のあるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーをサポートするには良い効果である。
* * *
「おめでとうございます。ボス職業が取れる確証もないのに、本当にここまで信じてくれるとは思いませんでした」
ワイズマンさんがそう祝福してくれた。
「ありがとうございます。それもこれもワイズマンさん達が助言してくれたからですよ。私だけじゃこの職業にもなれませんでした」
そう、背教者を取っただけでも十分価値はあった。ボス職業になれなくとも十二分に強くなったと思える。
それは間違いなくワイズマンさんの協力があってのことだ。
新たな仲間も十分以上に頼りになる人であることが分かって本当にうれしく思う。
「……さて、オーバーロードの上位種[
「え? 確定したんですか!?」
「はい、この前の「丘」の攻略で発見された小さな建造物の中から文書が見つかりましてね。やはり限界突破をした後にどんな職業になれるかのヒントとして置かれていたようです」
「じゃあ他のみんなも?」
「ええ、楽しそうに職業をみてますよ。何人かはボス職業を取るんじゃないですかね」
「全員ではないんですか? 強いと思うんですが」
「戦闘スタイルが噛み合うとも限らないのはボスでも同じなんですよ。ボスの戦術から自分に合う合わないはそれなりに判断できますからね」
なんとなく自分一人がボス職業を取ることに気が引けていたが、みんなが自分で選択して取れるなら悪くないと思う。
「それで、その、転職方法なんですが……モモンガさんの思い入れの強いNPCってどれになります?」
ワイズマンさんの質問の意図が分からなかったが考えてみる。
自分で作ったパンドラズ・アクターと言えれば格好いいのだろうがあれは黒歴史だ。思い出はあっても思い入れというには微妙である。というか考えたくない。
となると他のメンバーが気合を入れてデザインしたNPCになるのだが、実のところメンバーの誰かが作ったという情報だけで思い入れがあったかと言われると……
「……正直NPCの作成にほとんど関与してないせいで思い入れって言われると出てこないです」
「実は、転職にはNPCを選んで『殺す』必要があるんです」
「え、ポイントとかはどうなるんです?」
内心、黒歴史を合法的に抹殺できる、とか思わなかったわけではない。
「ああ、ちゃんと転職に成功すれば復活します。おまけとしてNPCに[寵愛を受けしもの]って職業がついて限界を超えてレベルを上げられるんです。ボス職業を取るとNPCの限界突破ができる仕様だったみたいですね」
「そうでしたか」
一瞬で黒歴史を選択肢から外すことにした。作成者としてはそれが正しいのだろうが、これ以上ゲームから精神ダメージを受けたくない。
「……となるとやはり階層守護者のどれかですかね。思い入れという意味でも他よりは上ですし」
「ご自分で作ったNPCではないのですか?」
「私の作ったNPCは宝物庫の番人ですからね。指輪がなければ行けない場所にいますし守護者を強化した方がギルドのためになりますから」
* * *
そういうわけで守護者の作成者であるメンバーに話をしたところ、タブラさんがアルベドを猛プッシュしてきた。
「アルベドは守護者統括ですからね! 戦力という意味でも重要ですし何より[寵愛を受けしもの]とか最高じゃないですか!」
シャルティアを使うことにものすごい反対をしたペロロンチーノとは対照的である。
「えっと、アルベドはタブラさんの嫁ではなかったんですか?」
「何言っているんですか。あれはモモンガさんの嫁ですよ?」
……何か今変なことを聞いた気がする。誰が誰の嫁だって?
俺が固まっているとタブラさんは楽しげに話を続けた。
「何しろギルド長を守護する最後の要ですからね! そりゃもう常に寄り添う立場にあるのがふさわしいでしょう。そのためにモモンガさんの好みをリサーチして外装作りましたしね」
「え、え? なんですそれ? 聞いてませんよ、そんなの!」
「あれ? 好みじゃなかったですか?」
「いや、そこじゃなくて!」
長い黒髪とか、モデル体型なところとか、おっぱいがでかいところとか、後おっぱいがでかいところとか。
そりゃ好みだけどさ、なんでそんなの調べてるの!? いや、むしろ調べられるものなの!?
