もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 これ以上時間をかけると何を書き始めるかわからないので、文字数少ないけれど投下。

 おかしい。
 最初、妖麗なアルべドとぐぬぬなシャルティアを書く予定だったのに、ただの酔っ払い書いてる。

 どうしてこうなった


とある愛に生きるNPCの話

 

 

 アルべドは、愛に生きるNPCである。

 モモンガへの愛のためなら、何だってするつもりだ。

 

 そんなアルべドであるが、今彼女は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――スレイン法国にいた。

 

 

「ううう、ぐすっ」

 

 要するに、モモンガとの愛の巣であるナザリックから追い出されたわけである。

 

「いつまで泣いてるつもりでありんすか」

 

 傍にいたシャルティアが、あきれたように声をかける。

 普段であればここから口喧嘩が始まるはずなのだが、今のアルべドにはそんな気力もない。

 

 彼女は、部屋にあるベッドに倒れこみ泣いていた。

 

 

 

 彼女が何故スレイン法国にいるのか。

 

 それは、情報収集のためだ。

 サキュバスであるアルべドと吸血鬼であるシャルティアは、魅了・催眠系のスキルを所持している。痕跡をほとんど残さずに他者から情報を聞き出すことができるこれらのスキルを持つ二人、情報収集にこれほど適任な存在はいないだろう。

 

 それは、アルべドも理解している。

 自らの持つスキルが、この任務に適しているのは理解しているのだ。

 

 だが、だからといって感情が納得できるわけではない。

 家で夫を迎えるのは妻の役目、それをぽっと出てきたよくわからないモモンガのNPCに奪われたわけである。

 

 そのため、彼女は泣いているのだ。

 

「まあ、大口ゴリラは放っておきんしょう。

 ―――それで、六色聖典についての事は何も知らないでありんすね」

 

 アルべドの背後で、この家の持ち主である男女にシャルティアが質問をしていた。

 

「はい、六色聖典については噂程度にしか知りません」

「申し訳ありません。私もです」

「そうでありんすか、ならいいでありんす。

 では、今後この部屋は使わせてもらうでありんす。それで構いんせんね」

 

 もちろん、泣いてばかりとはいえアルべドは守護者統括だ。命じられたことは、きちんと行っている。

 例えば、この夫婦に最初に魅了を仕掛けたのはアルべドであるし、此処までの一切の行動を法国に気が付かれないように調整してきたのもアルべドだ。

 

 少しでもモモンガの役に立つために、彼女はそんな精神状態でも命令をしっかりこなしているのだ。

 

 

 魅了をかけられた夫婦がこの部屋を出て行くと、この部屋の中にはアルべドとシャルティア、三人の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)、五体の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が残った。

 

「さて、守護者統括様はこの先はどうするでありんすか?」

 

 わざわざ守護者統括様と敬称を付け、挑発的に言葉を投げかけるシャルティア。

 そんな彼女の言葉に、アルべドは少しだけ元気を出すと彼女たちに命令を下した。

 

「そうね……シャルティアは蝙蝠などの人に気が付かれにくい眷属を偵察に出しなさい。

 吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は、陽が暮れたらこの家の近所の住人に魅了を仕掛けてきてちょうだい。ただし、少しでも身の危険を感じたら撤退していいわ。撤退の時は、私たちのいる場所ではなく都市の外に逃げるように。私に『伝言』(メッセージ)を送ってくれたら、姉さんとシャルティアが回収するわ。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は、不可視化してこの家の警備をお願い」

 

 アルベドの言葉に、シャルティア以外の面々が行動を開始する。

 

 直後、彼女はまた布団にくるまって静かに涙を流し始めた。

 

「はぁ、張り合う相手がいないというのも、何とも言えない気分になるでありんすね」

 

 眷属招来、とシャルティアが呟く。

 すると、彼女の足元から数匹の蝙蝠が出現する。

 

「……」

「ううう、ぐすっ」

 

 シャルティアの足元から現れた蝙蝠たちは、僅かに開いた部屋の窓の隙間から外に出て行った。

 

「……」

「ひっく、ひっく、ううう」

 

 ここから先、しばらくシャルティアの仕事はない。

 彼女が動くのは、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達が(彼女たち主観の)強敵に接触するか、眷属たちが殺られた後だ。それまで、外に出ずに静かにするしかすることがない。

 

「少しは泣き止んだらどうでありんすか。年増の泣き声なんて、ただ煩いだけでしかないでありんす」

「ひっく、うるさいわよ偽乳。私は、ひっく、アインズ様を出迎える妻としての役目を奪われて、こんな場所に来なければならなくなったのよ。

 ううう、アインズ……どうして私がこんなところに来なければならないのですか。私は、私は、ううう」

 

