「バースト!!」
俺はすぐさま叫び、霊力を血に流す。
出力、限界突破の9%。
地面を踏み締め、前を見据え。
一気に、俺は加速した。
ドン!! と言う加速音と共に体がロケットの様に突き進み、周りの景色が早送りの映像の様に飛んで行く。
その中で静かに拳を握りしめた俺は、扇子を広げ佇む紫に向けてその拳を突き出す。
「あら、結構速いじゃない」
しかし、瞬きの一瞬で紫は消えていた。
驚きに気を取られている暇も無く、俺は地面に足を押し付け火花を散らしながら急ブレーキをかける。
後ろには強大な妖力が集中していて、そっちを向くと同時に紫の声が耳に吸い込まれた。
「紫奥義[弾幕結界]」
目に映ったのは、一瞬で生成された異常な量の弾幕。
最早輝く壁にしか見えないそれは、大妖怪と俺の差をひしひしと見せつけた。
でも、まだ終われない。
まだ、走らなければならない。
「行くぞ、幻夢・・・ッ!!」
それは誰にも聞こえない、小さな呟き。
決意の言葉を紡いだ後、俺は紫を視界に捉えた。
「オーバーレイ!!」
弾けるような音に伴い、俺の半身と半身が黒と白の霊力によって分断される。
どちらとも燃え上がる様に霊力を煌めかせ、守護を持つ右手を俺は前に突き出した。
「結界生成!!」
右手から白い霊力が飛び出し、一瞬で大きな四角い壁を作り出す。
弾幕が当たるとその度に衝撃が俺を襲うが、それを何とか耐えきる。
勿論紫が弾幕を放ったまま動かない、なんて事は無い。
無数の弾幕が消えた瞬間、俺、いやーーー
「紫、それは良く稽古中にやったから覚えてるよ!」
博麗幻夢は後ろに大きい霊力弾を放つ。
オーバーレイ。
いわばこれは博麗幻夢を俺の中に取り込むのと同義であり、二つの魂が同じ場所に鎮座して居る事になる。
だからこそ、俺は幻夢に全てを託した。
八雲紫と向き合うのは、博麗幻夢しか相応しくない。
「ありがとうな、真。最後って訳じゃ無いが・・・やっと、紫に会えた!」
「幻夢・・・!?」
「久しぶり、紫。・・・何か真の体で話すってのも面白いなあ。」
「・・・そんな・・・もう二度と、話せないって思ってたのに・・・!」
「二度と無い?馬鹿言うなよ、絶対は無いんだ。あんたが絶対無理!って言ってた事を、私は何回もやったからね。」
幻夢は俺の体で得意げに話し、紫は呆然と行動を止めた。
そのまま紡がれるのは2300年ぶりの言葉。
悠久の時を過ごし、彼女等は思い思いの言葉をお互いに交わす。
「どうして、真の体に入ったの?」
「え?何か空から落ちて来てて危ない!!って思ったから一応入って霊力を貸した。」
「ふふ、幻夢らしいわね。・・・元気?」
「死んだ身で元気とかあるかわからないが、元気だよ。」
紫は、一歩踏み出すのが怖いのか。
扇子で顔を隠し、他人行儀の様な態度を取っていた。
どこか儚いその笑みは、もう掠れ色あせた過去を思い出している様で。
「・・・ありがとう。紫。ここまで幻想郷を導いてくれて。」
「いや、私は何もしてない・・・あの日だって、私は何も出来なかったじゃない・・・」
まだ、紫はあの日に捕らわれている。
消えない鎖に繋がって、暗闇の中を彷徨っているんだ。
例えそれが、何の罪でも無いとしても。
彼女は、一人で抱え込んでいた。
「賢者さん。少しは
幻夢は、全てを吐き出した。
言えなかった思いを、全て直接紫にぶつけることが出来た。
何も伝わって無い、なんて事は無いだろう。
でも両者の間には、あの日を境に深い溝が出来てしまっていた。
幻夢が死に、幻想郷が出来たあの日で。
そこで紫の時は止まってしまった。
薄く脆い鎖に繋がれた紫は、進むことを止めた。
『前を向いてくれ』
それでも幻夢は、紫をもう一度立ち上がらせた。
扇子と言う仮面に隠された顔には、一筋の涙が流れている。
崩れた洞窟の天井からは朝日が覗き、紫を後ろから照らしていた。
まるでそれは紫を後押ししているようで、伸びた影は二人を繋ぐように。
朝日ーーーまた新しい未来が始まる。
トスッ
紫の手から、静かに仮面が滑り落ちた。
偽りの顔は剥がれ、色あせた過去を鮮明に視界に映す。
でも。
紫は、後ろを向いた。
今まで動かなかった足が、脆い鎖を引きちぎる。
過去を、切り捨てる。
深い溝を長い長い思いが埋め、遂に彼女等を塞ぐものは何一つ無くなった。
駆け出した紫は幻夢に抱き着き、絞り出すように、震える声で呟く。
「・・・ありがとう」
ごめんね、は要らない。
まるで祝福する様に朝日はいつまでも紫と幻夢を照らし、止まっていた時は再び動き出したーーーーー
次回、全てが完結する。
「・・・ただいま」
「・・・おかえり」
少年と少女はその言葉を交わし、静かに微笑みあい。
窓の外には、幻想的な虹が架かっていた。
エピローグ「虹」
真「次回、完結。同時にラギアからの挨拶、新作の予告があるらしい。何か、絶対いて欲しいってさ。是非、宜しくお願いします!!」