もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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申し訳ありません、遅れました。A型インフルエンザが原因です。
体温が39.7℃まで来たときは、死ぬかもしれないと思いました。


-追記-
感想で言われる前に先に言います。
盗賊・暗殺系の職業を修めた存在は、本来使用できない筈の魔法のスクロールを使用することができます。


とあるぽんこつメイドの話

 ナーベラル・ガンマは、ナザリックの戦闘メイドの一人である。

 

 その彼女は今日、主であるアインズ・ウール・ゴウンと共に、戦士モモンとその相方である魔法詠唱者ナーベとして冒険者組合を訪れていた。

 

 彼女の主が組合の扉を開くと、彼が無意識に発する支配者としての威圧感を感じ取ったのか、組合の建物の中にいたあらゆる冒険者、受付嬢、依頼人が彼に振り向いた。

 彼女の主であるアインズは、その視線を当たり前のように受け流し、平然とした様子でその中を歩く。

 

 至高の御方にとって、このような下等生物どもの視線など存在しないも同然なのだろう。

 

「モモンだ。先日受けた商隊の護衛依頼は今日で合っているかな?」

 

 彼は、受付嬢に一枚の紙を渡してそう告げた。

 

 今日、二人が冒険者組合を訪れたのは、数日前にとある商隊の護衛依頼を受領したためだ。

 依頼主と合流する前に、一度組合に立ち寄るように言われていたため、彼らはここ冒険者組合を訪ねていた。

 

 エ・ランテルが誇るアダマンタイト級の冒険者が目の前に現れたためか、一瞬受付嬢は緊張で動きを止める。

 だが、彼女は小さく深呼吸してすぐさま身を翻すと、カウンターの奥にあるコルクボードに張られていた紙をはがし、主の差し出した紙とそれを交換した。

 

「はい。本日から一週間、モモンさんには商隊の護衛が依頼されています。

 こちらの紙に、今回の依頼に関するある程度の仔細が記載されていますが、今回の依頼に同行する別の冒険者など、こちらに記載されていないいくつかの情報があります。合流場所であるエランテルの西門に行けば本人から情報を聞くことができるかもしれませんが、念のためこの場でお聞きになられますか?」

「いや、不要だ」

「かしこまりました。では、依頼の成功を願っております」

 

 受付嬢が頭を下げる。

 それを見たアインズは、目の前に置かれた紙を手に取ると組合の外に足を向けた。

 

 当然、ナーベラルはその後ろを追う。

 

 ナーベラルやアインズの食料、正確に言えばカモフラージュのための食料や野宿の用意などは前日の内に済ませており、ナーベラルとアインズが今背負っている背負い袋に詰められていた。故に、今から何かを買いに行く必要はない。

 

 二人は、依頼主に指定された集合場所に足を向けた。

 

 

 

 集合場所にたどり着くと、そこにはいくつもの馬車が集まっていた。今回の依頼で護衛するのはこの馬車達であろう。

 

 主であるアインズは、その中にいた偉そうな下等生物の一匹と何かを話し始めた。

 その間、暇になったナーベラルは、辺りの下等生物達(ウジムシども)を見回す。

 

 彼等は、アインズとナーベラルを尊敬の念が籠った視線で見つめていた。

 

 ナーベラルは、その光景に満足げにうなずくと、主の会話に耳を傾ける。

 

 彼女の主と商人は、ある程度世間話をした後に依頼についての処理をしていた。

 

「―――はい、組合からの書類は受け取らせていただきました。

 他の冒険者の方も先ほど到着されたので、そろそろ出発します。よろしいですか?」

「なるほど、待たせてしまったようで申し訳ない。こちらの準備は整っていますので、いつ出発しても構いませんよ」

「っ!? そんな、礼など必要ありません。本来であれば約束の時間にはまだ遠いのですから、むしろ合わせていただいたこちらが礼を言う立場です」

 

「ちっ」

 

 小さく、誰にも聞こえないような音量で、ナーベラルは舌打ちをする。

 いかなる理由があれ、本来であれば彼女の主が下等生物ごときに頭を下げるなどおかしいのだ。故意であれ過失であれ、許されることではない。その塵にも劣る頭を差し出して、主が慈悲を下すのを賛歌しながら待つべきだろう。

