もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

5 / 34
 この話を書くために、戦姫絶唱シンフォギアの1話と6~8話、最終話とその一つ前を何回見たのだろうか。

 とりあえず、投稿です。


もしクレマンティーヌが友人を大事にしていたら

「なるほど、確かにいるな」

 

 村にある家の陰で、ガゼフとクレマンティーヌ、そしてアインズは村の外にいるという人影の様子をうかがっていた。

 

 彼らの視線の先にいるのは、三人の魔法詠唱者と思われる人間と、三体の天使だった。

 魔法詠唱者の傍に侍るその天使は、紅蓮に燃え盛る炎の剣と、光り輝く白い胸当てを身に着けていた。

 

「……あれは、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)? いったい何故ユグドラシルのモンスターが存在しているのだ。……召喚方法が同じということであれば、この世界ではユグドラシルの魔法が使われていることになるが……」

 

 天使たちを見たアインズが呟く。

 それを耳にしたのか、ガゼフはアインズに問いかけた。

 

「ゴウン殿は、あの天使をご存じなのですか」

「ええ、詳しくはありませんが、ある程度は知っています。

 あの天使たちの名前は、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)。神聖属性と炎属性を併せ持つ天使型モンスターです。特に厄介なスキル等は持っていなかったと記憶しています」

 

 ガゼフの言葉に、アインズは答える。

 その言葉にクレマンティーヌは少し違和感を感じたが、彼女自身何に違和感を感じたのかわからなかったので、その違和感を頭から追い出した。

 

「ふむ。なるほど、単純に強いだけのモンスターということか。それは僥倖だな。礼を言うゴウン殿」

 

 ガゼフとしては、バシリスクやスケリトルドラゴンの様に特殊能力を持たないという情報だけで、大いに助かった。

 モンスターの中には、初見では間違いなく対処できないの能力を持つものも多く、場合によってはそれに対応するための特殊な武装が必要になることもある。装備の限られた現状において、きちんとその装備が有効という証明がなされているだけでも戦う上では貴重だ。

 

「それにしても、彼らはいったい何者で、どの様な理由があってこの村に攻め入ってきているのでしょうか。この村にはそれほど高い価値があるようには思えないのですが」

 

 アインズは、疑問をうかべた。

 その言葉に、クレマンティーヌが答える。

 

「彼らは、スレイン法国の特殊工作部隊群『六色聖典』の一つ、陽光聖典ね……です。六色聖典の中でも、特に殲滅能力に優れた部隊ですね」

 

 普段は敬語を使うことなどないクレマンティーヌは、つい少しだけ普段の様子で話してしまう。

 そんな彼女の様子を見かねたアインズは、クレマンティーヌに言った。

 

「……もう気にしていませんし、そんなに無理してまで言葉を整えなくても構いませんよ」

「いえ、ですがそれでは―――」

「いいんです。それに、あまり気にされると私も気分が良くないですから」

「……わかりま、わかったわ。それじゃあ、普段の口調で話させてもらうわね」

 

 クレマンティーヌは一息つくと、話をつづけた。

 

「彼らの動き、村の周りを包囲している様子から、村を襲撃することが目的じゃなくて村にいる誰かを確実に殺すことが目的だと考えられるから、おそらく狙いはガゼフじゃないかしら」

 

 その言葉に、アインズはガゼフに視線を向ける。

 

「なるほど、戦士長殿は随分と恨まれているのですね」

「これでも一応王国最強の男と呼ばれているからな。国内外を問わず恨みは多く買っているだろう。

 ……まあ、まさか帝国だけでなくスレイン法国にまで恨まれているとは思わなかったが」

 

 ガゼフは、そう言って肩をすくめる。

 一見、やれやれとあきれているようにも見えるが、クレマンティーヌには彼の心の中では怒り狂っていることが見て取れた。

 

「まったく、貴族どもに装備をはぎ取られた時からおかしいとは思っていたが、まさかこんな事態になるとはな。俺もそろそろ年貢の納め時か」

 

 ガゼフは、大きくため息をつく。

 生き残る可能性がないわけではないだろうが、それほど高くはないことを彼は認識していた。

 

「ゴウン殿。助力をお願いできないだろうか」

 

