もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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書籍の特装版、意外と高いですよね。
買ったことを後悔しているわけではありませんが、なんとなく釈然としない思いがあります。

さて、今回はでみえもん回です。


とある牧場主の話

 

 デミウルゴスは、ナザリック地下大墳墓の第七階層を守護する階層守護者である。

 

 牧場を経営したり、バハルス帝国に探りを入れたりと多忙な彼は、ナザリックの僕として充実した日々を過ごしていた。

 

 そんな彼であるが、その毎日を多忙な様子で過ごしているわけではない。

 残られた最後の一人の至高の御方、アインズ・ウール・ゴウンが定めた休暇と言う制度により、数日に一度は仕事をしてはいけないというものが定められているためだ。

 

 至高の御方に仕えることを至上の喜びとする彼らにとって、この休日というものは非常につらい一日であった。

 

 そのため、ナザリックの僕たちの多くは、その休日という物をいかに主であるアインズに役立つよう過ごすかを考え、各々が思いついた方法で実行している。

 

 さて、その休日。

 デミウルゴスは、工作に勤しんでいた。

 

 もちろん、他の組織に対して行うと言う意味の工作ではなく、ものづくりという意味での工作である。

 

 彼がこれまでに制作したものは、家具から装飾品まで多岐に及ぶ。

 

 その中でも、特に力を入れて制作した至高の御方であるアインズの銅像は、骨の僅かな凹凸まで精巧に再現された、牧場へ持ち込んだ際に暗闇でそれを目撃した彼の部下が本人と誤解するほどにまで精巧に作られたものだ。

 

 不敬であるために公言はしないが、彼の内心ではパンドラズ・アクターよりもアインズを再現しているという思いすらあったほどのものである。

 

 現在、その銅像はデミウルゴスが管理しており、牧場で定期的に彼が使用している。

 

 そんなものを作り上げるほどにまで、工作に熱中している彼。

 彼は今日、その銅像を超えるものを作り上げようとしていた。

 

 

 その名も、メタル化アインズ・ウール・ゴウン。

 名前の通り、金属製の模型である。

 

 

 それもただの模型ではない。僅かな凹凸まで再現され、骨の一本一本に至るまで取り外し可能な、非常に精巧な模型だ。

 

 パンドラズ・アクター協力の下、至高の御方の骨一本一本を間近で観察して設計されたそれは、完成すればまさに瓜二つの物が出来上がるだろう。

 

 

 部屋の片隅に置かれた金属のブロックを一瞥して、デミウルゴスは気合いを入れる。

 材料は最低限しかないため、失敗は許さない。失敗した材料は、パンドラズ・アクターに溶かして作り直してもらうということができないわけではないが、それには彼に貸しを作る必要があるのだ。可能であればしたくない。

 

 飛散した金属の滓で部屋をあまり汚さないために、大きめの厚手の布を一枚、床に敷く。

 そして、以前作成していた作業台をその上に置き、机の上に二百枚ほどの紙を置いた。

 

 この紙には、一枚ごとに骨一本分、模型の設計図が描かれている。

 設計図には、骨の絵だけではなく、数多くの数字、線などが書かれ、デミウルゴスの製作に対する熱意を窺わせた。

 

 さらに、設計図のすぐ横に、部屋の隅にあった大きな木箱を置く。

 箱の蓋を開けると、そこには白い大量の骨がしまわれていた。

 

 これは、デミウルゴスが前回の休日で完成させた、羊の骨でできたアインズの模型である。

 皮や肉とは異なり、デミウルゴスが経営する牧場で余り気味だった骨を再利用する目的で作ったものだ。

 

 金属よりも加工が容易であったため、数回の休日で製作することができた。

 

 今回の金属模型は、この骨を参考に作成することになる。

 

 加工に使用する鑢などの道具は、事前に作成して作業台の引き出しにしまってあるために問題はない。

 

 作業台の横に今日加工する予定の金属を置き、席に着いた。

 

 

 

「―――ふぅ」

 

 軽く深呼吸をして、頭の片隅にあった雑念―――明日の仕事などに関する諸事への思考―――を振り払う。

 そして、目の前の金属を理想的な形へと変える事に意識を集中させた。

 

 ―――その直後、部屋の扉が軽くこつこつとたたかれる。

 