 

 だが、彼女の主はそれを望んでいない。苦々しくもあるが、彼女は商人の無礼を見逃さざるを得なかった。

 

 

 

 依頼主に指定された場所へと彼らが赴くと、そこには二人の男女の姿があった。

 女の方は、その服装からしておそらく魔力系魔法詠唱者。男の方は、弓を持っていることからレンジャーだと推測できる。

 

 ナーベラルがそう考えた時、男がこちらに気が付いたのか、軽く手を振ってきた。

 

「おはようございます、漆黒のお二方。私はジェラルド・レイン。銀の冒険者でレンジャーをしています。

 エ・ランテルが誇るアダマンタイト級のお二人と仕事を共にできるなど、まさに感動の極みです。今回の依頼の間、よろしくお願いしますね」

「そう言っていただけると嬉しいですね。私はモモン、彼女が相方のナーベ。王都までの短い間ですが、こちらこそよろしくお願いします」

 

 ナーベラルは、目の前の主が頭を軽く下げるのに合わせ、内心殺意をたぎらせながらも頭を下げる。

 主のその行動が、冒険者モモンの謙虚さをアピールするための物であるとは理解してはいるが、ナザリック地下大墳墓を統べる絶対支配者がこのような下等生物(カメムシ)ごときに軽くとはいえ頭を下げるのは正直受け入れがたい物だった。

 しかし、これも主の意志である。妨げることはあり得ない。

 

「あら、おはようございます」

 

 ふと、側にいた魔法詠唱者の女がこちらに挨拶をしてくる。

 

 女は、主とナーベラルに微笑みかけると、木製の杖を手に軽く頭を下げた。

 

「アダマンタイト級の冒険者、『漆黒』のお二人ですね。依頼を共にできて光栄です。

 私は、キャロル・モーティナー。見ての通り魔法詠唱者です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、短い間ですがよろしくお願いします」

 

 また、彼女の主が頭を下げる。

 苦々しく思いながら、彼女も彼に合わせて頭を下げた。

 

 

 

 そして、アインズとナーベラルは、初めてとなる大規模な護衛依頼を行うこととなった。

 

 

 

 アインズとナーベラル、そしてレンジャーの男と魔法詠唱者の女に任されたのは、行く道を先行しての偵察だった。

 商人や商品の積み込まれた馬車などの直接的な護衛は、商人達が子飼いにしている元冒険者達が行うらしい。

 

 四人は、レンジャーの男を先頭に王都までの道を進んでいた。

 

 モンスターや魔物の探索は、基本的にレンジャーの仕事だ。そのため、敵が見つかるまでは他の三人は暇になる。

 

 会話のない状況に耐えきれなかったのか、魔法詠唱者の女がナーベラルとアインズに話しかけてきた。

 

「ところで、魔法詠唱者と戦士の二人で仕事をするのは大変ではないのですか? レンジャーや神官がいないパーティーは珍しいと思うのですが……」

 

 彼女が問いかけてきたのは、二人のパーティー構成についてだった。

 確かに、彼女の主は対外的には戦士で、ナーベラル自身は魔法詠唱者だ。戦士と魔力系魔法詠唱者だけという組み合わせは、冒険者としての活動に向かないのは事実である。

 

 その点については、ナーベラルも不思議に思っていた。

 冒険者として活動するのであれば、ナーベラルに加えて、回復役としてルプスレギナ、情報収集役としてエントマが入ってしかるべきだろう。いや、盗賊系技能を持っていることを考えれば、ソリュシャンがエントマの代わりに入るのだろうか。

 ともかく、ナーベラルだけしか共に仕事をこなす仲間がいないのはおかしい。追加で人員がいてもおかしくない筈なのだ。

 

 女の質問を受けた主を、ナーベラルはこっそり見つめる。

 

 彼女の主は、女の問いかけに対し少し考え込んでから答えた。

 

「……少々嫌味に近い言い方になってしまうのですが、なかなか私たちに近い実力の方がいないのですよ。パーティー内で大きな実力差が存在するというのは、戦闘でも探索でも人間関係でも、色々とトラブルの元になりますから」

 

 思いがけず、ナーベラルは背後にいたアインズの方に音を立てて振り向いてしまった。

 

