もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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ぎりぎり、三日連続投稿。

今回は少し短いのですが、若干胸糞なので流れを断ち切るためにここで切ります。

それにしても、『しかし―――』って凄く便利ですね。


-追記-
閲覧数がいきなり増えたと思ったら、日間50位になってました。ありがとうございます。


もしクレマンティーヌが悲劇を目の当りにしたら

 ―――複合武技『マザーズロザリオ』

 

 それは、マルムヴィストが生み出した、対クレマンティーヌ用の切り札だった。

 マルムヴィストが、『六腕』のリーダーであるゼロの一撃が破られたとき彼女が放っていた技、『マザーズロザリオ』を元に、それを超えるような技として開発したものだ。

 

 連撃数は、構想段階では22連撃、肉体の負荷のため実際には20連撃。威力は、一撃一撃がオリハルコンの鎧を貫通するほどの威力がある。

 

 計算では、王国の秘宝、アダマンタイトの鎧を貫通するに足る威力があることを考えれば、どれ程の威力があるのかよくわかるだろう。

 まさしく、かの究極の武技すらも上回る物であると言えるものだ。

 

 

 

 

 しかし―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――見事だったな」

 

 マルムヴィストは目を疑った。

 

 そこには、傷一つない鎧を身に纏ったモモンの姿があったからだ。

 しかも、声の調子からして大きな怪我を負っている様子はない。

 

「ばか、な。どうしてお前は生きている。魔法の直撃をくらった筈だろう。

 それに、その鎧は何だ。それは、それは俺の『マザーズロザリオ』で破壊したはずだ!!」

 

 マルムヴィストは、驚愕の表情でモモンを見つめる。

 モモンは、両手の剣を地面に突き刺すと、そんなマルムヴィストに落ち着いた様子で言葉を返した。

 

「不思議か? なら、答え合わせといこうか。『上位道具創造』(クリエイト・グレーター・アイテム)

 

 モモンがそう呟くと、彼の手に黒い大剣が出現する。

 

「なに……どういうことだ……」

 

 その光景に、マルムヴィストは理解が追い付かない。

 マルムヴィストの後ろにいたデイバーノックは、モモンのその様子を見てとある結論に至った。

 

「まさか、お前は魔法詠唱者だとでもいうのか!!」

 

 デイバーノックの言葉を聞いて、マルムヴィストは気が付いた。

 道具創造系の魔法、たしかデイバーノックの持ち歩いていた本の一冊にそんなものがあったはずだ。

 

 だが、マルムヴィストはそれを信じたくなかった。

 それが真実であれば、マルムヴィストは魔法詠唱者相手に近接戦闘において単独で勝利できなかったということになるからだ。

 

 魔法詠唱者相手に、戦士であるマルムヴィストが近接戦闘で敗北する。そんなことはあってはならない。そんなことが、あっていいはずがない。

 

「マルムヴィストっ!!」

 

 モモンの背後にいたアンデッド、死の騎士(デスナイト)の持つタワーシールドにより、マルムヴィストはデイバーノックの元へ吹き飛ばされる。

 次の瞬間には、マルムヴィストのいたところにモモンの剣が振り下ろされた。

 

「なんで……どうして……俺の剣は、アダマンタイトを超えたはずなのに……どうしてだよ」

「そんな事を気にしている場合ではないっ!!

 お前の剣は効かなかったのだっ!! それが全てだっ!!

