東方夢幻魂歌 完結   作:ラギアz

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2ndEXTRA「動き出す未来」

「バースト!!」

 

俺はすぐさま叫び、霊力を血に流す。

出力、限界突破の9%。

地面を踏み締め、前を見据え。

一気に、俺は加速した。

 

ドン!! と言う加速音と共に体がロケットの様に突き進み、周りの景色が早送りの映像の様に飛んで行く。

その中で静かに拳を握りしめた俺は、扇子を広げ佇む紫に向けてその拳を突き出す。

 

「あら、結構速いじゃない」

 

しかし、瞬きの一瞬で紫は消えていた。

驚きに気を取られている暇も無く、俺は地面に足を押し付け火花を散らしながら急ブレーキをかける。

後ろには強大な妖力が集中していて、そっちを向くと同時に紫の声が耳に吸い込まれた。

 

「紫奥義[弾幕結界]」

 

目に映ったのは、一瞬で生成された異常な量の弾幕。

最早輝く壁にしか見えないそれは、大妖怪と俺の差をひしひしと見せつけた。

でも、まだ終われない。

まだ、走らなければならない。

 

「行くぞ、幻夢・・・ッ!!」

 

それは誰にも聞こえない、小さな呟き。

決意の言葉を紡いだ後、俺は紫を視界に捉えた。

 

「オーバーレイ!!」

 

弾けるような音に伴い、俺の半身と半身が黒と白の霊力によって分断される。

どちらとも燃え上がる様に霊力を煌めかせ、守護を持つ右手を俺は前に突き出した。

 

「結界生成!!」

 

右手から白い霊力が飛び出し、一瞬で大きな四角い壁を作り出す。

弾幕が当たるとその度に衝撃が俺を襲うが、それを何とか耐えきる。

勿論紫が弾幕を放ったまま動かない、なんて事は無い。

無数の弾幕が消えた瞬間、俺、いやーーー

 

 

「紫、それは良く稽古中にやったから覚えてるよ!」

 

 

博麗幻夢は後ろに大きい霊力弾を放つ。

オーバーレイ。

いわばこれは博麗幻夢を俺の中に取り込むのと同義であり、二つの魂が同じ場所に鎮座して居る事になる。

だからこそ、俺は幻夢に全てを託した。

八雲紫と向き合うのは、博麗幻夢しか相応しくない。

 

「ありがとうな、真。最後って訳じゃ無いが・・・やっと、紫に会えた!」

 

「幻夢・・・!?」

 

「久しぶり、紫。・・・何か真の体で話すってのも面白いなあ。」

 

「・・・そんな・・・もう二度と、話せないって思ってたのに・・・!」

 

「二度と無い?馬鹿言うなよ、絶対は無いんだ。あんたが絶対無理!って言ってた事を、私は何回もやったからね。」

 

幻夢は俺の体で得意げに話し、紫は呆然と行動を止めた。

そのまま紡がれるのは2300年ぶりの言葉。

悠久の時を過ごし、彼女等は思い思いの言葉をお互いに交わす。

 

「どうして、真の体に入ったの?」

「え?何か空から落ちて来てて危ない!!って思ったから一応入って霊力を貸した。」

 

「ふふ、幻夢らしいわね。・・・元気?」

「死んだ身で元気とかあるかわからないが、元気だよ。」

 

紫は、一歩踏み出すのが怖いのか。

扇子で顔を隠し、他人行儀の様な態度を取っていた。

どこか儚いその笑みは、もう掠れ色あせた過去を思い出している様で。

 

「・・・ありがとう。紫。ここまで幻想郷を導いてくれて。」

 

「いや、私は何もしてない・・・あの日だって、私は何も出来なかったじゃない・・・」

 

 

まだ、紫はあの日に捕らわれている。

消えない鎖に繋がって、暗闇の中を彷徨っているんだ。

 

例えそれが、何の罪でも無いとしても。

彼女は、一人で抱え込んでいた。

 

 

 

「賢者さん。少しは素直に(八雲紫で)ぶつかって来て欲しいな。何も出来なかった?いいや、紫は何も悪く無いし、何もやってないなんて事は無い。あんたが居てくれたから私は生きれた。幻想郷も続いた。たった一日。されど一日。でもな?紫。いつまであんたはくよくよしてんだ!?そうやって、つまんない事に捕らわれて生きてきたのか!?ならそれはあんたの行動も私たちの全ても幻想郷も否定している!・・・前を向いてくれ、紫。いつまで、”そこに居るんだ”」

 

 

 

幻夢は、全てを吐き出した。

言えなかった思いを、全て直接紫にぶつけることが出来た。

何も伝わって無い、なんて事は無いだろう。

 

でも両者の間には、あの日を境に深い溝が出来てしまっていた。

 

幻夢が死に、幻想郷が出来たあの日で。

 

そこで紫の時は止まってしまった。

薄く脆い鎖に繋がれた紫は、進むことを止めた。

 

 

『前を向いてくれ』

 

 

それでも幻夢は、紫をもう一度立ち上がらせた。

 

 

扇子と言う仮面に隠された顔には、一筋の涙が流れている。

 

 

崩れた洞窟の天井からは朝日が覗き、紫を後ろから照らしていた。

 

まるでそれは紫を後押ししているようで、伸びた影は二人を繋ぐように。

朝日ーーーまた新しい未来が始まる。

 

トスッ

 

紫の手から、静かに仮面が滑り落ちた。

偽りの顔は剥がれ、色あせた過去を鮮明に視界に映す。

でも。

紫は、後ろを向いた。

今まで動かなかった足が、脆い鎖を引きちぎる。

過去を、切り捨てる。

深い溝を長い長い思いが埋め、遂に彼女等を塞ぐものは何一つ無くなった。

 

 

 

駆け出した紫は幻夢に抱き着き、絞り出すように、震える声で呟く。

 

 

「・・・ありがとう」

 

ごめんね、は要らない。

 

まるで祝福する様に朝日はいつまでも紫と幻夢を照らし、止まっていた時は再び動き出したーーーーー

 

 




次回、全てが完結する。

「・・・ただいま」
「・・・おかえり」

少年と少女はその言葉を交わし、静かに微笑みあい。
窓の外には、幻想的な虹が架かっていた。

エピローグ「虹」

真「次回、完結。同時にラギアからの挨拶、新作の予告があるらしい。何か、絶対いて欲しいってさ。是非、宜しくお願いします!!」

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