 デミウルゴスは、その音は気のせいだと思ったが、それから数秒後に再びこつこつという音がしたことから、気のせいではないと判断した。

 

 彼は、金属の粉で服を汚さないための前掛けを外し、叩かれた扉を開ける。

 

 ドアの向こうには、デミウルゴスの部下であるプルチネッラの姿があった。

 

「お休みのところ申し訳ありません。

 デミウルゴス様、牧場で採れたオーガの骨をお持ちしました」

 

 見れば、プルチネッラの手には大量の骨が詰め込まれた

 

「ありがとうプルチネッラ、羊たちの骨はそれなりにたくさんあるのですが、オーガの骨はそれほど多くは持っていないので助かりました」

「いえ、デミウルゴス様のお役に立てることわ、私にとって非常に幸福なことですから」

 

 デミウルゴスの言葉に、プルチネッラは笑顔で答える。

 

「ところで……もしやお邪魔でしたか」

 

 ドアの隙間からデミウルゴスの部屋の中を見たのか、恐る恐るといった口調でプルチネッラはデミウルゴスに問いかける。

 

「いえ、まだ始めてはいませんでしたから、特に邪魔だとは感じていませんよ」

「そうですか、そう言っていただけるとありがたいです。

 でわ、お休みのところ失礼しました。幸福な休日をお過ごしください」

「ああ、プルチネッラも仕事を頑張ってくれ」

 

 デミウルゴスに軽く頭を下げると、プルチネッラはドアの前から立ち去っていった。

 デミウルゴスはそれをしばらく見つめ、プルチネッラが戻ってこないことを確信してから扉を閉めた。

 

「―――少し、間が悪かったですね」

 

 彼はプルチネッラのタイミングの悪さに苦笑いすると、手に持った箱を部屋の隅に置いた。

 

 さて、作業の再開である。

 

 部屋に置かれた無限の水差しで喉を潤すと、外した前掛けを身に着け、彼は再び作業台の前の椅子に座った。

 

 

「―――ふぅ」

 

 軽く深呼吸をして、頭の片隅にあった雑念―――明日の仕事などに関する諸事への思考、そしてプルチネッラに対する微かな苛立ち―――を振り払う。

 そして、目の前の金属を理想的な形へと変える事に意識を集中させた。

 

 ―――その直後、部屋の扉が軽く、しかし少し強めにこつこつとたたかれる。

 

 デミウルゴスは、その音は気のせいだと思ったが、それから数秒後に再びこつこつという音がしたことから、気のせいではないと判断した。

 

 彼は、金属の粉で服を汚さないための前掛けを外し、叩かれた扉を開ける。

 

 そこには、酒瓶片手に変な顔で笑うシャルティアの姿があった。

 

 完全に酔っ払いである。

 

「―――デミウルゴスぅ、少し飲まない?」

 

 そう言って、彼女は手に持った瓶を掲げる。

 瓶の中身は満杯で、酔いに対する耐性を持たないデミウルゴスがシャルティアに付き合えば、確実にこの休日を潰してしまうことを確信させた。

 

 しかも、瓶をよく視れば、ラベルにはスピリタスと書かれている。

 アルコール度数96度、蒸留で作る限界のアルコール度数を持つお酒である。彼が飲めるものではない。

 

「悪いが、今日はそんな気分ではないんだ。アルべドやマーレ、アウラを誘ってはどうだろう。

 男性である私よりも、彼女たちの方が話が合うのではないかな?」

 

 とりあえず、他の守護者に押し付ける。

 マーレとアウラはわからないが、アルべドは最近お酒を嗜み始めたようだから、彼女との方が話が進むだろう。

 

「そういえば、アルべドは今日休日だったはずだろう。最近仲がいいようだし、二人で飲んでくるといい」

 

 丁度いいスケープゴートがいるのだ。どうせなら彼女に押し付けるのがいいだろう。

 そんな考えの下口にされた彼の言葉。その言葉を聞いたシャルティアは、少し考え込んだ。

 

「……アルべドさ――んを誘うわけにはいかないでありんす。

 デミウルゴスぅ、どうか飲んではくれないでありんすかぁ」

「アルべドさん?

