もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 前回のクレマンティーヌが行った金貨のジャグリングに関して誰もツッコミをしない……ツッコミ待ちだったのに。差し替える文(もう消しました)まで用意してたのに……

 それにしても、書き始めた当初は巻こうとしてたのに、全然巻けてない。予定では今回の話でエ・ランテルを出発していたはずなのに……

 もう少し文量増やしましょうかね。


-追記-

こんなことを言うと台なしですが、魔法蓄積をかけることができるのは伏線です


もしクレマンティーヌが気が付いたら

 クレマンティーヌが、カルネ村から戻ってきた次の日の夕方。

 クレマンティーヌが、宿の部屋で法国から脱走する際に盗んできた見たことが無い金貨に魔法蓄積をかけていると、下から叫び声が聞こえてきた。

 

 

「おっきゃああああああああああ!!!」

 

 ―――猿か。

 

 クレマンティーヌは、思わず心の中でつっこみを入れた。

 

 安宿の部屋で過ごしていると、こんなことがよくある。安宿は防音がされていないために、一階の酒場の喧騒が聞こえてくる。

 

「ちょうど切りもいいしー、見てくるかな」

 

 声からして、下記ほどの声は女性の声。

 女性があんな猿のような声を上げる状況に、彼女は興味があったのだ。

 

 荷物を全て片付け、部屋を出て酒場へと向かう。

 階段を降りて酒場に出ると、そこには赤毛の女性が黒いフルプレートの人物に怒鳴り散らしているのが見えた。

 

 

「―――くに節約を重ね、必死になって貯めた金で今日、今日!! 買ったばかりのポーションを壊したのよ? 危険な冒険もあのポーションがあれば助かると信じていた私の心を砕いた上にその態度? マジで切れたわ」

 

 血走った眼で鎧の男を睨みつける女性、声からして先ほどの叫び声の主は彼女だろう。

 近くに転がっているチンピラ男の様子と先ほどの女性の言葉からして、鎧の男が絡まれたのを一蹴した巻き添えを食らったといったところだろうか。

 

「……それならあの男に請求したらどうだ。あの男が短い脚を必死に伸ばさなければこんなことにはならなかった。なあ、そうだろ?」

 

 男のその発言に、男たちは言葉を濁す。

 まあ当然だろう。あんな飲んだくれているような連中では、ポーションを買えるだけの金なんてないだろうし。

 

 鎧の男は、ポーションの請求などそいつらにしろというが、女性がそのことを告げたため叶わなかった。

 

「あんたさぁ、ご立派な鎧を着ているんだから、治癒のポーションくらい持っているんでしょ?」

 

 完全にではないが、女性の主張はほとんど言いがかりに近い物だ。クレマンティーヌには、そう感じられた。

 彼女が告げたポーションの代金は、金貨一枚と銀貨十枚。値段からしてそのポーションは、エ・ランテルではかなり有名なバレアレの物ではなく、その辺の薬師から購入したものだと想像できる。

 鎧の男の鎧は、明らかに高級品だ。彼女は、金持ちであると想像できる彼ならもっといいものを持っていると考え、こんなことをしているのだろう。

 

 クレマンティーヌはそう考えつつ、視線を彼女から鎧の男の傍にいる銅のプレートを持つ女性に移す。

 彼女が注目しているのは、その女性の方だった。正直、赤毛の女性のことなどどうでも良かった。

 

 その女性は、明らかに怒気、否、濃密な殺気を放っていた。彼女の立っている場所からして、おそらく鎧の男の仲間だろう。

 その殺気はイビルアイ以上、少なくとも銅ではなくオリハルコン以上の冒険者が放つようなものだ。

 

 クレマンティーヌはそっと手の中にスティレットを出現させる。万が一のために装備程度はしておくべきだと感じられたからだ。

 

「持っているが……ポーションは回復の物で間違いないな?」

「そうよ、私がこつこつ……」

「その話はもう結構だ。こちらもポーションを出す。物々交換ということで終わりにしよう」

 

 その彼女の様子に気が付いたのか、男は強引に話を終わらせようとする。

 男は女性に対してポーションを渡す旨を告げると、懐からポーションを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――クレマンティーヌは気が付いた。