 反論し始めて少しは元気が出るかと思えば、また泣き出してしまった。

 おまけに、悲しさで思考が安定していないのか、アルべドの言葉は少し意味不明である。

 

(何故、私は恋敵を励まさなければならないのでありんしょう)

 

 アインズ様の命令でなければ、こんなゴリラは捨てているところだった。

 

 至高の御方であるアインズ様の考えはわからないが、少なくとも己が考える中では、自身とアルべドは最悪の組み合わせであるとシャルティアは考えていた。

 なにせ、お互いがアインズ様の妻としての座を争う恋敵だ。仲良くできるわけがない。

 

 だが、きっとそこには、シャルティアには気が付けない何かがあるのだろう。

 

 恐怖公と行動を共にしろというわけではないのだ。恋敵といえど、行動を共にすることはできるはずだ。

 色々と感情を抑えつつ、シャルティアはアルべドの泣く姿を見つめた。

 

「……」

「ひっく、ううう、ひっく」

 

 見つめ……

 

「ううう」

 

 部屋の中に、アルべドの泣く声が静かに響く。

 

 ……

 

 はっきり言って、シャルティアは、もう限界だった。

 

「……あああ、もう!! いつまでも泣いてんじゃないわよ!!

 ナザリックを出てからずっーーとぐすぐす泣き続けて、辛気臭いわ!!」

 

 シャルティアはそう言うと、アルべドの左手の薬指にはまっていた指輪を奪い、第十位階の魔法『転移門』(ゲート)を発動した。

 『転移門』(ゲート)の魔法は空間をつなげ、此処よりはるかに北に位置する場所にあるナザリック地下大墳墓との道を作る。

 

 そして、呆然とするアルべドをそこに蹴り込み、自分も『転移門』(ゲート)を潜った。

 

 

 『転移門』(ゲート)の行先は、ナザリック地下大墳墓第九階層に存在するバーだった。

 シャルティアは、アルべドに指輪を返すとバーのカウンターに着き、いきなり現れたシャルティア達に驚いた様子の副料理長に酒を催促する。

 

「私にブラッディ・マリー、この泣き虫ゴリラにアースクェイクをお願いするでありんす」

 

 もちろん、泣いているアルべドの話など聞く気は全くない。

 シャルティアは、完全にアルベドを酔い潰す気だった。

 

「しゃ、シャルティア? 今はアインズ様から与えられた任務の最中なのよ。お酒を飲むなんてそんなこと―――」

「だったら、そうやってめそめそ泣くのをやめなんし。お酒でも飲んで、一旦吹っ切ったらどうでありんすえ。

 正直言って、そばで泣かれていると迷惑でありんす」

 

 シャルティアはそう言って、涙目で床に崩れ落ちているアルべドの両脇を持って、強引に席に着かせる。

 そして、バーにいた副料理長が出した『アースクェイク』というカクテルを、アルべドの前に勢いよく置いた。

 

 ちなみに、この『アースクェイク』というカクテル。アルコール度数40度の比較的危険なお酒である。

 今まで玉座の間に籠りきりで、お酒を飲んだことがないアルべドに進めていいお酒ではない。

 

 

 だがまあ、知らないとはなんとやら。

 シャルティアの勧めに従い、アルべドはその酒に口をつけた。

 

「っ!? ごほっ、ごほっ」

 

 当然、アルべドはむせる。

 アースクェイクというカクテルは、その強烈な衝撃から名がついたカクテルだ。その反応は当然と言えるだろう。

 

「あはははは、守護者統括様はお酒も飲めないのね」

 

 そんなアルべドの様子を笑いながら、シャルティアはブラッディ・マリーを勢いよく飲み干した。

 ……一応言うが、ブラッディ・マリーはそんなビールの様な飲み方をするお酒ではない。

 

 シャルティアのその言葉を聞いたアルべドは、額に青筋を浮かべ、無言で目の前のお酒を飲み干す。

 身体に走る衝撃は、その高い能力値で強引に耐えた。

 

 だが、耐えられたのは刺激だけだ。

 戦闘のための装備を整えていない今のアルベドは、シャルティアと異なり酔いに対する耐性が無いため、酔いを耐えることはできない。

 

「へぇ、意外と飲めるのね。なら次に行こうかしら。

 そこの守護者統括殿にカミカゼをジョッキで、私はスクリュードライバーをお願いするわ」

 

 もちろん、カミカゼもお酒を飲んだことが無い人に勧めていいお酒ではない。それをジョッキなど、色々な意味でもっての外である。

 

 だか、アルベドはそんなことは知らない。シャルティアのやりたい放題だ。

 

 アルベドの苦しむ姿を見て、シャルティアは笑顔が止まらない。

 