 少し考え込んだ彼は、アインズに助けを求めることとした。

 村人たちの話を聞くに、彼は飛行魔法や第三位階より上の魔法を使えると推測できる。

 それほど高位の魔法詠唱者の助力を得られるなら、この事態は大きく変化するだろう。ガゼフたちが生き残る可能性もかなり高まる。

 

「……申し訳ございませんが、お断りさせていただきます。手伝いたいのは山々なのですが、この件によってスレイン法国に睨まれるような事態にはなりたくないので」

「……そうか、それならば仕方がないか。無理を言ってしまってすまなかった、ゴウン殿。

 ならば、我々が陽光聖典と戦っている隙に、村人たちと私の友人を逃がす手伝いをしてもらえないだろうか」

 

 ガゼフのその言葉に、思わずクレマンティーヌは声を荒らげた。

 

「ガゼフ!! あんた何言ってんのよ」

「これは、俺たち王国側の問題だ。一冒険者でしかないお前を巻き込むわけにはいかない。

 それに、お前が強いことは身に染みてわかっているが、流石のお前でも陽光聖典を相手にするのは難しいだろう。自分の事情で自分が死ぬのはいいが、自分の事情で友人が死ぬのは嫌なんだよ」

 

 ガゼフの言葉に、クレマンティーヌは言葉を詰まらせる。

 

「それに、お前には王都に行ってこの村でおきたことを伝えて欲しい。もし万が一俺が王都に戻ることができなければ、この村で何がおきたのか伝える人間がいなくなってしまう」

 

 続けて言われたその言葉に、彼女はもう何も言えなくなってしまった。

 

 しばらく、二人の間に沈黙が続く。

 その様子を見かねたのか、アインズはガゼフの願いに答えた。

 

「……わかりました、戦士長殿が時間を稼いでいる隙に、何とか彼女達と逃げることにしましょう」

「―――感謝する、ゴウン殿」

 

 ガゼフは心から頭を下げた。

 

「本当に、本当に感謝する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――本当にこれでよかったのだろうか。

 

 クレマンティーヌは、村人たちの集まった村の倉庫の中でずっと考えていた。

 

 確かに、彼女は陽光聖典と戦うのはまずかった。理由はガゼフが言っていた様な実力的な問題ではなく立場的な問題ではあるが、本当にまずかった。

 

 以前捕まえた風花の諜報員から引き出した情報によると、クレマンティーヌはどうやらそこまで綿密な捜索が行われていないらしい。

 確かに、クレマンティーヌはスレイン法国の財宝をいくつも盗み出したが、その多くがスレイン法国の人間には名前や使い方がわからなかったために死蔵されていたものばかりで、名称がわかっていたものも精々魔封じの水晶程度だった。また、クレマンティーヌに殺害されたのは、多くが風花聖典の諜報員だったらしく替えがきく存在ばかりだったようだ。その為、いつか捕まえる必要があるものの可及的速やかに抹殺しなければならない存在とは認識されていないらしく、今まで野放しにされているらしい。

 

 しかし、もし今日ガゼフを助けるのであれば、おそらく陽光聖典を全滅、もしくはそれに近い状況にする必要がある。そんなことをすれば、間違いなく抹殺対象として認識されてしまうだろう。

 

 正面から漆黒聖典単体と戦えば逃げ切れる彼女でも、スレイン法国が本気で、つまり六色聖典のうちいずれか複数に全力で追い回されれば生き残るのは難しい。

 

 

 ふと、そう考えているとき、クレマンティーヌの前に影が差した。

 彼女が顔を上げると、そこには彼女が命を奪いかけてしまった彼、アインズがいた。

 

「……何の用?」

 

 内心の僅かな苛立ちに影響されてか、彼女の口調が厳しくなる。

 アインズは、その事を気にすることもなく彼女に言った。

 

「私は、貴女に何の事情があるのかはわかりません。ですが、一つだけ貴女に聞きたいことがあります」

 

 アインズは、そう言うと彼女の耳元に顔を近づけて言った。

 

「―――お前は、それで良いのか」

 

 冷たく鋭い声、今までの彼からは考えられないような強い口調。

 彼女は、彼の言葉に少しだけ肩をふるわせた。

 