 

 

 

 

「―――待った待った。ポーションなら私が出すよ」

 

 クレマンティーヌはわざわざ流水加速を使用してまで二人の間に割って入り、男の手を押しとどめた。

 

「……何よあんた」

 

 突然現れた彼女に、女性は鋭い目を向ける。

 

「私? 私はクレマンティーヌ。ミスリルの冒険者をしているわ」

 

 彼女の言葉に、周囲がざわめく。

 ミスリルというのは、冒険者の中でも上位の存在とされている。冒険者の最高位であるアダマンタイト級の冒険者の依頼に同行することもあるほどだ。

 

「私はその人に大きな借りがあるから、少しでも借りを返そうと思ってね」

 

 クレマンティーヌはそう告げると、懐からポーションを取り出し女性の手に乗せる。

 

「はい、バレアレさんとこ製のポーション。これなら文句ないでしょ」

 

 その言葉に、女性は絶句する。

 薬師バレアレのポーションは、他の薬屋のポーションよりも遙かに高額であり、他のポーションよりも10%も効果の高い代物だ。鉄の冒険者でしかない彼女では、手にすることすら叶わないと言っても過言ではない。

 

「え、ええ。構わないわ」

「ならいいわね」

 

 彼女の返事を確認すると、クレマンティーヌは鎧の男の手を引き酒場から宿へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「……なぜわかったのか、聞かせてもらえるか」

 

 アインズは、宿の二人部屋でクレマンティーヌに問いかけていた。

 彼は脅迫的な言動こそしていないが、万が一のことを考えて、部屋に唯一ある窓の近くにはアインズが椅子を置いて座り、扉の横にはナーベラルが座っている。クレマンティーヌは部屋の端にあるベッドの上に腰かけさせていた。

 日本においては、これは監禁扱いされかねない状況だ。

 

「あー、うん。そんなに警戒する必要はないよ、ちゃんと正直に話すから。

 細かい理由はいくつかあるけど、大きな理由は三つかな」

 

 二人、特にナーベラルからの強い警戒心を感じたためか、彼女はアインズにスティレットを渡したため丸腰だ。それを強調するかの如く、クレマンティーヌは手を軽く振りつつそう言った。

 

「まず一つ目は、アインズさんの背丈」

「背丈、か?」

「そ、人間の中でそこまで大柄な人は多くないからねー」

 

 言われてみればそうかもしれない、そうアインズは感じた。

 おそらく、これは精神安定化のせいだろう。彼は自身がスケルトン化していることに違和感を覚えないことに気を取られていたが、身長が大きく変わったことにも本来は違和感を覚えるべきなのだ。

 

「二つ目は、その装備かな」

「……まあ、それは予想していた」

「じゃあ説明はいいね」

 

 装備、これは理由の一つであろうとは想像できていた。

 王国最強の戦士であるガゼフが身に付けていた装備は、いくら本来のものではないとは弱すぎた。今彼が身につけている鎧の方が頑丈であるほどだ。

 その事から考えて、今アインズが身に付けている鎧はこの世界ではかなり貴重な物となってしまうのだろう。

 

「そして三つ目」

 

 急に、クレマンティーヌの声色が真剣味を帯びる。

 その様子に何かを感じたのか、クレマンティーヌの背後で扉の近くにいたナーベラルが剣を手にした。

 

「これが一番の理由になるのだけど、アインズさんの持っているポーションが原因だわ」

「ポーション、か?」

「ええ、アインズさんの持つ赤いポーション。それが私が気がついた原因」

 

 そう言うと、クレマンティーヌは懐を漁り始める。

 その様子に何らかの害意を感じたのか、ナーベラルは剣を鞘から静かに抜き始めた。

 ナーベラルのその動きを見たアインズは、彼女に剣を仕舞うよう『伝言』の魔法で伝えると、クレマンティーヌが懐から何かを取り出すのを待つ。

 少し時間がたち、ナーベラルが剣を仕舞い壁に立てかけた直後に、クレマンティーヌは懐から青い液体を出した。

 