 わかったら逃げるぞ。あいつは、俺たちの手に負える相手ではない。あいつは、あの時の女を超えた存在だ。

 

 ―――我がしもべ達よ、時間を稼げ!!」

 

 モモンの背後から死の騎士(デスナイト)が、上空からは五体の骨の竜(スケリトルドラゴン)が、周囲からは隠れていた疫病爆撃種(プレイグ・ボンバー)が殺到する。

 

 その隙に、デイバーノックはマルムヴィストを連れて飛行(フライ)の魔法で大空へと飛び立つ。

 

『完璧なる戦士』(パーフェクト・ウォーリアー)。良い反応だ。だが―――」

 

 マルムヴィストの背後で凄まじい轟音がする。

 見なくてもわかる。あの場にいるアンデッド達は瞬殺されたのだろう。

 死の騎士(デスナイト)辺りなら生きているかもしれないが、それも時間の問題だ。

 

「どうして……俺は……」

「動くな!! 速度が落ちる!!」

 

 そして、その時は本当に一瞬だった。

 

 マルムヴィストの胸から、漆黒の大剣が生える。

 おそらく、モモンがその手の剣を投擲したのだろう。

 身も心も折れたマルムヴィストは、そこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の騎士(デスナイト)……他人に使われるとこんなに厄介だったとはな

 いや、ユグドラシルとは多少性能が変わったからこそ厄介になったのか? この辺りは要検証だ」

 

 辺りに散らばった死の騎士(デスナイト)の残骸を見つめる。

 近接戦闘を磨いていなかったアインズにとって、今回の展開は驚きの連続だった。

 

 特に驚きだったのは、死の騎士(デスナイト)を使用するまでのその流れだ。

 何度も雑魚のアンデッドをぶつけることにより、こちらの行動を誘導する。襲い掛かってくるアンデッドが、アインズにとって全く脅威とならない存在であると何度も印象付ける。

 

 そして、こちらが最高の一撃を放つタイミングで、外せば最も隙が生まれるタイミングで、『初撃を自身に誘導する』という特性を持つ死の騎士(デスナイト)を投入する。

 それは、モンスター使役型支援系魔法詠唱者の戦い方の一つと言えるだろう。

 

 アインズは、モンスターを戦闘で使用することはあるが、基本的にその膨大な魔法を駆使するような戦い方をする。その為、あまりモンスター主体の戦い方を研究したことはなかった。

 

「ふむ……剣士としても、魔法詠唱者としても、まだまだ研磨の余地がありそうだな」

 

 投擲して無くなった分の剣を地面から引き抜き、門の向こう、外周部の方を向く。

 アインズの視線の先には、一か所だけ不思議とアンデッドがほとんど存在しない場所があった。

 おそらく、そこが今回の首謀者たちのいる場所だろう。

 

「さて、先に進みたいが……」

 

 だが、壊れた門からは続々とアンデッドが侵入してきている。

 アインズがここを離れれば、エ・ランテルは崩壊するだろう。

 ハムスケに任せるのも手だが、少し前まで満身創痍だったうえに体力を使い果たしているハムスケには、それはあまりにも荷が重いだろう。

 

「仕方がない、増援が来るまで待つか」

 

 幸いというべきか、アインザック組合長からは増援が来ると言う言葉が貰えている。しばらくすれば、増援も来るだろう。

 

 アインズは、それまで門を塞ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月30日 05:39 エ・ランテル外周部 旧衛兵宿舎

 

「うん……やっぱりここみたいかなー」

 

 クレマンティーヌは、エ・ランテル外周部にある衛兵達の旧宿舎を訪れていた。

 

 宿舎には、何らかの結界が張られており、そこに何者かがいることを示していた。

 

「……これ、絶対『警報』(アラーム)あるよね」

 

 以前『八本指』の施設に乗り込んだ時は『警報』(アラーム)は無かったので、今回もそれを期待していたのだが、どうやら駄目そうだった。

 

「ま、入らなきゃ始まらないし、入るとしますかねー。

 ―――その前に、色々と小細工するけど」

 

 そう言って、クレマンティーヌは魔法の詠唱を始める。

 魔法と言っても位階魔法ではない。ユウキの魔法、アルヴヘイム・オンラインの魔法だ。

 

「よし、行くよー、『アビス・ディメンション』」

 

 宿舎の6分の1が闇にのまれる。

 それと同時に、クレマンティーヌは結界に足を踏み入れた。

 