「どうかしたのか、ナーベ」

「い、いえ、何でもありません」

 

 ナーベラルは、主からの問いかけに対しどもりながらも何でもないかのように返答して前を向いた。

 

 アインズのその言葉。それはつまり、ナーベラル・ガンマという存在がアインズの隣に立つにふさわしい存在であると認められていることを意味する。

 なんという幸福だろう。ナーベラルは、主の役に立てているのだ。これに勝る喜びは、主に直接褒美を授かるような特殊な例を覗いて、そうそうないだろう。

 

 天にも昇るようなという修飾詞は、まさにこのような時に使われるに違いない。

 

 柄でもなく鼻歌でもしてしまいそうな気分で、ナーベラルは笑顔を浮かべる。

 

 その後、ナーベラルは、二人の話の続きが少し気になったので、二人の姿を僅かに視界に納めながら歩くことにした。

 

「―――へぇ、言われてみればたしかにそうかもしれませんね。

 ジェラルド、前にいるレンジャーの彼も、結構苦労していると聞きますから」

「お二人はお知合いですか?」

「はい。彼は、私が二年前までパーティーを組んでいた相手の一人なんです。

 ジェラルドは、二年前までは白金だったのですが、私のいたパーティーが解散した後、実力差が激しい相手と新しくパーティーを組んでしまったようで、人間関係でトラブルを抱えた挙句、少々問題を起こして銀にまで降格されてしまったようなんです。

 あまり触れてほしくないことらしいので詳しくは聞いていませんが、白金から銀ですから、相当なことをしでかしたのだと思いますよ」

 

 女は、そう言って先を行く男を見つめる。

 

 下等生物(カメムシ)下等生物(カメムシ)自慢をされたところで、一体なんだというのか。

 いきなり不幸の自慢を始めた女に、ナーベラルは少し不快感を感じた。

 

「冒険者の降格と言うのは、そう珍しくはない物なのですか?」

 

 話題を変える様に、アインズが女に話題を振る。

 女は、その気遣いを感じたためか、先ほどまであった声の陰りを消して彼女の主の話に食いついた。

 

「いえ、かなり珍しいことです。

 老いや怪我などを除いて、冒険者が降格処分を受けるということはほとんどないです。普通の冒険者が降格されるようなことをしでかした場合、普通は一発で除籍されますから。

 降格という処分は、はっきり言って対外的な『罰を与えましたよ』というアピールにすぎません。降格なんて、依頼を頑張れば昇格して意味のなくなってしまう物ですからね。降格というのは、組合に除籍するには惜しいと判断された冒険者に対して除籍の代わりに行われる、ちょっと厳しい警告の様なものです」

 

 実際、ミスリル以上の人が除籍されたなんて話は全く聞きませんし。

 女はそう言うと、小さくため息をついた。

 

「なるほど。罰を与えなければならないが、除籍するわけにはいかない。そういった有能な冒険者の保護のための罰、それが降格といったわけですね」

「そうです。

 商人はともかく、貴族の方々はそれで『十分な罰が与えられた』と騙されてくれる人が多いようなので、頻繁に、とは言わない程度には組合はそういうことをやってるみたいです。

 例えば、これはあまり大きな声では言えた話ではないのですが、とある高位の冒険者グループが王国の国王派の人間から、貴族派の営む麻薬を栽培している荘園を潰してほしいという依頼を受けたことがあったらしいです。

 あ、麻薬に関する説明はいりますか?」

「ええ、知っていますから大丈夫ですよ」

「なら、話は早いですね。

 その冒険者達は物理的に荘園を潰したらしいのですが、潰した際に隙を見せてしまったのか、貴族側の人間にそれを冒険者がやったことが露呈してしまったんです。

 それを察知した組合は、架空の大規模冒険者グループをでっち上げて、そこに実行した冒険者を移籍。ほとんどの責任を架空のリーダーに押し付けて、依頼に参加した冒険者達に対する処罰は降格だけに済ませた、ということがありました」

 

 その女の魔法詠唱者は、胸元にある金色のプレートを弄んで、苦笑いを浮かべた。

 

