もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら 作:更新停止
初詣にオバロのパーカーを着て行った馬鹿がいました。わたしです。
さて、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回の話、アインズ様が殺しにくることを気にしている方が多かったので、話の途中で挟む予定だった『ナーベラル&冒険者vsアンデッド軍団』をカットし、隊長戦に一応の区切りをつけることにしました。
では、26話です。
「はああぁぁっ!!」
突然、トイレのドアがはじけ飛び、そこから隊長が槍を片手に疾走してくる。
手には、穂先のつぶれた槍。もはやただの棒と言ってよいその槍で、隊長はクレマンティーヌを突く。
狙いは喉。躱される可能性は高いが、ダメージを与えるとすれば確かにそれは正解の一つだろう。
―――武技、『不落要塞』
クレマンティーヌは、『不落要塞』をかけた腕でその一撃を受け止める。
「へぇ、随分似合ってるじゃない、その化粧」
隊長の顔は、小麦粉の袋でも頭から被ったのか真っ白になっていた。
また、彼の鎧は油も被ったのか、妙に光沢がある。
「女装はもう勘弁してほしいんだがな……」
戦闘中とは思えない会話をしつつ、隊長とクレマンティーヌは拳と槍を打ち合う。
クレマンティーヌは、左手でこぶしを握り隊長の突きを弾き、逸らし、それによりできた隙に蹴りを叩き込む。
隊長はそれを石突で受け止めたり躱したりしながら、首や目などの急所を執拗に突き続ける。
「はっ!!」
―――武技、『限界突破』
―――『豪腕剛撃』
武技で拳を強化、白く染まった隊長の顔を血で赤く染めようと殴り掛かる。
隊長は、その一撃が放たれる直前にクレマンティーヌの左肩を突き、拳を振うことができないよう彼女の動作を妨げる。
クレマンティーヌの使用した『豪腕剛撃』は、腕力を大きく強化する武技だ。もし、隊長が槍と拳を打ち合わせていたのなら、彼は拳を防ぐことはできず、槍も無残な姿となっていただろう。
だが、武技による強化がなされていない場所に対して槍を当てて行動を阻害することにより、彼はその強化された筋力に正面から相対することなく拳を止めていた。
「ちっ」
クレマンティーヌは、舌打ちしつつ蹴りを放つ。
隊長は、その一撃を槍を使って受け流しながら一歩下がることで躱し、槍を回転させることでクレマンティーヌの蹴りによって加速した槍の勢いをそのまま攻撃力として転化、自分の筋力を上乗せして彼女の顔面に槍を薙ぐ。
クレマンティーヌは、左腕でそれを受け止める。隊長のその一撃にはクレマンティーヌの腕を破壊するほどの威力は無かったものの、蹴りを放った直後のため片足でバランスをとっていた彼女の体勢を崩すには十分なものがあった。
「―――っ!!」
「驕りがすぎるぞ、クレマンティーヌ。腕がなまったんじゃないか?」
隊長の槍が、クレマンティーヌの心臓を突く。
先ほどクレマンティーヌが穂先を潰していたためにそれが貫通することはなかったものの、その衝撃により穴の開いた壁の向こう、男子トイレ側まで吹き飛ばされた。
(……身体能力では差はほとんどない。むしろわずかにこちらが上のはず。
さっき戦い始めた時は、ゼロを含めた二体一でも十分に相手をできていたはずなのに、いったいどうして)
余りにも上手い。
閉所であるここでは、本来槍使いである隊長はその動きを大きく制限されるはずなのだが、槍を巧みに操りその戦闘力を余すところなく発揮していた。
「お前の身体能力は確かに良くなった。だが、以前よりも動きが単調になっているな。
鍛えたはいいが、上がった身体能力に技が付いてきていないようだ。それに―――」
隊長は、クレマンティーヌの両腕に視線を向ける。
「―――その金属の腕、あの吸血鬼との戦闘でそうなったのか。
肉の腕に比べ、少し動きが鈍いぞ。どうやって動かしているかわからないが、以前に比べれば躱しやすいし動きを読みやすい。
さっきまでは上がった身体能力に戸惑ったが、慣れれば十分に対処できる。むしろ今までより楽な程だ」
彼は、クレマンティーヌに向けて槍を構える。
「俺は、自分よりも格上との戦闘はかなり研究しているんだ。
身体能力に差がある程度で、勝てるとは思わないことだ」
―――たしかに、それは事実かなー。
クレマンティーヌは、心の中で呟いた。
隊長の言ったことは、たしかに事実だった。