「これが世間一般のポーションよ。青い色をしていて、経年劣化するわ」

「経年劣化する? ポーションがか?」

「それが普通なの。保存の為の魔法を必要としないポーションは、神の血の色をしたポーションとまで言われていて、おとぎ話にしか存在しないものとされている。

 これが理由ね。そんな伝説の物品を持つ様な人間、いえ存在が、短期間に複数出現するなんて考えにくいもの。

 

 同じ背丈で、あり得ないくらい豪華な鎧を身を纏い、顔をさらすことを避けていて、赤いポーションを持つ存在。そんなの、アインズさん以外考えられないわよ」

 

 クレマンティーヌのその言葉に、アインズは内心で安堵の溜め息をこぼした。

 

 彼女が『冒険者モモンがアインズ・ウール・ゴウンである』と判断した理由は、今後彼の正体が発覚する理由になりにくいと判断できるものだったからだ。

 単純な話、赤いポーションを人前で取り出さなければ、冒険者モモンとアインズ・ウール・ゴウンの関係性は無くなる。冒険者として出世できれば、装備に関する問題も何も無くなるだろう。

 

 今回は、本当に不幸な偶然が重なったために発生したことだ。むしろ、こんなにも早期にポーションの事に気が付けたことは幸いだったと言える。

 

「そうか、礼を言う」

「礼なんていらないよ。アインズさんには、本来であればこんなことでは済まされないことをしたんだから」

「……そう言ってもらえると助かるな」

 

 彼女の背後でナーベラルが凄まじい形相をしているが、彼はそれを努めて無視する。

 ナーベラルには後で色々と話をする必要がありそうだ。

 

 彼と彼女の間に、僅かに静かな間が生まれる。

 

 おそらく、彼女はナーベラルの視線に気が付いているために反応に困っているのだろう。

 

「そ、そう言えば、アインズさんはどうして冒険者なんてしているの?」

 

 沈黙を破るためか、少し慌てつつクレマンティーヌがそう切り出す。

 アインズもこの空気はいいものではないと感じていたため、その話に乗ることにした。

 

「ああ、金銭面などのいくつかの雑多な理由もあるが、大きな目的は私のような異形の存在が人間社会になじめるようにするためだ。

 基本的にアンデッドは生者を憎む。しかし、そうでないものもいる。私のようにな。そして、私という存在がいることは私の様に生者を憎まないアンデッドが存在することの証明になる。ただ見つかっただけで殺されてしまうようなことがなくなる。

 アンデッドだけではない。王国においては純粋な人間以外はある程度差別されている。それが意識的なことであれ、無意識的なことであれな。私は、その原因がわからないこと、人間ではないために理解されないことにあると考えている。

 王国は、ある程度ではあるが冒険者が力を持ちやすい環境にある。私が異形種でありながらも最高位冒険者としての権威を持てば、私たちに対する偏見も減るだろうからな」

 

 もちろん、アインズの言葉はほとんど嘘である。

 彼は、確かに異形種全体ではなくナザリックのためではあるが異形種に対する偏見の改善は可能であればしたいとは考えている。しかし、いくら冒険者として偉くなったところで偏見の改善などできないのは明らかだ。その程度で社会を変えられるほど、世界は甘くない。そんなことは地球の歴史が証明している。

 しかし、社会に詳しくない心の優しいアンデッドが思い描く青い理想としては悪くないものだろう。

 

 クレマンティーヌの方を見れば、彼女の背後でナーベラルが目を袖で拭っているのが見えた。

 

 ―――お前が真に受けてどうする。

 

「うーん、まあ確かにアンデッドが皆生者を憎んでいるという認識が一般的なのは確かだよ。それを変えるために冒険者の頂点を目指すというのも、大きく間違いではないと思う。

 けれど、この国は貴族が大きく権力を握っているし、アダマンタイト級の冒険者になったところで偏見を無くすことは難しい。ひどく困難な道になると思うよ。それでも目指す?」

「ああ。困難だからとその道を諦めれば、どこにも進めないからな。

 それに、今の私は冒険者だ。たとえ先が見えなくとも、冒険してみるのが冒険者というものだろう」

 

 先程とは異なり、これは本心だ。

 かつて、アインズ・ウール・ゴウンが事実上彼一人となった時、ギルドの維持に心が折れかけたことは何度もあった。

 こんなことをしても無駄ではないだろうか、誰も来ないこんな場所を維持する必要なんてないのではないだろうか。何度もそう考え、何度もその考えを捨てた。

 