 ……悪いかもしれないが、私は今日はお酒を飲む気にはなれなくてね。

 誘ってくれたのは嬉しいが、今日のところは勘弁してもらえないかな?」

 

 (気分だけとはいえ)酔って涙目になってしまっているシャルティア。

 彼女は、デミウルゴスのスーツの裾を掴むと、縋りつくように涙目で上目づかいを向けてくる。

 

「デミウルゴスぅ……」

 

 どのような男性であっても、それこそ女性ですら胸を打たれるような仕草。

 きっと、ここに彼らの主がいれば、精神を沈静させられていただろう。

 

 

 ―――だが、デミウルゴスは例外だ。

 

「申し訳ないシャルティア。他を当たってくれ」

 

 デミウルゴスは、酔っ払ったシャルティアの仕草に心を打たれるような存在ではない。

 

「……わかりんした。アルべドと飲んでくるでありんす」

 

 デミウルゴスが少々冷たくあしらうと、シャルティアは寂しげな様子で答えた。

 

「すまないね、シャルティア」

「いえ、急に押し掛けた私が悪かったでありんす。

 ……デミウルゴスは、何かやりたいことがあったのでありんしょう。そんなデミウルゴスを巻き込もうとした私が悪かったでありんす」

 

 扉の隙間から、デミウルゴスの部屋の中を覗いていたのだろう。

 シャルティアは、デミウルゴスが何かをしようとしていたことに気が付き、決まりが悪そうな様子でうつむく。

 

「では、今度誘ってもらえるかな?

 まあ、私はシャルティアほど酒が得意なわけではないから、スピリタスを瓶で持ってくるようなことは勘弁願いたいが」

 

 流石のデミウルゴスも、シャルティアのその表情に罪悪感がわいたため、また次の機会に一緒に飲もうと誘う。

 

 デミウルゴスのその言葉を聞いたシャルティアは、泣くことを止め、笑顔で誘いに応えた。

 

 

 

 

 

 

 軽快な歩みで、シャルティアがデミウルゴスの部屋を後にする。

 デミウルゴスはそれをしばらく見つめ、シャルティアが戻ってこないことを確信してから扉を閉めた。

 

「―――酔っ払いの相手は、少々勘弁してほしいですね」

 

 彼はシャルティアの酒癖の悪さに苦笑いすると、自身のスケジュールを確認し、次のシャルティアの休みの日に合わせて少し調整した。

 

 さて、今度こそ作業の再開である。

 

 デミウルゴスは、部屋に置かれた無限の水差しで喉を潤すと、外した前掛けを身に着け、再び作業台の前の椅子に座った。

 

 

「―――ふぅ」

 

 軽く深呼吸をして、頭の片隅にあった雑念―――明日の仕事などに関する諸事への思考、プルチネッラに対する微かな苛立ち、そしてシャルティアに対するかすかな怒り―――を振り払う。

 そして、目の前の金属を理想的な形へと変える事に意識を集中させた。

 

 ―――その直後、部屋の扉が軽く、優しめにこつこつとたたかれる。

 

 デミウルゴスは、その音は気のせいだと思いたかったが、それから数秒後に再びこつこつという音がしたことから、気のせいではないと諦めた。

 

 彼は、金属の粉で服を汚さないための前掛けを外し、叩かれた扉を開ける。

 

 そこには、大きく装いを変えたアルべドの姿があった。

 その彼女からは、かなり強烈なアルコールの匂いがする。

 

 ―――デミウルゴスは、無言で扉を閉めた。

 

「……疲れているんですかねぇ」

 

 そう呟いて、彼は自身の手を確認する。

 そこには、肉体の疲労を無効化する指輪があった。

 

 その直後、強く激しくどんどんと、デミウルゴスの部屋の扉が叩かれる。

 さらに、扉のむこうから何か怒鳴るような声も聞こえてきた。

 

「……見間違いでは無いようですね」

 

 ため息をつく。

 幻は、このように激しく扉を叩くようなことはできない。

 

 彼は、テーブルの上を片付けると、激しく叩かれる扉をゆっくりと開けた。

 

 ドアのむこうには、先ほどの光景と同じものが広がっていた。

 

「デミウルゴス、いきなり閉めるとはどういうつもりかしら」

「それはこちらの台詞です、アルベド。

 ……色々と言いたいこともありますが、とりあえず入ってください」

 

 少し低めな声で、デミウルゴスはアルべドを部屋に招く。

 彼女は、彼のその言葉に気を良くしたのか、ふふふと小さく笑うと彼の部屋に入った。

 

