もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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二日連続投稿。
休みの日とはいいものだ。


もしクレマンティーヌが先に進んだら

 それは、まるで英雄同士の戦いだった。

 

 少なくとも、サキュロントを片づけてその場に駆けつけたクレマンティーヌはそう感じた。

 

 別に、彼等の動きを捉えることができないわけではない、だがもし自分があの中に入らねばならないとしたら、自身の切り札をいくつか切らねばならないほどの戦いだと感じていた。

 

 マルムヴィストが、人によっては剣先が数十はあるように感じるような速さでモモンに突きを放っている。

 モモンは、それを左手の籠手でそらし、弾き、時折右手の大剣で男のいる場所を薙ぎ払っていた。

 

 彼等の打ち合う音は、まるで暁美ほむらの使っていたサブマシンガンの発射音のように絶え間なく響いていた。

 

 そんな過酷な戦闘であるが、そのまっただ中にいるモモンのことをクレマンティーヌは一切心配してはいなかった。

 なにせ、モモンはアンデッド、それも刺突武器に耐性を持つスケルトンだ。マルムヴィストにとっては悲しいことかもしれないが、彼に勝ち目はない。

 側にいる魔法詠唱者、おそらくデイバーノックが加勢に入っても、彼は英雄級の魔法詠唱者であるモモンの前ではゴミ同然の存在。存在する意味すらないだろう。

 

「とすると、私がすべきなのは……」

 

 彼女は、門の先に視線を向ける。

 少し前に地図を見たところ、誰かが隠れられそうな場所は一つ、取り壊される予定の衛兵達の旧宿舎だけだった。

 きっと、そこに今回の事件の犯人がいるのだろう。

 

 クレマンティーヌは、モモンに『伝言』(メッセージ)で自分は先に進むということを伝えると、門を越えて宿舎の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふん!」

「はぁぁ!」

 

 モモンが剣を振り下ろし、マルムヴィストがそれを回避。

 剣を振り下ろしたためにできたモモンのその隙に、マルムヴィストはレイピアをヘルムの小さな隙間に打ち出す。

 モモンは、その一撃を全身を捻ることで回避、さらにその捻りを利用して左手の剣でマルムヴィストを薙ぐ。

 

「ちっ!」

 

 ―――武技、『即応反射』

 ―――『回避』

 

 マルムヴィストは『可能性知覚』を解除すると、新たに『即応反射』と『回避』の二つの武技を発動。

 モモンの剣の一撃は、その二つの武技を利用したマルムヴィストに回避されることとなった。

 

「はっ!」

 

 だが、モモンはそこで動きを止めることは無い。

 『即応反射』によりマルムヴィストが跳び退くと同時に、振り下ろした剣の柄を力強く握りしめ、一歩踏み込むと同時に腕を引き戻しながらマルムヴィストを切り払う。

 

「だから、どんな反射速度してんだよ!」

 

 ―――武技、『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 

 マルムヴィストは、『流水加速』以外の全ての武技を止め、『要塞』をいくつも同時に発動させることによりモモンの一撃を受け止める。

 しかし、マルムヴィストの身体は宙に浮いていたためか、剣に乗るようにして彼は投げ飛ばされた。

 

 空中に投げ飛ばされた彼は、姿勢制御系の武技を多重発動。軽業師の様な動きで、しなやかに着地する。

 

「うまく凌ぐものだな」

「オリハルコンには言われたくないんだが……正直、アダマンタイト級を自称していた身としては、この状況は感じるものがあるんだよね」

 

 対峙する二人、マルムヴィストはそんな中で、モモンという男の異常な成長速度に戦慄していた。

 

 対峙し始めた当初、モモンの斬撃はただの力任せな大振りでしかなかった。確かに速く力強い一撃ではあったが、『知覚強化』により強化された感覚を駆使すれば目を閉じても回避できた自信はある。素人以下と言っていい。

 だが、マルムヴィストが剣を振るたびに、モモンの剣技は、より洗練されたものへと進化していった。

 今のモモンの斬撃は、身体能力を一切視野に入れずに見ると(カッパー)……いや、(アイアン)の冒険者程度の技量はある。

 