 クレマンティーヌの魔法の効果範囲に誰かいたのか、悲鳴が聞こえてくる。

 

 その悲鳴を少しだけ心地よく感じながら、クレマンティーヌは宿舎の入り口の扉を蹴り破った。

 

「たのもー」

 

 もちろん返事はない。こちらも期待していない。この言葉は、あくまで様式美だ。

 

 外から見たところ、宿舎は3階建てでできていた。貴族が衛兵の宿舎に地下室なんて金のかかるものを作るとは思えないので、全3階で合っているだろう。

 

「じゃあ、まずは1階から探索しようかなー」

 

 腰から、刃のかけたスティレットを引き抜く。

 正直、普通の破損していない武器を使用したいのだが、これと同じ、もしくはこれ以上の武器は、『鹿目まどかの弓』を除くとクレマンティーヌの手には一つしかないのだ。

 そして、その一つは槍なので室内の戦闘には向かない。

 その為、少し嫌ではあるが仕方なくこれを使用している。

 

 以前使用していたオリハルコンでコーティングされたミスリルのスティレットもあるにはあるが、スティレットという武器があまり間合いの差を意識しなければならない武器ではないため、多少欠けていても変わりがない。

 むしろ、丈夫さを考えると欠けている物の方がいい。

 

 ―――武技、『知覚強化』

 -――『可能性知覚』

 

 五感と第六感を武技で強化し、1階をゆっくりと歩く。

 

「こういう緊張感、あんまり好きじゃないんだよねー。殺し合いとかの緊張感なら別なんだけど……」

 

 まず、食堂を覗く。

 席には人はいないが、椅子があるので誰かが此処を使用していたことは間違いないだろう。

 

 厨房も覗く。

 新鮮な食材がいくつかと、フライパンやまな板などが置かれているだけで、人の気配などは無かった。

 

 食堂を出ると、近くにトイレがある。

 此処に何かがあると第六感が働いているが、事情により後回しにする。

 

 しばらく行くと、談話室がある。

 中を覗けば、そこにはいくつかのルビクキューという娯楽道具、わかりやすく言えば、いくつかのルービックキューブが置かれていた。

 おそらく衛兵たちの忘れ物か、または此処を拠点としている連中の持ち物だろう。

 

「ルービックキューブと言えば……あのアンチクショウがよく弄ってたっけなー」

 

 左手に持ったベーコンの串焼きを食べつつ、漆黒聖典の一人である番外席次のことを思い出す。

 

 ふと、なんだか少し背筋が寒くなった気がした。

 どうやら、彼女はクレマンティーヌの中ではトラウマに近い何かとなっているようだ。

 思い出そうとするのを止め、残りのベーコンを一口で食べきった。

 

 談話室を出て、執務室らしき部屋に入る。

 此処は使用していなかったようで、机などの一切がなかった。

 

 それ以外の部屋も一つずつ調べてゆくが、人の気配は一切ない。

 クレマンティーヌは一階を歩き回り、そして最終的にトイレの前で足を止めた。

 

 男性用のトイレと女性用のトイレ、嫌な気配は男子トイレから大きく、女子トイレから小さく感じる。

 

「むー」

 

 これは、男子トイレの方から調べるべきなのだろうが……

 

「なんというか、最初に男子トイレの方に向かうのは躊躇われるんだよねー」

 

 仕方がないので、クレマンティーヌは女子トイレの方の扉を開けた。

 

 トイレは一人用ではなく、地球の学校や高速道路にあるサービスエリアなどと同じように複数の人間が同時に使用できるようになっている。

 個室は4つ。手前から3つは開いており、奥の一つだけは扉が閉まっていた。

 

 そして、何とも不吉なことに、その個室の天井から一本の縄が中に伸びている。

 

 これではまるで、中に首を吊っている死体があるようではないか。

 

「……」

 

 魔法の詠唱を始める。

 こういうのは、そのまま吹き飛ばすのが一番だ。箱は箱のまま、塵も残さず吹き飛ばすのが一番だろう。

 