シャルティアに与えられた傷をガングニールによって埋めたこと、それは彼女に比類無き防御力という恩恵を与えていたが、同時に彼女の長所である身体の柔軟さを潰してしまっていた。
例えば、真っ直ぐに立っているとき、脚を動かさずに右側に身体を倒したとしよう。
たったそんな行為でも、人間の身体は全身の様々な部位を伸ばしたり縮めたりする必要がある。
今のクレマンティーヌは、そうした際に金属化した場所を動かすことができない。金属というものは、それほど伸縮するようなものでは無い。彼女の腕などのように関節を作れば、曲げることは可能だ。だが、伸ばしたり縮めたりなどはできないのだ。
女性は、男性とは異なり(ガガーランなどの一部例外を除いて)基本的に筋力量が少ない。その代わり、女性は男性よりも身体の柔軟性に富んでいる。
クレマンティーヌは、その性差による身体能力の差をその柔軟性を生かした動きで埋めていた。突きを放つときは全身のひねりを力に変え、拳を突き出すときは下半身の力を拳に乗せることで威力を増幅していた。
攻撃するときだけではない、攻撃を受けるときもそうだ。受けた衝撃を、腕や腰、膝などの全身に流すことで緩和したりしていた。
だが、今の彼女にそれはできない。
身体の一部が金属化するということは、重心も大きく変化し、当然体重も変化する。
そして体重と重心が変化するだけで、動きのキレは大きく変わる。重心が変化するということは、下手をすればまっすぐ歩くことすらできなくなるほどの問題だ。高速で動くのであれば、以前との差は歴然だろう。
(身体能力で誤魔化せていたつもりだったけど……)
「やっぱり、そんな簡単に誤魔化せなかったかー。
流石は、昔は『俺一人で漆黒聖―――」
「やめろ」
急に、隊長の声が恐ろしく冷たいものになる。
どうやら、彼の中では昔のことは黒歴史に近い扱いになっているようだ。
「あー、ごめん隊長。
格上対策ってことは、あのアンチクショウを想定してるのかなー? たしかに、このままだと私が隊長を相手にするのは難しそうだね。
―――しょうがない、手札を切るかぁ」
そういって、クレマンティーヌは隊長の姿を強く見据えた。
「すぅ、―――Balwisyall Nescell gungnir tron」
小さく息を吸い、聖詠を口にする。
その歌に全身のガングニールの欠片が反応、クレマンティーヌの姿が光に包まれ、そして歌う前とは異なる装いで出現する。
「たしか……シンフォギアだったか。少し姿が変わったな」
「そーだよー。正式名称は、FG式回天……なんだったっけなー。えっと、たしかFG式回天……特機装束だっけ。
隊長達にシンフォギアの名前を言ったのは、三年前に一度だけだったはずなのに、意外と覚えてるもんなんだね。
さてと、たしかに今の私はかなりぎこちない動きをしてると思うよ。怪我のせいで、今まで見たいな柔軟性はないしね。
―――だから、身体能力でゴリ押させてもらうから」
クレマンティーヌは、隊長に対し拳を構える。
隊長もまた、クレマンティーヌに対し槍を構えなおした。
「そうか、ならやってみるといい」
「そっちも、今の私はうまく手加減できないから、そう簡単には死なないでよねぇ!!」
先に攻めたのはクレマンティーヌだった。
彼女は、シンフォギアによって強化された身体能力を生かし、隊長へと疾走する。
その勢いのまま彼に飛び蹴りを行う。
「くっ」
隊長は、歯を食いしばりながらもその一撃を槍で受け流し、受け流した際の衝撃を槍の回転に転化して薙ぎ払う。
狙いは、クレマンティーヌの首筋。隙を見せたクレマンティーヌには、それを受け止める術はなかった。
―――武技、『即応反射』
―――もちろん、それは武技を使用しなければの話だ。
『即応反射』により乱れた体勢を立て直し、隊長の一撃を振り上げた脚の装甲で受け止める。
クレマンティーヌのその急な動きは、全身の金属と肉体との結合部を千切り出血させる。
彼女は、魔法により痛覚を鈍くすることでそれから目を背ける。
魔法少女の多くが使える魔法であるそれは、本来であれば身体の反応を鈍くするために推奨されないことであるが、技術的な動作を行うのが難しい今のクレマンティーヌにとってそれはあってないようなデメリットでしかなかった。
「はっ!!」
槍を受け止めた足を振り下ろし、隊長の元に踏み込む。
しかし、クレマンティーヌが踏み込んだ時には、彼女の目の前には隊長の槍の石突の姿があった。
目の前も目の前、焦点を合わせることすらできないほどの本当に目の前だ。
(読まれて!?)