「勿論、架空のリーダーとメンバー達は、その責任を追われたという形で、事務処理上は冒険者組合を除籍されたことになったらしいです。

 いない存在をいることにし続けるというのは、かなり大変なことですからね」

「話を聞く限り、冒険者というのは随分と後ろ暗い依頼もやっていそうですね」

「ええ、そんな仕事は多くはありませんが、少なくない程度にはあります。

 ただ、本当に公にしたくない仕事、というのは組合にされる依頼にはまずないですよ。組合の保管している資料に、そんな依頼が存在したという事実が残ってしまいますから。

 その手の依頼は、冒険者個人に直接依頼されるか、ワーカーという……そうですね、組合を介さずに直接仕事を受注している方々が行っていることが多いです。冒険者が組合から依頼を受ける限り、その手の面倒ごとに巻き込まれることは基本的にないですよ」

「そうですか。少し、安心しました」

 

 女の言葉に、彼女の主であるアインズは、安堵したかのような声色で答えた。

 

 そんな時、ある程度前を歩いていたレンジャーの男が、三人に向かって手を振っているのが見えた。

 

「モモン様」

「ああ」

 

 それに気が付いたナーベラルの声に、アインズが答える。

 それと同時に、彼女の頭部を手刀で軽く叩いた。

 

「……わかったわ、小鬼(ゴブリン)が12匹に人食い大鬼(オーガ)が4匹ね。

 ジェラルドから伝言(メッセージ)が来ました。敵は小鬼(ゴブリン)が12匹、人食い大鬼(オーガ)が4匹だそうです」

「了解しました。

 それでは、人食い大鬼(オーガ)は私が。小鬼(ゴブリン)はキャロルさんがお願いします。ナーベは小鬼(ゴブリン)の対処を」

「畏まりました」

「わかりました。

 『伝言』(メッセージ)―――ジェラルド、敵を寄せたら一旦退いて。人食い大鬼(オーガ)はモモンさんが、小鬼(ゴブリン)は私とナーベさんでやるわ」

 

 女がそう言い終えた直後、先を進んでいたレンジャーの男が森の中に何かを投げるそぶりをする。

 その直後、激昂した様子の小鬼(ゴブリン)人食い大鬼(オーガ)が森から跳び出してきた。

 

 それを確認したためか、レンジャーの男は弓を射ながらナーベ達の方に走ってくる。

 

「ナーベ」

「はっ」

 

 それを確認したためか、アインズがナーベラルに声をかけてくる。

 その声に応じる様に、彼女は右手に雷の輝きを灯した。

 

『電撃』(ライトニング)

 

 彼女の手から放たれた雷は、空を斬り裂いて一体の小鬼(ゴブリン)の腹部を貫通する。

 急に降り注いだ魔法に驚いたのか、モンスター達はその動きを止めた。

 

「流石だな」

 

 アインズのその言葉がナーベラルの耳に届くと同時に、彼女の視界の先、モンスター達の集団の前にアインズが出現する。

 『完璧なる戦士』(パーフェクト・ウォーリアー)、それによってLv100戦士としての身体能力を手にしたアインズは、Lv62の魔法詠唱者であるナーベラルには捉えることすら難しいほどの動きを可能としていた。

 何か魔法を使ったわけではない。おそらく、ただ走って近づいただけなのだろう。

 それだけのことですら、彼女には見ることが叶わなかった。

 

 しかし、ナーベラルはそんな事は全く考えていなかった。

 

 30以上のレベル差がある上に魔法詠唱者である彼女が、戦士であるアインズのその動きを見切ることができる方がおかしいと考えていたためだ。

 

 そしてもう一つ、その事を全く気にしていなかった理由がある。

 

 ―――アインズ様に褒められた

 

 ナーベラルの思考は、それ一色に染まっていた。

 ナザリックに属する存在にとって、最後の至高の御方に褒められるということは何にも勝る出来事である。

 

 

 喜びのあまり呆けるナーベラルをよそに、アインズと他二人によりモンスター達は殲滅された。

 

 

 

 

 その後、夜襲をしてきた(ウルフ)を追い払う、商隊を罠にかけようとしていた盗賊団を殲滅するなど仕事をこなし、彼らは最終日を迎えることになった。

 

 

 

 

 

 それに気が付いたのは、レンジャーの男だった。

 

