もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら 作:更新停止
今後の更新については、活動報告に挙げてあります。
この話書いてから気が付いたのですが、シャルティア戦直前にとあるシーンを入れ損ねていたことを思いだしました。
シャルティア・ブラッド・フォールンは、吸血鬼である。
本来ナザリック地下大墳墓の第1~3階層を守護しているはずの彼女は、今となっては唯一の至高の御方に下された命に従い、守護者統括であるアルべドと共にスレイン法国に潜入していた。
彼女が今いるのは、スレイン法国の首都ともいえる都、神都。
そこに住むとある一家を魅了し、その住まいを拠点にスレイン法国の調査を行っている。
そして彼女は、今その拠点のベッドの上で一人くつろいでいた。
任務を共にしているアルべドは、今ここにはいない。
先日一緒にバーで酒を飲んだ後、アインズ様に近いうちに食事を共にしないかと誘われた為、その時の衣装を探しているそうだ。
「あー、やってられないでありんす」
任務はどうしたと彼女に言いたいところであったが、年増のためか難聴でこちらの話は聞いていない様だったので言うのを止めた。
人の話もろくに聞けないとは、ババアには困ったものである。
ブーメランとして帰ってきそうなことを考えつつ、シャルティアはため息をついた。
衣装作成に関するNPCがいないナザリックで、いったいどうやって衣装を用意するのだろう。
まさか手縫い? できなくはないだろうが、そんなことを本気でするつもりなのか……
そもそも、至高の御方から与えられた服を脱ぎ、そうではないものを身に着けるなど不敬に値するのではないだろうか。
いくらアインズ様をよろこばせる為とはいえ、それはさすがに如何な物なものか。
「……さすがに、考え過ぎでありんすね」
なんだかんだ言って、あの大口ゴリラは頭がいい。彼女の中で問題ないという結論が出たのなら問題はないのだろう。
シャルティアはそこで考えるのを止めた。
―――暇だ。
そんなことを考えながら、シャルティアは再びため息をつく。
シャルティアの仕事は、吸血鬼の花嫁たちで対処できない存在が現れなければ始まらない。
囮である彼女らに何者かが食いついて、初めてそれに対処する存在であるシャルティアが仕事をするのだ。それまでは本当に暇である。
神都に潜入してから四日目であるが、本当に脅威となる敵が現れる気配はない。
自身を殺したのがスレイン法国であるという情報が、何か間違いであったのではないかと思ってしまうほどだ。
「この思考は不敬でありんす」
そう考えた時点で、アインズ様の言葉を疑ってしまったことに気がついたシャルティアは、その思考を打ち切る。
ただでさえ、彼女は何者かに洗脳されるという失態を犯しているのだ。少しでも不敬になることは慎むべきだろう。
「―――あー、ひまでありんす」
ベッドに身体を大きく叩きつけ、彼女はまたため息をついた。
そんなわけで、暇に耐えきれなくなったシャルティアは、夜の神都を散歩して回ることにした。
その場に某死の支配者や某守護者統括がいれば全力で阻止しそうな行動だが、残念ながら彼女を止める存在はこの場にはいない。
人影のない夜の街、彼女はそこを軽い足取りで徘徊する。
時刻は日付も変わろうかという深夜、そんな時間と言うこともあってか、シャルティアは明かりの灯っている建物すら見かけることはなかった。
彼女は、路地裏を歩き、大通りを眺め、建物の屋根から屋根を飛び移る。
そして神都を見て回った後、しばらくしてとある明かりの灯った建物を見かけた。
よく見れば、何か看板の様なものが入り口付近に吊るされており、そこが何かの店であることが見て取れる。
「……『眷属招来』」
月明りによって生まれたシャルティアの影から、一匹の小さな蝙蝠が飛び出す。
彼女は蝙蝠をその店の中に飛ばすと、店の様子を眺めた。
しばらく見ていたが、特に大きな騒ぎはない。
「眷属が殺された感じもないでありんすし、問題なさそうでありんすね」
シャルティアはそう言って、懐にしまっていたいくつかのアイテムを装備、使用する。
それらのアイテムにより、彼女の髪の色は金色に変わり、高位の魔法詠唱者としての威圧感は無くなり、アンデッドとしての気配は消え去った。
さらに、吸血鬼として特徴的なその眼に、薄紫色のカラーコンタクトの様なアイテムを装備する。
あっという間に、シャルティアは顔色が悪く犬歯の長いだけのごくごく普通の金髪の少女に姿を変えていた。
「さて……」
彼女は、路地裏から跳び出すと小走りでその店の中に入った。
「へい、いらっしゃい!!