「お前にとって、奴は友人なのだろう。仲間なのだろう。そんなあいつを、お前は見殺しにするのか?」

 

「……それは」

 

 思わず、彼女の口からその言葉がこぼれる。

 彼女は、その時ふととある景色を脳裏に浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 走る。

 走る。

 走る。

 

 黒と白のタイル張り、人の姿がまるで無い建物の中を彼女はただただ走る。

 やがて出口の扉を見つけると、彼女は扉を開いた。

 

 外に出ると、そこには絶望の景色があった。

 

 街の建物は崩れ去り、風は荒れ狂い、爆発音が響き渡る。自らの家の陰はなく、見知ったものの全てが崩れたその光景。

 

 ふと、そんな中に、彼女は人影を見つけた。

 人影は闇色の何かと戦っており、時折姿を消しながら懸命に絶望に抗っていた。

 しかし、彼女にはわかる。人影はこのままではこの絶望の景色の一つになってしまう、と。

 

 

 

 ―――(彼女)は、その時何をしただろうか。

 

 

 

 

 

 

 戦士として生きろということは、それだけ人の道から外れるということ。

 

 そう彼女に告げたのは、彼女にとって憧れの先輩で、命の恩人である人だった。

 

 確かにそうだと、そのとき彼女は思った。

 戦士としての道を進めば進むほど、親友とはすれ違い、心の距離は離れてゆく。

 平穏な日常から過酷な戦場へと、戦えば戦うほど日常から遠ざかってゆく。いや、遠ざかることを望んだからこそ日常から遠ざかる気がしてくるのかもしれない。

 

 大切な約束すら守れず、想いは届けられず、そんな毎日。

 

 なんでもないただの日常を、そんな日常を大切にしたいと願っても、思うばかりで空回りしてばかりで逆に日常を乱してばかりいる。

 いつも、そのことを思い悩んでいた。

 

 そんな時、彼女はその人物に問われた。

 

 戦いの中、何を思っているのか、と。

 

 

 

 ―――(彼女)は、その時何と答えただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 草原を、軍馬たちが駆けてゆく。

 彼は、今まさに死への道を駆けていた。

 

「敵に一撃を与え、村の包囲をこちらに引き寄せる。しかる後に散開しつつ撤退。追撃を振り切り再び合流する。いいか、タイミングを逃すなよ!!」

『了解です!!』

 

 彼の敬愛する隊長、ガゼフの言葉に、彼は威勢よく了承を返す。

 彼の視線の先には、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を傍らに浮かべた魔法詠唱者(マジック・キャスター)たちの姿があった。

 

 その姿を瞳に映して、彼は思わず身がすくみそうになる。

 

 彼は、何か優れている存在ではなかった。

 騎士たちの様に生まれが良いわけではなく、生まれながらの異能(タ レ ン ト)を何か持つわけではない。剣の才能も、槍の才能も、弓の才能も、武技の才能も、魔法の才能も、すべて人並みしかなかった。

 勿論、才能がない人間からすればあると言えるのかもしれないが、それでも彼自身が自慢をもって優れていると言えるようなものは無かったのだ。

 

 使える魔法は遠くに言葉を伝える魔法である『伝言』(メッセージ)と精神に干渉する魔法や武技に対して耐性を与える『下位精神防御』(マインド・プロテクション)の二つのみ。『魔法の矢』(マジック・アロー)すら一発も打てない。

 武技は同時に使うことはできず、使える武技も隊長であるガゼフから教わった剣を魔法武器化する武技『戦気梱封』とその友人クレマンティーヌから叩き込まれた『重心稼働』の二つだけ。強力な斬撃を放つ武技である『斬撃』すらできない。

 弓は、かつてはまともにまっすぐ飛ばないことすらあった。今では馬上に乗って弓を射ることができるようになったものの、狙った場所に届くことはそれほど多くない。

 槍は、正直突きしかできない。振り回そうものなら、石突が彼の身体に襲い掛かることもある。

 剣にいたっては、武技を使わない限り生物を両断することすら難しい。

 

 彼にとって、無い無い尽くしの才能だった。

 

 唯一の彼の誇りは、戦士長、ガゼフ・ストロノーフと共に戦場に立てることのみ。

 

