とりあえずこの話で強化準備は終わり。拠点改装はちょっと後です。
しばらくは冒険とかのんびりパートになるはず。
ワイズマンが職業・種族を調べていく中で、文献やNPCの会話の端々に出てきたことがある。
どう考えてもレベル100以上なければ完成しない職業構成の存在である。
それらは後に「ボスやNPCの職業構成」という形でユグドラシル内で確認されたが、ワイズマンは納得できなかった。
諦めが悪かったともいう。
しかしその諦めの悪さによってワイズマンはとあるアイテムの情報にたどり着いた。
全ての情報の中に少しずつ「なにかを食べた」「特別な恵みを受けた」といった情報がまぎれていたのである。
そのアイテムの名前を【生命の木の実】といった。
*
「なので限界突破アイテムだと思ってたんですよ。ワールドアイテムかと思ってましたが。まあ、ワールドアイテムで行ける未知のワールドにあるのならば、それほど間違ってはいませんでしたね」
ワイズマンはそう語り、少し間を置いてから「しかし」と口を開く。
「まさか、やめようと思った理由に今さら出会うことになろうとは思いませんでしたよ」
「え?」
モモンガが驚いたようにワイズマンを見る。
「正直、運営にも腹が立っていたんですよ。ずっと追いかけてきた限界突破職業。それを達成するためのアイテムにプレイヤーが気がつかないだろうと言わんばかりの限界突破キャンペーン。あまつさえそのワールドアイテムに匹敵するだろうアイテムを課金で販売する始末。ふざけていると思いませんか? ふざけてますよね?」
「何かしらやめる理由があると思ったが……割とくだらないな」
ぷにっと萌えが呆れたように言うと、ワイズマンは食って掛かるように反論する。
「くだらないとは何だ! ずっと探していたアイテムが貶められたんだぞ。どんなものだろう、どう手に入れるのだろうと想像していたのにそれがいきなり奪われたんだ。失意でやめたくなったっておかしくなかろう」
「そう聞くとおかしくないかもしれないが、結局のところ運営が実装する前に発見できなかったお前が不甲斐ないだけだろう」
「途中で止めていったくせに限界突破でノコノコと戻ってきた人間に言われたくはないな!」
「なんだと!」
ぎゃあぎゃあと喧嘩する二人を見て、たっち・みーがぼそりと呟く。
「喧嘩するほど仲がいいというやつだな」
「貴様に同意するのは癪だが、そうなのだろうな。ぷにっとさんのあんな姿ははじめて見る」
ウルベルトが同意するのを聞いて、モモンガがぼそりと「二人の喧嘩と大差ないんだけどなあ」と言ったのが聞かれなかったのは、きっと幸いなのだろう。
* * *
「では、『称号』を決めましょう。なんというか、無駄にたくさんありますね」
「『宰相』『元帥』『宮廷魔術師』『道化師』『宮廷錬金術師』『王国軍師』『園芸家』『司書』……」
「『その他』ってものあるな。こんだけあって使う機会があるかわからんが、自由に設定できるようだな」
「職業で見たこともあるやつがまじってるけど、一応別物っぽいな。案外、同じ名前の職業と称号取ったらボーナスつくかもしれないけど」
確かにあるかもしれない、などと盛り上がりつつメンバーは称号の効果を確認する。
一応ステータスやスキルに補正があるようだが、職業や種族と異なりレベルを圧迫しない分だけ効果は弱めとなっているようだった。
その分気楽に選べるので、ロールにもこだわりのあるアインズ・ウール・ゴウンでは議論が始まった。
「ぜひとも『宮廷魔術師』がほしいな。クールタイムが少しでも減少するのはおいしい」
「『元帥』にするか『剣術指南役』にするか……」
「たっちさんは剣以外も使うんだからここは俺に『剣術指南役』を譲るべき」
「『武芸百般』の効果はスキルの効果微増か。強いんだか弱いんだか」
「『宮廷錬金術師』いいね。誰か取ってよ。でかい物作るときに素材節約できる」
「俺は『芸術家』だな!」
「おまえは『道化師』だろ。それか『トラブルメイカー』って作ってもいいくらいだ」
「ほら、モモンガさんも選びなよ。何で引っこんでいるのさ」
「いや、私は余ったやつから選ぶんでいいんですが……」
「そんなこと言わない! まずはほしいもの選んでからみんなで相談すればいいんだよ」
