洞窟内の天井には無数の鍾乳洞が垂れ下がっており、岩と岩の間から差し込む月明かりが青く洞窟を光らせる。
少し湿っている床は幾つも水たまりが在り、通り過ぎる度に水滴が飛び散った。
そして、目の前に大きな崖が現れる。
堅く尖っている岩肌は有に30mはある。その上が、黄昏の居る所らしい。
「・・・行くよ」
暫しその上を見上げた後、暁は言葉と同時に跳躍した。
30m程を一瞬で駆けあがり、音も無く崖の上に着地する。
途中で一回足場を経由しなければならない俺は軽く跳躍し、軽い音と共に足を地に付けた。
隣に立った俺と暁は再び前を見据え、雰囲気を固まらせる。
「・・・よお、黄昏」
「ああ、暁と真か。こんばんは。良い夜だね。」
いつでも桜ノ蕾を抜刀できるように柄に手を掛け、俺が姿勢を低くしようとしたところで急に黄昏が手を上げ制止させる。
「ああ、ちょっと待ってくれ。・・・冥土の土産だ。色々な話を聞かせて上げよう。うーん、じゃあまずは僕の能力から話そうかな。」
黄昏はまるで友人に話すかのように軽く、笑顔で俺達に説明してきた。
「僕の能力は”無敵”。ただこれだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない。ただどんな能力でも使え、どんな指定も出来る。・・・うーん、紫でも僕に勝つのは難しいんじゃないかな?」
「は・・・!?」
無敵。
文字通り敵が居なく、故に最強。
あの大妖怪である八雲紫でさえも、この男に勝つのは難しいと断言した。
・・・でも、それでは説明できない事がある。
多少の疑問を抱える俺を知ってか、間髪入れずに黄昏はーーーーー
「そして
幻夢を殺したのも、僕だ。」
静かに呟いた。
その顔は笑みを崩さず、当たり前の事を言っているかの様に彼は佇んでいた。
「確かに夢幻魂歌は使用者が死ぬ確率が高いさ。でもね?あれは魂・・・生きている物が夢をかなえようと前に進むための力を原動力としている。幻想郷を創る。これは確かに壮大で、難しい夢だ。でも、彼女には三人の娘が居た。霖之助と言う友も、これから共に歩んでいこうとしていた幻想郷もあった。・・・彼女は全てが夢だったんだろうね。だからこそ、夢幻魂歌を使っても彼女は衰弱しただけで生きていたんだ。そこで僕が幻夢を殺したんだよね。ははは、本当に邪魔だったよ。あの子は。」
言い終わっても、黄昏は動かなかった。
霖之助は、幻夢が死んだのは自分の所為だと今でも己を責め続けている。
幻夢は、衰弱してたためあまりこの事を覚えていないだろう。
爛漸苦も。
暁も。
幻夢も霖之助もーーー
全部、こいつが悪いじゃないか。
「・・・言いたい事はそれだけか?」
「うん。これ以上言っても無駄だしね。」
ギャリイインンッッ!!!
金属と金属が擦れあい、火花を散らしながら白刃は引き抜かれた。
怒りを露わにしたかのように、月光を反射する刃は静かに冷気と殺気を放っている。
久々の激昂。青白い霊力が瞬く間に黒く変わり、破壊と言う名の究極の攻撃が俺を蝕み始めた。
「行くぞ、暁」
「・・・うん。」
「じゃあね。」
地面を足の指で掴み、網目状にひびが入った瞬間に。
・・・俺は、崖から落ちていた。
真上に見えるのは突き出されている暁の掌、俺を見下ろしている冷たい瞳。
世界がスローになり、次いで風が俺の思考を呼び覚ました。
落下して居るために強い風が俺の体に吹き付け、余りの速度に視界が霞む。
「ガアッ!!」
急に突き落とされたため対して受け身も取れずに体を地面に叩きつけ、空気が肺から一気に外へ抜ける。
体を波の様な痛みが襲う中、直ぐに崖を上ろうとした俺の視界には。
数え切れないほどの、大妖怪が居た。
恐らく黄昏が魂を集める時に使ったであろう大妖怪。生気に餓えた彼らは、俺と言う格好の獲物に目を付けたらしい。跳躍する隙さえくれず、一斉に大妖怪が飛びかかって来る。
ある物は刀を持ち、ある物は妖力で強化された拳を振るい。
「くそ・・・くっそおおお!!」
後少し。後少しで届くのに。
砲声と共に俺は駆け出し、数多の妖怪を破壊していった。
その間にも暁は黄昏に近づき、跪く。
「黄昏様ーーーー」
それは正しく従者の姿勢であり。
同時に、真を裏切る行為でもあった。