もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 前回あとがきより、誤字の訂正
 Weiß hinteren Ladeexplosions
  :メリークリスマス ×
  :リア充爆発しろ ○

 誤字をしてしまい、申し訳ありませんでした(棒)


もしクレマンティーヌが奇襲をしかけたら

 『幻魔』のサキュロント。

 『六腕』の一人で、その名のように幻術系の魔法を得意とする魔法戦士だ。

 剣の腕はあまり良いものではないが、幻術と合わさった彼の戦い方は剣技の差を覆すには十分な物だ。いくら第三王女付きの兵士とはいえ、一兵士の剣技にすら劣る彼がアダマンタイト級の強さを自称できているのは、この戦い方が非常に有能だということを強く示していると言えるだろう。

 

 それほどの力を持つ彼は、一昨年のとある事件である女性に殺されかけることとなった。

 

 六大貴族のブルムラシュー侯爵をはじめ、イズエルク伯爵やチエネイコ男爵など国王派反国王派関係なく計5人もの貴族が殺害された、その騒動の陰で起こったその事件。

 

 後ろ盾であった貴族が死んだことにより、上流階級の人間に対する対応に追われていたその頃。突然、王都にある八本指の施設が襲撃にあった。

 それも、一軒だけではない。王都にある八本指ゆかりの娼館、カジノ、銀行、商館、倉庫、隠れ家など、王都に存在する施設の約七割がその何者かによって破壊され、従業員の多くが殺害された。

 犯人の情報はほとんどなく、数少ない生存者の証言から黒いローブ姿の人間ということだけはわかった。

 

 当然、八本指側は黙ってはいられない。

 八本指は、警備部門の総力を投じてその人物の殺害に乗り出した。

 

 警備部門最強の『六腕』の六人だけではない。持ち得るコネを全力で使い、名のある傭兵や近隣諸国から手段を問わずにかき集めた100人近いワーカーを動員した。

 

 はっきり言おう。六腕の誰もが、これは過剰戦力であると感じた。この数を集めた『六腕』のリーダー、ゼロ本人ですら、ついやり過ぎてしまったと思ったほどだ。

 人一人殺すためだけに、こんな人数を集めるのは馬鹿のすることだ。この戦力では、もはやギガントバシリスクでも敵ではない。

 

 

 

 ―――だが結果論ではあるが、警備部門の長は馬鹿ではなかった。

 

 

 

 

 その人物との戦闘が終わった後、百人を超える者たちの内、生き残ったのは30人にも満たなかった。

 はっきり言えば、100人程度では足りなかったのだ。

 

 サキュロントは、その時の戦いの情景を今でも覚えている。

 

 仲間の一人、『空間斬』の二つ名を持つペシュリアンの鎧が、武技の籠っていないただの拳の一撃で穿たれるその光景を、『千殺』のマルムヴィストのレイピアが蹴り砕かれるその光景を、『不死王』デイバーノックの『火球』(ファイヤーボール)『電撃』(ライトニング)が舞うように躱されるその光景を、『踊る三日月刀(シミター)』のエドストレームの操る剣の結界が正面から打ち破られるその光景を、リーダーである『闘鬼』のゼロの切り札が、あの紫の輝きを放つ剣技で返り討ちにされたその光景を―――

 

 ―――そして、サキュロント自身の幻術が闇色の光に呑まれてゆくその光景を、彼はよく覚えている。

 

 

 その戦いの後、サキュロントは変わった。

 まず、強くなることに固執し始めた。何日もトブの森にこもったり、カッツェ平野に赴くこともあった。

 また、勝つことに貪欲になったとでも言うのだろうか、勝つためであれば毒でもなんでも使うようになった。

 それと同時に、これはサキュロントに限った話でもないのだが、生き残った『六腕』の仲間とコミュニケーションをとるようになった。無意識的か意識的かはわからないが、あの戦いから一人で戦うことの限界を感じ取ったのだろう。

 

 まさに、サキュロントという男は敵と自分に厳しく味方に優しい人間となったと言うべきだろう。

 

 

 それは、彼の持つ武器にも表れている。

 

 彼の腰には、あの時の戦いで折られたマルムヴィストのレイピア、薔薇の棘と同じ毒、同じ魔法付与が施された片手剣が吊るされている。

 また、それに追加する形で魔法蓄積の魔法付与も施されており、それにはデイバーノックの魔法、マジックアイテムにより強化された『電撃』(ライトニング)が込められていた。