 困難だからと、アインズ・ウール・ゴウンを捨てられるのか、みんなの居場所をなくせるのか。

 

 ―――そんなことはあり得ない。

 

 その思いを抱き続けて来た彼にとって、困難だからとあきらめることは何よりも避けるべき行為ともいえた。

 

「そっか、冒険者が冒険することを忘れたらただのチンピラみたいなものだものね。冒険することは確かに大切だわ」

 

 彼のその言葉にクレマンティーヌは何かを感じたのか、彼女はまるで子供の様な笑みを浮かべる。

 

「なら、協力させてもらえないかしら」

 

 そして少し考え込んだ後、彼女はアインズにそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテル外周部の墓地の地下、そこに一人の老人のような人物の姿があった。

 彼の名は、カジット・デイル・バダンテール。秘密結社ズーラーノーンの幹部の一人だ。

 彼の周りには多くの死体が横たえられており、軽く数えただけでその数は万に近い数がある。間違いなく、周囲におかれている死体の数はエ・ランテルの墓地に埋葬されている死体の数を超えていた。

 

 ―――まあ、運んできた俺が言えた言葉でもないか。

 

 その様子を眺めていた男は、胸の内でそう呟く。

 彼は、この地下の空間にいる中で数少ないズーラーノーンに所属していない存在だった。

 

『死体操作』(アニメイト・デッド)

 

 あたりに存在する死体の一つが起き上がり、ゆったりとした動きで部屋の端に並ぶアンデッドの集団の一つに分け入ってゆく。

 これで彼が、いや彼とその仲間たちが運び込んだ死体の半数近くがアンデッドとなったことになる。

 

「私が手を出してはいけないとはわかっているが、そうしたいほどに儀式の結果が気になるな」

 

 その光景に、彼は少しばかり興奮していた。

 かつて一つの都市を滅ぼした魔法儀式『死の螺旋』、それが今成されようとしているのだから当たり前かもしれない。

 

 彼がその光景を喜々として眺めていると、視界にこの地下へと入ってくるスキンヘッドの男の姿が入った。

 男は少し周りを見回した後、地下の中心部にいる老人のような男と少し話をし、その後彼の方へと歩いて来る。

 

「おう、ご苦労だったな。見てるだけなんてつまらなかっただろ」

「そうでもないぞ、この儀式には元々少し興味があったからな。何一つ退屈しなかったと言えば嘘になるが、見ていて何も面白いことがなかったわけではなかった」

「そうか、ならいいさ」

 

 男は、彼の隣に座り込むと腕にある大きな傷跡を撫でた。

 彼はその様子を見て、昔にあったある戦いのことを思い出した。

 

「まだ、傷は痛むのか」

「いいや、今のは癖だな。あの日から奴のことを忘れないための、思い起こすための癖みたいなもんだ」

 

 男はそう言って、顔を苦々し気にゆがめる。

 彼には男の心がよく理解できた。理解できるがゆえに、今の彼はここにいるからだ。

 

 あの日、彼は仲間の内の二人を奴に殺された。

 彼は、強い仲間意識を持っていたわけではない。ただそれでも、彼らは仲間だったのだ。一時とはいえ、背中を預けた存在だったのだ。

 彼にとって、死んだ二人はわずかとはいえ思い入れのある存在だった。故に、彼らを殺したある人物に少しばかり憎悪を抱いていた。

 

 彼の目の前にいる男も、いくら外道に手を染めたとはいえ人の子、彼の想いに近いものを抱いていてもおかしくはなかった。

 

「今回は、あの時とは違う。俺達だけじゃなくズーラーノーンの力も借りれる。表立ってはいないが、スレイン法国の風花聖典の力も借りれた。武器も意志もあの時よりも強くなった」

「ああ、確かにそうだな」

 

「―――だから、必ずあいつは殺す。この腕で、必ず奴の脳髄を血の海に沈めてやる」

 

 男は、そう言って拳を握りしめた。

 

 




 最後のふたりが誰だか解ったら、多分クレマンティーヌが大変なことをしでかしているのがわかると思います。

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