では、どうぞ!
「月光ノ夜桜!!」
幾度も幾度も地面に叩きつけられ、殴られたのかもう暁はボロボロだった。
しかし放たれた漆黒の斬撃は鋭く光り、黄昏の足元を抉る様に突き進む。
黒き瞳は光を失わず、強く輝いていた。
「ふむ・・・まあ、結構強くは成ったみたいだね。」
黄昏は訝しむ様に評価を下し、暁の攻撃を弾き飛ばしながら右手に妖力を集中させる。
紫紺に煌めく球体は小さく小さく圧縮されながら回転し、周囲の空気が竜巻の様に渦を巻き始めた。
「飛べ、
瞬間、黄昏の掌から紫色の球体が放出。
空気を切り裂きながらそれは翼を広げ、暁に向けて突っ込んだ。
「纏・火!」
大妖怪の、初めて見せた技。
少なからず警戒した暁は自身に火を纏い、攻撃力と防御力を格段に上昇させた。
小太刀を逆手に構え、体を捻りながら暁は天鴉を縦に切り裂く。
それと同時に暁は姿勢を低くしながらも前に飛び出し、柄を強く握りしめた。
・・・しかし、背後から二つの鴉が暁を吹き飛ばす。
真っ二つに分断された天鴉は一つ一つが独立した妖力の鴉となり、同時に暁に体当たりしたのだ。
肺から空気を一気に吐き出し、暁は地面に叩きつけられた。
苦し気に呻く暁を見下ろした黄昏は足を軽く振り上げ、無防備に晒されている暁の腹部を蹴り飛ばす。
「ガッ・・・」
声にならない声を漏らし、再び暁は悶絶しながら地面を転がった。
痛くて、辛くて。
誰も助けてくれる人は居ない、孤独な闘い。
それでも、彼女はあきらめなかった。
「纏・雷・・・!!」
小太刀を杖代わりにしながら、震える足に鞭を打ち暁は立ち上がる。
泥にまみれた頬には額から滴る血が流れ、口からは荒く息が吐き出されていく。
青白い雷が刀と暁に纏わりつき、神速とも言えるであろう速さを暁に与えた。
目の前には天鴉、奥には余裕そうな黄昏。
柔らかく、でも俊敏に彼女は体を沈めーーー
地面を、蹴り飛ばした。
立ちふさがる天鴉の間を走り抜け、最速で黄昏の懐に潜り込む。
紫電を激しく散らす白刃を唸らせながら、暁自身もまた叫ぶ。
「月光ノ夜桜!!!」
至近距離から放たれる、神速の雷撃。
必ず当たり、少なくとも致命傷は与えるであろう必殺の一撃を。
「遅いよ」
黄昏は、右腕一本で消し飛ばした。
余りの風圧に暁の小柄な体躯は宙に舞い、衝撃波で纏っていた雷は全て打ち砕かれる。
無防備に、至近距離で晒された暁の体。
黄昏は今日初めて一歩踏み込み、掌底を放った。
パアアアアンンンッッッ!!!
肌と肌がぶつかり、気持ちのいい音を大きく響かせる。
蒼い軌跡を宙に描き。
黄昏の掌底に自身の握りこぶしを突き合わせた少年ーーーー
「悪い、遅れた」
天音 真は暁の前に立ちはだかった。