 ―――昔の友人たちが今の自分を見たら、きっと目を疑うだろうなぁ。

 

 彼は、胸の中で呟く。

 きっとこんなことを考えるのは、今進む一歩が彼の人生の終わりの分かれ道へと向かう一歩だからだろう。

 けれども、彼には何一つ後悔はなかった。

 

 ふと、彼はガゼフがこちらに申し訳なさそうな眼差しを向けたことに気が付いた。

 

 その様子に、思わず彼は少しだけ怒りがわく。

 

「気にしないでください、戦士長!」

「全くです、俺たちはここに望んで来たんです。最後まで戦士長と共に!」

「俺たちにも国を、民を、そして仲間たちを守らせてください!」

 

 ガゼフの視線に彼以外も感じることがあった人物がいたのか、彼の仲間たちが口々に叫んでゆく。

 部下たちの様子に感じ入ることがあったのか、ガゼフは決意を宿した目で前を向いた。

 

「行くぞぉお! 奴らの腸を食い散らかしてやれえぇえ!」

「おおおおおおおおお!!!」

 

 ガゼフが声を荒らげ叫ぶ。否、咆哮する。

 彼とその仲間たちは、その言葉に渾身の叫びで返した。

 

 ガゼフが馬を加速させる。

 彼と仲間たちは、その馬に追随するように加速した。

 

 ガゼフは馬上から弓を構え、矢をつがえる。

 

 ―――武技、『戦気梱封』

 

 構える弓と矢を武技で強化し、放つ。

 放たれた矢は、風を切り狙いを違わず前方の魔法詠唱者の眉間に突き刺さり、そのまま貫通した。

 

「おおおおおお!!!」

 

 仲間たちの中で歓声が湧く。

 魔法詠唱者たちは、その様子に慌てたのか魔法を唱え始めた。

 

 かれは、その魔法がガゼフに向けられていると気が付く。

 

 ―――この距離では、物理的効果を持つ魔法のほとんどは満足な効果を得られない。つまり、使ってくる魔法は……

 

 彼は、とっさに魔法をガゼフの馬に発動させた。

 

『下位精神防御』(マインド・プロテクション)!!」

『恐怖』(フィアー)

 

 魔法詠唱者が放った魔法、対象の精神に恐怖を与える魔法である『恐怖』(フィアー)は、彼の『下位精神防御』(マインド・プロテクション)により効果を失う 。

 

「よくやった!!」

 

 ガゼフはそう一言彼に告げると、魔法によって体勢が崩れる隙を狙っていたのだろう、すぐ側まで飛んできていた天使を、微かに橙に光る剣で斬り捨てた。

 斬り捨てられた天使は光の粒へとかわり、剣を振るったガゼフを照らし出す。

 

 ガゼフが天使を斬り捨てた隙を狙い、別の天使が二体飛来する。

 

「―――遅い」

 

 しかし、それは王国最強の男を相手にするにはあまりにも無力だった。

 ガゼフの言葉とともに剣が振り抜かれ、瞬く間に天使が光に返る。

 

 そして、その時にはガゼフ達は陽光聖典達の側まで馬の歩みを進めていた。

 

「総員、天使を盾にしろ!! 間合いを詰めさせるな!!」

 

 陽光聖典の隊長、ニグンは叫ぶ。

 隊員達は、その言葉に従うように天使達兵士達の壁にした。しかし、一部の隊員達は、天使達は()()()()()()()盾にした。

 

 それは、反射的な行動だったのだろう。今この時、天使達を倒したのはガゼフだけで、他の一般兵士達は特に何かできたわけではないのだから。

 

 そして、彼らはそこをついた。

 

 ガゼフが倒した魔法詠唱者一人分と天使三体分守りが緩くなり、そしてガゼフに対して天使達を盾にしたために隙ができた僅かな道筋。そこに、兵士達は突撃する。

 

 ―――武技、『戦気梱封』

 

 武器を魔法の武器に変える武技を、武技を使える数少ない兵士達が発動する。

 その様子に兵士達の狙いに気が付いた陽光聖典達は、天使を動かし彼等を遮ろうとするが、既に遅かった。

 