 彼は、マルムヴィストと打ち合い始めてたった20分程度でここまで腕を伸ばしたのだ。規格外にも程がある。

 

「あんた……いったい何者だ。さっきはあんなこと言ったが、あんたはアダマンタイト級の冒険者としてやっててもおかしくないだけの能力は持ってるぞ。

 しかも、あんたはこの戦いの中で少しずつ強くなってきてる。それだけの才能がありながら、なぜ俺と戦い始めた時はあんなにも酷い腕だったんだ。あんたは、あまりにもちぐはぐすぎる」

 

 そして何よりも気になったのが、モモンという男はかなり接近戦には慣れているように感じたことだった。

 剣技などの技術の一切は素人だが、見切り、反応、剣技に直接的に関わってこない要素は熟練の腕を感じる。

 付け焼刃などではない、十年近く鍛えてきたような腕だ。

 

「さて、それをお前に言う必要があるか?」

「……無いな。ごもっともだ」

 

 マルムヴィストは、再び手に持ったレイピアを構える。

 そして、レイピアに施された薔薇の装飾の部分に込められた魔法蓄積を開放し、『伝言』(メッセージ)を発動させる。宛先はもちろん背後にいるデイバーノックだ。

 何かを言う必要はない。その魔法を使用したと言うだけで、言いたいことは伝わるだろう。

 

 手に持ったポーションを飲み、再び武技を発動する。

 

「では、行こうか」

「―――来い」

 

 マルムヴィストは、モモンに向かって疾走する。

 同時に、デイバーノックに操られた一体のスケルトンが、彼の背後から襲いかかった。

 

「ふん、賢しいな」

 

 モモンは、背後から襲い掛かるアンデッドを視界に納め、左手の大剣を振るうことでスケルトンを打ち払いながらマルムヴィストに突きを放った。

 

(剣を振りながら突きを放つとか、どんな怪力とバランス感覚してんだよ、糞っ!!)

 

 内心モモンに罵声を浴びせつつ、『可能性知覚』を打ち切り『回避』を二重に発動する。

 マルムヴィストはその刺突を彼の視界から外れるように回避、そして左側、つまりモモンから見て背後に回り込み、後頭部の左側へと突きを放つ。

 

 モモンの左腕は、右から左へ薙ぎ払うような動きをしている。さらに、彼の顔は若干左側を向いている。

 自然に考えれば、背後を向く必要がある彼は、顔を左に動かして背後を向くはずだ。マルムヴィストの一撃は、その瞬間を狙ったものだった。

 

「悪いが、それは読めている」

 

 しかし、モモンは右側から振り向いたため、マルムヴィストの突きは黒のヘルムを叩くことになった。

 

「ちっ!!」

 

 モモンは、振り返ると同時にマルムヴィストへと剣を振るっている。

 単純な薙ぎ払い、マルムヴィストはそれを紙一重で回避する。

 

 ―――武技、『即応反射』

 

 そして、『即応反射』と姿勢制御のための武技を発動すると、モモンの剣の上に着地。彼の腕に足を絡め、そこを軸に回り込むようにして、左手の袖に隠していた短剣をヘルムの隙間めがけて突き刺す。

 短剣には、魔法蓄積により『酸の投げ槍』(アシッド・ジャベリン)という魔法が込められている。大地をも溶かす酸の一撃、浴びればひとたまりもないだろう。

 

「ふん!」

 

 しかし、その短剣が突き刺さることは無かった。

 モモンが全身を大きく回転させたために、組み付いていたマルムヴィストはひきはがされ吹き飛ばされる。

 さらに、空中に吹き飛ばされたマルムヴィストを追撃するように、モモンは右手の剣を振り下ろした。

 

 マルムヴィストを助けようとしているのか、モモンの背後からデイバーノックに操られているだろう三体のスケルトンが疾走してくる。

 

 いかなる手段かそれを察知したモモンは、背後のアンデッドを左手の剣で見ることなく切り伏せる。

 

 モモンのその一撃により、マルムヴィストへと振るわれた剣は彼がバランスを乱したためかわずかにぶれる。

 

 マルムヴィストは、デイバーノックの加勢に感謝した。

 この一撃であれば問題はない。モモンの一撃は、間違いなく防げる。

 