 

 昔の『六腕』には無かった、仲間との協力という物がそこにはあった。

 

 

 変わったのは武器だけではない。身体能力や魔法、剣技もまた、大きく姿を変えていた。

 過酷な鍛錬の賜物か、彼の身体能力は魔法を使う人間とは思えないものへと進化していた。それはアダマンタイト級の戦士にはまだ及ばないものの、オリハルコンの領域を超えた、準アダマンタイト級とでも言われるようなものだ。

 また、彼の持ち味である幻術は、対象に幻の痛みを与えることすら可能となり、幻の攻撃だけで人を殺すことすら可能となった。

 そして剣技は、サキュロントをマルムヴィストが鍛え上げ、かの王国戦士長とまではいかないが、そこらの騎士では手も足も出ないものにまで進化していた。

 

 もはや、彼はあの時のサキュロントではない。

 アダマンタイト級、それを自称するにふさわしい男と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――悪いけど、その今度はないかなー」

 

 気が付けば、サキュロントは地面に倒れこんでいた。

 肩からは強い痛みを感じ、足に至っては感覚がない。

 

「な、なにが……」

「戦士職を持っているとはいえ所詮は魔法詠唱者。スッといってドスッ、で終わりだよー」

 

 サキュロントの背後から、聞き覚えの声を感じる。

 そう、その声はまさしくあの時の襲撃者の声だった。

 

「ありがとうございます、クレマンティーヌさん。助かりました」

 

 あの娼婦がクレマンティーヌ、おそらく襲撃者であろう女に礼を言う。

 

「いいよー、ツーちゃんに時間稼ぎを頼んだのは私だしね」

 

 ……時間稼ぎ、だと。

 そうか、そのためにあの女はわざわざ幻術を見破った理由を言ったのか。俺に次がないから、そんなことを言って時間を稼いでいたのか。

 

「糞った、れ……」

「んー? まだ生きてたんだ」

 

 倒れ伏すサキュロントに、何者かが歩み寄ってくる。

 

 それに気が付いたサキュロントは、最後の力を振り絞り『伝言』(メッセージ)を発動させる。

 

「悪い、ボス。俺はここで―――」

 

 そこで、サキュロントの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 6月30日 05:23 エ・ランテル外周部

 

 アインズがそこに付いたとき、彼の目の前には大きく傷ついたハムスケの姿があった。

 

「無事か、ハムスケ」

 

 手に持った回復魔法の籠められたスクロールを使用し、アインズはハムスケの傷を癒す。

 

「殿……申し訳ないでござる」

 

 傷を癒してくれたアインズに、ハムスケは礼を言う。

 

 そんな二人の前には、()()()()()顎を鳴らしながら笑うフード付きの暗い色合いのローブを身に纏う男と、レイピアを腰にさす男の姿がある。

 

「ほう、貴様がそいつの飼い主か」

「ふむ、森の賢王を従えるにふさわしい威圧感を感じるな」

 

 ふたりの言葉を聞き、ハムスケをここまで痛めつけたのはアンデッドの軍勢ではなくこの二人なのだと確信する。

 

「なるほど、クレマンティーヌの言っていた通り、この事件は人為的な物だったか」

 

 息の荒いハムスケを手で下がらせると、アインズは背中に背負っていた剣を抜いた。

 

「やはり、人為的な物だと見破っていた者はいたのか」

「なら、この展開に持っていったサキュロントは、随分と上手くやったようだな」

 

 それを見た二人、ローブの男とレイピアの男は、各々の武器を構える。

 

「殺し合う前に、名前を聞いておこうか。

 私はモモン、オリハルコンの冒険者を務める者だ」

「ほう、戦う前に名のり合うとはまるで騎士の様だな。

 いいだろう、面白い。俺の名前は、マルムヴィストだ。短い間だが、よろしく頼む」

 

 レイピアの男は、アインズの言葉に名のり返す。

 

「……全くお前は、少しは情報という物を考えたらどうだ。

 はぁ、まあいい。誰かに伝えられる前に、ここでこいつを殺せばいいだけか。

 私の名前は、デイバーノック。さっきまでは逃がしてもいいと考えていたが、名前を聞かれたからには死んでもらう」

 