 戦気梱封を使った兵士達が、天使の剣を受け止め、その隙に陽光聖典達の集団に雪崩れ込む。

 たとえ天使は殺せなくとも、人は別だ。魔法による守りがあっても、それは天使の鎧ほど硬くはない。剣で切れば傷を負い、致命傷を負えば死ぬ。

 さらに言えば、魔法詠唱者は詠唱時間の問題があり近接戦では使えない。仮に使えても、今のような混戦では使えない。此所まで密着していれば、天使達も手を出すのは難しい。

 混戦状態になり戸惑う陽光聖典達に対して、王国兵士達は連携して動き攻めていった。

 

 ガゼフが兵士達に合流したその時には、陽光聖典側に死者こそ出ていなかったものの、兵士達は確実に彼等を追い詰めていた。

 

 だがしかし、その攻勢はそう長くは続かなかった。

 

 落ち着きを取り戻し始めた陽光聖典達が合流し始め、兵士達を押し戻し始めたのだ。

 

「各員、付近の味方との合流を最優先。個々の実力ではこちらが上だ。落ち着いて叩きのめせ」

 

 ニグンの声が響き、更に陽光聖典達の連携が巧みになる。

 

 気がつけば混戦状態だった戦場が整頓されてゆき、大雑把ながら王国兵士側の集団と陽光聖典側の集団に分かれてしまった。

 

 こうなれば、兵士達は一方的になぶられるしかない。

 混戦状態が改善されたために天使達が飛来し、兵士達に襲いかかり始めた。

 

 

 

 

 

 

 ―――武技、『六光連斬』

 

 六つの斬撃を同時に放つ武技、『六光連斬』を使用し襲いかかる天使達を斬り裂き、前へと進む。

 武技の隙に襲いかかってくる天使達の攻撃は、部下達が押さえつけてくれる。

 

 ―――武技、『四光連斬』

 

 攻撃を弾かれよろめく天使達を斬り裂き、更に前へ。

 この瞬間まで彼の部下達が生きていたのは、確実に彼の友人であるクレマンティーヌの御陰だった。

 

 天使達の力は強靭だ。普通の兵士達の身体能力で強靭な身体能力を持つ相手とまともに打ち合うのは難しい。

 クレマンティーヌとの模擬戦でそれらを学んだ部下達は、身体能力で劣るからこその戦い方を、ただ闇雲に正面から打ち合うのではなく、流し反らし力を全て受けない戦い方を身に付けていた。

 

 だが、それにも限界があるだろう。人間の体力は有限だ。戦うことにも限界がある。

 

 ―――ならば、狙うは指揮官。

 

 ガゼフは、先程から指示を出す男を睨みつける。

 指揮官を殺したからといって、勝利の道が見えるわけではないが、そうしなければ撤退の道すら見えそうになかった。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 ガゼフは咆哮し、ニグンに向かって突撃する。

 その動きに気が付いた武技を使える兵士達が数人、彼の疾走に追随した。

 

 そんな彼等に、二十を超える天使達が襲いかかる。

 

 ―――武技、『六光連斬』

 ―――武技、『斬撃』

 ―――武技、『戦気梱封』

 ―――武技、『要塞』

 ―――武技、『斬撃』

 ―――武技、『穿撃』

 

 ガゼフ達は、それらを斬り捨て、切り払い、受け止め、切り抜ける。

 天使達を一掃した後、追撃の天使達を兵士達が受け止め、ガゼフはニグンへと駆け抜けた。

 

「見事。しかし……いくら上位天使達を倒せても、わが『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)は倒せまい」

 

 ニグンの声により、彼の傍らに待機していた天使が動き出す。

 その天使、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)は片手に持ったメイスを振り上げるとガゼフへと振り下ろした。

 

 ―――武技、『要塞』

 

 その一撃を、ガゼフは武技で受け止める。

 しかし、それは咄嗟のことだったためか十分な力が得られず、受け止めてからしばしふらつく結果となってしまった。

 

 その隙に、ニグンは『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)に魔法による強化をかけてゆく。

 

『鎧強化』(リーンフォース・アーマー)『盾壁』(シールド・ウォール)『下級敏捷力増大』(レッサー・デクスタリティ)『下級筋力増大』(レッサー・ストレングス)

 

 その光景に、ガゼフは苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 ただでさえ強い高位の天使型モンスターが、更に強くなったためだ。