 ……明らかに酔っている。

 

 アルべドのために椅子をもう一つ用意し、部屋にある食器棚から彼女の分のコップを取り出す。

 

「水しかありませんが、かまいませんか?」

「ええ、いいわ」

 

 デミウルゴスがアルべドに確認をとると、アルべドは少し不満そうな顔をしながらも肯いた。

 

 それを聞いた彼は、コップに無限の水差しを傾け、自身と彼女のコップに水を注ぐ。

 彼は、一定の量が注がれたことを確認すると、その二つのコップを持って席に着いた。

 

「―――どうぞ。

 それで、守護者統括様は何の用があって此処に」

「ありがとう、いただくわ。

 ……何の用か、あなたわかっていて聞いているでしょう?」

 

 デミウルゴスから受け取った水を口にすると、アルべドはコップを置いて机を強く叩いた。

 

 

 

「―――アインズ様のご寵愛を受けることよ!!」

 

 

 微妙に返答になっていない。

 おそらく、酒に酔っているためだろう。

 

 デミウルゴスは小さくため息をつくと、彼女へと口を開いた。

 

「あー……それはわかるのですが、何故私のところに来たのですか?

 アインズ様の寵愛を得たいなら、私ではなくアインズ様のところを訪れるべきでしょう」

「あなた、わかっていて言っているでしょう。

 この姿を、何の躊躇いもなくアインズ様に見せられるわけがないわ」

 

 彼女はデミウルゴスにそう告げると、少し怒ったように腕を組んだ。

 

「まあ、確かにそうかもしれませんね」

 

 デミウルゴスは、視線を僅かに上、彼女の頭部に向ける。

 

「―――プレアデス達に影響でも受けましたか」

「ええ、そうよ。

 最近のアインズ様は彼女たちを重宝しているみたいでしょう」

「だから、彼女たちの特徴を取り入れてみたと……

 まあ、悪くはないかもしれませんが、私としてはお勧めしませんよ」

 

 シャルティアの一件以後、デミウルゴスの主は、ナーベラルとソリュシャン以外のプレアデス達がナザリック外へ出ることを禁止していた。

 その代わり彼の主は、ナザリック内の情報伝達などに彼女らを扱うことにしているようで、ナザリックにいる間は、常に傍にプレアデス達がいるという状況になっていた。

 

「……やっぱりそうよね」

 

 アルべドが静かにため息をつく。

 彼女の仕草に合わせる様に、彼女の顔にかけられた眼鏡が少し下がり、後頭部のポニーテールが揺れた。

 

「一つ一つは似合うと思いますよ。ただ、合わせると致命的に合いません。

 そのスリットが入った服も、眼鏡も、ポニーテールも、それ以外も、一つ一つは似合いますから、どれか一つに絞ってみてはどうでしょう」

「どれか一つ……ねぇ。

 ありがとうデミウルゴス、相談に乗ってもらえて助かったわ」

「いえ、礼には及びませんよ」

 

 彼女の言葉に、デミウルゴスは笑顔で応えた。

 

 お互いに、水で喉を癒す。

 ここでデミウルゴスは、ふと気になったことを彼女に問いかけた。

 

「ところで、その服や眼鏡などはどこで手に入れたのですか?

 外で、そのような物を見たことはなかったと記憶していますが」

「これかしら? 服は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 眼鏡とかの装飾品は、ほとんどはシャルティアから巻き上げたものね」

「巻き上げた……ですか」

 

 デミウルゴスは、今度シャルティアと飲むときは優しくしようと心に誓った。

 

 ―――丁度そのとき、部屋の扉が軽く、しかし少し強めにこつこつとたたかれる。

 

 さらに、扉の外からは微かに聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「噂をすれば影、ということですかね」

「そうね、ことわざというのも案外馬鹿にならないものだわ」

 

 デミウルゴスはため息をつく。

 どうやら、今日は創作活動にいそしむことはできそうになかった。

 

 

 

 

 その後、デミウルゴスの休日には、ものづくり以外の過ごし方が追加されることになる。




幕間もようやく折り返し。
次回はパンドラ回です。

-追記-
 四巻以降が手元から離れたので、大幅に更新が遅れます。
 戻ってくるのは三月か四月の予定

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