 ―――武技、『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 

 手に持った短剣に、『要塞』を多重発動。

 オリハルコン製のその短剣は、『要塞』の力によりその一撃を完璧に受け止めた。

 

 だが、マルムヴィストの身体は空中にある。

 先ほどと同じように、マルムヴィストの身体はモモンの剣により投げ飛ばされた。

 

 マルムヴィストは、姿勢制御系の武技をいくつか発動することで体に負担がかからないように着地する。

 

 吹き飛ばされた距離は、人の身長にしておよそ五人分ほど。

 流石にこの距離を瞬時に詰めることはできないのか、モモンはマルムヴィストに追撃を行うことは無かった。

 

「どんな身体能力してんだよ、ほんとに」

 

 何度目になるかわからないその言葉が、マルムヴィストの口からこぼれる。

 マルムヴィストの体重は、鍛え上げた筋肉のせいか、見た目と異なりかなりの重量がある。

 それを軽々と吹き飛ばしているのだ。いったいどれだけの身体能力を有しているのか。

 

「随分とうまく逃げるな」

 

 モモンがマルムヴィストに話しかけて来る。挑発のつもりだろうか。

 

「そうでもしないと、あんたに勝てそうにないからね。俺は防御は苦手だから、その剣に当たれば真っ二つにされちまうよ」

「ふん、何度も受け止めておいてよく言う」

 

 再び、モモンは構える。

 それに合わせ、マルムヴィストは突きの姿勢をとった。

 

「……」

「……」

 

 お互いが、無言で相手を睨む。

 

 ―――先に動いたのは、マルムヴィストの方だった。

 

「行くぞ!!」

 

 モモンの背後からスケルトンが切りかかると同時に、マルムヴィストは突きを放つ。

 もはや敵にすらならないと判断したのか、モモンはスケルトンの方を向くことなくマルムヴィストに斬りかかった。

 当然だろう。スケルトンでは、モモンの鎧に一切傷を与えることはできないのだから。

 

「ふん!」

 

 上から振り下ろされる右手の剣を、マルムヴィストは突きを中断して先ほどと同じように武技によって回避する。

 しかし、今回はモモンの左手が自由だ。連撃が来る。

 

 回避により隙ができたマルムヴィストに、モモンは左手の剣を薙ぐ。

 

 ―――武技、『即応反射』

 

 『回避』を一つ解除し、その分の精神力を使用して『即応反射』を使用する。

 それにより剣を回避することができたが、『回避』を一つ削ったために、かろうじて避けることに成功したような形になってしまった。

 

 その体勢の崩れたマルムヴィストに剣を振り下ろすため、モモンは両の手を振り上げる。

 

 そう、全てはこのためだったのだろう。

 右手も、左手も、どちらもマルムヴィストの足を止めるための囮。本命は、この後の両手の振り下ろしだったのだ。

 片手の一撃であれば、マルムヴィストはほぼ確実に受け止める。しかし、両手であれば難しい。

 

 今までの連撃も、すべては両手で攻撃して来ないという印象を与えるためのものだった可能性もある。

 

 まさに、モモンの動きは見事な流れによって生かされた一撃だった。

 

 

 

 ―――それを見たマルムヴィストは、モモンには見えない程度に小さく笑みを浮かべた。

 

 

 ―――武技、『即応反射』

 

 崩れた体勢を、武技によって立て直す。

 だが、マルムヴィストはモモンの一撃を止めるような体勢ではなく、突きを放つ様な体勢をしていた。

 

 モモンの背後に、一体のアンデッドが迫る。

 しかし、モモンは振り返ることは無い。そのアンデッドが、モモンの鎧の前には無力だとわかっているからだ。

 

 モモンは、アンデッドになど目もくれずに、マルムヴィストに剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 デイバーノックは、『六腕』の一員で『不死王』の二つ名を持つ死者の大魔法使い(エルダーリッチ)である。

 彼もまた、他の『六腕』達と同じく二年前の事件で大きく変わった存在だった。

 