―――武技、『不落要塞』
クレマンティーヌの右の眼球、槍が突き刺さる直前にとっさに『不落要塞』を施す。
だが、槍は不落要塞により弾かれることなくそこで制止する。
『要塞』と言う武技は、あくまで武技を施した個所に対するダメージを軽減する武技でしかない。『要塞』よりも上位である『不落要塞』を使用しているため、隊長の槍によるダメージを全て吸収できているが、それ以外は何もできていないのだ。
もし隊長が石突をクレマンティーヌに突き出していれば、衝撃が吸収されたことにより隊長の攻撃の芯がブレて彼女の顔の横を通過することになっただろう。
だが、隊長の槍にはほとんど力がこもっていない。
そのため、『不落要塞』が作用している今、隊長の槍は逸らされることなく彼女の眼球の上に位置しづけている。
つまり、それは『不落要塞』が解除されると同時に石突が突き刺さることを―――
「っ!!」
―――武技、『即応反射』
クレマンティーヌは、反射的に『即応反射』により顔を逸らす。
それと同時に、脚のパワージャッキを炸裂させ、男子トイレの壁際まで大きく後退した。
「なるほど、反射神経は相変わらずか。
まさかあのタイミングで『要塞』を合わせられるとは思わなかったな。うちの連中では絶対に間に合わなかったぞ」
「それに対応しておいてよく言うわ、なんて読みしてんのよ」
何もかも、完全に読まれている。
ただ神人というだけで隊長をしているわけではないと言うことは理解していたが、まさかここまで強いとは思っていなかった。
「いや、違うわね。今の私が、それだけ読みやすいってことかしら」
「ああ、その通りだ。
はっきり言って、今のお前ならうちの半分近くの人間が勝てる可能性があるぞ。モンスターでないのだから、もう少し小細工を効かせたらどうだ」
隊長の言葉に、クレマンティーヌは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。
モンスターに例えられるとは相当だ。まるで、これでは 自分があの時のシャルティアのようではないか。
今のクレマンティーヌは、基本的に単調な動きしかできない。これはもう、どうしようもない事実だ。
ならば、クレマンティーヌにできるのは、思考することだけだ。隊長の予測を予測し、正面から意表を突く。これしかない。
それと同時に、クレマンティーヌは歌を口ずさむ。
シンフォギアは、その使用者たる装者が歌うことによって出力を増す。細かい動きができない今は、少しでも身体能力を稼ぎたい。
歌う歌は、立花響が初めてシンフォギアを手にしたときの歌。
本来であれば、クレマンティーヌ個人の歌を歌うべきなのかもしれないが、
そのため、彼女は立花響の歌を歌っている。
立花響は、クレマンティーヌにとって心の一側面と言える存在だ。なので、彼女の歌はクレマンティーヌの歌でもある。
もっとも、それと同時に立花響の歌は立花響の歌であってクレマンティーヌの歌ではないので、本来の出力を出すことはできない。だが、何もしないよりは良いだろう。
「歌?」
クレマンティーヌが突如歌い始めたことに、隊長は警戒心を顕わにする。
だが、そんなことは関係ない。クレマンティーヌにとって、『進むこと以外、答えなんてあるわけがない』のだ。全身全霊、力を絞り出して戦うだけだ。
踏み込みすらも全力で、クレマンティーヌは瞬く間に隊長との距離を詰め、彼の心臓めがけて拳を振るう。
当たり前だが、その一撃は読まれていたようで隊長に受け流された。
だが、それはクレマンティーヌも同じこと。
受け流されたことにより、クレマンティーヌの身体は隊長の脇を通り過ぎる。それを向上した身体能力で強引に制動をかけ、振り向き様に拳を放つ。
隊長はそれを躱し、その腕とは逆の肩に石突をぶつけることでクレマンティーヌが放とうとしていた連撃を止める。
「『―――たいな、笑顔』、ちっ!!」