「というわけでアルベド、使ってください!」
キャラクター越しでタブラさんの顔は分からないはずだが、なぜか良い笑顔をしている気がした。
* * *
「良かったじゃないですか」
「いや、良くないですよ。いきなり嫁ができた人間の気持ちにもなってください」
「そっちじゃなくて使うNPCが問題なく決まったことですよ」
ワイズマンさんはそう言うが、結果として[寵愛を受けしもの]なんて職業をつけるとか性癖暴露もいいところである。
ペロロンチーノや茶釜さんみたいに突き抜けられたら問題ないのだろうが……
「転職の方法ですがまず、NPCに【ヘルの毒薬】を飲ませます」
「あれってお手軽な死亡手段じゃなかったんですか?」
【ヘルの毒薬】はプレイヤーが使うと耐性やレベルにかかわらず即死する。
簡単にレベルダウンをできる手段として愛飲(?)されている毒である。
「転職アイテムでもあったようですね。使用の結果NPCは『死亡』するわけですが、イベントマップ「ヘルの居城」へ転送されます。そこに乗り込んでNPCを連れ帰ってくると転職できるようになるようです」
「まさかヘルと戦うとかじゃないでしょうね……」
「もちろん戦うに決まっているじゃないですか」
「ですよねー……」
「あ、負けたらNPC消滅しますんで頑張ってください」
「責任重大じゃないですか!」
タブラさんにそのことを報告に行ったら「愛するもののために命をかける! ロマンですね!」と返された。
あの人本当に設定を考えだすとダメになるな……
* * *
暗く昏い道をたどり、「ヘルの居城」に着く。
未見のモンスターと一発勝負、しかもソロで勝利しろとか厳しいにもほどがある。
緊張で胃が痛くなる思いをしながらヘルの玉座の前に立った。
『汝、死の定めを覆さんとするか。愚かなことよ』
「然り、死への挑戦こそ我が探究。愛する者の死ごときを覆せずして死の超越者は名乗れぬが故にな」
ヘルの台詞にロールで返す。後で思い返したら悶絶しそうだが気合を入れないと勝てそうにない。
どうせ誰も聞いていないのだし、ちょっとくらい格好つけてもいいだろう。
『笑止。己が命を生者の領域に留め置くことすら叶わなかったものが吠えるか』
「死者の領域にあってこそ命の真の輝きを理解できる。いずれ私は死すらも踏み越えて見せよう!」
その会話を最後に戦いが始まった。
* * *
戦いは酷い泥仕合になったがなんとか勝利した。
まさか馬鹿みたいに低い確率を縫ってヘルに即死魔法を成功させることが勝利条件だったとは。
ヘルがこちらに意味もなく即死魔法を使ってきたこと、こちらの不利になる魔法を使わなかったことから何かあるとは思っていたのだが。
倒れているアルベドに近づき抱き上げようとしたが動かせなかった。
ヘルへの勝利条件から判断するならこれは簡単だ。
アルベドに自分が使える最上級の蘇生をかけると、今度は何の抵抗もなく抱き上げられた。
「帰ろう、我らの家へ」
後で考えるとこの日にアインズ・ウール・ゴウンは運営に目をつけられたのだと思う。
いい加減引っ張りすぎたのでついでにモモンガさんの容姿も描写。
もうぶっちゃけていいかな。
イメージしたのはぬらりひょんの孫の羽衣狐です。
ラスボスっぽいけど間違いなくオーバーロードの変身前って言われたら突っ込みたくなるかな、と。
そして運営に目をつけられました。
ボス職業まで手を出して来たのに気が付かないとさすがに無能すぎますので。
それ以前からヤバかったのは否定しません。