 まず、魔法探求にこれまで以上に熱心になった。

 彼は、元々新たな魔法を習得するために『六腕』の一員になったのだが、いついかなる時もというほどには熱心に努力をしていたわけではなかった。

 しかし、その一件以来一年間の間は、いついかなる時も鍛錬のための魔導書を手放すことは無くなった。

 そのかいあってか、彼はついに第五位階の魔法の行使が可能となった。

 

 また、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)としての力も鍛えるようになった。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は、アンデッドを支配する力を持っている。

 有名どころでは、カッツェ平野の幽霊船などだろうか、人間には不可能な強さや数のアンデッドを支配することもあるのだ。

 

 そしてデイバーノックは、強くなるためにとあるアンデッドを支配しようと試みた。

 カッツェ平野に赴き、不死者を作成する魔法を何度も行使する。アンデッドが増えれば、強力なアンデッドが生み出されるためだ。

 そうやって、生み出されたアンデッドの中には、オリハルコン級が戦わなければ倒せないようなものまでいた。

 

 そして、そんな中でデイバーノックは、一体のアンデッドと出会った。

 それは非常に強大なアンデッドで、デイバーノックですら会ったときは支配できないと感じた存在だった。

 

 だが、それと同時にそのアンデッドを欲しいとも思ってしまった。配下としたいと思ったのだ。

 

 彼らは戦った。

 デイバーノックはそれまでに支配した全てのアンデッドを使用し、対するアンデッドはそれらに対してその強大な一撃を発揮した。

 

 そして、三日三晩の死闘の末、デイバーノックは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)としての支配力を、そのアンデッドに届かせることに成功した。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)という存在としての限界を超えたのだ。

 

 もはや、デイバーノックはそこらの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)ではない、アダマンタイト級の実力者にふさわしい存在となったのだった。

 

 

 

 

 

 モモンの剣は、自然な動きで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何っ!!」

 

 モモンはその声に驚愕を浮かべる。

 

「がら空きだぜ」

 

 そして、その隙を見逃すようなマルムヴィストではなかった。

 『流水加速』以外の全ての武技を切り、新たな武技を行使する。『痛覚鈍化』すらもだ。

 

 マルムヴィストは、度重なる武技の副作用により激痛に襲われる。

 

 激痛により途切れそうな意識の中、それでもなおマルムヴィストは新たな八つの武技を発動した。

 

 それは、全身の負荷を考えない、突きを放つことだけを意識した武技の数々。

 武技の負荷により全身から血が吹き出る。目の前が色を失い、意識が薄れてゆく。

 

 だが、今しかモモンを倒すチャンスはない。この一瞬のために全力を尽くす。

 

 右肩の関節を、腕の筋肉を、身体の部分部分だけを強化することにより強化の倍率を上げた武技の数々。それは、マルムヴィストの突きをあの襲撃者以上の物に昇華する物だった。

 

 マルムヴィストが今から放つのは、彼の脳裏に焼き付いた最高の突き。一撃一撃はマルムヴィストの物以下であるが、連撃としては彼以上のものだと確信できるその技。

 それを、彼は此処に再現、いやそれ以上の物をモモンに放つ。

 

「行くぞ―――複合武技『マザーズロザリオ』!!」

 

 レイピアが紅に輝き、目にも留まらぬ高速の連撃がモモンの鎧の中心に放たれる。

 完全に同一の場所に放たれた20の突きは、モモンの鎧に穴を穿つ。

 

 薄れゆく意識の中、マルムヴィストはその穴へと短剣を差し込んだ。

 

 ―――開放、『酸の投げ槍』(アシッド・ジャベリン)

 

 モモンの鎧の中で、酸の槍が炸裂する。

 

 それにより身体を溶かされて死んだのか、モモンは動きを止めた。

 

 

 

「―――ぐヴぁ、ぐヴぇ、がぁ」

 

 マルムヴィストの口から、おびただしい量の血がこぼれる。

 武技の副作用によるそれは、彼の連撃にどれほど威力があったのか示していた。

 

 だが、そんな激痛の中でマルムヴィストの口に笑みが浮かぶ。

 

 そう、マルムヴィストはモモンを倒したのだ。

 あの襲撃者を上回るであろう強さの男を、彼は倒したのだ。

 

 それは、今日までの日々が無駄ではなかったことの証明だった。

 




【ネタバレ】しか(ry 

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