 そう言ったデイバーノックに、アインズは駆け寄りその手の剣を振り下ろす。

 レベル100の戦士となっているアインズの踏み込みは、デイバーノックには避けるすべはなかった。

 

 だが―――

 

「あめぇよ」

 

 ―――武技、『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『疾風走破』

 

 アインズの視界から、デイバーノックの姿が消え去る。

 彼の剣は、何もない空間を薙ぐこととなった。

 

「何?」

 

 彼が視線を横に向ければ、そこには何かに突き飛ばされたような体勢のデイバーノックの姿がある。

 反対には、突き飛ばしたような体勢のマルムヴィストがいた。

 

 アインズの身体能力は、彼らには捉えきれない筈だった。

 しかし、今そのはずの彼らにその姿を捉えられた。

 

「すごい身体能力だな、本当にお前はオリハルコンか?

 はっきり言って、お前の身体能力はアダマンタイト級の冒険者すら超えているぞ」

 

 アインズは、少しだけ警戒した様子でマルムヴィストを見つめる。

 そんな様子のアインズに、マルムヴィストは苦笑いを浮かべた。

 

「だが、技がない。一太刀でわかるほどに、剣の摂理がなってない。

 ああなるほど、だからオリハルコンなのか」

 

 ―――武技、『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 

 アインズにマルムヴィストが疾走してくる。

 それを迎撃すべくアインズは剣を薙ぐが、マルムヴィストはまるで燕のようにその剣を回避し、アインズの首元にレイピアを突き出した。

 

 その一撃は、アインズの鎧に阻まれ意味をなさなかったが、アインズに強い衝撃を与えた。

 

「ちっ!! 硬いな、今の俺の突きは鉄板すら難なく貫通できる威力があるはずなんだがなぁ……どんな鎧だよ、それ」

 

 

 

 

 マルムヴィストは、『六腕』の一人、『千殺』の二つ名を持つ男だ。

 彼の突きは、かの王国戦士長すらも上回る一撃と言われるほどの一撃で、王国有数の剣技の使い手だった。

 

 そんな彼もまた、サキュロントのように二年前に大きく心を傷つけられた者の一人だった。

 

 ―――圧倒的だった。

 

 彼の突き、それをあの時の襲撃者は何でもないかのように躱し、一撃で彼のレイピアを圧し折った。

 何もできなかった。何一つとして、その襲撃者には届かなかった。

 

 何が千殺だ。何がアダマンタイト級だ。

 

 そんなことを謳いながら、彼の剣技は何一つ通用しなかったのだ。

 それに苦悩し傷ついて、そして彼は強くなろうと決意した。二つ名に恥じぬ男になろうと決意したのだ。

 

 彼は、まず強くなるために武技に注目した。

 技術は短期間ではどうしようもない。長い鍛錬の果てで、初めて力となるものだ。

 しかし、武技は違う。武技であれば、短期間で大きく実力を伸ばせる。

 

 そうして、半年かけてあの時の襲撃者を殺すに足る武技を開発しようと努力した。

 その時に開発した武技の数は、50を超え100近い数に及ぶ。

 それほどの数の武技を開発し、その果てに彼は一つの武技の限界に気が付いた。

 

 次に、彼は同時に使うことを前提とした武技の開発を始めた。とあるアダマンタイト級の冒険者にヒントを得たのだ。

 手の指だけを強化する武技、動体視力だけを強化する武技、肩関節の稼働をよくする武技、髪を鋼のように強化する武技なんてものまで開発した。

 

 そして、そんな鍛錬を続ける中、彼はとあることができるようになっていることに気が付いた。

 

 それは、同一の武技の同時発動。『流水加速』をしながら『流水加速』を発動したり、『斬撃』を重ね掛けすることで威力を上げたりなど、不可能であったはずのことが出来るようになっていた。

 

 何か変なものでも食べてしまったのか、もしくは生まれながらの異能(タ レ ン ト)にでも目覚めたのか。

 何があったのかわからないが、それが自らの力となるのであれば、彼としてはなんでもよかった。

 

 それに気が付いてからは、精神力を鍛え始めた。10や20の武技を、苦もなく同時に使用することを目指し始めた。

 それは、苦難の連続だった。骨が折れたり血を吐いたりするのは当たり前、『能力向上』と『肉体向上』をそれぞれ5つ同時に使用したときには、筋肉で押し潰されて心臓の鼓動が止まってしまったほどだ。

