もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら 作:更新停止
今回、いくつか独自見解が入ります。矛盾があれば指摘していただけると幸いです。
もしクレマンティーヌが大人買いをしたら
城塞都市エ・ランテル、そこにあるとある薬屋。
彼―――ンフィーレア・バレアレは、何時もの如く店番をしながら、それと同時にいつもと異なりポーションを調合していた。
これは、二日前に『伝言』によってお得意様であるとある人物から、30本もの大量のポーションの注文が来たからだ。
しかも注文されたポーションのうち10本は、一本で金貨8枚もするものだ。そのため、単純にそのポーションの値段だけでも10本で金貨80枚となる大きな取引になる。さらに、今回はそのポーションが10本もなかったので、それをすぐにつくる特急料金も含め金貨90枚もの取引となった。
ンフィーレアは急ぎながら、しかし必ず焦らずに1本ずつ仕上げてゆく。
予定では、購入者がこの店に訪れるのは今日のお昼過ぎ。調合が済んでいないものは残すところあと1本で、この勢いで進めば余裕をもって終わることができそうだった。
「やっほー、元気してる?」
そう考えたその時、件の購入者が店にやってきた。
購入者の名前はクレマンティーヌ。元オリハルコンの冒険者で、何をしたのか半年ほど前に罰則を受け現在はミスリルの冒険者として活躍している。
「あれ? 随分早かったですね。予定ではお昼過ぎと聞いていたのですが、何かあったんですか」
そのクレマンティーヌが此所にいることに、ンフィーレアは疑問を感じた。
彼女は事前の連絡ではお昼過ぎに来るはずで、彼女が来るまでにはまだ時間があったはずだからだ。
「いやー、そのつもりだったんだけどさ。一つ君か君のお婆さんに聞きたいことがあったから、少し早めに来たんだー」
「聞きたいこと、ですか。
少し待ってください。注文のポーションが今つくっているもので揃うので、それからで良いですか」
ンフィーレアは少し考え込むと、彼女に少し待つように告げる。彼としては、自分より様々なことを知っている彼女がわざわざ自身に聞いてくることとは何なのか興味はあったが、今は調合をしているため手を離せないので、少し待ってもらうことにしたのだ。
「うん、いいよー」
その言葉をクレマンティーヌは承諾し、店の中を軽く見回す。
「じゃあ、待ってる間店の中でも見てるわね」
「はい、お願いします」
ンフィーレアの言葉を聞いた彼女は、何かを探すような手つきで店の商品を物色し始めた。
それを見つつ、彼は調合を進める。
ポーションには三種類作り方が存在する。
まず、最も安価な薬草のみで作るポーション。他二つに比べかなり安価で、
次に、魔法と薬草の二つを使って作るポーション。最も需要のあるポーションで、高位の
そして、魔法のみで作るポーション。正確には錬金溶液を必然とするために魔法のみという言葉は間違いではあるが、錬金溶液以外は魔法しか使わないので薬師の間ではこのように言われている。このポーションは、他の二つとは異なり瞬時に使用者を回復させる力を持っており、戦闘中にも十分な効果を期待できる。価格はおよそ金貨7枚以上で、回復量によって値段が大きく異なる。
彼、ンフィーレアが今調合しているものは、魔法と薬草の両方を使ったものだ。
錬金溶液に薬草などの素材を規定の量加え、魔法を込める。
クレマンティーヌが店を訪れてから十分程度した頃、最後の1本のポーションが完成した。
「ほいっ、お疲れさま」
「わぁっ!?」
完成したポーションに保存のための魔法をかけた直後、ンフィーレアの頬に冷たい感触が当てられる。
突然の冷たさにンフィーレアは驚き、危うくポーションを落としそうになった。
「あー、ごめんごめん。驚かしちゃったか」
彼の頬に冷たいもの、水の入った硝子のコップを当てたクレマンティーヌが、彼の背後から申し訳なさそうに現れる。
ンフィーレアは、彼女がいつの間にか背後にいたことに全く気が付けなかったことに少し驚きながらも、何とかポーションを落とさなかったことに安堵した。
「びっくりしましたよ。いったい何時の間に後ろに移動したんですか」
「まあ、ソロの冒険者としては気配を殺すのは必須項目だからねー。
それより、はい。6月に入って最近は暑くなり始めたし、調合もしてたから疲れたでしょ、冷たいものどうぞ」