歌の合間に器用に舌打ちをしつつ、クレマンティーヌは隊長にバック転をするように蹴りを放つ技、サマーソルトキックを放つ。
全身が嫌な音をたてるが、完全に無視した。
サマーソルトキックは、意表を突きやすいもののそのモーションが大きいために見切られやすい技でもある。そのため、当然のようにそれは回避されてしまった。
だが、それはクレマンティーヌもわかっている。
クレマンティーヌは、蹴りを放った直後に指先の力で自らの身体を飛ばし、大きく後ろに後退する。
あくまで、サマーソルトキックは距離をとって仕切り直すためのものだ。端から、手傷を負わせることなど期待していない。
歌がAメロからBメロに入ると同時に、クレマンティーヌは大地を蹴って殴り掛かる。
拳は、また当然の様に止められるが、それでもあきらめずに拳を振るう。
その殴打は、嵐のような激しさで隊長を襲った。
しかし、連撃という物は、強力であると同時に読まれやすい物でもある。
ましてや、クレマンティーヌは今歌を歌っているのだ。そのリズムから、連撃の隙を簡単に見切られる。
「ふっ!!」
「『ぶっ込め、こっ―――!?』」
連撃の合間を縫うように、隊長の槍がクレマンティーヌのみぞおちを突く。
みぞおちに衝撃を与えられた彼女は、横隔膜が瞬間的に止まり呼吸ができなくなる。
さらに、みぞおちの奥にある腹腔神経叢にも衝撃が走り、魔法の痛覚緩和を超えて彼女の身体を強い痛みが襲った。
それでも、クレマンティーヌは諦めない。
(『へいき、へっちゃらっ!!』)
その言葉は、立花響という少女を支えた呪いの言葉。その言葉を胸に、彼女は痛みをこらえて前へと進む。
「『―――の、エナジーを!!』」
「なんだと!?」
100%の全開で、クレマンティーヌは拳を振るう。
隊長は、とっさに槍を盾にしてその一撃を防御、同時にクレマンティーヌから見て少し左側に飛び退くことで、受ける衝撃を抑えようとした。
だが、クレマンティーヌの一撃はあまりにも重く、防御に使った槍は中央から圧し折られた。
追撃するように、クレマンティーヌは一歩前へと進む。
けれども、二歩目を踏み出す直前に、隊長が折れた槍の残骸のうちの片方を彼女の顔面に投擲したため、足を止めて腕で顔を守らなくてはならなくなった。
投擲された槍の残骸を防ぎ顔面の防御を緩めると、左右の腕の小さな隙間いっぱいに、投擲されたもう一本の槍の残骸が映った。
クレマンティーヌは、再び防御を固めてそれを受け止める。
―――この時、彼女はもう少し考えるべきだった。
隊長は槍使いだ。その卓越した技量のために忘れそうになるが、槍とは本来屋内で使うような武器ではない。
にもかかわらず、何故彼は不利な屋内で戦い続けたのか。それを、よく考えるべきだったのだ。
槍の残骸を防いで防御を緩めたクレマンティーヌの視界に、その槍が映る。
攻撃的なその形状、一目で一級品の武器であるとわかるオーラ。
それが、クレマンティーヌの顔面へと突き進んでいた。
「―――防ぎ方を間違えたな、クレマンティーヌ」
彼女は、とっさに防御を固める。
しかし、隊長の操る槍はその防御のわずかな隙間を強引にこじ開け、顔面へと突き進む。
「っ!!」
―――武技、『不落要塞』
クレマンティーヌは、槍を受け止めるために顔に『不落要塞』を発動。
だが、発動すると同時にそれが失敗だということに気が付いた。
そう、クレマンティーヌは『その槍が『不落要塞』を突破しうる威力を持つ』と言うことを知っていたはずなのだ。
隊長の持つ槍が、顔に施された『不落要塞』を突破していく感覚が感じられる。
―――そして、クレマンティーヌの頭部が、隊長の持つ『スポイトランス』によって消し飛ばされた。
隊長「―――防ぎ方を間違えたな、クレマンティーヌ」(ドヤァ
しかし、そのどや顔は小麦粉で真っ白である。
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