 

 それでも、彼は努力を続けた。

 そして気が付けば、彼は最大で15の武技を同時に発動することができるようになった。

 

 まさに、今の彼はアダマンタイト級冒険者を越えた存在と言えるだろう。

 

 

 

「では、今度はこちらから行くぞ」

 

 ―――武技、『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力向上』

 ―――『痛覚鈍化』

 

 マルムヴィストの眼が血走る。

 彼の全身から、何かが軋むような嫌な音がする。

 

 そして、彼はアインズへと駆けだした。

 

 アインズに放たれるのは、神速の突き。

 しかし、それは戦士職となっているアインズには、落ち着いて行動すれば十分に防げる物だ。

 

 アインズは、その一撃を右手の剣で防ぐ。

 

 ―――しかし、その一撃は剣に触れると幻であったかのように消え去った。

 

「幻術だと!?」

 

 魔法蓄積。マルムヴィストのレイピアには、サキュロントの幻術魔法が込められていた。

 本来のアインズであれば見破ることのできたそれは、純戦士であるアインズには見破ることのできない物だった。

 

 マルムヴィストの本物のレイピアは、まだ引き絞られたままだ。

 マルムヴィストは、小さくその顔に笑みを浮かべるとアインズの目へと剣を突き出す―――

 

 

 ―――直前に、その場から跳び退いた。

 その直後、マルムヴィストがいた場所をアインズの左手の剣が薙ぐ。

 

「まじか、どんな反応速度してんだよ」

「ふぅ、すこし危なかったな。あの瞬間に幻術とは驚かされたぞ」

「それにすぐさま対応しておいてか? 驚いたなら驚いたような動きをしてくれよ。

 なるほど、身体能力で無理に戦っていただけではない、オリハルコンに相応しいだけの経験と実力はあるってことか」

 

 そう言って、マルムヴィストは懐からポーションを取り出して飲む。

 

「なら、きちんと全力で戦う必要がありそうだな」

 

 ―――武技、『痛覚鈍化』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『流水加速』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力向上』

 ―――『知覚強化』

 ―――『可能性知覚』

 

 15の精神力。その全てを使い、切り札の一つである可能性知覚まで使用する。

 

 武技の反動により、目から血の涙がこぼれ、彼の全身から大量の血液が噴き出す。

 そうしてできた傷は、先ほど彼が飲んだポーションにより、生じると共に治癒されていた。

 

「行くぞ」

 

 気が付けば、マルムヴィストの姿はアインズの目の前にあった。

 何かを考えている暇はない。アインズは、反射的に右手の剣で彼をなぎ払う。

 マルムヴィストは、その一撃を回避し、右手のレイピアをアインズの目へと突き出した。

 アインズは、そのレイピアが眼へと向かっていることに気が付くと、少しだけ頭を下げる。

 

 その結果、レイピアはアインズのヘルムの上を滑るようにして通過していった。

 

 再び、マルムヴィストは跳び退く。

 

「……本当に、どんな反射神経しているんだ」

 

 全身から血を滴らせているマルムヴィストは、それすらも気にならないような驚愕した様子で呆然と呟いた。

 

「それは、こちらが言いたいのだがな」

 

 ヘルムを抜けなかったことから考えて、マルムヴィストでは自分を殺すことはできない、とアインズは確信していた。

 だが、あの速度は問題だ。

 あの様子からしてかなりのデメリットがあるようだが、デメリットを負う程度で100レベルの世界に速さだけでも到達しているのだ。アンデッドの持つ精神沈静化によりもうそんな感情はないが、さっきまでアインズは心の底から驚いていた。

 

 どちらも、お互いをにらみ合う。

 

 そして、再び二人は衝突した。




話が進まない……もう、アインズ様視点とか書かなくて良いかな。この人、放っておけば勝つし。

さっさとクレマンティーヌをあの人達と戦わせたい。

あ、サキュロントの解説読んだ方はわかると思いますが、感想で何人か期待する声があったので、強引にアルシェを出すことにしました。

ただ、彼女を出す時に必ず言われるのでかなり前もって言っておきますが、私はアルシェが嫌いなわけではありません。恨んでも憎んでもいないです。

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