クレマンティーヌは、苦笑いをしながらンフィーレアにコップを渡す。
「あ、ありがとうございます」
彼はクレマンティーヌに礼を言いながら、彼女からコップを受け取った。
コップの中には氷が浮いており、コップその物もまるで冬場の雪の中で冷やされたような温度をしていた。
ンフィーレアは、その事に驚きながら水を口に含む。
水の冷たさが全身に広がり、籠もっていた暑さが身体から抜けていくような気がした。
「ふぅ、おいしかったです。ありがとうございます」
ンフィーレアは彼女に礼を言うと、手に持ったコップを水洗いして返した。
「そう言ってもらえると嬉しいよー。
それじゃあ、ポーションを買わせてもらうけどいいかな」
「はい、大丈夫です。なら、今店の奥から取ってきますね。ポーション30本で特急料金含め金貨155枚ですから、準備しておいてください」
「はいはーい」
彼は、クレマンティーヌを置いて店の奥に行く。
盗難の可能性を考えればこれはあまり良くない行為だが、彼女はミスリルの冒険者。盗みを働いて組合から追われる立場にはなりたくはないだろうし、ポーションをこんなにもまとめ買いしている事を考えればお金に困ってはいないだろう。
店の奥から27本のポーションが入った箱を
箱の中身は三種のポーションをそれぞれ9本ずつ、カウンターで作っていた3つを含め計30本になる。これら全てが彼女が注文していたポーションだ。
ンフィーレアが店に戻ると、彼女は金貨で大道芸のようなことをしていた。
確かジャグリングだろうか。彼女のそれは、以前彼が広場で見ていたボールを上に投げ続ける芸に似ていた。彼女は大量の金貨、おそらく155枚を親指ではじきながら上に打ち上げ続けている。枚数が枚数なので、その光景はまるで金のカーテンのように見えた。
しかも彼女の動きの速さからして、たしか……『流水加速』だろうか。身体を加速させるような何らかの武技を使用しているのは間違いない。
「え、えっと。何をしているんですか」
ンフィーレアは彼女に問いかける。
「あー、ごめんごめん。暇だったから礫を飛ばす練習をしてたんだー。ちょっとまってね」
―――武技、『流水加速』
彼女は動きをさらに加速させると、空中の金貨をつかみ取り、弾き上げ、10枚ずつにまとめてカウンターに積み上げてゆく。
2秒と経たず、カウンターには16の金貨の柱が建てられることとなった。
「ほいっと。これで金貨155枚ね、確認をお願い」
「は、はい。わかりました」
ンフィーレアはそれらの金貨を手早く数えると、ポーションの入った箱をカウンターの上に乗せた。
「はい、大丈夫です。代金の金貨155枚はちゃんと確認できました。では、こちらが注文されたポーション30個です。クレマンティーヌさんなら見分けることができるとは思いますが、一応ポーションは種類ごとに分けておきました」
「そう、ありがとねー」
クレマンティーヌは、そのポーションを腰にぶら下げた3つの袋にそれぞれ分けて入れてゆく。その袋は、何らかの魔法がかかっているのか、小さいながらもその中にポーションを全て飲み込んだ。
さらに、クレマンティーヌが右手で何かを虚空に描くと、腰の袋は何処かに消えた。
「んー、これでいいかな。箱の方も貰っていい?」
「はい、元々そのつもりでしたのでかまいませんよ」
「そう? ありがと」
彼女は箱に手を付けると、再び右手で何かを描く。
すると、箱は解けるように無くなった。
「……さて、商談はこれでいいわよね」
「そうですね。それで、聞きたい事って何ですか?」
クレマンティーヌは、ンフィーレアに向き直ると彼に問いかけた。
「ポーションってどうして青いの?」
「どうして青いのか、ですか」
その質問に、ンフィーレアは少し考え込むと彼女に答えた。
「一般的に、ポーションが青い理由は薬草の成分が原因と言われています。ポーションを作成する上で必要な薬草、ングナクの草の緑の一部が溶け出して青色を作り出しているそうです」
「一般的に言われているって事は、実際は違うわけね」
「はい。その説明が真実だとしても、魔法で作り出したポーションが青くなる理由の説明にはなりませんから。その理由が真実では無いか、もしくはそれ以外にも別の理由があるはずです」
そう言うと、ンフィーレアはカウンターからいくつかの薬草と錬金溶液を取り出す。