 何故かミキシンググラス――ジョッキ並みの大きさのグラス――で出てきたスクリュードライバーを飲みながら、シャルティアはアルベドを見つめた。

 

「ふぅ、ふぅ」

 

 そして件のアルベドは、そんなシャルティアの様子を気にしている余裕は無かった。

 

 アルコール度数40度とは、ウォッカの領域のアルコール度数だ。日本酒が高くても20度だと言えば、どれ程高いのかわかるだろう。

 お酒を飲んだことがない人がそんな物を飲めば、一気に酔ってしまう。

 

 顔を赤らめさせたアルベドの前に、ミキシンググラスにつがれたカミカゼというカクテルが置かれた。

 

「ほら、飲んだら?」

 

 シャルティアはそう言って、アルベドの口にカミカゼのつがれたグラスをねじ込む。どうやらシャルティアも少し酔っているようだ。

 

 ミキシンググラスをねじ込まれたアルベドは、一瞬吹き出しそうになるが、淑女の意地で吹き出しそうになるのを堪える。

 その隙に、シャルティアはアルベドにカミカゼを流し込んだ。

 

「―――っ!?」

 

 アルベドの悲鳴にならない悲鳴が響く。

 それを見たシャルティアは、口角を大きく上げた。

 

 

 

 その後もシャルティアは、アルベドに様々なお酒を飲ませ、最終的にはアルコール96%というお酒と呼んで良いかすらわからないお酒、スピリタスを瓶一本一気飲みさせるまで至った。

 このお酒は、恐怖公の眷属でない恐怖公の眷属を、吹きかけるだけで殺すことができることがあるお酒だ。ナザリック最硬のアルベドでさえも、流石にこれを一気飲みすると泥酔状態に陥る。

 

 

 

 結果―――

 

「ひっく、ひっく、モモンガさま……いと尊きその名を、どうして変えてしまわれたのですか」

「どーせ、私は守護者失格のくそったれなのよ……」

 

 酔っ払いが二人出来上がる。

 

「次を出しなさい!」

「次ぃ!」

 

 そんな二人の催促を受けて、副料理長はスピリタスを割ったりせずにそのまま流し込む。

 二人はそれを一気に飲むと、ああだこうだと再び騒ぎ出した。

 

 ごくっごくっごくっ、げふー

 

 二人は、まるでそんな音を立てる様に酒をあおり、力強くグラスをカウンターに叩きつける。

 

「うふふ、そうね、そうよね。私なんてモモンガさまに見捨てられても仕方ないわ……ひっく、ひっく、ううう」

「あはは、あんな失敗をするなんて……大口ゴリラと一緒に働かされるのも当たり前だったのよ」

 

 もっとも、実際にはシャルティアは素面だ。場に酔っているだけに過ぎない。

 だが、場の空気という物は恐ろしいもので、その姿は完全に酔っ払いそのものだ。

 

 そんな二人の前に、副料理長が一杯のカクテルを置く。

 そのカクテルは、十色からなる美しい色をしていた。

 

「ひっく……何かしら」

「ん?」

 

 不思議そうな顔をする二人に、副料理長はそれの名前を告げる。

 

「―――ナザリック、と言います」

 

 彼は彼女たちにそう告げたが、それは本当でもあり嘘でもあった。

 正しくは、このカクテルはナザリックの味を良くするための試行錯誤の過程で生まれた、ナザリックの失敗作だ。

 

「……」

「へぇ、名前に違わぬ美しさね」

 

 二人はナザリックを手に持ち眺める。

 

 部屋の照明に照らされ、そのカクテルは二人には輝いて見えた。

 

 そして、アルべドとシャルティアは、そのカクテルを口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 アルベドが気が付くと、そこは彼女の部屋ではなかった。

 

「ここは……」

 

 だが、自身の部屋以上に見覚えのある部屋だった。

 

「モモ……アインズ様の」

 

 そう、そこはアインズ・ウール・ゴウンの部屋。このナザリックの支配者の部屋だ。

 彼女は、その部屋のベッドで寝ていたようだ。

 

「……頭が痛いわ」

 

 辺りを見回す。

 ベッドの傍に置かれたテーブルの上に、無限の水差しとコップが置かれていた。

 

 水差しからコップに水を注ぎ、それを口にする。

 

「……ふぅ」

 

 水を飲んでひと息つく。

 

 その時、彼女はテーブルの上に小さなメモが置かれていることに気が付いた。

 

「……これは」

 

 それを見たアルべドは、満足げに微笑み、メモの持ち主に『伝言』(メッセージ)を繋いだ。

 




 ……割烹でのアンケート調査中のころは、この話はニューロニストを書く予定だったことは秘密です。

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