「―――王都の方から、変なモンスターが来る?」

 

 レンジャーの男から『伝言』(メッセージ)越しに聞いたその言葉に、魔法詠唱者の女が怪訝な声を発する。

 

 その声を聞いたナーベラルとアインズも、彼女の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。

 元白金のレンジャーが変なモンスターと言うのは、なかなかあることではないからだ。

 

「変なってだけじゃわからないわよ。もっとわかりやすく言いなさい。

 ……大型の虫系モンスターね、わかったわ。

 ―――大型の虫系モンスターだそうです。ただ彼が、見たことがないモンスターの様なので注意してほしい、と」

「見たことがないモンスター、ですか」

「はい。もしかすると、大森林の奥地に生息しているようなモンスターかもしれません。

 未知の毒などを持っていることを警戒して、念のため私とナーベさんの魔法で距離をとって殲滅するという形でよろしいですか」

 

 女は、ナーベラルに対して問いかけるのではなくアインズに対して問いかけていた。

 ここ数日で、彼女に話しかけても会話にならないと理解したためだ。

 

「ええ、かまいません」

 

 女のその言葉を、アインズは了承する。

 それを聞いた魔法詠唱者の女は、安堵した様子を顔に浮かべてレンジャーの男がいるはずの方を見た。

 

 彼女の視線の先には、ナーベラル達の方へと疾走する男の姿が見える。

 さらにその先には、真っ赤に目を輝かせる黒く巨大な虫の姿が見えた。

 

「なるほど、カマキリか」

 

 それを見たアインズは、傍にいたナーベラルだけに聞こえるような小さな声でそう呟いた。

 どうやら、あの虫はカマキリと呼ばれる虫らしい。

 

「それじゃあナーベさん、いくわよ―――『魔法の矢』(マジックアロー)

 

 魔法詠唱者の女が『魔法の矢』(マジックアロー)を唱え、カマキリに対して魔力でできた矢を放つ。

 

『電撃』(ライトニング)

 

 それに合わせ、ナーベラルも『電撃』(ライトニング)の魔法を放った。

 

 魔法による攻撃を受けたモンスターは、胴体を『電撃』(ライトニング)によって貫かれ、『魔法の矢』(マジックアロー)により頭部と両手の鎌を破壊される。

 

「やったな」

「やったわね」

 

 三人のところまでたどり着いたレンジャーの男と、杖を握りしめた魔法詠唱者の女は、共にモンスターを倒したことを確信した。

 

 しかし―――

 

「いや、まだだ」

 

 アインズが、他の全員に聞こえる様に呟く。

 

 すると、アインズの言葉を裏付けるように、モンスターの傷が修復された。

 

「……再生能力だと!?」

 

 レンジャーの男が驚愕の声を上げる。

 

 驚愕する男を無視して、再生すると同時にナーベラル達の元へと疾走するモンスターに対しアインズが剣を投擲する。

 

 漆黒に煌めく大剣は、宙を滑空してモンスターを大地に縫い付けた。

 

「ナーベ、『電撃球』(エレクトロ・スフィア)だ」

「畏まりました。

 ―――『二重最強化(ツインマキシマイズマジック)電撃球(エレクトロ・スフィア)』っ!!」

 

 縫いとめられたモンスターに対し、ナーベラルの放った二対の『電撃球』(エレクトロ・スフィア)が着弾する。

 その雷の塊により、モンスターは消し飛ばされることとなった。

 

「凄いわね。普通の第三位階の魔法よりもかなり威力があるわ」

 

 魔法詠唱者の女が、ナーベラルの魔法に驚きの表情を浮かべる。

 

 そんな様子の女をナーベラルは鼻で笑い、アインズの手刀により軽くたたかれた。

 

 

 

 

 その後は、特に問題なく商隊は王都にたどり着いた。

 

 アインズ達は商人から報酬を受け取り、二人に別れを告げた後、王都の冒険者組合に足を向ける。エ・ランテルに戻るついでにお金を稼ぐため、エ・ランテルへと向かう商人の護衛依頼を探すのだ。

 

 その途中の道で、

 

「あれ、モモンさん?」

「ん?」

 

 ナーベラルとアインズは、野菜の詰まった袋を持ったクレマンティーヌに遭遇した。


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