「考えられる可能性は、材料か製法か。僕と僕の叔母は、製法だと考えています。かつて八欲王の時代に数多く存在していたポーションは、従来のものと異なる色を持ち、保存の魔法を用いずとも効果を持続させていました。多数存在していたことから希少な材料を使用していたとは考えにくいですから……っと話がそれましたね
一部研究者達の間では、ポーションが青い理由は『ポーションが不完全であるため』とされています。
八欲王の時代の伝説のポーションは神の血の色をしていたとされ、保存の魔法を必要としない完全な物であったとしか言い伝えられていないので、それしかわからないというのが現実ですが」
「へぇ、って事は青色以外も存在するんだ」
「はい、伝説が真実であればそうなります。でも、この伝説はかなり眉唾物であるとも言われていますから、真実である可能性は低いですよ。何か研究するわけでも無く、単にレシピ通りにポーションを調合して販売している人達の間では、神の血は青色だと言われてしまっているくらいですから」
ンフィーレアのその言葉に、クレマンティーヌは納得したように首を縦に振った。
「ふぅん、なるほどねぇ。
ありがと、色々といい話が聞けたよ。それじゃあ今度もよろしくねー」
「はい、今後ともお願いしますね」
クレマンティーヌは、扉を開けると薬屋を出て行った。
「神の血、ねぇ」
ンフィーレアに聞いたクレマンティーヌは、街を歩きながら考えていた。
彼女がアインズから貰ったポーションは、間違いなくその神の血のポーションだった。
彼女がスレイン法国にいた頃にその赤いポーションを見たことがあったので、珍しくはあるがありふれたものだと思っていたがどうやら違うらしい。
―――そうなると、アインズさんは六大神とか八欲王、十三英雄の人達と同じような存在ってことになるかな。
彼女のその考えが正しければ、アインズは英雄の領域の存在ということになる。
「私も井の中の蛙、世界は広いってことかー」
間違えてアインズに襲い掛かってしまったあの時、彼女は一瞬で殺された。ギアを纏い、武技による強化を全力でかけていたにもかかわらず、その一撃は届かなかった。
そのことが、自身は英雄の領域に到達していると自負していた彼女にとって、とても衝撃的なことだった。
「英雄の領域はまだまだ遠い、かなー」
彼女は気だるげにそう呟くと、エ・ランテルに無数にある宿屋の一つ、冒険者組合が紹介してくれる宿の中で最も安い宿屋へと足を運ぶ。
本来、ミスリルプレートであるクレマンティーヌはこのような安宿に泊まったりしないのだが、金貨155枚もの買い物をしたために財布の中身が気になりこのような安宿に泊まることにしたのだ。
安宿と言っても、組合に紹介されるような宿はそう悪いところではない。少なくとも、女性一人で泊まっても何も事件が起こらない程度にはいい場所だ。
……クレマンティーヌが、昔はわざとそんな場所に宿泊して、襲ってきた人間を拷問にかけて遊んでいたという事実はない。ないのだ。
宿に入ると、そこには昼間にも関わらず酒を飲んでいるようなごろつきが何人もいた。
彼女がローブの内側にプレートを持っているためか、そんな男たちが彼女に下卑た視線を向けてくるが当然無視する。
そんな連中はどうでもいい。絡まれたら相手に手を出させて反撃で殺せばいいだけのこと。この世界でも"基本的には"正当防衛が成立するから、大きな問題にはならない。
「やっほー、おっひさー」
「あん、何でオリハルコンのあんたがこんなとこにいんだよ」
「今はミスリルだよ-、ご主人。プレートを素材にしちゃって罰則くらったんだよ。
で、一人部屋開いてる」
「プレートを素材にしたって、あんた何があった。
……まあいい、一泊3銅貨だ。前みたいに前払いな」
「はいはーい」
宿の主人に金を払い、部屋へ。
どうやら主人との会話を男達は聞いていたらしく、クレマンティーヌに絡んでくる様子は無かった。
部屋に入ると、扉の前にトラップを仕掛けておく。まずないとは思うが、万が一があるためだ。
そして、そこで彼女はスティレットを取り出した。
彼女がこんなにも早い時間に宿を取ったのは、このスティレットに細工を施すためだ。
アルヴヘイム・オンラインの魔法を除き、彼女が使用できる数少ない魔法の一つ『魔法蓄積』、それをこのスティレットにかけるのだ。
―――さて、それじゃあ始めますか。
彼女は、詠唱を始めた。