 そして、詠唱を終える直前にクレマンティーヌの耳に小さな声が届いた。

 

「……けて」

 

 魔法の詠唱を一旦止める。

 その声は、個室から聞こえた。

 耳を澄まして、その声を聞こうとする。

 

「だ……、……けて」

 

 やっぱり、誰かいる。

 何故こんなところに人がいるのか、罠か何かではないだろうか。

 

 クレマンティーヌの中で、様々な思考がなされる。

 

 

 

 

 

 

 しかし―――

 

 

 

 

 

「―――たす、けて」

 

 

 

 

 

 助けを呼ぶ言葉に、その全てが消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 すぐさま個室のドアの前に立ち、スティレットを突き刺して個室の閂錠を破壊する。

 鍵は一撃で壊れ、扉のその部分に小さな穴が開いた。

 その小さな穴に指を入れ、強引に扉を引いて開ける。

 

 

 そして、そこでクレマンティーヌは驚くべきものを見てしまった。

 

 そこには、下半身を疫病爆撃種(プレイグ・ボンバー)に飲み込まれ、首に縄をかけられた少女がいた。

 

 あまりの光景に、クレマンティーヌの身体が固まる。

 

 第六感が、これが罠だということを訴えてくる。今から起こるであろうことの危険性を、彼女に強く訴えかけてくる。

 

 クレマンティーヌを見た少女の顔が、助けがきたことによる喜びで笑顔に染まり―――

 

 

 

 

 ―――そして、疫病爆撃種(プレイグ・ボンバー)が弾けた。

 

 

 

 疫病爆撃種(プレイグ・ボンバー)というモンスターは、肉でできた風船の様な外見をしたモンスターだ。

 彼らには直接的な戦闘能力はない。攻撃方法は、体当たりと自爆しかもっていない。戦闘をしたら、死の運命が確定するモンスターだ。

 

 だが、それ故にその数少ない攻撃手段、自爆は強力だ。彼らの体内には負のエネルギーがため込まれており、爆発と同時にそれを辺りに放出する。

 負のエネルギーは、生者にとって毒も同然。正に生きた爆弾とでも言うべきだろう。

 

 

 そんなものを至近距離で浴びたクレマンティーヌは、もちろん無事ではすまない。

 とっさに両手で指輪を守ったために指輪は無事だが、着ていたローブは破れ、露出していた顔や脚は負のエネルギーに犯される。黒い籠手などの装備は痛み、物によっては壊れてしまったものもあった。

 

 

 だが、クレマンティーヌにとってそんなことはどうでも良かった。

 

 彼女の目の前でこちらに微笑みかけた少女は、その爆発の直撃をくらうことになる。

 当然、ただの少女にそれを耐える手段は無かった。

 

 少女は負のエネルギーに毒され、全身が崩れ落ちる。

 

「あ、」

 

 咄嗟にクレマンティーヌは彼女の腕を掴むが、その腕は飴細工のように少女の身体からもげる。

 

 疫病爆撃種(プレイグ・ボンバー)という支えを失った少女は、地面に落下してゆく。

 途中で首の縄が締まったことで首が崩れ、床に叩きつけられた衝撃で少女の全身がばらばらになる。

 

 そして、その直後にクレマンティーヌの背後の壁が崩れ去り、そこから一人の男が飛び出てきた。

 

「隙だらけだぞ、おい」

 

 男の存在には、クレマンティーヌも気が付いていた。

 しかし、目の前で起きた出来事の衝撃と、負のエネルギーにより侵された身体は、クレマンティーヌがそれに反応することを許さない。

 

「ドラゴンの一撃だ。よく味わえ」

 

 男の身体がわずかに膨らむ。

 そして、彼の放った拳がクレマンティーヌの胸を貫いた。

 




残念ながら、次話ではゼロは『しかし―――』して殺されません。
何故なのかは、この場所がどこなのかを考えればわかると思います。

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