 だが、ガゼフは退くわけにはいかない。ここで退けば、彼もその部下達も全員死ぬ。

 

「おおおおおぉぉぉ!!」

 

 咆哮し、疾走。剣を振り下ろす。

 

 ―――武技、『六光連斬』

 

 『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)は、その六撃のうちの三つを盾とメイスで受け止め、残りを全て身に受けた。

 

 しかし、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)はふらつくことすら無くその場に浮いている。

 思わず、ガゼフはその光景に固まった。

 

『衝撃波』(ショック・ウェーブ)

 

 その隙を見計らったのか、ニグンから魔法で放たれた衝撃波が飛来する。

 その一撃を受け、ガゼフは身体のバランスを崩し折れ込みかけた。

 

 そんなガゼフに追撃するように、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)がガゼフにメイスを振り下ろす。

 

 ―――武技、『重心稼働』

 ―――『即応反射』

 ―――『要塞』

 

 武技で倒れかけた身体のバランスを戻し、振り下ろしたままであった剣をメイスとの間に挟みこみ、『要塞』によって受け止めようと試みる。

 しかし、『要塞』を行使するのが遅かったのか、『要塞』は力を発揮せずにガゼフは吹き飛ばされた。

 

「無様だな、ガゼフ・ストロノーフ。仮にも王国最強の男だと警戒していたが、随分な様子ではないか」

 

 ガゼフはそれに答えようとするが、身体が動いてくれない。強化された高位の天使による一撃は、武器越しとはいえ彼の身体を蹂躙していた。

 剣を持っていた腕の骨は折れ、肋骨にも何本か罅がはいっている。転がったせいか全身は擦り傷だらけで、頭からも出血している。

 

 満身創痍、正にその言葉が似合う姿となっていた。

 

「隊長!!」

 

 ガゼフに気が付いた一人の兵士が、ガゼフに駆け寄ろうとする。

 しかし、彼の傍にいた陽光聖典の一人がその進路を塞いだ。

 

「ふむ、邪魔も入りそうだな。早急に終わらせるとしよう。

 行け、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)!!」

 

 ニグンの声に反応し、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)がガゼフの前でメイスを振り上げる。

 

 ―――ここまで、か。

 

 ガゼフは、僅かに口を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 その時、空から何かが飛来し『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)の顔面を直撃、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)を大きくのけ反らせる。

 

 ―――『アビス・ディメンション』、解放。

 

 その直後、『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)の顔面が闇に包まれる。

 僅かな時間とともに闇が晴れれば、そこには『監視の権天使』(プリンシバリティ・オブザベイション)の顔は無く、それとともに天使は光となって消えた。

 

「なっ!? 何だ、何が起こった?」

 

 ニグンが辺りを見回す。

 先程の光景に、陽光聖典達も王国兵士達も動きを止めていた。

 

 ―――武技、『不落要塞』

 

 上空から、何かがガゼフとニグンの間に飛来し、衝撃で土煙を上げる。

 

 辺りの人間は、その土煙に視線を集中させる。

 

 煙の中からは、何か黒いローブを纏った者の姿がシルエットから伺えた。

 

 草原に風が吹き、砂煙が吹き飛ばされる。

 

 

 

「やっほー。久しぶりね。ニグンちゃん」

 

 

 

 煙が晴れると、そこには黒いローブ姿のクレマンティーヌがいた。




 ALOの魔法を魔法蓄積で留められるのかというツッコミはあると思いますが、この話ではありと言うことでお願いします。
 本来は魔法体系が違うので、何とも言えないですが。


 戦姫絶唱シンフォギアを見て思ったネタ。



 とても凄いOTONA、風鳴司令の場合。



 建物にしかけられた爆弾が炸裂し、彼を殺さんとコンクリートが崩落する。

 しかし、彼はその中でも無傷であった。

「衝撃は『発剄』で掻き消した」





 クレマンティーヌの場合。


 建物にしかけられた爆弾が炸裂し、彼女を殺さんとコンクリートが崩落する。

 しかし、彼女はその中でも無傷であった。

「衝撃は『要塞』で掻き消したわ」



 ―――完全に一致!!

 つまり、クレマンティーヌはOTONAだったんですね!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。