賑やかにメンバーが相談する中、ヘロヘロが体をアーチ状にぐにょんと曲げる。
気になることがある時にヘロヘロがよくやるモーションである。
目ざとく気がついたモモンガが声をかける。
「ヘロヘロさん、どうしました? 何か気になることでも?」
「あ、うん。何ていやいいいのか。これって王国の役職だよね?」
「まあ、『王国の団結』ですしね」
「どこにも『国王』とか『王様』ってのがないんだよね。ちょっと変かなーって思ってさ」
その言葉を受けてメンバーは称号の一覧を見直す。
「確かに、ないなあ」
「王様は職業だからないとか?」
「それは他のも職業って言えるからないだろ。あ、血筋に依存するからとか?」
「でも初代なら血筋とか関係ないですよ。何しろ最初が『王国の始まり』だったんですから、設定的には今が建国直後のはずです」
「さすがタブラさん、よく覚えてるね」
「いや、あんたはもう少し周りに注意を払うべき」
あれこれ予想を立てるメンバーに、横で見ていたワイズマンが口をはさむ。
「王国のリーダーが国王なんですから、モモンガさんなんじゃないですか?」
案外もう設定されてたりして、という言葉に全員がモモンガの方を向く。
一応確認してみようと頷きを返してモモンガがステータス画面を開く。
称号:『魔王』※属性が極悪のため名称が変更されています
『国王』効果:1.配下の数・レベルに応じて一定期間ごとに経験値と金貨が入手できます。
2.所持している職業に応じてステータスが強化されます。
『魔王』効果:1.スキル『魔王軍』が追加されます。
* * *
モモンガは死霊系魔法を強化できる『墓守』を取りたかったのでしばらくごねたが最終的に受け入れた。
ギルド長が『墓守』では格好がつかないというウルベルト。
設定的にナザリック地下大墳墓の王ならば『墓守』と変わらないというタブラ。
今までギルドをまとめ上げてきたモモンガなら大丈夫だというたっち・みー。
彼らの説得と、何よりちょっと格好いいかもなどと思ってしまったが故である。
「では、いよいよ扉の設置ですが、どこにしましょうか?」
「まあ、作るなら下層部だよね。上に置いとくのはちょっと無い」
「できれば一番下だよな」
「確か昔のRPGだと魔王の玉座の裏に秘密の階段があったはず。ここは様式に則って玉座の間の最奥に作るべき」
「設置したのが光ったりして目立ってたらどうすんのさ?」
「あー、移設できない可能性があるか。そこんとこどう?」
「調べた限り1つしか作れないだけで移設は可能のようです。見た目も外装データいじれば変更できるみたいです」
「となると暗黒の渦とか、壮麗な門とかもできるんだな」
「入り口の門で全力出し切ったから、作るなら渦だなあ」
「そうなると玉座の後ろに隠し扉を作ってそこに専用の部屋を作るべきだね」
「部屋か。内装どうしよ」
「とりあえず「生命の木の丘」に行ってそこのイメージで作ればいいさ」
「それもそうだ」
「なんにしてもすぐには無理ってことですね」
そうモモンガがまとめるとワイズマンが至極残念そうにしつつも隠しきれない熱意で提案してきた。
「ああ、追い求めていたアイテムがある未知の世界に行けるのにおあずけとは……実にもったいない。ちょっとだけ先にのぞきに行きませんか? いや行きましょう」
「……あの、そのことなんですが」
扉の仕様を読んでいたモモンガがものすごく言いにくそうに口ごもり、意を決したように言った。
「この扉、【セフィロトの10/王国
「え?」
「つまりアインズ・ウール・ゴウンのメンバーでないと、その、「生命の木の丘」に行けません」
瞬間、ワイズマンの動きが止まり、数瞬ののちアバターが消えた。
それを見て厳かにぷにっと萌えが告げる。
「ショックのあまり気絶して、強制ログアウトしたようです」
「……これ、連れていく方法考えないとものすごく面倒なことになるんじゃないでしょうか」
モモンガの呟きに答えるメンバーはいなかった。
最後に書きましたがワイズマンさんどうしよう。
最終日になら入れてもいいかと思いましたが、考えたら「生命の木の丘」に行くために押しかけてきそうなんですよね。
まあ、なるように書こう。