……と、おい嬢ちゃん。こんな時間に外にいるなんて感心しねぇぞ、ご両親が探し始める前にさっさと帰りな」
「私はこれでも大人でありんす、子ども扱いしないでおくんなし」
そこは、酒場だった。
時間のためか人影は少なく、カウンターの席に栗色の男性が一人いるだけだ。
奥にある個室の様子はわからないが、カウンターの様子からして人はいないだろう。
「はいはい、子供は大抵そういうもんなんだよ。
嬢ちゃん、親に心配をかけるのは良くないぞ。さっさと帰りな」
「子供ではありんせん、あまり舐めないでおくんなし」
「わかったわかった、子供じゃないのな。
わかったから良い子は帰りな、こんなとこにいるのは危ないぞ」
子供ではないとシャルティアは主張するが、彼女の目の前の男はそれを聞く気配が無い。
「だ、か、ら、私は子供でないと言って―――」
内心、目の前の人物の血を啜りミイラにでもしてしまおうかと考えたシャルティア。
その思いを抑えつつ、男に言い返そうとした彼女の言葉は、唯一の客であろう男性に遮られた。
「―――マスター、今この時間に彼女を親元に返すのはやめた方がいいのではないでしょうか」
「いや……だが、しかし…‥」
男の言葉に、酒場の主は狼狽したような様子で言葉を返そうとする。
彼の様子は、まるで至高の御方を前にしたマーレの様だった。
……もちろん、彼の様なあどけなさやあざとさは欠片も感じないが。
「この時間、夜の世界は本来モンスターの統べる世界です。いくらここが神都とはいえ、そんな中に一人放置するなど問題です。此処であれば、仮に万が一があっても私がいますから何かあっても対処できますが、外ではそうはいきませんから親の元へ帰すのは良くないでしょう。
それに、もし本当に彼女が大人であるのなら、店から追い返すのは逆に失礼です」
優し気な様子で、男は酒場の主である彼に訴える。
そんな男の様子に彼はため息をつくと、しぶしぶといった様子でシャルティアの方を向いた。
「まったく、あの人に感謝しろよ」
彼は、カウンターの席に一杯のホットミルクを置いた。
何も頼んでもいないのに出したということは、彼なりのわびという物なのだろう。
彼のその様子に、シャルティアは怒りを納める。
少し冷静になり、彼女がここで暴れた場合に主やアルべドにどれほど迷惑がかかるか思い至ったからだ。
シャルティアはカウンターの席に着くと、出されたホットミルクを口にした。
ミルクには、砂糖が入っているのか僅かに甘みがあり、さらに僅かにアルコールが入っているのかお酒独特の風味がする。
―――いや、風味がするだけで、アルコールは飛ばしてあるでありんすね
シャルティアはそのことに気が付くと、もう一口だけミルクを口にしてカップを置いた。
彼女が飲んだホットミルクの熱のせいか、なんとなく身体が温まった気がする。
「マスター、私も彼女が飲んでいるのを貰えるかい」
ふと、近くに座っていたあの男が、酒場の主に注文する声が聞こえた。
そういえば、この男がとりなしたために自分は此処に入れたのだったか。
そう考えたシャルティアは、男と話をするために席を移動する。
「助かったでありんす。私は成人しているでありんすが、どうもこの見た目のせいで勘違いされることが多いでありんす。礼を言わせておくんなし」
「いえ、構いませんよ。正直に言えば、一人でお酒を飲むことに飽きて、話し相手が欲しかっただけですから。
ところで、どうしてこんな時間に外に出ていたのですか?
いくら神都とはいえ、この時間に外に出ることはあまり推奨されることではない筈ですが」
男の言葉に、シャルティアは、この任務における自身の"設定"を思い返す。
「護衛の任を解かれて暇になったので、暇をつぶすために神都を見て回っていたでありんす。
危険に関しては、万が一私が戦えなくともこの子がいるから大丈夫でありんすえ」
シャルティアがそう言うと、どこからか現れた一匹の蝙蝠が彼女の肩に留まる。
「っ!?
モンスターテイマーなのですね。なるほど、それなら酒に酔っても大丈夫ですし、蝙蝠系のモンスターであれば夜目が利きますから夜でも安心でしょう」
急に現れた蝙蝠に驚いた様子の男であったが、すぐに顔を戻して言葉を返した。
「ところで、あなたはどこでそのモンスターを捕まえたのですか?
一見するとただの蝙蝠に見えますが、普通の吸血蝙蝠ではありえない力を感じます」
男は、シャルティアの方に留まっている蝙蝠に目を向けながら、彼女に問いかけた。
シャルティアは、男のその質問に外向きの笑顔を作りながら、あらかじめ設定していた解答を答える。
「秘密、でありんすえ。なにせ、私にとってこの子は大切な商売道具でありんすから」
「ははは、そうですね。あなたがワーカーか冒険者かはわかりませんが、護衛の仕事をなさっている方に強さの秘密に関わる質問をするのは余り良くないことでした。配慮が足りなくて申し訳ない」
苦笑いを浮かべ、男は軽く頭を下げる。
そんな男に、シャルティアはふと気になったことを問いかけた。
「別に構わないでありんす。
それにしても、どうしてこの子が普通の吸血蝙蝠でないと感じ取れたでありんすか?
私の知り合いには、この子のことに気が付いた人間はいなかったでありんすが……」
シャルティアが気になったのは、そのことだった。
シャルティアの眷属である古種吸血蝙蝠は、普通の蝙蝠と外見はほとんど変わりがない。普通の人間であれば、この蝙蝠が普通の蝙蝠だと誤解するだろう。
それにもかかわらず、なぜ彼は見破ることができたのか、彼女にはそれが疑問だった。
「ああ、それは私もモンスターテイマーだからですよ。
最近は自己鍛錬のために控えていますが、昔は強力なモンスターを手下にするために各地を旅したことがありますから、モンスターの強さを見抜くのには自信があるんです」
「へぇ、それでこの子の強さを見抜くことができたでありんすか」
「はい。もっとも、今の私が優れているのはその眼だけで、モンスターテイマーとしてはあまり強くないんですけどね」
ははは、とどこか自嘲気味な笑い声をあげ、彼は大きくため息をついた。
そんな彼の様子に思うところがあったのか、傍で彼らの話を聞いていた酒場の主である男が、ホットミルクを彼の前に起きつつ声を上げる。
「何を言いますか、あなたほど強いお人は、この法国にもそう多くはありませんよ」
「そう言ってもらえるとありがたいですが、私は本当に強くありませんよ。
実際、最近妹と戦う機会があったのですが、その時は一瞬でやられてしまいましたしね」
手元にあったグラス、それに注がれていた酒をあおり、彼はやけくそ気味に笑みを浮かべた。
「昔、妹に手下のモンスターを殺されて以来、仕事も親との関係も上手くいきません。
ああ、昔の妹もこんな気分だったのかなぁ」
再び彼はグラスに口をつけ、そしてまたため息をついた。
シャルティアはそんな彼の様子を目にしつつ、とあることを考えた。
―――こいつもしかして、愚痴を聞いてもらうために私を店内に入れたのではないでありんすか
シャルティアの予想は当たっていた。
男は、やれ両親が妹と比較してくる、やれ妹ととの関係を改善したいなどと愚痴を言っていたため、シャルティアは途中までは適当にうなずいて相槌を売っていた。
だが、忍耐力のないシャルティアは雰囲気に負けて自分も酒に酔い始め、気がつけばどちらもお互いに愚痴の言い合いを始めていた。
彼が、長年親からの暴行を受けながらも妹はまともな人間(大きく偏見あり)に成長した、と自慢すれば、シャルティアは、自分の主はお前の妹なんかとは比較にならない程優れた存在だ、と何故か言い返す。
彼が、そんな妹に比べて私は落ちこぼれを見るような視線を向けられるだけで心が折れそうになる、と自虐すれば、シャルティアは、自分の方が駄目な存在だ、と自分を貶め始める。
最終的にはこの酒場の店主まで酔い始め、男二人が飲み疲れる、シャルティアがペナルティを受ける朝まで、三人は飲み続けることとなった。
原作での兄さんの台詞少なすぎ、口調わからんですよ。
次回は予定を変更してナーベラルの話です
インフルエンザに感染したので、もしかしたら予定に投稿できないかもです